どうせ殺されるのでヤケクソでヒロインを攻略します! 作:空色
夜の大通り沿い、街灯がアスファルトを照らし出す中緋色は自転車を急停止させた。
「今日はここでいいか?」
リナミが、見上げた看板に目を丸くした。
「ビジネスホテル?マジで?誘拐犯の逃げ場所としては普通すぎでしょ!高校生の家出ってネカフェかと思った」
自転車を漕ぐこと1時間、時刻は22時を過ぎておりリナミは非日常感も合わさり深夜テンションだった。
「当たり前だろ。ネカフェの個室で雑魚寝できないって………体バキバキになるわ」
「爺じゃん。金石君って同い年でしょ?」
「ギャルほど体力がないもんで」
「ギャル言うな。っていうか、ちょっと待って?お金大丈夫なの?ここ、かなりいいホテルじゃん」
リナミが怪訝そうに眉をひそめる。しかし、緋色はフッとおかしそうに鼻で笑った。
「心配するな。今の俺は、財布の貯金も将来のこともなーんにも考えてない」
タイムリープ前提の本音はもちろん飲み込んだままだが、言える範囲でそう言いつくろった。
フロントに入り、少し広めのシングルルームを二部屋を取る。やけにスムーズに会計を終えた緋色。差し出されたルームキーを受け取ったリナミは、呆れたようなしかしどこか嬉しそうな複雑な笑みを浮かべた。
「本当に、どうかしてるね、金石君。誘拐犯のくせに別部屋だなんて」
「誘拐犯についてきた朝比奈には負ける」
3階に移動し部屋の鍵を開け、足を踏み入れた瞬間パリッとしたシーツの匂いと静寂が緋色を包み込んだ。ふかふかのベッドにダイブするように倒れ込み、緋色は天井のダウンライトの光を見上げる。
そしてすぐに扉が開けられた。開けたのは隣の部屋に入ったと思われた少女だ。リナミは冷静になってきたのか混乱を露にしている。
「ちょっと待って!?冷静に考えて何で私ら未成年で泊まれてるんだっけ?」
「気になるのそこなんだな…さっきのフロントマン知り合いなんだ。カードは親のカード使ったから平気」
「………意外と不良?」
「夜遊びギャルに言われるとは………同級生攫ってここまで来てるんだ。今更だろ」
「まあ、実質ただの家出だけど」
「いやいや、朝比奈は誘拐されただけだ」
緋色の言葉に少女は目を細めて口を開けたが、何も言えずその言葉を飲み込む。
「聞きたいことは色々あるけど………謎も解決したし、私寝るね?」
そう言って彼女は部屋から出て行った。
緋色はまた天井を見上げて思う。6回目のタイムリープ。これまで何度も理不尽に殺され、絶望に塗りつぶされてきたループの中で、ここまでループ前提の動きをするのは初めてだ。
「俺はどーしたいんだろう」
ヤケクソではあった。だが、そもそもあの哀れな同級生を助けたいのか、掻き回したいのか理解できなかった。
緋色は努めてリナミと目を合わせなかった。彼女の異能が目を合わせた対象の本音を吐き出させると知っているから。隣の部屋にいるはずのリナミも、きっと違和感を持っているだろう。
結局答えは出ず、緋色はなかなか眠れずに天井のシミを数え続けた。
130:イッチ
どーしよ。何で誘拐なんてしたんや
131:名無しのパンピー転生者
知るか
132:名無しのパンピー転生者
こっちのセリフすぎる
133:イッチ
咄嗟に攫ったのは前のループで自殺した奴がもしかしたら異能者殺しに関連性も持ってるかもっていう情報収集目的なんだけど。………無さげなんだよな
134:名無しのパンピー転生者
急に冷静になるなよ (呆れ)
135:名無しのパンピー転生者
イッチはどうしたいの?
136:名無しのパンピー転生者
>>133 それが目的なら適当に解放?して、別れろよ
137:イッチ
自殺を止めたい欲はある。だけどどうせタイムリープで戻るし、ある種の解放でもある自殺を止める権利をワイは持たないし………言いたいことだけ言って様子を見るか、スルーするか………
138:名無しのパンピー転生者
安価で決めれば?
139:名無しのパンピー転生者
しゃらくさ。可愛いギャルを救わないなんてあり得ねーだろ
140:名無しのパンピー転生者
くだらないな、助けたいって書いてるようにしか見えない
141:名無しのパンピー転生者
本音を書けよ、イッチ!
142:名無しのパンピー転生者
草
143:名無しのパンピー転生者
安価しろ
144:イッチ
ここで朝比奈を見捨てるとこれから先のタイムリープで助けを越えないような気がしている………ワイは朝比奈を助けたいんや!どうすればいい?>>159
145:名無しのパンピー転生者
よく言うた
146:名無しのパンピー転生者
言えたじゃねえか
147:名無しのパンピー転生者
何で安価?勝手に助けろよ
159:名無しのパンピー転生者
辛いことは俺が忘れさせてやるよっと告白してハッピーエンド
169:イッチ
そうはならないだろ!これで解決するかボケ!
ホテルのカーテンの隙間から、朝日が差し込んでいる。目を覚ました緋色は、しばらく天井のエアコンを見つめていた。
「今日、何しようか」
手元のスマホには土曜日の表示と7時と言う時刻が点灯している。その後にリナミからメッセージが届いた。クラスのグループから、連絡先を追加したようだ。
《9時にロビーで。今日はスカイツリーに行きたい!》
ベッドから起き上がり、重い足取りでシャワーを浴びてロビーに降りるとすでにリナミが待っていた。コンビニの袋をぶら下げた彼女は、昨夜と比べ顔色が少しだけ和らいでいるように見えた。服装は、コンビニのペラペラのTシャツとスウェットである。それでも様になっているが、JKとしては駄目だった。
「おはよう、誘拐犯君。朝ごはん買ってあるよ」
「すげー、立場が逆転してやがる」
ロビーでサンドイッチを口に入れながら、目的地の行き方を調べる。
「ていうか、結局金石君もコンビニで服買ったんじゃん。昨日ごねた癖に!」
「流石に制服で歩くのはやばいからな。朝比奈はいいのか?その服で」
「ダメ。乙女として致命傷。まずは服買いに行こ!」
ロビーのソファ腰掛けたリナミが、不満を溜めた瞳で緋色を睨んで宣言した。
「まあ、それはそうだよな」
荷物はホテルに置いていく前提なので、近場で服を買ってホテルに戻ればいい。ホテルを出ると、街はすっきりと晴れ渡り、9月の生温い風が肌を撫でていた。
二人は徒歩5分のアパレルショップへと足を運んでいた。ずらりと並ぶレディース服の棚の前で、リナミは目を輝かせていた。昨日の表情が嘘のようだ。
「ねえ、これとかどう?」
彼女が手に取ったのは、少しルーズなシルエットの黒いパーカーと動きやすいプリーツスカートだった。試着室から出てきた彼女は、いつもの窮屈な制服姿とは打って変わって等身大の女の子の雰囲気をまとっていた。大きめのフードから覗く美しい黒髪と赤い目が、妙に鮮烈に映る。
「これ、もしかして役得シチュなのか」
「そうだよ?ホテル代としてファッションショーしてあげてんの」
「可愛いけど、ならもっとエロいのがいい」
「キショ」
緋色の言動は無敵だった。それに対し、リナミはゴミを見るように吐き捨てる。最も、緋色の言葉を冗談と解釈しているようだが。
「男はみんなキショいぞー」
「涼介兄さんはそんなことないもん!」
「お姉さんの婚約者?」
「よくわかったね?別に血は繋がってないよ?昔の呼び方引っ張ちゃっててさ…子供のころは本当に兄のように思ってたし」
顔を見てたらわかるとは言わなかった。その後別の服を見て頷いた彼女は、レジに並んでくると言って踵を返して行った。出口で彼女を待っていると、笑みを浮かべた彼女が歩いてくる。
緋色のカードを使い会計したからだろう。リナミはどこか楽しげだった。
「いい買い物した!」
「タダだもんな」
「聞こえなーい、ホテル戻って駅にいこ」
「なぁ、朝比奈。今日の予定だが、何でスカイツリーなんだ?」
隣を歩いていたリナミは、不意に足を止めた。そして、少しだけ迷うような仕草を見せてから上を向いた。
「…高いところ、行きたいなあって思って」
その提案は意外だった。気分が落ちている時に、人混みを選択するとは。これがギャルかと戦慄していた。
そんな緋色に対し、リナミの赤い瞳の奥にはどこか引き止められない切実な光が揺れていた。
「…高いところ好きなのか?」
「あ、今馬鹿だって思った?」
「思ってない」
ジト目のリナミから逃げるよう緋色は地図アプリを開いた。
「人多いだろうけど、マジでスカイツリーでいいのか?」
「小学校のころ、涼介兄さんと一緒に行ったんだあ。また行きたくて」
声のトーンはどこか淡々としていて、自分の感情をどこか遠くから眺めているような冷たさがあった。しかし、緋色はそれ以上深く突っ込みはしなかった。