ACE COMBAT: SKIES INHERITED   作:無名のエース

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空を覆う巨影

2019年5月30日。

ユージア大陸、チョピンブルグ。

 

1 反攻の始まり

戦争が始まって十五日。

オーシア連邦軍は、開戦直後の混乱から立ち直りつつあった。

エルジア王国軍による無人航空機を用いた奇襲攻撃は、オーシア軍に甚大な損害を与えた。

しかし、オーシアは依然として世界有数の軍事大国だった。

残存戦力を再編し、補給線を確保し、反撃の準備を進める。

そして、ついに大規模な反攻作戦が開始された。

作戦名は、二方面同時攻撃。

目的はエルジア軍の防衛戦力を分散させ、戦局の主導権を奪い返すこと。

フォートグレイス島に駐留する航空部隊にも、出撃命令が下された。

「今回の作戦は、単なる敵機の迎撃ではない」

作戦説明室。

スクリーンには、ユージア大陸の地図が映し出されていた。

「我々は敵の支配する空域へ進入し、航空優勢を確保する」

説明を担当する士官が、地図上の一点を指した。

「作戦空域はチョピンブルグ周辺。エルジア軍の航空戦力が展開している」

クラウンが腕を組む。

「無人機もいるんでしょう?」

「当然だ。敵は無人航空機を主力の一つとして運用している」

「厄介ですね」

「だが、無敵ではない。諸君らはすでに実戦でそれを証明している」

士官の視線が、わずかにトリガーへ向いた。

先日の戦闘で、メイジ2は複数の敵機を撃墜していた。

初陣から間もない新人としては、異例の戦果だった。

しかし、本人に特別な様子はない。

ただ静かに、作戦地図を見つめている。

「メイジ隊とゴーレム隊は、指定空域の敵航空戦力を排除する。指揮はAWACSスカイキーパーが担当する」

士官は一呼吸置いた。

「今回の作戦が成功すれば、我が軍は反攻の足掛かりを得る。各員、健闘を祈る」

説明が終わった。

パイロットたちが立ち上がる。

「トリガー」

クラウンが声をかけた。

「今回も頼むぞ」

トリガーは頷いた。

「ただし、無茶はするな。お前の腕は確かだが、戦場じゃ何が起きるか分からない」

クラウンは少し笑った。

「それに、俺だって編隊長として格好をつけたいからな」

トリガーは、わずかに肩をすくめた。

「おいおい、そこは否定してくれよ」

クラウンの苦笑が、廊下に響いた。

 

2 山岳地帯の空

午前十時。

メイジ隊とゴーレム隊は、チョピンブルグ上空へ進入した。

眼下には、険しい山岳地帯が広がっている。

雲の影が山肌を覆い、谷間には薄い霧が漂っていた。

『こちらAWACSスカイキーパー。各機、作戦空域への進入を確認』

『ゴーレム1、了解』

『メイジ1、了解』

『敵航空戦力を排除し、航空優勢を確保せよ』

レーダーに複数の反応が現れる。

『敵機確認! 方位一二〇、距離四十!』

『ゴーレム隊、交戦開始!』

先行するゴーレム隊が加速する。

トリガーもクラウンに続いた。

前方に複数の機影。

無人機。

そして、有人戦闘機。

『メイジ2、右側の敵機を頼む!』

クラウンが指示する。

トリガーは機体を傾けた。

敵機がこちらへ向かってくる。

互いの距離が急速に縮まる。

敵がミサイルを発射した。

《MISSILE ALERT》

警告音。

トリガーは機体を横転させ、機首を下げた。

ミサイルが頭上を通過する。

そのまま敵機の下方へ潜り込む。

敵機は上昇。

トリガーは追わなかった。

代わりに、谷間へ向かって機体を降下させた。

『メイジ2、何を……?』

クラウンの声。

トリガーは山肌に沿って飛行した。

敵機が後方から追ってくる。

狭い谷。

左右には岩壁。

高度を誤れば、即座に墜落する。

だが、トリガーは速度を落とさなかった。

谷の出口が近づく。

敵機も追尾を続ける。

その瞬間。

トリガーは機首を引き上げた。

急上昇。

谷を抜け、空へ飛び出す。

敵機も追従する。

しかし、トリガーは上昇の途中で機体を反転させた。

敵機の進路を横切る。

照準が重なった。

ロックオン。

ミサイル発射。

敵機が爆散した。

『敵機撃墜!』

スカイキーパーが報告する。

『メイジ2、見事だ』

クラウンが笑った。

『お前、本当に新人か?』

トリガーは返事をしなかった。

ただ、次の敵機へ向かって機首を向けた。

 

3 空の要塞

戦闘は順調に進んでいた。

少なくとも、最初は。

『敵航空戦力、残りわずか!』

『よし、このまま押し切るぞ!』

ゴーレム隊の無線に、勝利を確信する声が混じり始めた。

その時だった。

『……待て』

スカイキーパーの声が変わった。

『新たな大型反応を探知』

『大型?』

『高度が高い……いや、何だこれは?』

レーダー画面に、巨大な反応が現れた。

一機。

だが、その規模は通常の航空機とは比較にならない。

『各機、警戒せよ!』

雲の向こうから、巨大な影が現れた。

最初に見えたのは、翼だった。

途方もなく長い翼。

続いて、巨大な胴体。

その周囲を、無数の小型機が飛んでいる。

『……嘘だろ』

誰かが呟いた。

『アーセナルバードだ!』

巨大無人航空機。

エルジア軍が運用する、空飛ぶ要塞。

その存在は知られていた。

しかし、実物を目の当たりにした者は少ない。

トリガーは機体を上昇させ、その全貌を見た。

あまりにも巨大だった。

通常の戦闘機が、虫のように見える。

『全機、アーセナルバードへの接近に注意!』

スカイキーパーが叫ぶ。

『敵は多数の無人機を展開している!』

巨大な翼の下から、小型無人機が次々と発進した。

その数は、瞬く間に増えていく。

『こんなの、どうやって相手にするんだ!?』

ゴーレム隊の一人が叫ぶ。

『落ち着け! まずは護衛機を排除しろ!』

トリガーは無人機の群れへ向かった。

一機をロックオン。

発射。

撃墜。

続けて二機目。

だが、敵は減らない。

撃墜した数を上回る無人機が、次々と投入される。

『くそっ、きりがない!』

クラウンが叫ぶ。

その直後。

『アーセナルバード、兵装使用を確認!』

巨大な機体から、ミサイルが放たれた。

無数の白い軌跡が空を埋める。

『回避しろ!』

トリガーは急旋回。

ミサイルが機体のすぐ横を通過する。

さらに別のミサイル。

トリガーはフレアを散布した。

爆発が背後で起きる。

衝撃波が機体を揺らした。

『メイジ2、大丈夫か!?』

クラウンの声。

トリガーは機体を立て直した。

計器に異常はない。

まだ飛べる。

しかし、状況は悪化する一方だった。

 

4 届かない攻撃

『アーセナルバードを攻撃する!』

ゴーレム隊の一機が叫んだ。

『待て、無理に接近するな!』

スカイキーパーの警告を振り切り、味方機が巨大な機体へ向かう。

ミサイル発射。

二発の誘導弾がアーセナルバードへ迫った。

だが――

命中しなかった。

巨大な機体の周囲に、淡い光が広がった。

次の瞬間、ミサイルが空中で爆発した。

『何だ!?』

『バリアだと!?』

『アーセナルバード、電磁防護システムを展開!』

スカイキーパーが叫ぶ。

『攻撃が通用しない!』

巨大な機体は、何事もなかったかのように飛び続けている。

『そんな馬鹿な……!』

ゴーレム隊の声が震えた。

トリガーは機体を旋回させた。

アーセナルバードを見上げる。

巨大な翼。

無数の無人機。

そして、攻撃を遮断する防護システム。

単純な空戦技術だけで倒せる相手ではない。

だが、彼は目を逸らさなかった。

敵がどれほど巨大であろうと、そこには必ず構造がある。

兵器である以上、限界がある。

弱点がある。

問題は、それを見つける時間があるかどうかだった。

『全機、アーセナルバードとの交戦を中止!』

スカイキーパーが命令した。

『作戦を変更する! 各機、撤退せよ!』

だが、戦場はすでに混乱していた。

 

5 撤退

『全機、撤退せよ!』

スカイキーパーの命令が繰り返された。

だが、アーセナルバードから発進した無人機が、撤退するオーシア軍機へ襲いかかる。

『敵機が追ってくる!』

『振り切れ!』

編隊が散開する。

トリガーは後方を確認した。

無数の小さな影。

それらが、整然とした隊形で追ってくる。

まるで鳥の群れだった。

だが、その一機一機が兵器だった。

『メイジ2、こちらへ!』

クラウンが叫ぶ。

トリガーは編隊長へ向かった。

その瞬間。

《MISSILE ALERT》

警告音。

敵機からミサイルが発射された。

トリガーは急旋回。

一発目を回避。

続いて二発目。

さらに三発目。

『くそっ、しつこい!』

クラウンが叫ぶ。

トリガーは機体を左右に振り、ミサイルを回避し続けた。

だが、敵の数が多すぎる。

一機を振り切っても、次の敵機が接近する。

『メイジ2、深追いするな! 帰投するぞ!』

クラウンの声。

トリガーは追撃を中断した。

敵機を落とすことより、生きて帰ること。

その判断は、決して敗北ではない。

むしろ、戦場では最も重要な判断だった。

『全機、最大速度で離脱!』

スカイキーパーの指示。

味方機が次々と加速する。

トリガーもアフターバーナーを点火した。

背後では、なおも敵機が追ってくる。

だが、味方の防空圏が近づくにつれ、敵機は追撃を中止した。

やがてレーダーから反応が消えていく。

『……敵機、離脱を確認』

スカイキーパーが告げた。

『各機、帰投を継続せよ』

ようやく、戦闘が終わった。

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