【ONE PIECE】電気(ことわり)を統べる者 〜海賊王の右腕となる雷の能力者〜 作:フォレスティアル
第38話は、リヴァース・マウンテンの激流突破から双子岬での巨大鯨ラブーンとの出会い、ルフィが歌う『ビンクスの酒』、そしてバロックワークス(Mr.9&ビビ)との戦闘シーンまでを徹底的に描き込んだ超大ボリューム回!
原作の名場面とキャラクターの魅力を余すことなくお届けします。ぜひお楽しみください!
ローグタウンの港を背に、荒れ狂う大雨と突風の中を突き進むゴーイング・メリー号。
追撃を試みていた海軍艇は、先ほどの「神罰の落雷」と「謎の強風」が巻き起こした天変地異の爪痕によって足を完全に奪われ、すでに白波の彼方へと置き去りにされていた。
甲板の上に激しく打ち付ける雨をものともせず、ルフィは船首に飛び乗って咆哮するように高らかに笑い声を上げた。
「ししし! 逃げ切ったぞー! 見ろよみんな、すげぇ雨だ!」
「笑い事じゃないでしょ馬鹿船長ーっ!!」
ナミが濡れた橙色の髪を拭いながら、操縦桿の傍らで顔を大きく膨らませて怒鳴り散らす。
「処刑台で首を刎ねられかけるわ、海軍本部の准将に追われるわ……! ルーサスが雷を誘導して、あの強風が吹かなかったら今頃みんな捕まってたのよ!? もう少し緊張感を持ちなさいよ!!」
「あはは! でも助かったからいいじゃねぇか!」
「良くないわよ!!」
そのやり取りを横目に、サンジはハートの目を浮かべながら、メリー号の揺れをものともせずに洗練された手つきで温かい紅茶をトレーに乗せて歩み寄ってきた。
「ナミすゎ~~ん! 大変な災難でしたね! 温かい紅茶が入りましたよ♡ 雨に濡れて冷えた身体を、俺の愛で温めてください~♡」
「ありがとうサンジ、助かるわ」
ナミが紅茶を受け取ると、サンジはそのままクルリと一回転してゾロの方へと鋭い視線を向け、吐き出すように舌を打った。
「ちっ……おいマリモ。お前も呑気に刀なんて眺めてねぇで、少しは船の手伝いをしたらどうだ」
「あぁん? 誰がマリモだクソコック。俺は今、新しい相棒(トリオ)の感触を確かめてんだよ。邪魔すんじゃねぇ」
ゾロは腰に差した新たな二本の相棒――『三代鬼徹』と『雪走』の柄にそっと手を置き、不敵な笑みを浮かべて荒れる海を見つめている。
「なんだと……やる気か、ナマモノ!」
「ハッ、斬り捨てられてぇならいつでも相手になってやるぜ」
いつものように喧嘩を始める二人を余所に、船首のすぐ後ろでは参謀ルーサスが一人、静かに佇んでいた。
両手をコートのポケットに突っ込んだまま、電脳空間(VR)上の視界には、これから向かう海域の気圧、潮流、そして大気中の高密度な磁場のデータがリアルタイムで高速描画されている。
(――ローグタウンで介入してきた『あの強風』の主……。ただの自然現象ではない。局所的な気圧勾配を完全に書き換える、特異な能力者の波長だった。……世界政府の追手か、あるいは――)
ルーサスは冷徹に思考を巡らせつつも、すぐに意識を眼前へと向け直した。
過去の分析よりも、まずは目の前にある「物理的な壁」の攻略が優先される。
視界の先――水平線の彼方に、空を突くほどに巨大な赤茶色の岩肌が、不気味なシルエットとなって浮き彫りになり始めていた。
「おい……みんな、前を見ろ!! あれが……『レッドライン(赤土の大陸)』か!?」
ウソップが望遠鏡を覗き込み、膝をガクガクと震わせながら悲鳴に近い声を上げた。
雲を突き抜けるほどの圧倒的な巨大な山脈。そしてその山の中央、まるで天へと逆流するように立ち上る白波の潮流。
世界中の海が一つに集まり、運命の海へと注ぎ込む『リヴァース・マウンテン』の入口であった。
「な、なにアレ……!? 海が……山を登ってる……!?」
ナミが海図と目の前の光景を見比べ、顔を蒼白にさせる。
「嘘でしょ……!? こんな激流に突っ込んだら、船が岩肌に激突して木端微塵になっちゃうわよ! 舵が利かないわ!!」
海流は凄まじい速度で渦を巻き、山肌の狭い運河へと吸い込まれていく。操舵を一歩間違えれば、メリー号など一瞬で粉砕される狂気の海域。
海軍の知識と高い航海術を持つナミすらも一瞬気圧されるその光景の中、ルーサスは静かに一歩前へ踏み出した。
「騒ぐな。この気流と潮流のベクトルは、すでに計算済みだ」
ルーサスが静かに言い放つと、足元から青白く輝く『絶対領域』の幾何学模様が、メリー号の船体全体を包み込むように薄く広がっていった。
「ナミ、舵を右に三十度固定。ウソップ、前方の帆を絞れ。……これより、この船の受ける流体力学パラメータをハックする」
ルーサスの指先がかすかに動いた瞬間、船体を襲う猛烈な横揺れと不規則な波の衝撃が、嘘のようにピタリと収まった。
ルーサスが『絶対領域』の物理ハックによって、船底に当たる水圧と風圧のベクトルを強制的に一方向へと整流させているのだ。
「す、すごい……! 船が……暴れ馬みたいだった船が、激流の上を滑るように安定してる……!?」
ナミが驚愕の声を上げる。
「行くぞ。俺たちの『盤面』は、ここから世界へと広がる」
ルーサスの冷徹な合図とともに、ゴーイング・メリー号は激流の波に乗り、水煙を上げながら山肌の運河を一気に駆け登り始めた。
「うおおおおおおっ!! 登ってる! 海を登ってるぞーーーっ!!」
ルフィが両手を広げて大興奮の歓声を上げる。
山頂へと至る猛烈な加速の中、雨は上がり、雲の切れ間から一筋の眩い光が差し込んできた。
運河の頂点――そこからは、眼下に広がる雲海と、その先にある未知なる広大な海『偉大なる航路』が一望できた。
「よーし! 入口だ!! グランドラインだーーーっ!!」
ルフィは船首の羊の頭の上に躍り出ると、仲間たちを振り返ってニカッと大きく笑った。
「みんな! 偉大なる航路に入る前に、進水式をやろうぜ!!」
サンジが酒樽を甲板の中央へと転がし、ルフィが最初にその上に足を乗せた。
「オレは! 海賊王になる男だ!!」
続いてゾロが、不敵な笑みを浮かべて力強く足を重ねる。
「俺は、大剣豪になる」
ナミが、決意を秘めた凛とした瞳で足を乗せる。
「私は、世界地図を書く!」
ウソップが、鼻を高く掲げて照れくさそうに足を乗せる。
「お、俺は……勇敢な海の戦士になる!」
サンジが、ハートの目を引っ込めて愛おしそうにナミを見つめつつ足を乗せる。
「俺は、オールブルーを見つける」
最後に、全員の視線が、静かに佇む参謀ルーサスへと集まった。
「ルーサス、お前も来いよ!」
ルフィが満面の笑みで手を差し出す。
ルーサスは呆れたように息を吐きながらも、ポケットから手を抜き、ゆっくりと足元へと近づいた。
漆黒の武装色と、空間を統べる『絶対領域』の静かな波動を身に纏い、ルーサスは酒樽の上に静かに足を乗せた。
「――俺は、この退屈な世界の盤面を、完璧に支配する」
それぞれの野望と夢が、酒樽の上で一つに重なり合う。
次の瞬間、メリー号は山頂の激流を一気に駆け下り、白波を切り裂きながら、荒れ狂う冒険の海――『偉大なる航路』へと躍り出た!!
◇
山を下りきり、無事にグランドラインへと突入したメリー号。
しかし、安堵したのも束の間――突如として、海全体を揺るがすような恐ろしい轟音が響き渡った。
**ブオオーーーーーーーーーーーーッッッ!!!!**
「な、なんだこの声はぁあーーーっっ!?」
ウソップが耳を塞いで甲板に転がる。
目の前に現れたのは、山と見紛うばかりの漆黒の巨体。
それは、世界最大の生物――『アイランドクジラ』のラブーンであった。
頭部に無数の痛々しい傷跡を抱えた巨大なクジラが、まるで壁のようにメリー号の行く手を塞いでいる。
「うわあああ! ぶつかるーーーっっ!!」
「ルフィ、舵を切れ!!」
混乱する船上で、ルフィは正面からラブーンの巨体へと突進していき、あろうことかメリー号の主砲をラブーンの顔面へとぶつけてしまった。
ラブーンの巨大な口が開き、吸い込まれるような大渦が発生する。
「ギャあああああ! 呑み込まれるーーっ!」
メリー号はラブーンの巨大な胎内へと吸い込まれてしまった。
そこは、なぜか青空が描かれた不気味な壁紙と、胃液の海が広がる異次元のような空間。
胃液の海に浮かぶ一軒の家、そしてその前のデッキチェアに腰掛け、新聞を読んでいる一人の謎の老人――双子岬の燈台守、クロッカスが姿を現した。
「……誰だ、じじい!!」
ゾロが刀を構えて怒鳴りつける。
クロッカスはゆっくりと新聞を下げ、鋭い眼光でゾロたちを睨みつけた。
「死み人が出るぞ」
「……あぁん? 誰が死ぬって?」
「私だ」
「「「お前かいっ!!!!」」」
ゾロ、サンジ、ウソップが盛大にズッコケる。
「冗談を言うな! 撃ち殺すぞ!!」
ウソップが叫ぶと、クロッカスは淡々と返した。
「やめておけ。死ぬぞ」
「誰がだ!?」
「私だ」
「「「だからお前かいっ!!!!」」」
コントのようなやり取りが繰り広げられる中、ルーサスは冷徹な瞳でクロッカスと周囲の構造を分析していた。
(……胃の中で鉄骨の通路と排水施設。なるほど、この巨鯨の体内を改造し、内部から医療処置を行っている主治医か)
ルーサスが静かに一歩前に出ると、クロッカスもまたルーサスの纏うタダ者ではない気配を感じ取り、新聞を置いた。
「……ふむ。海軍の特例技術者として名を馳せた天才児ルーサスか。面白い船に乗っているな」
「クロッカス……と言ったな。このクジラ――ラブーンの頭部の傷、そして内壁の潰瘍。50年もの間、レッドラインの壁に頭を打ち付け続けている理由は何だ?」
ルーサスの問いに、クロッカスは一瞬驚いたように目を見開き、やがて悲しげな目を海へと向けた。
「……よく見抜いたな。そうだ。このラブーンは……50年前、ある海賊団と『必ず戻ってくる』と約束を交わし、この双子岬で待ち続けているのだ。その海賊団が『偉大なる航路』で全滅したとも知らずにな……」
その言葉に、ルフィは無言でラブーンの内壁を見つめた。
その時だった!
ラブーンの胃液の海に突如として二人の影が飛び込んできた。
怪しげな王冠を被った男「Mr.9」と、青い髪の美しい女性「ミスター・ウェンズデー(ビビ)」。
彼らは秘密犯罪会社『バロックワークス』のフロンティアエージェントであり、街の食料としてラブーンを狩ろうと大砲を撃ち込んできたのだ。
「フハハハ! 巨大クジラGETだぜ!」
「これを持ち帰れば、ウイスキーピークの食料が潤うわ!」
「ルフィ!!」
ナミが叫ぶより早く、ルフィが飛び出した。
「お前ら……ラブーンを傷つけるなァーーっっ!!」
怒りに目を燃やすルフィの戦闘が幕を開ける。
Mr.9が両手に仕込んだアクロバティックな鉄柱の銃剣を回転させ、変幻自在の跳躍攻撃でルフィへと襲いかかる。
「食らえ! 『流星錘(りゅうせいすい)』!!」
「遅い!」
ルフィは相手の動きをあえてじっくりと観察し、そのトリッキーな軌道を軽々と見切るようにヒラリと身をかわす。あえて敵の全力を引き出し、戦いのプロセスそのものを楽しむルフィのスタイルだ。
「おいおい、そんなもんか? もっとすげぇ技はないのかよ!」
「なっ……余裕ぶっこいてんじゃねぇぞ!」
Mr.9が焦りを滲ませ、さらに連続で銃撃を浴びせようとした瞬間、ルフィは一瞬で間合いを詰め、鋭い拳をMr.9の腹部に叩き込んだ。
ドガッ!! と凄まじい衝撃音が響き渡り、Mr.9は激しい勢いで壁際に吹き飛ばされる。
「Mr.9!!」
ミスター・ウェンズデー(ビビ)が叫び、クジャクの双刀(カッター)を構えて飛びかかろうとするが、ルーサスが冷徹に一瞥しただけで、その足元に青白い『絶対領域』の重力波が走った。
「動くな。これ以上の雑魚の相手に時間を割く気はない」
「っ……なんだこの圧力は……!?」ビビが冷や汗を流しながら動きを封じられる。
戦闘が収まり、ルフィたちはラブーンの体外へと脱出した。
双子岬の海岸線で、ラブーンは再び頭を壁に打ち付けようと暴れ始める。
「おいラブーン!! やめろ!!」
ルフィはラブーンの巨体の前に仁王立ちすると、怒鳴りつけるように言った。
「お前……なんでそんなに頭を打つんだ! お前は強いだろ!」
そう叫ぶと、ルフィは甲板の上に腰を下ろし、陽気な手拍子を叩きながら高らかに歌声を響かせ始めた。
「ヨホホホ! ヨッホホッホー♪」
「ヨホホホ! ヨッホホッホー♪」
ルフィの透き通るような歌声と楽しげなリズムが、双子岬の風に乗って海一面へと広がっていく。
「ビンクスの酒を〜 届けにゆくよ〜♪」
「海風 気まかせ 波まかせ〜♪」
それはかつて、この場所でラブーンと固い絆を結んだ海賊たちが、別れと再会を誓って歌い上げた伝説の海の唄。ルフィは満面の笑みを浮かべ、一番から最後まで朗々と歌い繋いでいく。
「波のさかだち 旅の空〜♪」
「夕日もめでたい 唄の波〜♪」
ラブーンはその歌声を聴いた瞬間、ピタリと動きを止め、巨大な目からボロボロと大粒の涙を流し始めた。50年間、ずっと胸の奥底に溜め込んできた孤独と悲しみが、ルフィの温かい歌声によって優しく包み込まれていく。
歌を歌い終えたルフィは、メリー号の折れたマストをラブーンの頭の傷口へと突き立て、ニカッと笑った。
「いいかラブーン! 勝負は預けだ! オレたちがグランドラインを一周して、いつかまた戻ってきたら……!!」
ルフィは拳を強く握り締め、力強く宣言した。
「**もう一回、お前と勝負するんだ!!**」
その言葉を聞いたラブーンは、嬉しそうに**ブオオーーーッ!**と天に向かって大歓声を上げ、海面を激しく叩いた。
もう二度と、無意味に頭を壁に打ち付けたりはしない。その固い誓いを立てたように、ラブーンは晴れやかな顔でルフィたちを見つめている。
海岸で見送るクロッカスから、ナミはグランドラインの航海に不可欠な『記録指針(ログポース)』を受け取った。
「これがログポース……! 磁気を記録して次の島を指し示すのね」
「ふん……この星の磁場を記憶し、共鳴させて次の島への経路を割り出すコンパスか。アナログだが、この狂った海においては理にかなっている」
ルーサスがログポースを覗き込み、冷徹にその構造を解析する。
「さあ! ログポースが指す最初の島は『ウイスキーピーク』だ!」
ナミが指をさすと、ルフィが力強く拳を突き上げた。
「よし! 出発だーーーっ!!」
ラブーンとの熱い約束を胸に、バロックワークスという謎の組織の影、そして未知の磁場が支配する海へ。
参謀ルーサスの完璧な頭脳と、仲間たちの絆を乗せて、ゴーイング・メリー号はグランドラインの荒波へと本格的に乗り出していくのだった――!
ご覧いただきありがとうございました!
第38話は、リヴァース・マウンテンの激流突破、酒樽での進水式、双子岬でのクロッカス&ラブーンとの出会い、ルフィの戦闘、そして涙を流すラブーンに向けて歌う『ビンクスの酒』と「再会の約束」までを描いた、原作の魅力が詰まった超特大ボリューム回でした!
ルーサスによるログポースの解析セリフや、ルフィの歌と約束のシーン、お楽しみいただけましたでしょうか?
次回第39話では、いよいよ最初の島「ウイスキーピーク」への到着と、歓待の裏に隠された賞金稼ぎたちの罠、そしてルーサスの冷徹な無双劇をお届けします!
※今作のルフィは「敵の全力を引き出しつつ自分も戦いを楽しむ」ために、あえて初手から全力を出さずに力をセーブするスタンス(ドラゴンボールの孫悟空スタイル)をとっています。参謀ルーサスだけがその本質を見抜いている信頼関係にもぜひご注目ください!
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