エセゴンクエスト ~アバンの大奔走~ 作:never learns
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カール王国騎士団に加わってから、数日が過ぎた。
アバンの一日は、早朝の鍛錬から始まる。剣を振り、馬を走らせ、騎士たちと組み手を行う。魔法の修練も欠かさない。旅の途中で身につけた技術を、騎士団の規律の中で磨き直す日々だった。
「アバン殿、もう一本お願いします!」
若い騎士が木剣を構える。
「ええ、もちろんです。ただし、今度は少し攻め方を変えてみましょう」
アバンは穏やかに笑った。
打ち合いが始まる。騎士の剣は真っ直ぐで、力強い。だが、踏み込みがわずかに大きい。アバンはその隙を見逃さず、木剣を軽く弾いて相手の手から離した。
「今のは、力を込めすぎましたね。相手に読まれやすくなります」
「くっ……ありがとうございました!」
騎士が悔しそうに頭を下げる。
その様子を、少し離れた場所からロカが見ていた。
「アバン。お前、教えるのも上手いんだな」
「そうでしょうか。自分では、まだまだだと思っていますが」
「いや、あいつらの顔を見りゃ分かる。悔しがってるけど、ちゃんと納得してる」
ロカの口調は、以前より少しだけくだけていた。とはいえ、まだ騎士団長としての距離は残っている。アバンもそれを感じ取り、無理に踏み込むことはしなかった。
「騎士団長は、皆をよく見ていらっしゃいますね」
「団長だからな。……まあ、見てなきゃ務まらんさ」
ロカは肩をすくめた。
その言葉に、アバンはふと、あの旅人の話を思い出す。
ロカ。後に魔王ハドラーとの戦いに身を投じ、マァムの父となる男。そして、ハドラーを倒した後に命を落とす──はずだった人物。
だが、今目の前にいるロカは、まだその未来を知らない。
彼は騎士団長として仲間を守り、国に仕え、明日の鍛錬を考えている。未来の悲劇を知っているのは、アバンだけだ。
(この人の未来も、変えられるのだろうか)
答えは出ない。
そもそも、あの旅人が語った歴史は、どこまで確かなものなのだろう。アバンが知ったことで、すでに何かが変わり始めているのかもしれない。
「アバン?」
ロカの声に、アバンは我に返った。
「何か考え事か?」
「いえ。少し、これからのことを」
「先のことを考えるのは悪くない。だが、今やるべきことを忘れるなよ」
ロカはそう言って、木剣を肩に担いだ。
「次は俺とやるか?」
「騎士団長自らですか?」
「たまにはな。お前の腕も、もう少し見ておきたい。あと呼び捨てでいいよ。ロカって呼べ」
アバンは笑みを深め、木剣を手に取った。
「ではロカ、よろしくお願いします」
二人の剣が交わる。
ロカの剣は豪快で、迷いがない。細かな技術よりも、相手の懐へ踏み込む胆力を重んじているようだった。アバンはそれを受け流しながら、彼の剣筋を観察する。
やがて、ロカが一歩退いた。
「……なるほど。こりゃ、面白い」
「何か?」
「いや。お前、ただ強いだけじゃないな。相手の動きを見て、次を考えてる」
ロカは口元を緩めた。
「そのうち、もっと面白い勝負ができそうだ」
アバンはその言葉に、少しだけ胸が温かくなるのを感じた。
未来を知る者としてではなく、一人の騎士として認められた気がしたのだ。
その日の夕刻、鍛錬を終えたアバンは、城壁の上からカールの街を眺めていた。
人々はいつも通りに暮らしている。店先には品物が並び、子供たちの声が響き、兵士たちは交代の時刻を告げ合う。
この平穏が、やがて魔王の襲撃によって壊される。
アバンはまだ、ハドラーを倒すために旅立つと決めたわけではない。だが、あの物語を知った以上、何も知らなかった頃と同じではいられなかった。
「……歴史は、ここから始まるのですね」
呟きは、夕風に消えた。
そして遠いどこかで、まだ姿を見せぬ魔王が、静かに力を蓄えていた。
カール王国騎士団に加わってから、アバンは日々の務めをこなしていた。
城下の巡回、騎士たちとの訓練、近隣の村々から届く報告への対応。大きな事件はなく、王国は穏やかな日々を保っている。
だが、アバンの胸には、いつもあの旅人の言葉が残っていた。
(知っているからといって、何もかも先回りできるわけではありませんね)
未来を変えるには、まず現在を見極めなければならない。
アバンは騎士団の仕事を通じて、王国の地理や兵力、周辺諸国との関係を少しずつ把握していった。いずれ来る戦いに備えるため──そう自分に言い聞かせながら。
ある日の午後、城の詰め所に緊張した声が響いた。
「騎士団長! 北方の村から急報です!」
報告を受けたロカが、すぐさま立ち上がる。
「何があった?」
「村の近くに魔物が出現したとのことです。数は多くありませんが、普段見かけるものとは違う動きをしていると……」
「分かった。すぐに偵察を出す。村人の避難も手配しろ」
ロカの指示は素早かった。
アバンも立ち上がる。
「私も同行しましょう」
「頼む。現地で状況を見て、必要なら魔法で援護してくれ」
「承知しました」
騎士たちは装備を整え、城門を出た。
北方の村に着くと、村人たちは家々に身を寄せ合っていた。畑の外れには、爪でえぐられたような跡が残っている。
アバンは地面にしゃがみ、傷跡を確かめた。
「これは……」
「何か分かったか、アバン?」
ロカが傍らに立つ。
「魔物のものには違いありません。ただ、単なる空腹で村を襲ったという感じではないようです」
「どういうことだ?」
「まだ断定はできません。ですが、何かに追われてきた可能性もあります」
アバンは周囲を見渡した。
魔物の足跡は、村の外れから森へ続いている。騎士たちは慎重に森へ入り、やがて小さな魔物の群れを見つけた。
魔物たちは、騎士たちの姿を見るなり襲いかかってきた。
「来るぞ!」
ロカが剣を抜く。
アバンは呪文を唱え、前方に迫る魔物の足を凍らせた。動きを止めた相手を騎士たちが取り囲み、次々と制圧していく。
戦いは短く終わった。
だが、アバンは倒れた魔物の様子を見て、眉をひそめた。
「やはり、妙ですね」
「何がだ?」
「この魔物たち、村を襲うために集まったというより……何かから逃げていたように見えます」
ロカは森の奥へ目を向けた。
「さらに調べる必要があるな。だが、今日は村の安全を確保するのが先だ」
「そうですね」
アバンは頷いた。
帰路につく前、彼は森の奥をもう一度見た。
もちろん、今の時点で確かなことは何もない。
アバンは、胸の内に浮かんだ疑念を静かに押し込めた。
その夜、カール王国の城壁に立つ彼の耳に、遠くから風の音が届いた。
平穏は続いている。
しかし、その平穏の向こう側で、何かが確実に動き始めていた。
エセ預言者の登場は節目節目でお願いします。しょっちゅう現れたら我が事ながらウザいです(笑)。それといちいちアバンに絡ませる必要はありません。
確かに、毎回出てきて意味深なことを言われたら、預言者というより構ってちゃんですね(笑)。エセ預言者は大きな転換点に限って登場させ、アバンと会話するとも限らない形にします
……まあある意味当たってますが。申○公も相当な(ry