魔法学校生徒諸君、出撃せよ!~おじさん、平和のために幼女になる~ 作:ひさなぽぴー
個性豊かな衣装を身にまとった子供たちが、化け物に立ち向かう。ゴムのようなつるりとした黒い身体の、ところどころに赤い光のラインが走る化け物。クマっぽい形の化け物だ。
それを相手にときには手にした刀で、ときには自らの拳で。またあるいは、自らが発露する魔法の力で。
自身の倍近くある巨体を相手に、一歩も退くことなく。攻撃に、ケガにひるむことなく立ち向かう子供たちの姿は実に英雄的だ。そこだけを切り取れば、特撮かアニメの世界のよう。
しかしこれはまぎれもない現実。ケガ人や破壊された建造物などが散見され、あちこちで戦闘音が響く街並みはもはや珍しいものではなく、西暦二〇三〇年ではままあるものになってしまっている。それは日本も外国も変わらない。
戦っているものがすべて子供たちであることも、大人はただ後方で遠巻きに眺めているだけということも、ひっくるめて現実である。
……いや、大人たちもただぼんやりと見ているだけではない。彼らはみな自衛隊員であり、一様に小銃で武装して身構えている。
『そこだ!』
今もまた、一人が発砲した。放たれた弾丸は、クマもどきが少年めがけて振り下ろそうとしていた腕に数発が直撃。振り下ろす軌道が逸れた。
『サンキューあんちゃん! よしここ……! 喰らえオレ様必殺のぉ! 「プロミネンスナックル」!!』
おかげで少年は無傷で済み、それどころかわずかなスキを突く形で肉薄。クマもどきの懐へ拳を叩き込むことに成功した。
直後、紅蓮の炎が吹き荒れる。鬨の声さながらに必殺技を叫んだ彼の拳から巻き起こったそれは、クマもどきの身体を包んで焼き尽くしていく。見事な連携だった。
しかしクマもどきが炎に巻かれ、光の粒子となって綻んでいく様を前にしても、発砲した自衛官の顔が晴れることはなかった。
だが仕方ない。銃火器は基本、決定打どころか有効打にさえならない。だからこそ子供に大半を任せて戦わせるしかないのだが、多くの良識ある大人にとっては納得しがたいだろう。
おまけに彼が使っていた銃……正確にはそこに込められていた弾丸は、技術開発団が満を持して送り出した最新装備。化け物相手に効果があるという触れ込みだったのに、ああもろくに効かないとなれば、なぁ……。
「ご覧いただいた通り、先日制式採用された三〇式対モンスター弾は、残念ながら騎士種以上のモンスターにはほとんど効果なしということがはっきりしました」
会議の進行役を担っている同僚の言葉と共に、壁に投影されていた映像が消える。これには会議室にいる人間全員が、一斉にため息をついた。もちろん俺も同様である。
しかし嘆いていても仕方がない。俺はペンを握りなおし、半ば無軌道な会話に集中しなおした。
「わかっていたとはいえ、やはり残念だねぇ……」
「やっぱり7.62ミリにすべきだったのでは?」
「それは小銃から開発しないといけないから時間も予算もないって結論だったじゃないか」
「そもそも材料が足りないですよ。今のだって、肝心のマナタイトは弾頭だけに絞ってるんですから」
「試作した総マナタイト弾、すごかったんだけどねぇ……」
「いやでも、騎士種相手でも牽制にはなっていますし、効果がないわけじゃ……」
会話の大部分は、感想に近い。
とはいえ、仕方ない面もある。劇的な改善案なんて、そうそう出てくるものではないのだから。
「では、今後も弾丸の改良に取り組むとともに、より効果のある新しい武器開発のため、がんばっていきましょう」
最終的に、そんな毒にも薬にもならない結論で会議は締めくくられることになった。
議事録用のメモを手に取って会議室を出た俺は、思わずため息をつく。俺の内心を表すかのように、窓の向こうでは黒々とした雨雲が広がりつつあった。
……三〇式対モンスター弾は、間違いなく世界を変える大発明だ。かつて前線で、子供たちと共にあった俺には断言できる。
何せこれまで、モンスター相手にはっきりと効果が認められる武器は存在しなかったのだ。たとえ低位のモンスターにしか効かなくても、その意義が薄れることはない。
ただ……上位のモンスターには結局、効かないんだよなぁ。それじゃあ俺の目的を果たせないんだ。それじゃダメなんだ……。
「ん……あれは」
隊舎の廊下を歩きながらふと何気なく外に目を向ければ、そこにはグラウンドで十人十色の衣装を身にまとった子供たちが模擬戦をしている様子が見えた。中には、さっきの会議で見た映像に映っていた少年もいるようだ。
彼ら彼女らが拳や足を振るったり、手のひらを空に掲げたりするたびに光が走ったり、炎が吹き上がったりと、超常現象が起こる。そもそも彼らが駆ける速さは尋常ではなく、空中を踏みしめているものまでいる。
明らかに物理法則に反する光景だが、あれこそが魔法だ。人類が突然手に入れた、現状ほぼ唯一と言っていいモンスターへの対抗手段。
そして、子供にしか使えない力である。
「……俺にも使うことができたら」
思わずそんなことを口にしてしまった。言ったところでどうしようもないとわかってはいても、つい言ってしまう。これはそういうタイプの感情なんだ。
魔法は子供しか使えない。それも、モンスターが出現してから生まれた子供の一部にしか。
おかげで俺たちは、子供たちを戦いの矢面に立たせるしかない。ときに死ぬこともある場に、子供たちを送り込むのだ。
だから彼らに帯同する自衛隊員はときに、決定的な瞬間に居合わせる。そのたびにかみしめる無力感は、筆舌に尽くしがたい。ましてそれが親族ともなれば……。
俺がそうやって、もはや何度目かもわからない思考のループにハマっている間にも、子供たちの模擬戦は続いている。鬱々と考え込んでいても、長年彼らのような子供たちを見てきた目は、その動きが気になってしまう。
あまつさえ分析まで始めるのは、我ながら難儀な性分というかなんというか。
ただ、そういうことを考えているうちにネガティブな思考は自然と薄れていくから、悪い癖とも言えないだろう。仲間の能力をきちんと把握しておくことは、モンスターとの戦場では特に重要なことだし。
「……シンプルイズベストって感じだな、あの魔法。あの子自身は直情径行というか……よく言えば素直な動きばかりだが、魔法がそれを補って余りある。あの規模と威力ならモンスターも迂闊には近づけないだろうし、細かいことは気にせず突っ込んでぶん殴って回るのが正解だろうな……」
あれは恐らく本来は炎を操る魔法なんだろうが、炎は味方を巻き込みかねないし、拳に絡めて使うというのはほぼ最適解じゃないだろうか。
その彼と同じ班のメンバーと思われる少年二人は、どうやらサポートに徹しているようだ。一人はアメコミのヒーローみたいな粘液を発射して場をひっかきまわしているが、その粘液が炎で焼けているところを見るに、アタッカーとも言うべき炎使いの少年の邪魔にはなっていない。相手にだけ効く妨害というのはいいものだ。
またもう一人の少年は、場に展開される粘液に相手を追い込むように、遠距離攻撃主体で立ちまわっている。時折居場所を変えているのもグッドだ。おまけにまだまだ手札を残していそうで、余裕を感じられる。
うーむ、お手本のような連携。多くの場合、班はそれを狙った割り振りをされているのが常とはいえ、やるなぁ。
技術開発団にいると彼らと直接かかわる機会が少ないから詳細はわからないが、今この駐屯地にいるメンバーの中では上位陣なんじゃないだろうか。
……と、考えたところで背後に気配を感じた。自衛隊の駐屯地で危険人物と出くわすことなどそうないが、気配を隠そうという意図を感じたため、念のため戦闘行動にすぐ移れるよう身構えつつさっと振り返る。
「おお、さすがだな桜庭くん。勘は鈍っていないようで何よりだ」
「……上条一尉、毎度毎度驚かすのはやめてくださいよ」
そこにいたのは、先の会議にも出席していた俺の上官だった。例の映像を見たあと、最初に残念だねと発言したのがこの方だ。
俺はやれやれと構えを解く。悪い人じゃないんだが……今回みたいに相手の実力を試すようなことを、時々しかけてくるのはマジでやめていただきたいところだ。
そりゃあ今のご時世、前線に立たない部署にいようと自衛隊員には相応の能力が求められるものではあるが……この人の場合、からかい半分なのがわかる顔してるのがな。同年代のおじさんにそんな顔をされたって、嬉しくなんてないんだよ。
しかしどういう伝え方をしても、上条一尉は毎回柳に風だ。にんまりとした笑みを浮かべて受け流すばかりなので、いい加減そういうものとして俺も受け入れつつある。癪ではあるが。
「ふふふ、安心したまえ。今回が最後だよ」
ところが予想に反して、上条一尉は表情だけはそのままに、予想とはまったく異なる言葉を返してきた。
これまではのらりくらりと抗議をかわし続けてきたというのに、正面から受け止めるような発言。にわかには信じがたく、思わずモンスターが化けた偽物かと勘ぐってしまう。
実際そういうやつがいないわけではないので、仮にこの件で訴えられたとしても俺は負けない自信があるぞ。
一尉もそれを察したのか、少し慌てた様子で手を振って見せた。
「いやいや、今まで色々とすまなかったね。実は上から言われていて、ちょっと試していたんだよ」
「はあ……?」
しかしそれで言われたことが奇妙なもので、俺はますます首を傾げる。なんなら意味不明度が増したので、改めて身構えた。
そんな俺の様子に、一尉は「今までやりすぎたかなぁ」とぼやきつつも、どこか嬉しそう。なんでだ。
「
「はっ、五年くらい前に、政府が出資して設立した研究所であります。主に魔法道具の開発をする機関、という触れ込みだったと記憶しております」
「そう。その研究所の東方博士からね、ちょうど君がうちに異動してきた頃から自衛隊内で被験者を見繕ってほしい、と依頼が来ていたんだよ」
「被験者を……? 何か人体に影響のある道具でも開発したということでしょうか」
武器をはじめただの道具であるなら、わざわざ被験者を募集などしないはずだ。そういう人間を必要とするなら……パッと思いつくのは薬系だろうか。
そう思ったからこそ、ほとんど脊髄反射的に質問を返してしまったのだが……返ってきたのは、上条一尉の満面の笑みだった。
「相変わらず察しがいいね。さすがは歴戦の猛者だ」
「……子供たちについて回っただけの、運転手ですよ。そんな大したものでは」
「謙遜はしなくていい。東北地方奪還作戦は本当に激戦だった、あれを大過なく生き残ったというだけでも十分だ……と君に言うのは、少々デリカシーに欠けたかな。すまない」
「いえ……お気遣いなさらず」
「すまんね。話を戻そう。そういうわけで、被験者を探しているんだが……健康であることは前提として、人格面に問題がないこと。それから、対モンスター作戦における経験と能力を併せ持つこと。この二点を重視してくれとのことでね」
「はあ……では、部署内で人を試すようなことを何度もしていたのは、それを見るためと?」
「うむ。いかんせん技術開発団で経験と能力を併せ持つものと言われても、なかなかね」
一尉はそう言ってハハハと笑ったが、その調査方法はどうなんだ?
不定期にやっている、モンスター出現時を想定した訓練でも十分見れるだろうに。やはりこの人の趣味なのでは?
俺はいぶかしんだが、組織人としてはもう二十年以上のベテランだ。そのことについては、藪をつつかないことにした。
まあ、顔を取り繕えている自信はないが。
「だが君は条件を満たしている。少なくとも私はそう判断した。よって……桜庭一曹」
「ハッ」
「この件は任意だ。詳細は私も知らされていないが、子供しか戦えない現状を覆す画期的なものになるらしい。だが実験である以上、命に関わるやもしれん。だから君が望むなら、断ることもできるが……どうするかね?」
それは願ってもない提案だった。
俺はこういう、魔法に関わる技術の礎になりたくて。ひいては、その技術で最前線でモンスターと戦う子供たちを助けたくて、技術開発団に異動したのだ。
ましてや現状を覆し得るというなら、否などあるはずもない。
「ハッ。もちろん、引き受けさせていただきます!」
俺の答えには一点の曇りもなく、またそれで死んだとしても構わないという心構えに嘘はない。
ない……なかった、が、しかし。しかしである。
「……齢四十にして幼女になるなんて、思ってもみなかったぜ……!」
大成功だ! と歓喜を爆発させる東方博士の高笑いをBGMに、俺はつるんぺたんすとんとなった首から下を一度見下ろしてから、祈るように天を仰いだのだった。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
基本的にはタイトルの通り、幼女になったおじさんが子供たちと一緒に学園生活を送りつつ、異世界から襲い来るモンスターと戦うお話になります。
ひさなさんの作品としては、珍しく恋愛要素がない内容となっております。主人公がロリコンではない作品も、かなり珍しい気がするな。
TSはまあ、うん!
なお、本作はカクヨムで開催中のアース・スター文庫キャラクター小説大賞に応募するために書いた作品です。
ひいじいさんヒロインになる他、各作品の更新が止まっているのはこの作品を書いていたからでして、その点どうかあしからず。
また上記の事情から、本作はカクヨムで先行公開しております。
更新頻度もカクヨムのほうが上ですので、もし続きが早く読みたいという方がいらっしゃいましたら、カクヨムのほうに飛んでいただいたほうがいいかもしれません。
あわよくば、カクヨムのほうでもブックマークや評価入れていただけると、とっても嬉しいなって・・・。