マブラヴ ザ·スターダストメモリー   作:白河999

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第2話 覚醒

 

 

今世の僕の名前は清水聡一。何歳か⋯わからないのだ。

 

今世、とつくのは僕には生まれ変わる前の記憶があるからだ。いわゆる転生というやつらしい。

 

前世を思い出したのはいつかわからないが、事故にあったからだ。

 

両親とともに車で移動中、酔っ払いの起こした事故に巻き込まれたのだ。

 

とっさに両親がかばってくれたから僕は重傷だけど生き残った。その代償は両親との永遠の別れだったけど。

 

事故を起こした奴はいっしょに死んじまったから恨む相手もいないという始末。

 

 

 

両親の死と思い出した前世の記憶というダブルパンチで呆然としていた僕を引き取ってくれたのはお父さんのおとうさん、つまり僕のおじいちゃんだった。

 

”帝都”で小さな剣術道場を営んでいたおじいちゃんは事故の知らせを聞いてすぐに駆け付け、呆然とする僕の代わりに葬式やら引き取りの手続きやら全部片づけてくれた。

 

心がどっか行っちまってた僕を見捨てることなく、かいがいしく世話を焼いてくれたのには感謝しかない。

 

 

 

ようやく心が戻ってきた僕はおじいちゃんに感謝の言葉を告げた後、すぐに今の世界について調べ始めた。

 

”帝都”、”征夷大将軍”、”日本帝国”、極めつけは”BETA”。

 

 

 

「BETAの世界か⋯よし、たどりついた。」 

 

純夏に言ったが、思わず悪態が出る。

 

 

 

地球外生命体”BETA”の侵略を受ける地球に転移してきてしまった白銀武が、あらゆるものを失いながら人類を存続させるために戦うのだ。

 

僕も前の世界にいたが、何せこの世界、BETAももちろん強敵なのだが、それ以上に味方である人類が”最凶”の強敵なのだ。

 

 

 

おおよそ人間の負の面だけを煮詰めて凝縮したとしか思えないような所業の数々。

 

 

 

ただ相手が気に食わないというだけで行われる足の引っ張り合い。

 

 

 

あまりにも薄い根拠のもと組み立てられる楽観論と戦略。

 

 

 

それをもとにして行われる軍事作戦と大敗による戦線の後退。

 

 

 

極めつけが”地球に破滅級の爆弾投げ込んでほんの少しの人類を宇宙に逃がす”である。

 

”宇宙から来た侵略者”相手に。

 

 

実際、この世界はBETAに負ける結末が非常に多いのだ。主に人類のせいで。

 

そんな世界に生まれてしまったとなれば悪態の一つも出ようというものだ

 

 

 

普通に考えて、このまま何もしなければこの世界もBETAに負けるだろう。

 

調べた限りではこの世界も負けた歴史と同じ道をたどっている。

 

だが、可能性は、ある、ソレは、香月夕子が、00ユニットになれば、その天才的な頭脳、恵まれた容姿、魔女と呼ばれる程の権謀術数。更にはA-01を始めとする00ユニット素体候補、第三計画中では最強とも言える能力を持つ社霞、脳髄にされた鑑純夏、その幼馴染みであり『この世界』の住人ではない白銀武―――その全ての中心に、香月女史はいる。00ユニットになる条件が、『無意識により良い未来を掴み取る能力』だとするならば、香月女史―――貴方程素体に優れた人間などいない

 

 確かに、それはそうなのだ。

 今日まで考えもしなかったのだが、白銀の話を聞く限りでは、『前の世界』の香月夕子は運に恵まれすぎている。

 無論、白銀という呼び水があってこその話だが―――それはあくまで最後の1ピース。それ以外を組み上げたのは、間違いなく香月夕子本人だ。

 であるならば、香月にも00ユニット素体としての適正はある。ともすれば、鑑純夏を超える程に。

 

そこに至るために様々な犠牲があったと言うことだ。

 僕が思うがには、オリジナルハイヴを落した後、確かにBETAの学習能力は無くなった。だが、だからと言って油断できる状況ではなかったのだ。

 BETA最大の脅威は物量―――。

 それを知らしめるように、オリジナルハイヴを落された数百万のBETAは近くのハイヴへと向かう。

 受け入れたハイヴは、すぐに飽和状態となり人類への逆襲を始めた。

 

他の連中は冷水をぶっかけられた気分だったそうだよ。まぁ、オリジナルハイヴを落して浮き足立ってたのは理解できるが、佐渡島の例があるんだから少し考えれば分かるだろうに

 

 苦笑する僕取っては、あくまで他人事だ。

 国連上層部はすぐにでも香月夕子に支援を求める。

 さて困ったのは『前の世界』の香月夕子だ。何しろその時の彼女には既に手駒が無かったのだ。

 宗像や風間は生きてはいるものの意識不明の重体。涼宮妹は負傷していて出撃できない。

 オリジナルハイヴから生還できた白銀は『元の世界』へと帰ってしまったし、同じく生還できた社はオペレーターとしては優秀だがやはり戦力外。

 そして頼みの綱の00ユニットは機能停止状態。

 唯一動ける人間として、清水がいたものの、ベテランとは言え衛士一人でユーラシア大陸全土で起こっているBETA大逆襲をどうにか出来るはずがない。

 当然の事ながら香月夕子はこう言った。今は無理、と。無理でも何でもやるんだよ、と言わんばかりに上層部はせっついてくるが、無い袖は振れない。

 しかしそんな押し問答をしている中、独自に行動する勢力があった。

 

オルタネイティヴ5、とびっきりの過激派だね

 

 既に虫の息であったオルタネイティヴ5だが、これを機に勢力図をひっくり返す算段を立てたのだ。

 なんと、手近なハイヴに片っ端からG弾を落したのだ。―――それも無許可で。

 おそらくは相当焦っていたのだろう。確かに人類の宿願であるオリジナルハイヴを敵対していた勢力に落されたのだから焦るのも仕方がないのだろうが―――しかしこれはあまりにも無謀且つ無駄だった。

 

因果応報と言うべきだね。因果導体である僕が言うとやけに真実味があるが

 

 結果として―――G弾はBETAに通用しなかった。

 BETAは明星作戦の際に、既にそれを学習していたのだ。一発目で対応できたのは、おそらく鑑純夏から情報が流出していたためと思われる。

 

現場の話によると、G弾の入った再突入殻ごと光線級に撃墜されたそうだ。BETAはG元素に反応する習性があるから、それを利用して見極めたのだろう、と『前の世界』の香月女史の弁だし

 

 それによりG弾神話は脆くも崩れ去った。

 その上、オルタネイティヴ5の独走―――無許可でG弾投下は流石に各国が黙ってはなかった。

 特にG弾信奉者の多い米国などは見ていて可哀想になるぐらい他国の信頼を失墜していったそうだ。

 折しもオルタネイティヴ5=米国という偏見という名の等式が既に成り立っていたために起こった―――オルタネイティヴ4側からしてみれば喜劇だ。

 しかしながら、今回ばかりは対岸の火事ではなかった。

 G弾が無効果されれば、当然の如く00ユニットに白羽の矢が立つ。だが、前述したように鑑純夏は既に機能停止状態にあり、再起動出来たとしても、それはもう鑑純夏ではないただの人の形をしたコンピューターだ。

 さて進退窮まってきた―――。

 

素体候補であるA-01は残り三人。宗像、風間、涼宮。しかしこの三人は素体としてはあまり良くなかったらしい。社も志願してきたが、香月女史は断っていたな。多分、心情的なものだろうが―――まぁ、僕の預かり得るところではない

 

 無論、その中で清水自身も候補に挙がった。適正としては、因果導体である彼は非常に高い―――のだが。

 

そんな時に香月女史は閃いたそうだ。―――自分自身はいったいどうなのかと

 

 そして調べてみた結果、驚くべき数値が出たそうだ。

 

鑑純夏と同等以上、そして『前の世界』の香月夕子は決断したそうだ。

 

状況が今と違うからな。数式は手元にある、鑑純夏によって成功する前例は作ってある、素体適正はその鑑以上―――後は、誰が手を下すか

 

 そこでお鉢が回ってきたのが清水だ。香月夕子としては、あまり近しい人間には手を下させたくなかったのだろう。副官であるピアティフ中尉にも何も言わなかったそうだ。

 そしてその段階で、清水は『既に次のループが決まっていた』。

 

次のループの事を考えれば、いちいち武を『元の世界』に送らなくても、僕が覚えてさえいれば事足りる。そう言う意味も含めて、僕が適任だったんだ

 

 そして、香月夕子は00ユニットなった。

 

そこから先はもう八面六臂の大活躍だ。対BETA相手には凄乃皇を使って無双。量子電導脳をフルに使っての兵器開発。リーディングやプロジェクションを用いた洗脳とも言える権謀術数。古今東西、何処を探しても貴方以上に世界を好き勝手出来た女はいないだろうよ

 

言い得て妙だ。事実、貴方の近くにいた私は00ユニット脅威論を掲げた連中の気持ちが分かりすぎる程に分かったからな。―――無論、香月女史は真っ先に奴らから潰したが

 

 後に付いた渾名が魔女ではなく女帝なのだから笑えない。因果導体として世界を繰り返し、百年近く経験を蓄えている僕をして、どんなチートだ、と思わずにはいられない程だ。

 

ともあれ、そうしている内に七年で地球のハイヴは片づいた。月を取り戻すのにそこから二十年程掛かるが、これは物資や人材が足りなかったためだ。それをクリアしたら、実質一年も掛からなかった

 

 その後の火星は、更に物資や人材が必要だった。因みに、僕が天寿を全うする間際に聞いた話では、火星の先遣調査隊を率いていたのは香月だったそうだ。

 とは言え、00ユニットは歳を取らない。国連の上層部は00ユニットの正体を知っているから良いとしても、周りは知らないのだ。

 しばらくは本人として特殊メイクなどで誤魔化し、二十年ぐらい経ってから娘として立ち振る舞い、火星調査の時は孫として香月姓を名乗っていたそうだ。

 

そう言えば、僕は、一応その後教官職に就いただったな。因みに、神宮司軍曹の後釜だ

 

 00ユニットの正体を知っているのだ。当然、香月の手の届く範囲にいた。

 

そう言えば、社は、相変わらず香月女史の助手だ。僕としても妹というか娘みたいな感情が芽生えていてな。彼女が四十過ぎるまでは見合いを勧めていたんだが―――武のことが忘れられなかったり、僕と一緒になったり、ハーレムになったり。『元の世界』では学生、こっちに来てからは戦闘漬け。そうやってやっと手に入った『次にループまで』の平穏なんだ。ループも分かっていたし―――少しぐらいはっちゃけた所で問題ないし、香月女史が00ユニットになればな

 

 僕が思うには、00ユニットの人格移植技術を使って、鏡純夏を人間に戻すらしい。肉体に関しては、との香月の問いにBETAの製造プラントを使うと答える。

 

BETAはクローン技術で増殖する。その際、反応炉内にあるデータを参照するが、この横浜基地にある反応炉は鑑純夏のデータを持っている。何せ、ここで彼女は解体されたのだからな

 

 00ユニットになった香月が最初に行う作業はプロジェクションによる反応炉のハッキングとクラッキングだ。これには00ユニットに欠かせないODLによる防諜対策も兼ねる。

 反応炉の制御を乗っ取り、まずは通信機能を破壊する。その上で、現在封印されているBETA製造プラントと思わしき区画を解放、再起動させる。

 BETA製造にはG元素が必要だが、人間一人の生成程度ならばこの横浜基地内にあるサンプル用のG元素で十分だ。

 プロジェクションにより乗っ取っているため、間違ってもBETAは生成されない。

 更にクローン技術とは言っても、BETAのクローンは今現在人類が持っているそれよりも格段に進化している。その為、ドリー現象のような遺伝子上の致命的欠陥は皆無、更には肉体年齢も自由自在となる。

 その上で、鑑純夏の意識を今の脳髄からクローン体へと移すのだが―――。その上で注意したいのは鑑純夏の精神だ。おそらく、新たな肉体を手に入れてもすぐに安定はしないだろうな。むしろ、量子電導脳が無い分、武が直接話しかけたとしても『物わかりが悪い』だろう。―――最悪、精神が崩壊する恐れがある

 

 だからこそ00ユニット香月夕子が必要だ。

 

プロジェクションを用いて説得―――最終的には、真実を伝えるしかない。如何に00ユニットの能力が高くても、精神を完全にコントロールすることは難しい。誘導するだけならともかくな。もし封印したとしても、似たような体験―――例えば武と結ばれるなどして記憶の関連付けが行われれば、思い出してしまうかも知れない。―――そうなれば、今度こそ鑑純夏は壊れるだろう 

 

 だからこそ、まだ脳髄である内に全てを知り、納得ずくで人間に戻る必要がある。

 

無論逃げ道はある。鑑純夏を00ユニットにすればいい。ここで首を縦に振った後、心変わりしたとでも言って同じように鑑純夏を使うとかね。―――無論、僕は敵に回るし、場合によっては武と純夏が敵になるしね

 

『前の世界』の香月女史はその賭に勝ち、確かに好き放題していたから。最も、僕に話さないだけで、それなりの苦悩はあったのかも知れないがね

 

 清水の言葉は本当だが―――香月にしてみれば嘘かどうかは測りかねる。社でもいれば別だが―――いや、その彼女でさえ清水の思考は読めない。

 厄介だな―――と香月は思うが、逆にこの手の男が味方に付けばこれ程心強いことはないだろう。

 何しろ、今まで政治的な分野に関しては彼女一人でやって来たのだ。文官出身とは言え技術屋のピアティフには任せられないし、衛士である伊隅も無理だ。社はリーディングという最強の矛があるが、性格的にも年齢的にも腹芸が出来る訳がない。ラダビノット司令に関しても頭は回るが香月程の権力はない。

 故に、こと政治面に関して、彼女は孤独だったのだ。だから、損得抜きにこの手の人材は欲しく思う。

 しかし、00ユニットになればそんな憂鬱な作業からは解放される生物学的に命を失うだけで香月夕子の意志は動き続ける。

 更にその気になれば、BETAの製造プラントを使っていつでも人間に戻れる、と鑑純夏を例に仄めかしているのだ

 

”白銀武”が現れれば兆にひとつの勝機もあるかもしれないが、もはやそれは博打の類だし、彼が勝てた世界もすさまじいほどの人的・資材的リソースを消費することになった。

 

そこまでやって得られたのは”たった30年の猶予”だけだ。

 

これで勝った、というやつはよほどの阿呆だろう。

 

となれば、選択肢は多くない。

 

 

 

一つ目、全てをあきらめて死ぬ。

 

死に方は何だっていい。兵士になってBETAに食われるか、人間に殺されるか、はたまた自殺するか。

 

このまま真綿で絞めるように死んでいくこの世界を見ているぐらいなら、さっさと死んだほうが楽かもしれない。

 

……せっかく生かしてくれた両親に唾を吐きかける行為だが。

 

 

 

二つ目、逃げる。

 

BETAは泳げない。水底を歩くことはできても泳いで水面に顔を出すことはない。必要となればそういった機能を獲得するかもしれないが、人間を”障害物”としか見ていない連中が人殺しのために泳ぐ機能を手にする可能性は低いだろう。

 

だから人が生活するために必要なだけのスペースを持った浮島を用意して、そこで死ぬまでひきこもる。

 

いずれ人類が起こす終末戦争までは運が良ければ生きられるだろう。

 

用意できるなら一人用のスペースコロニーという手もある。こちらならおそらく死ぬまで生きられるはずだ。

 

 

 

最後、戦う。

 

人類の一人としてBETAと戦う。正直最も徒労に終わる可能性が高い。だが成功すれば得る物も大きいハイリスク・ハイリターンな選択だ。

 

戦う方法は一兵士として、というのは却下だ。”絶対に”無能な上層部に使いつぶされて終わる。

 

幸い戦う方法は僕の前世の知識にあった。

 

必要なものをそろえることができれば、成功する可能性はそれなりに高い、はずだ、後は、力かな?。

 

 

 

 

 

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