【ONE PIECE】電気(ことわり)を統べる者 〜海賊王の右腕となる雷の能力者〜   作:フォレスティアル

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第36話は、ローグタウン編の激動を告げる緊迫の対峙回。
処刑台の嵐が吹き荒れる中、海軍本部准将スモーカーと対峙する参謀ルーサス。
予測不能の環境変化を武器に、冷徹な心理戦の幕が上がります――! ぜひお楽しみください。



第36話 『処刑台の嵐と、気象を統べる参謀』

雨粒がぽつり、ぽつりと石畳の路面を叩き始めたローグタウン。

「始まりと終わりの町」の空は、かつてここで処刑された海賊王ゴールド・ロジャーの伝説をなぞるかのように、急速に鉛色の重い雷雲へと覆われていた。

 

冷たい海風が吹き抜け、街を行き交う人々の足早な影が路地に消えていく。

その中央広場、石造りの静寂に囲まれた場所に――20年前に世界のすべてを手に入れた男が最期を迎えた『処刑台』が、まるで巨大なモニュメントのように佇んでいた。

 

「ここが……ロジャーが死んだ場所か」

 

ルフィは周囲の喧騒をよそに、まっすぐに見上げるその鉄の足場へと吸い寄せられるように歩み寄っていた。その瞳には、恐怖も迷いもなく、ただ純粋な探究心と、運命の引力に引き寄せられるような光が宿っている。

 

同じ頃、街の反対側――海軍支部基地の執務室から、コートを翻した大男が静かに歩み出していた。

白煙を纏い、口には二本の葉巻をくわえた海軍本部准将・スモーカー。その鋭い眼光には、一味にかかった「3,000万ベリー」という異例の賞金首としての評価と、何よりも「海軍の未来を自ら捨てて海賊に堕ちたかつての天才児」に対する複雑な怒りと警戒の色が深く刻まれていた。

 

(手配書の裏書きにあった『アーロンパークを氷結させた異常空間』……。ふん、どうやら貴様は周囲の水分を凍てつかせる氷の能力者らしいな。だが、自然系(ロギア)を相手にするには手札が少なすぎる)

 

スモーカーの重い足取りが、処刑台のある広場へと向けて着実に進んでいく。

 

◇

 

その頃、少し離れた静かな路地裏。

参謀ルーサスは、ポケットに両手を突っ込んだまま、静かに電脳空間(VR)のセンサーを全方位へ展開していた。

 

(ローグタウン駐屯海軍の動向……よし、完全に動き出したな。標的はルフィ、そして俺だ)

 

ルーサスの視界の端では、無数のデータストリームが凄まじい速度で流れていく。

この町の気圧配置、空気中の湿度、そして急速に発達する雷雲の電位差。すべてが「これから訪れる異常気象」と、一人の男の能力の起動を示唆していた。

 

(――海軍本部准将・スモーカー。おそらく手配書の情報を鵜呑みにして、俺を『氷結系の能力者』だと踏んでいるはずだ。氷を出せば防げる、あるいは懐に潜り込めば勝負あり……そう考えているな。だが――)

 

ルーサスは冷徹に目を細め、指先をわずかに動かした。

わざわざ自分の能力の仕組みや種明かしをペラペラと語る気など、端から一切ない。

 

(お前はそもそも、俺の本質を何も分かっていない。わざわざ手の内を教えてやる義理などない――知る必要すらない、この盤面の上ではな)

 

背後の空間が、澱んだ白煙の気配とともに重く歪んだ。

 

「おい、そこのお前だ」

 

低く、有無を言わさぬ圧倒的な威圧感を伴った声が降る。

ルーサスが振り返ると、そこには濃い白煙を周囲に漂わせた大柄な男――スモーカーが、腕を組んで仁王立ちで立っていた。

 

「……海軍本部准将、スモーカーか」

ルーサスは表情一つ変えず、淡々と視線を返す。

 

スモーカーは葉巻の煙を長く吐き出し、見下ろすような鋭い眼光でルーサスをねめつけた。

「お前だな。ガープ中将が目をかけ、海軍の特例として技術を学ばせてやったあの天才児ルーサスというのは。……なぜだ? なぜその未来を自ら捨て、あんな海賊のガキの船に乗る道を選んだ? 海軍の未来を背負う椅子が、そんなに軽かったのか」

 

スモーカーの詰問に対し、ルーサスはフッと冷ややかな笑みを浮かべ、ポケットから片手を抜いた。

 

「未来の椅子(イス)など、あらかじめ決められた窮屈な枠組みにすぎない。俺が選んだのは、この退屈な世界を根底からひっくり返すための『盤面』だ」

 

「ほう……! 海軍の未来を裏切ったその傲慢さ、この俺の十手と煙で微塵に叩き潰してやろう――!!」

 

ドォン!! と周囲の空気が爆発的な白煙に包まれ、スモーカーの身体が瞬時に煙へと変化して突進してきた。

十手の先端に仕込まれた海楼石が、ルーサスの捕縛を狙って猛烈なスピードで迫る。

 

だが、ルーサスの足元を中心に、青白く輝く『絶対領域』の境界線が瞬時に展開された。

 

(来る――初動の解析完了)

 

ルーサスは一歩も引かず、両手をわずかに掲げた。

氷など出す必要はない。ルーサスの脳内処理によって周囲の温度と気圧のパラメーターが瞬時に書き換えられ、局所的な異常気圧の壁が形成される。

 

ゴーッ!! と地鳴りのような風切り音が響き渡り、作り出された凄まじい超強風が、スモーカーが放った無数の煙の分子を四方八方へと強制的に引き裂き、拡散させた。煙としての密度を維持できなくなったスモーカーは、想定外の熱風と気圧の暴力に押し戻され、思わず体勢を崩して実体に戻らざるを得ない。

 

「なっ……!? 氷の能力者ではないのか……!? 煙の我が身が、この凄まじい気流の風で引き剥がされるだと……ッ!?」

 

スモーカーが驚愕の表情を浮かべる。

自然系(ロギア)の流体化を物理環境の強制ハックによって無力化されたスモーカーは、鋭い眼光をさらに険しくさせ、低く唸った。

 

「貴様……! 一体、どんな悪魔の実の能力を隠し持っている……? いや、それだけではない。妙な空間を作り出し、気象や気流そのものを都合よく捻じ曲げている……!」

 

スモーカーは十手を構え直し、鋭く問い質す。

 

「おい、ルーサス。お前は自分のその『見えない空間の能力(チカラ)』に頼りすぎてはいないか? 海軍で鍛えられたはずの気魄(きはく)も、武力(ちから)の研鑽も忘れて、ただ安全な盤面から環境を操るだけの臆病な戦い方に成り下がったか!」

 

スモーカーの放つ強烈な覇気が、周囲の空気をピリピリと震わせる。歴戦の猛者ならではの、能力の本質や甘えを見抜くような鋭い問いかけだった。

 

だが、ルーサスはその言葉を鼻で笑い、冷徹な瞳をスモーカーへと向けた。

 

「能力に頼っている? ……フッ、笑わせるな」

 

冷ややかに言い放った瞬間、ルーサスの拳に、漆黒の硬質な輝き――武装色の覇気が鋭く纏われた。

 

「それはお前のほうだろう、スモーカー。己のロギアの能力(ちから)に胡坐をかいて、気流の乱れ一つまともに処理できんお前が、いったい誰に説教をしている?」

 

「なっ……!?」

 

スモーカーが目を見開いた次の瞬間、ルーサスの姿がかき消えた。

『絶対領域』による完全な位置・ベクトル制御で一瞬にして懐に入り込んだルーサスの武装色の覇気を纏った黒い拳が、スモーカーの虚を突いて鳩尾(みぞおち)へと叩き込まれる。

 

ガッ……!! と鈍い衝撃音が響き渡り、自然系(ロギア)で実体を持たないはずのスモーカーの肉体が、覇気の重みによって文字通り大きくのけ反った。

 

「ぐはっ……!?」

 

口からわずかに血を滲ませたスモーカーが、吹き飛ばされるように後方へと数メートル押し戻される。

 

「なにが『能力に頼りすぎている』だ。お前はそもそも、俺の何を知っている? わざわざ自分の手の内をペラペラと教えてやる義理などない――自分がその言葉を意味を今現在でくらってるのに、自分自身に逆に返ってる言葉を使ってるの、わかっているのか?」

 

ルーサスは冷徹に言い放ち、覇気を纏った拳をゆっくりと下ろした。その背後の空では、すでにルーサスの計算によって極限まで高められた電位差が、不気味な明滅を始めていた。

 

(――雷雲の電位差、最大値に到達。勝負の時は来た)

 

ルーサスは処刑台の方向を一瞥することもなく、ただ冷徹に眼前のスモーカーを圧倒するための次の一手へと意識を傾けていく――!

 




ご覧いただきありがとうございました!

第36話は、スモーカーの固定観念を揺るがすルーサスの圧倒的な戦闘センスを描きました。
手の内を明かさぬ冷徹さと、放たれた問い返し。
嵐が街を包み込む中、果たしてこの盤面の結末はどこへ向かうのか――!?

次回第37話では、処刑台での運命の瞬間と、ローグタウン脱出に向けた極限の戦術をお届けします。

※今作のルフィは「敵の全力を引き出しつつ自分も戦いを楽しむ」ために、あえて初手から全力を出さずに力をセーブするスタンス(ドラゴンボールの孫悟空スタイル)をとっています。参謀ルーサスだけがその本質を見抜いている信頼関係にもぜひご注目ください!

少しでも楽しんでいただけましたら、評価やブックマークをいただけますと大変励みになります!
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