【ONE PIECE】電気(ことわり)を統べる者 〜海賊王の右腕となる雷の能力者〜 作:フォレスティアル
第31話はいよいよアーロンパーク内での幹部たちとの全面決戦!
外海への逃げ場を失い、全力を出さざるを得なくなった魚人海賊団に対し、麦わらの一味がそれぞれ怒りの拳を叩き込みます。
一味の個性がぶつかり合う激闘と、参謀ルーサスの観察眼をぜひお楽しみください!
ドォォォォォォン――ッ!!!
天を突き破るかのようにそびえ立った巨大な環状の氷壁が、アーロンパークを取り囲む外海を遥か沖合まで完全に封絶していた。
波飛沫すら白銀の壁となって固定され、ココヤシ村一帯の海上空間は、逃げ場のない巨大な密室へと姿を変える。園内の海水プールや浅瀬の水域だけが残されたその状況は、魚人どもに最大戦力の行使を強いると同時に、「海の彼方へ逃げ出す」という選択肢を完全に奪い去っていた。
「ひえぇぇぇっ! 追いかけてくんなぁぁっ! 助けてくれ~っ!!」
悲鳴を上げながら、アーロンパークの奥に広がる深い森へと全速力で逃げ込んでいくウソップ。そのすぐ背後から、地鳴りのような足音と水切り音が迫っていた。
「逃がさねぇぞ下等種族が! 人間の分際で俺たち魚人の支配に牙を剥いたこと、後悔させてやる!!」
追ってくるのは、唇を砲門のように突き出したキス魚の魚人『チュウ』だ。チュウは走りながら肺いっぱいに吸い込んだ水分を、鋭いシリンダーのごとく圧縮して吐き出した。
「『水鉄砲(みずでっぽう)』っ!!」
チュウの口から放たれた水弾は、音速を超えて大気を切り裂き、ウソップのすぐ脇にあった樹齢数十年はあろうかという大木を木っ端微塵に砕き割った。
ドガァァァンっ!
「ヒィィッ!? 木が……木が大砲みたいに吹き飛んだぞ!? なんだありゃあ!!」
激しい土煙と木の葉の舞う中、ウソップは地面を転がりながら必死で岩の影へと滑り込んだ。呼吸は乱れ、心臓は早鐘のように打っている。脚は恐怖でガクガクと震え、手には嫌な冷や汗がべったりと滲んでいた。
(くそっ……くそっ! なんで俺がこんな化物と戦わなきゃいけねぇんだ! 怖ぇ、死ぬ、死んじまうよ! 今すぐ逃げてぇよ……!!)
ウソップは頭を抱えて縮こまりかけた。だが、その頭裏に浮かんできたのは、血だらけの手で自分の腕の刺青をナイフで刺し続けていたナミの絶望的な顔だった。そして、ルフィの咆哮と、参謀ルーサスが淡々と放った言葉だ。
『遠くへの逃げ場は消した。……幹部どもはお前たちの獲物だ。相手の全力を上回って勝ってこい』
(ルーサスは……あの野郎は、沖への逃げ道を全部消して、俺たちに勝てるって盤面を作ってくれたんだ……! ゾロもサンジも、あんな化物どもと正面から戦ってんだぞ! 俺だけがここで逃げ出して……ナミの前にどんな顔して戻れってんだ!!)
ウソップは固く歯を食いしばり、ポケットから黒い長インバンドのパチンコ『銀河パチンコ』を取り出した。恐怖で震える指先に力を込め、弾丸を装填する。
「よし……よし! 逃げねぇぞ! 俺はキャプテン・ウソップだ! 8000人の部下を持つ海の勇者なんだぁぁっ!!」
ウソップは岩影から跳び出すと、一直線に迫るチュウに向かって狙いを定めた。
「喰らいやがれ! 『火の鳥星』っ!!」
弾け飛んだ弾丸が、大気を焦がしながら巨大な炎の鳥となってチュウの顔面へと直撃した。
ズボァァァアンっ!!
「ギャアァァァっ!? 熱い、熱いなぁぁっ!! 下等種族の分際でぇぇっ!!」
顔面を炎に包まれ、狂乱するチュウ。ウソップは涙目になりながらも、決して目を逸らさず次の弾を構えた。己の知恵と度胸のすべてを振り絞る、命がけの単独戦法が始まったのだった。
――その頃、アーロンパーク中央の海水プール周辺。
ドォン!! ドカァァアン!!
激しい打撃音が、プールサイドの重厚な石造りの地面を破壊し続けていた。
「魚人空手……『百枚瓦正拳(ひゃくまいがわらせいけん)』!!」
エイの魚人『クロオビ』の、巨岩をも粉砕する重厚な拳が、サンジの交差した腕を打ち砕く勢いで叩きつけられた。
サンジの体は砲弾のような勢いで後方へと吹き飛ばされ、アーロンパークの分厚い外壁に深くめり込んだ。
ズガァァァンっ!
「ハッ! 口ほどにもない料理人め。陸の上で少しばかり足技が使えるからと調子に乗るからだ。我ら魚人の身体能力は、生まれながらにして人間の十倍! 水中のみならず、陸上での練磨された魚人空手こそが地上最強の武術なのだ!」
クロオビが腕を組み、煙の立ち込める壁の亀裂を見下ろして鼻で笑った。
だが――煙の中から、ゆっくりと足音が響いてくる。
カツ……カツ……。
「……フゥ」
煙の中から姿を現したサンジは、スーツの埃を静かに払うと、ポケットからライターを取り出し、口に咥えたタバコに静かに火を点けた。紫煙が滑らかに空へと昇っていく。
「……おい、クソ魚」
サンジの青い瞳が、冷徹な殺気を孕んでクロオビを射抜いた。
「なに……!? あれだけの正拳を受けて、なぜ立っていられる……!?」
クロオビが驚愕に目を剥く。サンジはタバコを一口深く吸い込むと、静かに息を吐き出した。
「お前のその大層な空手とやらが百枚の瓦を割ろうが、千枚の瓦を砕こうが……俺の心には一切響かねぇよ。……レディを8年間も恐怖で縛りつけ、涙を流させたお前らの罪はな……そんなぬるい打撃じゃ、到底あがなえねぇんだよ」
サンジの軸足が地面を強く踏み締め、軸を中心に回し蹴りの予備動作に入る。その脚からは、摩擦熱すら感じさせるほどの凄まじい速度と威力が伝わってきた。
「痛ぇ思いをして覚悟を決めるのは……お前の方だ。『首肉(コリエ)』!!」
シュッ――ボカァンッ!!
「ガハッ!?」
目視すら不可能な超高速の蹴りが、クロオビの首筋へと深々と叩き込まれた。間髪入れずにサンジの身体が滑るように旋回する。
「『肩肉(コートレット)』!! 『背肉(コート・ロティ)』!!」
「グァ、ゴッ……!? な、なんだこの脚力は……っ!? 魚人の皮膚の上から骨を粉砕するだと……!?」
陸の上で全力を解放したサンジの連続蹴りが、エイの魚人の頑強な巨体を一方的に空中へと打ち上げていく。レディの涙を背負った男の足技が、魚人空手の誇りを容赦なく粉砕し始めていた。
――そして、アーロンパークの中庭。
シャキンンンッ!! シャシャシャシャッ!!
白銀の刃が交差し、火花が夜空の星のように散り乱れていた。
「タコたこタコ~っ! 俺様の六刀流に勝てる人間なんているわけがないタコ! 『六刀開眼』っ!!」
六本の太く力強い腕に、それぞれ重厚な名刀を握りしめたタコ魚人『ハチ』が、千手観音のごとき苛烈な乱舞を見せていた。六本の刀がそれぞれ異なる軌道を描き、死角なしの斬撃の嵐となって襲いかかる。
対するゾロは、口に咥えた『和道一文字』、そして両手の刀のわずか三本で、その六本の刃を正確無比に弾き返していた。
コンッ! ガンっ! チュドォンっ!
「ちっ……重みがねぇな」
ゾロは刀を交差させたまま、額から流れる汗を拭いもせずに吐き捨てた。
その胸元には、鷹の目ミホークによって刻まれた巨大な斜め傷が痛々しく残っており、激しい運動によって包帯からじわりと赤黒い血が滲み出している。
「な、なんだと!? 俺様の六刀流は一本一本が百斤の重さがあるんだタコ! バカにするなーっ!」
ハチが怒りに顔を真っ赤にし、六本の刀を頭上に掲げて振り下ろす。
「『六刀のタコ焼きパンチ』だタコ――っ!!」
「剣の数がありゃあ強いってんなら……世の中の剣士はみんな腕を増やそうとするぜ」
ゾロの脚が地を捉え、三本の刀が静かに一閃の構えへと収束する。傷の激痛に耐えながら、ゾロの瞳には一切のブレもなかった。
「刀の一本の『重み』ってのを……今から教えてやるよ」
キンッ――ガアァァァンッ!!
三刀流の重厚な一撃が、ハチの六刀の勢いを正面から完璧に受け止め、力比べで押し返し始めた。ゾロもまた、己の剣の道を証明するため、死線を越える限界の死闘へと身を投じていた。
――そして。
アーロンパークの真ん中、崩れ落ちた巨大な門の瓦礫の真上で、そのすべての戦いを見下ろす圧倒的な存在があった。
「シャハハハハ! 麦わらぁ! 貴様のような下等種族の人間が、この東の海を統べるこの俺に勝てると思っているのか!!」
魚人海賊団船長『アーロン』が、その凶悪なノコギリ状の鼻を鳴らし、巨大な大刀『キリバチ』を振り回しながらルフィに向かって突進する。
「死ねぇっ! 下等種族!!」
キリバチが空間を裂いて振り下ろされる。
ルフィはその凄まじい刃を、紙一重の見切りで首を傾けて回避した。刃が掠めた背後の石造りの建物が、縦真二つに真っ二つに叩き割れる。
「ゴムゴムの――」
回避の体勢のまま、ルフィは両腕を後方へと何メートルも引き伸ばした。
「――銃乱打(ガトリング)!!」
ドババババババババババババッ!!
無数の拳の残像が、アーロンの胸板と顔面へと叩き込まれる。アーロンの巨体が爆風のような拳圧に押され、ズズズと後方へ後退した。
(……ふむ)
その激闘のすぐ側。アーロンパークの崩れた壁の陰に背を預け、両手をポケットに突っこんだまま立ち尽くす男がいた。
参謀ルーサスだ。
ルーサスの瞳の奥では、視界全体に青く輝くホログラフィックなデータフレームが展開され、戦闘中のルフィとアーロンの生体データ、筋収縮速度、衝撃波のベクトル、そして体内のエネルギー循環がリアルタイムで解析され続けていた。
(ルフィの筋収縮データ、骨格運動エネルギー、および体内に眠る覇気の発現兆候……。解析完了。……明らかに全出力の三割程度で抑えているな)
ルーサスは小さく顎を引いて、心の中で冷静な計算を弾き出した。
ルーサスの持つ『絶対領域(データ解析・運動制御)』の眼から見れば、ルフィの体内に渦巻く潜在的な運動エネルギーは、アーロンのそれとは比べ物にならないほど巨大で、圧倒的な質量を秘めている。
本気を出して初手から全力を叩き込めば、アーロンのノコギリ鼻ごと頭部を破壊し、一瞬で戦闘を終わらせることなど容易いはずだった。
だが、ルフィはそれをしない。
アーロンが『鮫ONダーツ』で高速突進してくれば、あえてそれを限界ギリギリまで引きつけてかわし、アーロンが歯を付け替えて噛み付いてくれば、その噛み合わせの力を確認するように拳を打ち込む。
相手の持つ最大の能力と全力を極限まで引き出させ、それを受け止めた上で、自分自身も『戦闘という行為そのもの』を心から楽しむために、故意に力をセーブして遊んでいるのだ。
まるで――遠い異世界の、強者との死闘を何よりの誉れとするどこかの戦闘民族の男(ドラゴンボールの孫悟空)のように。
(まったく……参謀としてはハラハラさせられる立ち回りだな)
ルーサスは苦笑交じりに肩をすくめた。
普通ならば、仲間を傷つけ、ナミを泣かせた敵に対しては、一瞬でケリをつけるのが最も効率的で確実な戦略だ。しかし、ルフィという男の性質はそうではない。
敵がどれほど卑劣で残虐であろうと、戦場に立った以上は相手の全力を引き出し、それを正面から粉砕することでしか満たされない『絶対的な強者の本能』を持っている。
そして、その底知れぬ強さと余裕こそが、ゾロやサンジ、ウソップといった猛者たちを惹きつけ、従わせる『麦わらの一味の船長』たる最大の理由なのだと、ルーサスは深く理解していた。
(仲間たちの戦況も……順調だな)
ルーサスは視線を巡らせる。
森の方では、ウソップが知恵を絞ってチュウを翻弄し、一歩も引かずに立ち向かっている。
プールサイドでは、サンジが魚人空手の巨漢クロオビを足技の連撃で圧倒しつつある。
中庭では、ゾロが重傷の身体に鞭打ちながら、ハチの六刀流を正面から叩き潰そうとしている。
参謀としてルーサスが整えた『外海への逃げ場を塞ぐ』という完璧な盤面の上で、一味の仲間たちは誰一人としてルーサスの助けを求めず、自らの力で死線を越え、実戦経験(レベルアップ)を獲得していた。
(俺が出張るまでもない。……ただし)
ルーサスは静かにポケットの中で右手の指先を待機させた。
ルーサスの視界の隅で、ゾロの胸元の傷口から流れる血液の量が、一定の危険域に達していることを示す赤ランプが点滅している。
(ゾロの傷が開いて失血死の危険領域に達した瞬間、または予期せぬ外部からの致死的な割って入りがあった場合のみ……俺が0.01秒で介入し、物理運動を完全停止させる。それ以外は、あいつらの成長の機会を奪う真似はしない)
「シャハハハ! 楽しませてくれるじゃねぇか、麦わらァ!!」
ノコギリ鼻をギラつかせ、狂気に満ちた笑みを浮かべるアーロン。
それに対し、ルフィは麦わら帽子の庇を軽く触り、不敵で無邪気な笑みを返した。
「しししっ! お前、結構しぶといな! まだまだ面白い技持ってんだろ? 全部出せよ!」
嵐のような激闘の渦中。
力をセーブしながら強敵との戦闘を楽しむ船長と、その真意を完璧に理解し、影から完璧な盤面を維持し続ける参謀。
アーロンパークを舞台とした決戦の狂宴は、いよいよ誰も止めることのできないクライマックスへと向かって加速していくのだった――!
ご覧いただきありがとうございました!
第31話は、麦わらの一味の幹部戦(ウソップvsチュウ、サンジvsクロオビ、ゾロvsハチ)の熱い攻防と、ルフィvsアーロンの激突をお届けしました!
参謀ルーサスの解析眼によって明かされる「ルフィの力をセーブした余裕の戦い方」と、仲間たちの自力での成長!
次回第32話は、いよいよ幹部たちの決着と、アーロンパーク崩壊へと向かうルフィの咆哮を描いていきます!
※今作のルフィは「敵の全力を引き出しつつ自分も戦いを楽しむ」ために、あえて初手から全力を出さずに力をセーブするスタンス(ドラゴンボールの孫悟空スタイル)をとっています。参謀ルーサスだけがその本質を見抜いている信頼関係にもぜひご注目ください!
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