雷が好きです、でも炎のほうがもっと好きです 作:時オカのリメイクに感謝
まぁ、想定ハンターハンターの世界にやってきたわけだが……。
どうやら、ここはザバン市らしい。
いや、ザバン市で間違いないと思う。
街の様子、建物、看板、そして何より、見覚えのある文字。
何度も読んだ漫画の世界。
その中でも、ハンター試験の会場へ向かうために多くの受験者が集まる街。
ザバン市。
……うん。
間違いないだろう。
さて。
原作ファンとして、ここでやるべきことは一つだと思っている。
もちろん、情報収集や今後の生活基盤の確保も重要だ。
自分の身体の状態も確認したいし、そもそも今の自分がどんな立場なのかも分からない。
転生なのか、憑依なのか、あるいは単純に蘇生したのか。
確認したいことはいくらでもある。
だが、そんなことよりも優先すべきことがある。
そう。
めしどころ『ごはん』である。
あそこに行かねばなるまいて。
何しろ、ハンター試験の受付場所であり、原作においても重要な場所だ。
そして何より、あの店には一度行ってみたかった。
漫画の中に登場する店というのは、実際に目の前にすると妙な感慨があるものだ。
もっとも、漫画の中の店に行くという表現自体がおかしいのだが。
しかし、今の僕にとっては現実なのだから仕方がない。
それに幸いなことに、生前最後に持ち歩いていたと思われる財布の中身。
これがどうやら、そのままジェニーになっているらしい。
金額は三万円弱。
日本円からジェニーへの換算がどうなっているのかは分からない。
そもそも物価も分からない。
ただ、少なくとも今すぐ路頭に迷うほどの金額ではないだろう。
ありがたい。
本当にありがたい。
死後の世界であれだけ焼かれたのだから、これくらいの配慮はあってもいいと思う。
……いや、もしかするとこれも上位存在の仕込みなのだろうか。
だとしたら、なかなか気が利いている。
お金まで用意してくれたのなら、せっかくだし有効活用させてもらおう。
そんなわけで、まずは聞き込みである。
めしどころ『ごはん』の場所を知らないかと、街の人に尋ねてみた。
幸い、店の知名度はそれなりにあるらしい。
何人かに尋ねると、あっさりと方向を教えてもらえた。
この街においては、そこまで珍しい店でもないのだろう。
ただ、僕にとっては別だ。
何しろ、漫画で見たあの店なのだ。
道を歩きながら、少しずつ期待が高まっていく。
本当にあるのか。
本当にあの店なのか。
いや、あるからここまで来たのだろう。
そう自分に言い聞かせながら、教えられた道を進んでいく。
そして。
見つけた。
めしどころ『ごはん』。
……おお。
ある。
本当にある。
看板には、目玉焼きの絵柄。
あの、見覚えのある目玉焼き。
漫画で見たものと同じだ。
いや、実物だから当たり前なのかもしれないが、そんなことはどうでもいい。
僕はしばらく店の前で立ち止まっていた。
感慨深い。
何とも言えない感慨深さがある。
この世界に来たことを実感した瞬間が、まさか定食屋の看板を見たときになるとは思わなかった。
もっとこう、壮大な何かがあると思っていたのだが。
炎の世界を経て、自己嫌悪と向き合い、ようやく辿り着いた異世界。
その最初の目的地が定食屋。
我ながら、どうなのだろう。
まぁ、いいか。
僕は扉に手をかけた。
開ける。
店内は、思っていたよりも落ち着いた雰囲気だった。
カウンターがあり、客席があり、料理の匂いが漂っている。
人の声。
食器の音。
厨房から聞こえる調理の音。
当たり前の飲食店の風景。
それが妙に嬉しかった。
炎の中では、匂いも音もなかった。
体もなかった。
食べるという行為そのものが存在しなかった。
それが今では、こうして食べ物の匂いを感じられる。
ああ。
生きているのだな。
そう実感する。
……いや、そもそも死んでいるのかもしれないが。
細かいことはいい。
とにかく、今は飯だ。
僕は店内を見回し、カウンターへと向かった。
そこには、いかにも店主といった雰囲気のおっちゃんがいた。
体格が良く、年季の入った顔をしている。
漫画で見た印象そのままだ。
いや、実物はもっと迫力がある。
僕は少しだけ背筋を伸ばした。
ここはハンター試験の受付場所。
ただの飲食店ではない。
そう思うと、妙な緊張感が湧いてくる。
とはいえ、変に気負っても仕方がない。
僕はできるだけ自然に、そして少し玄人っぽい雰囲気を意識しながら口を開いた。
「ステーキ定食を頼む」
すると、おっちゃんがこちらを見る。
そして、短く尋ねてきた。
「焼き方は?」
……来た。
来た来た来た。
このやり取り。
漫画で見た、あのやり取りだ。
心の中では少し浮かれていたが、表情には出さないようにする。
ここで変に反応したら、せっかくの雰囲気が台無しだ。
僕は一拍置いて答えた。
「弱火でじっくり」
その瞬間。
おっちゃんの動きが、ほんのわずかに止まった気がした。
ピクリと反応したようにも見えた。
……あれ?
これ、もしかして。
いや、まさか。
さすがにハンター試験の受付期間に来ているとは限らない。
漫画の中の時系列を考えれば、可能性はある。
だが、確証はない。
そもそも僕が今いる時代が、原作のどの時点なのかも分からない。
主人公であるゴンが試験を受ける年なのか。
それとも別の年なのか。
原作知識があるからといって、すべてが分かるわけではない。
そんなことを考えていると、おっちゃんは僕の目をじっと見つめた。
一瞬、空気が変わったような気がした。
値踏みされている。
そんな感覚。
……いや、考えすぎだろうか。
やがて、おっちゃんは短く返事をした。
「あいよー」
その声を聞いた直後だった。
店の奥から、若い女性の声がした。
「お客さん、奥の部屋へどうぞー」
……。
……あれ?
僕は思わず店の奥を見る。
看板娘と思われるお嬢さんが、こちらに向かって手招きをしていた。
え?
奥の部屋?
いやいやいや。
ちょっと待ってほしい。
これ、もしかして?
本当に?
いや、でも、まさか。
僕は一度、おっちゃんを見る。
おっちゃんは何事もなかったかのように調理場へ戻っていた。
そして、もう一度、奥の女性を見る。
彼女は変わらず、こちらを待っている。
……。
これは。
これは、そういうことなのだろうか。
僕は内心の動揺を押し隠しながら、彼女の案内に従って奥へと進んだ。
店の奥には、見覚えのある小部屋があった。
そう。
漫画で見た、あの場所だ。
いや、実際に見ると、漫画で見たときよりもずっと普通の小部屋に思える。
これがエレベーターだとは思えない。
あらためて、少し不思議な気持ちになる。
壁の材質も、床の感触も、空気の匂いも、すべてが現実だ。
僕は案内された部屋へと入った。
そこには、ステーキが一人前すでに鉄板の上で焼かれ、ご飯なども用意されていた。
それもご飯からは炊き立てほやほやなのか湯気まで出てる。
そして数分後、久しぶりに味わった食事の余韻を満喫していると、入ったきた扉が開き、原作のあの地下が目に飛び込む。
部屋を出るとビーンズさんがおり、プレートを僕に渡してくれる。
そこには原作の最高尾405を超えた存在しない406が印字されていて、僕の脳裏には原作ブレイクというワードが浮かんでいた。
地下ではそれぞれが思い思いに過ごしている。
静かに座っている者。
周囲を警戒するように視線を動かしている者。
落ち着きなく体を揺らしている者。
そして、妙に存在感のある者。
……。
部屋のどこかから、ジリリリリリリという音が響いた。
けたたましいベルの音。
部屋にいた人間たちの動きが止まる。
僕も反射的に音のした方向を見た。
そして、直後。
声が響いた。
「ただいまをもって、受付時間を終了いたします」
聞き覚えのある声。
落ち着いた、丁寧な口調。
その言葉を聞いた瞬間、僕は確信した。
……サトツさんだ。
原作で何度も見た、あの人物。
ハンター試験の一次試験官。
その声が、今まさにこの部屋に響いている。
受付終了。
つまり。
僕は。
僕は今、ハンター試験の受付を終えた受験者の一人になったということだ。
……。
……なんということでしょう。
上位存在の導きか。
それとも単なる偶然か。
いずれにしても、原作介入開始である。
まさか、異世界転生して最初にすることがハンター試験への参加になるとは思わなかった。
いや、そもそも参加するつもりだったのか?
僕は自分に問いかける。
答えは出ない。
ただ、目の前には原作の登場人物がいる。
そして、僕はその世界の中にいる。
漫画のページをめくる側だったはずの人間が、今度はそのページの中に立っている。
……。
さて。
どうしたものか。
僕は小さく息を吐いた。
生き残ろう。
まずは、それだけだ。
せっかく手に入れた二度目の人生なのだから。
今度こそ、自分を嫌いになりすぎない程度には、まともに生きていきたいものだ。
そして、できることなら。
試験の後にでも、あのステーキ定食を食べたい。
弱火でじっくり焼かれた、あのステーキを。
……いや。
今はそんなことを考えている場合ではないか。
僕は改めて、部屋の中を見回した。
ここから先は、もう漫画の知識だけではどうにもならない。
目の前にいる人間たちは、全員が生きている。
そして、僕もその一人なのだ。
そう考えると、少しだけ背筋が伸びた。
ハンター試験。
始まるのか。
本当に。
僕は、サトツさんの声が聞こえた方向を見つめたまま、言葉の続きを待つことになった。
わずかな間に考える。
ヒソカがいる、イルミがいる。
そもそも現時点での僕はその他大勢でしかない。
キルアでさえ、その他受験生でさえ脅威となる程度の存在だ。
どうしよう・・・ちょっと怖くなってきた。
念能力なんて『ね』の字すらつかめてない。
ハンター世界に今しがたハッピーバースデートゥーミーであるのだから当然だ。
そもそもハンター試験に申請してないと思うんだけどそれは大丈夫なのだろうか?
ガバガバだから何とかなるやろって?せやな、それもそうか、そうか?密航したアニタとか即座にばれてたよな?
落とされたほうが安全なのでは、自己申告で申請していないと伝えようかという考えが頭をよぎるが・・・どうせ一度は死んだ身、今回は巡り合わせか、導きか知らんけど前のめりに行ってみよう。
というわけでなるようになれー