エセゴンクエスト ~アバンの大奔走~   作:never learns

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第02話 知らない世界を知るために

 翌朝。

 

 アバンは、いつもより早く目を覚ました。

 

 夢ではない。

 

 昨夜の出来事は、確かに現実だった。

 

 彼は手帳を取り出し、最初の頁を開く。

 

『魔王ハドラーを倒す』

 

 その一文を見つめる。

 

「……まずは、ここからですね」

 

 未来を知ったからといって、今の自分にできることが増えたわけではない。

 

 むしろ、やるべきことが増えた。

 

 魔王を倒す。

 

 そのために、もっと強くなる。

 

 そして、未来で起きる悲劇を避けるために、世界を知る。

 

 アバンは剣を手に取った。

 

 まだ出会っていない仲間たち。

 

 まだ見ぬ弟子たち。

 

 そして、いつか自分が教えを授けることになるという少年。

 

「……ダイ、ですか」

 

 その名を口にした時、不思議な感覚が胸をよぎった。

 

 まだ顔も知らない。

 

 どんな性格なのかもわからない。

 

 それでも、預言者の話を聞いた今となっては、ただの未来の人物とは思えなかった。

 

「いつか会うことがあるのでしょうね」

 

 アバンは剣を構えた。

 

「その時までに、私も成長しておかなければ」

 

 朝の空気を切り裂くように、剣が振るわれる。

 

 その一振りは、昨日までと同じものだった。

 

 だが、アバンの目には、昨日までとは違う未来が映っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 剣を振るう音が、朝の空気に響いていた。

 

 アバンは、いつもより長く鍛錬を続けていた。

 

 魔王ハドラーを倒す。そのための力を磨くことに変わりはない。

 

 だが、今の彼にはもうひとつ、剣を振るう理由ができていた。

 

 ──自分は、いつか誰かを守ることになる。

 

 ロカ。

 

 レイラ。

 

 マトリフ。

 

 ブロキーナ。

 

 そして、まだ顔も知らない四人の弟子たち。

 

 預言者は彼らの名前を語った。けれど、アバンは彼らを知らない。どこにいるのか、どんな人物なのか、今はまだ何ひとつ確かめられない。

 

「……名前だけ知っているというのも、妙なものですね」

 

 剣を下ろし、アバンは額の汗を拭った。

 

 未来を知ったからといって、知らない人々を知ったつもりになってはいけない。

 

 預言者が語った歴史は、あくまで「自分が何もしなかった、正確にはエセ預言を無視乃至知らなかった場合」のものだ。

 

 ならば、今から出会う人々は、これから自分が知っていく人々なのだ。

 

 アバンはそう考えることにした。

 

 旅立ちの準備は、少しずつ進んでいた。

 

 装備を整え、必要な道具を揃える。魔王の居城へ向かう道筋を調べ、各地の情勢を確認する。

 

 そして、手帳──『エセ予言の書』を開く。

 

 そこには、預言者の話が書き留められている。

 

 ハドラーの復活。

 

 大魔王バーン。

 

 メガンテ。

 

 カールの守り。

 

 ヒュンケルとバルトス。

 

 バランとソアラ。

 

 どれも、今すぐに答えを出せる話ではなかった。

 

「……まずは、魔王を倒すこと」

 

 アバンは自分に言い聞かせる。

 

「その後のことは、その時に考えましょう」

 

 そう言って手帳を閉じかけた時、ふと、預言者の言葉がよみがえった。

 

 ──あなたがこの話を無視し、何もしなければ、この通りにいく可能性が極めて高い。

 

「……無視はしませんよ」

 

 アバンは小さく笑った。

 

「ただ、今の私にできることから始めるだけです」

 

 旅立ちの日。

 

 アバンは、ひとりで町を出た。

 

 まだ、共に歩く仲間はいない。

 

 ロカも、レイラも、マトリフも、ブロキーナも。

 

 彼らとの出会いは、これからだ。

 

 アバンは振り返り、町を見た。

 

「さて……」

 

 彼は前を向く。

 

「魔王ハドラー。まずは、あなたを倒しに行きましょう」

 

 その背後で、風が吹いた。

 

 誰かが見ているような気がした。

 

 しかし、振り返っても誰もいない。

 

 アバンは気のせいだと思い、歩き続けた。

 

 その時、遠く離れた場所で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 深いフードの奥から、誰かが彼の背を見送っていた。

 

「……さて。最初の一歩は踏み出したか」

 

 その声は、風に紛れて消えた。

 

 観測者は、まだ動かない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 カール王国の城下町。

 

 昼下がりの街は、いつもと変わらぬ賑わいを見せていた。

 

 アバンは町の外れにある道を歩いていた。

 

 剣の鍛錬を兼ねた散策。町の外に出るのは珍しくないが、今日は少しばかり足を延ばしていた。

 

 頭の片隅には、昨夜の出来事が残っている。

 

『エセ予言の書』

 

 未来の歴史を記した手帳。

 

 魔王ハドラーを倒すまでの道のり。そして、その先に待つ数々の悲劇。

 

「……考えすぎても仕方ありませんね」

 

 アバンは小さく呟いた。

 

 今の自分にできることは、目の前の出来事に誠実に向き合うことだ。

 

 

「きゃあああっ!」

 

 

 その時森の奥から、悲鳴が聞こえた。

 

 アバンは即座に足を止めた。

 

「……人の声!」

 

 剣に手をかけ、声のした方向へ駆け出す。

 

 木々の間を抜けた先。

 

 そこには、数体の魔物に囲まれた少女がいた。

 

 少女は身なりこそ整っているものの、泥に汚れ、恐怖に顔をこわばらせている。

 

 魔物の一体が、少女へと飛びかかった。

 

「危ない!」

 

 アバンは間に割って入った。

 

 剣を抜き、魔物の攻撃を受け流す。

 

 そのまま一閃。

 

 魔物が地面へ倒れた。

 

 残る魔物たちが、アバンへと向き直る。

 

「……さて。数が多いですね」

 

 アバンは少女を背にかばい、剣を構えた。

 

「大丈夫ですか?」

 

「は、はい……!」

 

「少しだけ、下がっていてください」

 

 魔物が一斉に襲いかかる。

 

 アバンは冷静に動いた。

 

 一体の攻撃をかわし、もう一体の足を払う。剣を返し、最後の魔物を斬り伏せる。

 

 やがて、森に静けさが戻った。

 

 アバンは剣を納め、少女へ振り返った。

 

「お怪我はありませんか?」

 

 少女はしばらく呆然としていたが、やがて何度も頷いた。

 

「は、はい……。助けてくださって、ありがとうございます」

 

「それはよかった」

 

 アバンはほっと息をついた。

 

「ですが、こんな場所にお一人で? 危険ですよ」

 

 少女は気まずそうに目を伏せた。

 

「……少し、外を歩きたくて」

 

 その言葉に、アバンは首を傾げた。

 

「お供の方はいらっしゃらないのですか?」

 

「……いません」

 

 少女は、どこか言いにくそうに答えた。

 

 アバンはそれ以上、問い詰めなかった。

 

 誰にでも、事情というものがある。

 

「では、町までお送りしましょう」

 

「えっ?」

 

「また魔物に襲われては大変ですから」

 

 少女は少し驚いた後、ほほ笑んだ。

 

「……ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 町へ戻る道すがら、少女は何度もアバンに礼を述べた。

 

「本当に、助かりました」

 

「いえ。たまたま通りかかっただけです」

 

「それでも、あなたがいなければ……」

 

 少女は言葉を途切れさせた。

 

 アバンは、彼女の表情を見て少しだけ声を和らげる。

 

「無事だったのですから、もう大丈夫ですよ」

 

 やがて、町の入口が見えてきた。

 

 そこには、少女を探していたらしい人々が待っていた。

 

「フローラ様!」

 

 その声に、アバンは足を止めた。

 

 フローラ。

 

 王女の名だった。

 

 少女──フローラは、困ったように笑った。

 

「……見つかってしまいましたね」

 

 アバンは驚き、慌てて頭を下げた。

 

「お、王女殿下でしたか! これは失礼を……!」

 

「いいえ。助けていただいたのですから、こちらこそお礼を言わなければなりません」

 

 フローラは、アバンをまっすぐに見た。

 

「あなたのお名前を、教えていただけますか?」

 

「アバンと申します」

 

「アバン……」

 

 フローラはその名を繰り返した。

 

「あなたは剣の腕が立つのですね。それに、落ち着いていて……」

 

「いえ、まだまだ未熟です」

 

「もしよければ、カール王国の騎士団に入ってみませんか?」

 

 アバンは目を見開いた。

 

「騎士団に、ですか?」

 

「はい。あなたのような方がいてくだされば、国も民も、きっと心強いでしょう」

 

 突然の誘いだった。

 

 アバンはすぐには答えられなかった。

 

 騎士団に入る。

 

 それは、これからの自分の人生を大きく変える選択になるかもしれない。

 

 預言者の話が、頭をよぎる。

 

 魔王ハドラー。

 

 カール王国。

 

 そして、いつか訪れる戦い。

 

 だが、フローラの誘いは、未来を知っているから受けるものではない。

 

 彼女は、目の前で自分を助けた青年の力を認め、国のために働いてほしいと願っている。

 

 アバンは、ゆっくりと頭を上げた。

 

「……少し、考える時間をいただけますか?」

 

 フローラは微笑んだ。

 

「もちろんです。急いで決める必要はありません」

 

 アバンは、もう一度礼をした。

 

「ありがとうございます、フローラ様」

 

 こうして、アバンはカール王国騎士団への誘いを受けることになった。

 

 まだ騎士団長ロカとは出会っていない。

 

 だが、その出会いも遠くはないだろう。

 

 そして、アバンが騎士団に入るという選択は、やがて魔王ハドラーの襲撃へとつながっていく。

 

 その未来を、アバンだけが知っていた。




しょっちゅうでるわけではありませんが、NG集も掲載してみます。所謂、編集者/二次創作者(私)と作画(AI)のやり取りです。元がどんな話だったか想像してみるのも面白いかも?




フローラとの出会いは城を抜け出してきたフローラが魔物に襲われてるところを助けた時です。アバンがカール王国騎士団に入るのはその時のフローラの誘いです。エセ予言の中にフローラの名前がなかったのはアバン的にあまり関わらないからです(魔王討伐の旅立ちから最終盤までノータッチ)



なるほど、ありがとうございます。これでフローラとの出会いと、アバンが騎士団に入る流れがはっきりしました。

私がまた、原作の順序を取り違えていました。フローラは城で正式に面会するのではなく、城を抜け出したところを魔物に襲われ、アバンに助けられる。その出来事をきっかけに、フローラがアバンをカール王国騎士団へ誘うのですね。

そして、エセ預言者がフローラの名前を挙げなかった理由も大切ですね。

預言者が語ったのは原作の歴史そのものですが、アバンの人生においてフローラは、魔王討伐の旅立ちから最終盤まで、物語の中心に関わる人物ではない。だから、あの長い説明の中で名前が出なかった。

アバンはフローラの存在を知らないまま、彼女と出会うことになります。

この設定を踏まえると、先ほどの第4話「王女との出会い」は撤回します。次は、カール王国の城下町から少し離れた場所で、魔物に襲われているフローラをアバンが助ける場面から描きます。そこからフローラの誘いを受け、アバンが騎士団に入る流れへ進めます。

また、フローラを助けた後も、アバンが彼女を特別に意識し続けるような描写にはしません。彼女との出会いはアバンの人生の一部ですが、彼の物語の主軸はあくまで、魔王ハドラーとの戦いと、その先に待つ歴史です。
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