【ONE PIECE】電気(ことわり)を統べる者 〜海賊王の右腕となる雷の能力者〜 作:フォレスティアル
第13話は、海軍志望の気弱な少年・コビーとの出会いと出航編です!
ONE PIECEならではのコビーの限界突破リアクション芸、ルフィが語る「海賊王」への反応、そしてルーサスが海軍ではなくルフィと共に海賊として海へ出る本当の理由をじっくりとお楽しみください!
風が心地よく頬を撫で、青く澄み切った東の海(イーストブルー)の波が、俺たちの船の船頭を優しく叩いていた。
「しししっ! 海は広ぇなぁ、ルーサス! どこまでも続いてるぞーっ!」
漆黒の船体に金のラインが映える小型探検船の船首。
麦わら帽子を押さえながら、17歳になったルフィが少年のように目を輝かせて叫んでいた。
「当たり前だ、ルフィ。ここはまだ東の海のほんの入口に過ぎない。グランドラインへ行けば、この何倍も異常な海が待っている」
俺は操舵輪の脇で腕を組み、不敵な笑みを浮かべた。
俺たちの船は、グレイ・ターミナルで精錬した高品質な鉄インゴットを換金した莫大な資産によって建造された特別製だ。最新の航海計器と頑丈な造りが施されており、東の海の並の海賊船など足元にも及ばない。
その時――見聞色の気配察知に、前方からの騒がしい気配が引っかかった。
「……ルフィ、前方だ。大きな客船が一隻、海賊船に横付けされている」
「ん? 海賊か!?」
ルフィが目を凝らすと、そこにはドクロマークを掲げた海賊船が、豪華客船に突入し、悲鳴と怒号が響き渡っている光景があった。
「助けてくれぇ! 宝は全部やるから命だけは!」
「ひははは! 逃げ惑え! 荷物を全部甲板に運び出しな!」
金棒を振り回す巨体のおばさん――『金棒のアルビダ』率いる海賊団が、乗客たちを脅し取っている最中だった。
俺たちが船を寄せていくと、客船の物陰、重い酒樽の陰でガタガタと全身を震わせている一人の丸眼鏡の少年が目に入った。
「ひ……ひぃぃぃっ! 見つかったら殺される……! 海軍が助けに来てくれるわけないし……うぅぅ……」
「おい、お前。何してんだ?」
突然上から声をかけられ、少年は「ギャァァぁぁっ!?」と喉を潰したような悲鳴を上げて跳び上がった。
「ヒ、ヒィィィッ!? 殺さないでくださいぃぃ! 僕はただの雑用で、何も持ってません!!」
「落ち着け、俺たちは襲いに来たわけじゃない」
俺は呆れ気味に溜め息をつき、ひっくり返った少年を見下ろした。
名前はコビー。雑用係としてアルビダの船に捕まり、二年間も奴隷のようにこき使われていたらしい。
「海賊になりたくて乗ったわけじゃないんです! 釣り船に乗ったら、間違えて海賊船だったんです! 恐ろしいアルビダ様の金棒で叩かれるのが怖くて、逃げ出すこともできなくて……!」
涙をぽろぽろ流しながら惨状を訴えるコビーに、ルフィはケラケラと笑い飛ばした。
「なんだ、お前すげぇバカでマヌケだな!」
「うぐっ……! は、はっきり言わないでくださいよ! でも本当なんです……僕なんてどうせ一生、あの掃除と雑用で人生が終わるんだ……」
卑屈に俯くコビーの頭の上に、俺は静かに視線を落とした。
「コビーと言ったな。……やりたいこともないまま、死ぬまで他人の顔色を窺って生きるのがお前の望みなのか?」
「え……?」
「自分が本当にやりたいこと、叶えたい夢はないのか? 恐怖に負けて諦めているだけじゃないのか」
俺の静かな、だが芯のある問いかけに、コビーは目を見開いた。
そして、大粒の涙をボロボロと溢れさせながら、拳をぎゅっと握りしめて叫んだ。
「あ、ありますっ……! 僕……僕だって本当は……! 海軍に入って、悪者たちを捕まえる偉い海軍将校になりたいんです!! 正義の白いコートを羽織って、世界中の人々を海賊の恐怖から守る……! それが僕の生まれた時からの夢なんです!! 海軍は世界の平和を守る正義の盾なんですよ!?」
大汗をかきながら息を荒らげて熱弁するコビーに、ルフィは「へぇ〜」と興味なさそうに鼻をほじりながら言った。
「ふーん。海軍に入りたいのか。じゃあ、俺のじいちゃんに紹介してやろうか?」
「え……?」
「俺のじいちゃん、海軍本部の『中将』なんだぞ。名前はガープってんだ」
「……え?」
コビーの時が止まった。
数秒の静寂の後、コビーの顔面がアメーバのように歪み、目玉とアゴが物理的に飛び出さんばかりに激しく突出した。
「エェェェェェェェェッーーーーーーー!?!?!?!?」
客船中に響き渡るような超絶大絶叫。
「ガ、ガ、ガ、ガープ中将ぉぉぉぉ!? あの『海軍の英雄』と呼ばれる伝説のガープ中将ですかぁぁぁ!? ななな、なんでそんな雲の上の偉大な人物が、海賊になりたがってるルフィさんのおじいちゃんなんですかぁぁぁ!!?」
「しししっ! げんこつが痛ぇぞー!」
爆笑するルフィの横で、俺は懐から一つの古い仮面を取り出し、懐かしそうに見つめてから口を開いた。
「ちなみにコビー。俺も幼少期、素性を隠して仮面をかぶり、ガープ中将の元で少し海軍の仕事を手伝っていたことがある。だから海軍本部や上層部には、ちょっとした伝手(コネ)があるぞ」
「……」
コビーはゆっくりと俺の方を振り返り、白目を剥いて血を吐きそうな勢いで再度絶叫した。
「へブフォッーーーーーーー!?!?!?!?」
「か、仮面の海軍エージェントぉぉぉ!? なんでそんな超重要人物みたいな人が、海軍に入らないで海賊なんてやってるんですかぁぁぁ!? 海軍に入った方が絶対に偉くなれますよ!?」
コビーのもっともな叫びに、俺はふっと遠い目をして口角を上げた。
(海軍に入らない理由……か)
前世の記憶を持つ俺にとって、海軍の「正義」の裏にある組織の不自由さや世界政府の闇は知っていた。だが、一番の理由はそんな理屈じゃない。
幼少期に出会い、共に育ったルフィという男の、底知れない魅力と器の大きさだ。
前世でも今世でも、俺はこいつのまっすぐな生き方に感化された。そしてルフィが目指す「海賊王」の先にある――原作でも誰も知らない、ルフィの本当の『夢の果て』。
それを見届け、こいつの隣で共に笑い、世界の理を解き明かしながら誰よりも自由で楽しい冒険がしたい。組織に縛られた海軍では、そんな最高の人生は送れないのだ。
「理由はシンプルだ。海軍じゃあ、楽しく自由な冒険ができないからな。……何より、俺はこのルフィの参謀として、こいつが世界をひっくり返す瞬間を一番近くで見届けると決めている」
「へ……? ル、ルフィさんの参謀……? ルフィさんって、一体何を目指してるんですか……?」
コビーがオドオドとルフィを見上げると、ルフィは麦わら帽子をきゅっと深めにかぶり直し、ニカッと太陽のように笑った。
「俺は海賊王になる男だ!」
「……え?」
コビーの動きがピタリと止まる。
数秒後、先ほどのガープ中将の時を遥かに超える、顔面崩壊レベルの超絶叫が炸裂した。
「アギャァァァァァァァァァーーーーーーーッ!?!?!?!?」
目玉がポーンと飛び出し、舌が何重にも巻いて伸び、アゴが床を突き抜けんばかりに落下する。
「か、か、海賊王ぉぉぉぉ!? 無理無理無理無理無理無理!! 絶対に無理です!!! この大海賊時代に海賊の頂点に立つなんて、世界のすべての海賊と海軍を相手にするってことですよ!? 命がいくつあっても足りません!!! 正気ですかぁぁぁ!?」
「耳が痛ってぇなぁ、大声出すなよ! 俺が決めたんだからいいんだ!」ルフィがケラケラと笑う。
「無理じゃないさ、コビー」
俺は不敵に笑い、ポケットから手を出した。
「俺たちが本気になれば、この海のどんな壁もただの通過点に過ぎない。……さて、そろそろ騒がしい害虫の退治といくか」
「――おい、コビー。誰がこの海で一番美しいかい?」
地響きのような不気味な声とともに、巨大な鉄の金棒を肩に担いだアルビダが、手下たちを引き連れて甲板へと姿を現した。
「ひぃぃぃっ!! あ、アルビダ様……!」
コビーが泡を吹きそうになりながら震え上がる。アルビダは蔑むような目でコビーと俺たちを見下ろし、金棒を振り上げた。
「相変わらず使えない雑用係だねぇ。……そこの見知らぬガキどもと一緒に、海に沈めてやろうか」
「待てよ、アルビダ」
俺はルフィの前に一歩踏み出し、ポケットに手を入れたまま、冷たい視線でアルビダを見据えた。
相手に能力の全貌を悟らせないための擬装――『熱力学・絶対零度』。
「他人の人生を踏みにじるしか能のない醜い海賊か。……少し冷やして頭を冷やすといい」
『――【氷結・荷電静止(フロスト・バースト)】』
シュゥゥゥゥ……ッ!!
俺が静かに右手をかざした瞬間、世界から一切の音が消えた。
手のひらから爆発的な勢いで溢れ出た白銀の冷気が、地を這う津波となって一気にアルビダ海賊団全体を飲み込んでいく。
「な……なんだこの白い霧は……!? 急に身体が動か――」
アルビダの手下たちが牙を鳴らして凍りつく暇すら与えない。
ゴオォォッと音を立てて凍りついていく海賊船。大砲も、甲板も、海賊たちもろとも、一瞬にして巨大な美しい氷塊の中へと閉じ込められていった。
「な……!? 船が一瞬で凍りついた……!?」
コビーが本日何度目かわからない絶叫顔で固定される。
「な、何なんだいあんた……! 氷の能力者……!?」
間一髪で氷漬けを免れ、震え上がるアルビダ。だが、その怒りは収まらず、顔を真っ赤にして金棒を振り下ろそうとした。
「この海で一番美しいあたしに向かって――」
「言わせておけば、ゴツくて醜いクソババアじゃねぇか!」
コビーが涙を流しながら、死を覚悟して叫んだ。
「……何だって!?」アルビダの額に青筋が浮かぶ。
「しししっ! よく言った、コビー!」
ルフィがニカッと笑い、一瞬でアルビダの間合いへと踏み込んだ。
『――ゴムゴムの、銃(ピストル)!!』
ドガァァァァン!!
体幹の軸が固定され、内部破壊の流桜を纏ったルフィの超高速の拳が、アルビダの顔面に完璧に叩き込まれた。
「がはっ……!?」
アルビダの巨体は水平線の彼方へと一瞬で吹き飛び、そのまま遥か遠くの海へとドボンと沈んでいった。
「あ……アルビダ様が天まで吹き飛んでいった……!?」
残された雑魚海賊たちが悲鳴を上げて逃げ出していく中、コビーはガクガクと膝を震わせながら、尊敬と恐怖が入り混じった目で俺たちを見上げていた。
「す……凄すぎます、ルフィさん、ルーサスさん……! あなたたち、本当に何者なんですか……!?」
ルフィは帽子をかぶり直し、ニカッと最高の笑顔を浮かべた。
「俺はルフィ! 海賊王になる男だ!」
俺も不敵に口角を吊り上げる。
「俺はこいつの参謀兼、師匠のルーサスだ。……さてコビー、海軍支部がある『シェルズタウン』へ行くぞ。お前の夢のスタート地点だ」
「は、はいっ……! ルフィさん! ルーサスさん! どこまでもついていきます!!」
コビーは涙と鼻水を撒き散らしながら、何度も深々と頭を下げるのだった。
海賊王を目指すルフィと、ルフィの夢と冒険に魅せられた参謀ルーサス。
そして夢への一歩を踏み出した少年コビーを乗せた船は、海軍大佐モーガンと海賊狩りゾロが待つ『シェルズタウン』へと向かって、爽やかに風を切って進んでいくのだった。
ご覧いただきありがとうございました!
今回はルーサスが海軍ではなく「ルフィと共に海賊として海へ出る理由」を掘り下げつつ、コビーの「海賊王宣言に対する顔面崩壊レベルの超絶リアクション」を追加いたしました!
前世からルフィの魅力と『夢の果て』に惹かれ、共に自由で楽しい冒険をするために参謀として隣に立つルーサスの熱い想いを感じていただければ幸いです!
次回第14話は、ついに『シェルズタウン』に到着!
海賊狩りのゾロ、彼を慕う健気な少女リカとおにぎりのエピソード、そして独裁者モーガン大佐とバカ息子ヘルメッポとの遭遇をじっくり描いていきます!
面白かったら評価やブックマークをしていただけると、すごく執筆の励みになります!
ルーサスが語った「ルフィの夢の果て」について。
原作でもまだ全貌が明かされていないルフィの本当の夢ですが、ルーサスがそれにどう関わっていくのか、この作品なりの答えも今後の展開でじっくり描いていければと思っています!