【ONE PIECE】電気(ことわり)を統べる者 〜海賊王の右腕となる雷の能力者〜 作:フォレスティアル
第29話はいよいよ『アーロンパーク編』の開戦前夜!
ココヤシ村に降り立った麦わらの一味と参謀ルーサスが、島を覆う深い絶望と向き合います。
仲間を想う熱いドラマと、決戦へ向かう一味の姿をぜひお楽しみください!
ルーサスの操縦する超高速艇は、絶え間なく白波を蹴立てながらココヤシ村の静かな海岸へと着岸した。
しかし、船を下りた俺たちの前に広がっていたのは、南国の明るい日差しとは裏腹な、息が詰まるほどの重苦しい静寂だった。潮風に混じって仄かに漂うミカンの香りすら、村全体を覆う暗い影に押し潰されている。
「……変だな。人っ子一人いねぇぞ」
ウソップが周囲を警戒しながらボソリと呟く。
港から村の中心部へと続く舗装された道を歩いていくと、家々の窓や扉は固く閉ざされ、まるで街全体が死に絶えたかのようだった。
やがて、物陰から怯えたような視線を向けてくる数人の村人たちの姿があった。彼らは俺たちの姿――旅慣れた物々しい格好や腰の刀、何よりあからさまに『海賊』と分かる異様な雰囲気を察知すると、顔を強張らせ、子供の目を覆い隠すようにして後ずさった。
「おい、おっさん。ナミって奴を知らねぇか? この村に帰ってきてるはずなんだが」
ルフィが通りがかった作業着の男に声をかける。すると男は、弾かれたようにビクッと肩を跳ね上げ、激しい怒りと恐怖の混ざった複雑な表情で吐き捨てた。
「……ナミだと!? あの悪魔のような女の名前をここで出すんじゃねぇ! あいつは金のために自分たちの故郷をアーロンに売り渡した薄情者だ! お前たちもあの女の仲間か!? さっさとこの島から出て行きやがれ!」
「なんだと……!? ナミが故郷を売ったぁ!?」
ウソップが目をむいて声を荒らげる。サンジも青筋を立てて男に詰め寄ろうとしたが、俺は静かに手を差し出してそれを制した。
「落ち着け。村人たちがそう思い込まされている背景がある。……村人たちにとっても、ナミにとっても、これが一番傷つかない『仮面』なんだよ」
「ルーサス……お前、やっぱり何か知ってるのか?」
ゾロが刀の柄に手をかけたまま、俺に視線を向ける。俺はポケットに手を突っ込んだまま、静かに歩みを進めた。
「話はナミの家で聞こう。丘の上にミカン畑が見えるはずだ」
俺たちは村の外れ、小高い丘の上に広がる広大なミカン畑を目指して坂道を登っていった。
青々としたミカンの葉が茂る農園の真ん中に、風情のある一軒の家が建っている。その庭先で、風に青い髪をなびかせ、肩に鮮やかなタトゥーを入れた一人の女性が、静かに煙草をくゆらせていた。ナミの義理の姉である『ノジコ』だった。
「……あなたたち、誰? 見ない顔ね」
ノジコは俺たちを一瞥すると、警戒感を隠そうともせずに冷ややかな視線を向けた。
「ナミを探してる。あいつはここに居るか?」
ルフィが直球で尋ねると、ノジコは小さく息を吐き、煙草の煙を空へ逃がした。
「ナミならここには居ないわ。それに……あんたたちがナミの言っていた『仲間』なら、お願いだから今すぐこの島から消えて。あの子に関わらないで」
「なんでだよ! 俺たちはナミを連れ戻しに来たんだぞ!」
ウソップが抗議するが、ノジコは首を横に振った。
「あの島(アーロンパーク)の魚人どもは怪物よ。人間が束になって挑んだところで勝ち目なんてないわ。ナミがせっかくあんたたちを逃がすために冷たく突き放したのに、戻ってくるなんてバカなマネしないで……」
ノジコは俺たちを必死に追い払おうとした。だが、俺が静かに歩み寄り、先ほどVR電脳空間で一味に共有した『8年前の事件』と『1億ベリーの真実』を静かに語り始めると、ノジコの瞳が驚愕に大きく見開かれた。
「な……なんであなたたちがそれを……!? ナミは誰にも話していないはずなのに……!」
「俺の固有技(データ解析)を舐めるな。ナミが一人で背負ってきた苦痛も、ベルメールさんの無念も、すべて把握している」
俺の言葉に、ノジコは崩れ落ちるようにミカンの木に背を預け、ポロポロと涙を溢れさせながら、語り始めた。
8年前、この平和だったココヤシ村に突如として現れた魚人海賊団アーロン一味。
大人一人につき10万ベリー、子供一人につき5万ベリーという理不尽な『貢ぎ料』を要求され、持ち金のなかったナミたちの育ての親・ベルメールさんが、幼いナミとノジコの命を守るために自らの命を犠牲にしたこと。
そしてナミが、村人たちの命を人質に取られながら、自らの腕にアーロン一味のタトゥーを刻み、村を1億ベリーで買い戻すために血の滲むような泥棒稼業を続けてきたこと――。
「ナミはね……たった一人で8年間、村全員の命を背負って戦ってきたのよ。村のみんなもね、本当はナミの真意に気づいてる……気づいていながら、あの子に甘えて、辛い思いをさせてる自分たちに耐えかねて、あえて悪者として扱ってるの……! だから、あなたたちに迷惑をかけたくなくて、あんな酷い言い方をして追い払おうとしたのよ……お願いだから、もう行っ……」
ノジコが涙を浮かべて懇願していた、まさにその時だった。
ドガァァァン――ッ!!
村の中心部、ベルメールさんの家がある方向から、大地を揺るがす粗暴な破壊音と、悲鳴が響き渡った。
「な、何事だ!?」
ウソップが飛び起きる。俺たちは即座に音のする方向――ナミの家へと向けて走り出した。
そこにいたのは、ネズミのような卑しい顔つきをした海軍第16支部『ネズミ大佐』と、銃を構えた部下の海兵たちだった。彼らはナミの家の庭を荒らし回り、地面を乱暴に掘り返して、重々しい木の箱を引きずり出していた。
「ヒヒヒッ! あったぞ! これが泥棒猫ナミの溜め込んだ不法な財産だな!」
箱の蓋が叩き割られ、中から目も眩むような大量の紙幣と宝飾品が零れ落ちる。ナミが8年間、傷だらけになりながら集め続けた、あとわずかで1億ベリーに届くはずだった『ココヤシ村の希望』だ。
「待って……! お願い、やめて!! それは私のお金じゃないの! 村のみんなの命のお金なのよ!!」
泥と汗に塗れ、髪を乱したナミが、必死の様相でネズミ大佐の脚に縋り付いた。
アーロンが海軍のネズミと裏で繋がり、1億ベリーが貯まる直前に海軍を使って強奪させる――最初から村を返す気など毛頭ない、あまりにも残虐で惨い裏切りだった。
「うるせぇな! 犯罪者の泥棒から押収するのは海軍の正当な権利だ! 文句があるなら海軍本部にでも言え!」
「お願い……! 返して! これがないと……みんなが死んじゃうの!! お願いだからぁっ!!」
地面に頭を擦り付け、爪が割れるほど土を掴んで泣き叫ぶナミ。
ネズミ大佐はゲスな笑みを浮かべ、縋り付くナミを鬱陶しそうに蹴飛ばそうと足を振り上げた――その瞬間。
ピキィィィン……!!
空間の温度が、一瞬にして極寒へと氷結した。
ネズミ大佐の振り上げた脚が、空中盤でピタリと動きを止める。
俺の固有技『絶対領域』による、局所的な分子運動の完全停止。
「な……なんだ!? 体が……動か……っ!?」
冷や汗を流して硬直するネズミ大佐の前に、俺はポケットに両手を突っ込んだまま、静かに歩み寄った。
「海軍第16支部大佐ネズミ。……海賊アーロン一味からの長年にわたる収賄、および民間人に対する違法な財産強奪。現場における犯罪事実の確定を完了した」
俺がポケットの中で端末の通信スイッチを入れると、空間上に鮮やかな青い光線が走り、巨大な海軍本部のホログラム映像が浮かび上がった。
『――こちら海軍本部・情報統制室! 識別コード承認、ルーサス殿! 一体何事か!?』
「海軍本部か。東の海第16支部大佐ネズミによる過度の汚職、および魚人海賊団との結託を示す映像・音声ログをリアルタイムで本部サーバーへ転送した。即座にコイツの階級を剥奪し、軍法会議にかけろ」
『な……なんだと!? 映像確認……事実だ! 直ちに海軍本部より特務部隊を派遣する!!』
「ひえええぇぇぇっ!? ほ、本部に直接通信しただとぉぉぉっ!?」
顔を蒼白にし、腰を抜かして失禁するネズミ大佐。
――と、その時だった。
「う、うおおおおおっ!!? 海軍大佐の汚職! 魚人海賊団の不正支配! そしてそれを告発する謎の参謀と『麦わらのルフィ』だとぉぉっ!?」
物陰の草むらから、カメラを抱えた一人の男が目を爛々と輝かせて飛び出してきた。たまたま取材で近くの島を訪れていた『世界経済新聞(ニュースクー)』の現地記者だった。
「これは歴史的な超・大スクープだぁぁぁっ! 今すぐ本社に電電虫で送って緊急号外を刷らせるぞっ!!」
記者は狂喜乱舞しながらシャッターを連続で切りまくり、爆速で本社へ通信を飛ばし始めた。
「おいおい……」
俺はポケットに手を突っ込んだまま、苦笑交じりに肩をすくめた。
ルフィの名を世界に広めるための情報工作について、俺自身も少しばかり頭の中で計算と準備をし始めていたところだったのだが――まさか俺が手を打つ前に、勝手に世界中へ広まってしまうとはな。
「ルーサス、あいつ放っておいていいのか? ルフィの名前まで新聞に載っちまうぞ」
ゾロがニヤリと鋭い笑みを浮かべながら尋ねてくる。俺は口元を不敵に歪めた。
「フッ……まあいい。俺が手を下す前に広まっちまったのは計算外だが、結果オーライだ。これでルフィの手配書が発行され、東の海最高額賞金首として世界中へ一気に拡散される。……ここまで派手に全世界へ号外が配られてしまえば、流石のガープジジイでも、孫の海賊行為を揉み消したり隠蔽したりすることは不可能なはずだ」
参謀として予期せぬスクープすらも瞬時に計算に組み込み、ガープの追及を封じる盤面を完成させた俺の横で、ルフィが静かに歩みを進めた。
そこには、全てを奪われ、膝をついたまま自分の左腕に刻まれたアーロン一味のタトゥーを、ナイフで血だらけになりながら何度も何度も突き刺しているナミの姿があった。
「アーロン……! アーロン……! アーロン……っ!!」
自傷行為に近い激しい怒りと絶望。血が地面にポタポタと滴り落ちる。
「ナミ」
ルフィが静かに声をかけた。ナミは涙と血に塗れた顔をゆっくりと上げ、絞り出すような、今にも消えそうな声で呟いた。
「……ルフィ……」
「おう」
「……助けて……」
ナミの瞳から、堰を切ったように大粒の涙が溢れ落ちる。
ルフィは無言のまま、自分の宝物である『麦わら帽子』を静かに脱ぐと、ナミの頭の上に優しく、深くかぶせた。
そして、ナミに背を向け、空を仰ぎ見ると、腹の底からの咆哮を島全体に響かせた。
「「「当たり前だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」」」
大地を揺らし、大気を震わせるほどの雄叫び。
ルフィ、ゾロ、ウソップ、サンジ、そして俺。
「行くぞ」
ルフィの短い一言とともに、麦わらの一味の男5人は、ナミの絶望を粉砕するため、魚人どもの根城『アーロンパーク』へと向かって堂々と歩み出したのだった――!
ご覧いただきありがとうございました!
第29話は『アーロンパーク編』屈指の名シーンをお届けしました!
一味の絆と開戦への熱い鼓動を感じていただけたら嬉しいです。
次回第30話は、いよいよ『アーロンパーク』への凄まじい殴り込みと、魚人海賊団との全面対決が開幕します!
麦わらの一味の圧巻のバトルをどうぞお楽しみに!
※ちなみに今作のルフィは、どんな敵相手でも「相手の能力や全力を引き出しつつ、自分も戦闘を楽しむため」にあえて最初から全力を出さず力をセーブして戦うスタンスをとっています(ドラゴンボールの孫悟空のようなイメージです)。参謀ルーサスから見ても「またあいつ遊んでるな」と見抜かれている、ルフィの底知れぬ強さにもぜひご注目ください!
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