ACE COMBAT: SKIES INHERITED 作:無名のエース
2019年6月。
国際軌道エレベーター周辺空域。
1 救出命令
チョピンブルグでの作戦は、オーシア軍にとって苦い結果に終わった。
巨大無人航空機アーセナルバード。
その圧倒的な戦力は、オーシア軍の反攻を阻んだ。
しかし、戦争は止まらない。
新たな作戦が計画された。
目標は、国際軌道エレベーター周辺に取り残されたオーシア連邦元大統領ビンセント・ハーリングの救出。
メイジ隊とゴーレム隊にも、出撃命令が下された。
「今回の作戦は、敵航空戦力の撃破ではない」
作戦担当士官が説明する。
「最優先目標は、ハーリング元大統領の安全な救出だ」
クラウンが質問した。
「アーセナルバードは?」
「依然として作戦空域周辺に展開している」
「……厄介ですね」
「その通りだ。だが、今回は正面から交戦する必要はない」
スクリーンには、軌道エレベーター周辺の地図が映し出されている。
「救出部隊が元大統領を確保し、輸送機で脱出する。諸君らはその間、敵航空戦力を排除し、脱出経路を確保する」
トリガーは黙って画面を見つめた。
前回の戦闘で、アーセナルバードの脅威は十分に理解していた。
あの巨大な機体を撃墜することは、現状では難しい。
だが、輸送機を守ることならできる。
少なくとも、そう信じていた。
「各員、出撃準備に移れ」
説明が終わった。
クラウンがトリガーへ声をかける。
「今回も頼むぞ」
トリガーは頷いた。
「……絶対に守り抜こう」
クラウンは、真剣な表情でそう言った。
2 巨大な塔
午前十時。
メイジ隊とゴーレム隊は、軌道エレベーター周辺空域へ進入した。
眼下には、広大な海。
その先に、巨大な構造物が見えてくる。
国際軌道エレベーター。
雲を突き抜け、さらに上空へ伸びる塔。
地上から見上げれば、その頂点を確認することすら難しい。
『こちらAWACSスカイキーパー』
通信が入った。
『各機、作戦空域への進入を確認。救出部隊の支援を開始せよ』
『ゴーレム1、了解』
『メイジ1、了解』
『メイジ2、俺についてこい』
クラウンが加速する。
トリガーも続いた。
その直後。
『敵機接近!』
レーダーに複数の反応が現れた。
『敵無人機編隊、方位一五〇!』
『来たぞ!』
ゴーレム隊が散開する。
トリガーは機体を傾けた。
敵機が接近する。
一機。
二機。
三機。
無人機は、まるで獲物を囲むように隊形を広げていた。
『交戦開始!』
スカイキーパーの命令。
空に白い軌跡が走った。
3 護衛
戦闘は激しかった。
無人機は次々と接近し、オーシア軍の航空部隊を分断しようとする。
トリガーはクラウンと連携しながら、敵機を撃墜していった。
『メイジ2、右側の敵機を頼む!』
トリガーは機体を傾けた。
敵機がこちらへ向かってくる。
互いの距離が急速に縮まる。
敵がミサイルを発射した。
《MISSILE ALERT》
警告音。
トリガーは機体を横転させ、進路を変えた。
ミサイルが左側を通過する。
そのまま上昇。
敵機が追尾する。
だが、トリガーは追わせることを選んでいた。
敵機が高度を上げる。
その瞬間、クラウンが側面から接近した。
『メイジ2、いいぞ!』
ミサイル発射。
敵機撃墜。
『よし、一機!』
クラウンが叫ぶ。
トリガーは次の敵機へ向かった。
その時だった。
『救出部隊、ハーリング元大統領を確保!』
無線に歓声が上がる。
『よし!』
『あとは帰るだけだ!』
しかし、状況は簡単ではなかった。
『敵無人機が接近中!』
『輸送機を守れ!』
トリガーは進路を変えた。
輸送機の周囲には、複数の敵機が集まり始めている。
彼は最も近い一機をロックオンした。
ミサイル発射。
敵機撃墜。
続けて二機目。
機関砲で牽制。
敵機が回避する。
その隙に輸送機が高度を上げた。
『輸送機、離脱を開始!』
スカイキーパーが報告する。
『護衛機は周囲の敵機を排除せよ!』
トリガーは輸送機の右側へ回り込んだ。
大型機が、ゆっくりと軌道エレベーターから離れていく。
だが、その進路が突然変わった。
『……待て、輸送機が旋回している!』
クラウンが叫ぶ。
『何をしている!?』
輸送機は、再び軌道エレベーターへ向かっていた。
『こちら管制! 輸送機、進路を修正せよ!』
返答はない。
『ハーリング元大統領、聞こえますか!?』
沈黙。
トリガーは輸送機を追った。
その機体は、まるで何かを守るように、巨大な塔へ向かっていた。
なぜ戻るのか。
何を考えているのか。
誰にも分からなかった。
ただ一つ確かなことがある。
輸送機は、再び敵の射程へ入ろうとしていた。
『メイジ2、輸送機を援護しろ!』
クラウンの声。
トリガーは加速した。
4 ハーリングの死
敵機が接近する。
一機。
二機。
さらに三機。
トリガーは最も近い敵機へ向かった。
ロックオン。
ミサイル発射。
撃墜。
続けて別の敵機。
機関砲発射。
敵機が回避する。
トリガーは追撃した。
その時だった。
『……ミサイル!?』
スカイキーパーの声。
一発のミサイルが、輸送機へ向かって飛んでいた。
『どこからだ!?』
『分からない!』
トリガーは機首を向けた。
輸送機が見える。
ミサイルが迫る。
距離が足りない。
間に合わない。
そして――
爆発。
輸送機の後部が炎に包まれた。
『被弾! 被弾した!』
無線に悲鳴が響く。
『操縦不能!』
輸送機が傾く。
黒煙が噴き上がる。
高度が下がる。
トリガーは、その光景を見つめていた。
何もできなかった。
ただ、落下していく機体を見ていることしかできなかった。
『……ハーリング元大統領の輸送機、墜落』
スカイキーパーの声が震えた。
『生存者、確認できず』
無線が静まり返った。
その沈黙を破ったのは、誰かの叫びだった。
『今のミサイル、味方からじゃないのか!?』
『何だと!?』
『メイジ2が近くにいた!』
空気が変わった。
『メイジ2、応答しろ!』
スカイキーパーが叫ぶ。
トリガーは通信装置へ手を伸ばした。
しかし、その前にクラウンが叫んだ。
『違う! メイジ2は輸送機を守っていた!』
『だが、発射位置が……!』
『そんなはずがない!』
クラウンの声が荒くなる。
『俺は見ていた! あいつはずっと敵機と戦っていたんだ!』
無線が混乱する。
トリガーは何も言わなかった。
言葉が出なかったわけではない。
ただ、何を言っても、目の前の現実が変わるわけではなかった。
輸送機は落ちた。
ハーリングは死んだ。
そして、自分が疑われている。
それだけだった。
5 罪の烙印
数日後。
軍事法廷。
トリガーは、被告人としてそこに立っていた。
提出された証拠。
戦闘記録。
ミサイルの発射位置。
友軍識別情報。
そして、輸送機の墜落映像。
すべてが、彼に不利な状況を示していた。
クラウンは証言した。
「メイジ2は輸送機を守っていました」
だが、その言葉は決定的な証拠にはならなかった。
軍は、早急な結論を求めていた。
元大統領の死。
国民の動揺。
戦況の悪化。
誰かが責任を負わなければならなかった。
判決。
有罪。
トリガーは、正規部隊から外されることになった。
配属先は、第444航空基地。
懲罰部隊。
そこに集められるのは、軍規違反者や犯罪者たち。
危険な任務を押し付けられる、使い捨ての兵士たちだった。
トリガーは、判決を聞いていた。
何も言わなかった。
ただ、静かに前を見つめていた。
6 新たな空
第444航空基地。
荒れ果てた滑走路。
錆びた格納庫。
放置された航空機。
トリガーを乗せた輸送車が、基地へ到着した。
扉が開く。
「降りろ」
兵士に促され、トリガーは地面へ足を下ろした。
乾いた風が吹いていた。
砂埃が舞う。
遠くでは、囚人兵たちが騒いでいる。
怒鳴り声。
笑い声。
罵声。
ここには、フォートグレイス島にあったような秩序はない。
兵士が一機の戦闘機を指差した。
「お前の機体だ」
トリガーは、その機体を見上げた。
灰色の機体。
そして、尾翼に描かれた三本の赤い線。
罪人であることを示す印。
「これからは、ここで飛んでもらう」
兵士が告げる。
トリガーは、ゆっくりと機体へ歩み寄った。
翼に手を置く。
冷たい金属の感触。
フォートグレイス島で触れたものと、何も変わらない。
彼は、空を見上げた。
雲が流れている。
青い空。
その向こうには、まだ戦争が続いている。
どこへ配属されようと。
何と呼ばれようと。
飛ぶことだけは、変わらない。