エセゴンクエスト ~アバンの大奔走~   作:never learns

5 / 5
第04話 騎士団の日々

 

 

 ──

 カール王国騎士団に加わってから、数日が過ぎた。

 

 アバンの一日は、早朝の鍛錬から始まる。剣を振り、馬を走らせ、騎士たちと組み手を行う。魔法の修練も欠かさない。旅の途中で身につけた技術を、騎士団の規律の中で磨き直す日々だった。

 

「アバン殿、もう一本お願いします!」

 

 若い騎士が木剣を構える。

 

「ええ、もちろんです。ただし、今度は少し攻め方を変えてみましょう」

 

 アバンは穏やかに笑った。

 

 打ち合いが始まる。騎士の剣は真っ直ぐで、力強い。だが、踏み込みがわずかに大きい。アバンはその隙を見逃さず、木剣を軽く弾いて相手の手から離した。

 

「今のは、力を込めすぎましたね。相手に読まれやすくなります」

 

「くっ……ありがとうございました!」

 

 騎士が悔しそうに頭を下げる。

 

 その様子を、少し離れた場所からロカが見ていた。

 

「アバン。お前、教えるのも上手いんだな」

 

「そうでしょうか。自分では、まだまだだと思っていますが」

 

「いや、あいつらの顔を見りゃ分かる。悔しがってるけど、ちゃんと納得してる」

 

 ロカの口調は、以前より少しだけくだけていた。とはいえ、まだ騎士団長としての距離は残っている。アバンもそれを感じ取り、無理に踏み込むことはしなかった。

 

「騎士団長は、皆をよく見ていらっしゃいますね」

 

「団長だからな。……まあ、見てなきゃ務まらんさ」

 

 ロカは肩をすくめた。

 

 その言葉に、アバンはふと、あの旅人の話を思い出す。

 

 ロカ。後に魔王ハドラーとの戦いに身を投じ、マァムの父となる男。そして、ハドラーを倒した後に命を落とす──はずだった人物。

 

 だが、今目の前にいるロカは、まだその未来を知らない。

 

 彼は騎士団長として仲間を守り、国に仕え、明日の鍛錬を考えている。未来の悲劇を知っているのは、アバンだけだ。

 

(この人の未来も、変えられるのだろうか)

 

 答えは出ない。

 

 そもそも、あの旅人が語った歴史は、どこまで確かなものなのだろう。アバンが知ったことで、すでに何かが変わり始めているのかもしれない。

 

「アバン?」

 

 ロカの声に、アバンは我に返った。

 

「何か考え事か?」

 

「いえ。少し、これからのことを」

 

「先のことを考えるのは悪くない。だが、今やるべきことを忘れるなよ」

 

 ロカはそう言って、木剣を肩に担いだ。

 

「次は俺とやるか?」

 

「騎士団長自らですか?」

 

「たまにはな。お前の腕も、もう少し見ておきたい。あと呼び捨てでいいよ。ロカって呼べ」

 

 アバンは笑みを深め、木剣を手に取った。

 

「ではロカ、よろしくお願いします」

 

 二人の剣が交わる。

 

 ロカの剣は豪快で、迷いがない。細かな技術よりも、相手の懐へ踏み込む胆力を重んじているようだった。アバンはそれを受け流しながら、彼の剣筋を観察する。

 

 やがて、ロカが一歩退いた。

 

「……なるほど。こりゃ、面白い」

 

「何か?」

 

「いや。お前、ただ強いだけじゃないな。相手の動きを見て、次を考えてる」

 

 ロカは口元を緩めた。

 

「そのうち、もっと面白い勝負ができそうだ」

 

 アバンはその言葉に、少しだけ胸が温かくなるのを感じた。

 

 未来を知る者としてではなく、一人の騎士として認められた気がしたのだ。

 

 その日の夕刻、鍛錬を終えたアバンは、城壁の上からカールの街を眺めていた。

 

 人々はいつも通りに暮らしている。店先には品物が並び、子供たちの声が響き、兵士たちは交代の時刻を告げ合う。

 

 この平穏が、やがて魔王の襲撃によって壊される。

 

 アバンはまだ、ハドラーを倒すために旅立つと決めたわけではない。だが、あの物語を知った以上、何も知らなかった頃と同じではいられなかった。

 

「……歴史は、ここから始まるのですね」

 

 呟きは、夕風に消えた。

 

 そして遠いどこかで、まだ姿を見せぬ魔王が、静かに力を蓄えていた。

 

 

 

 

 

 

 カール王国騎士団に加わってから、アバンは日々の務めをこなしていた。

 

 城下の巡回、騎士たちとの訓練、近隣の村々から届く報告への対応。大きな事件はなく、王国は穏やかな日々を保っている。

 

 だが、アバンの胸には、いつもあの旅人の言葉が残っていた。

 

 

(知っているからといって、何もかも先回りできるわけではありませんね)

 

 未来を変えるには、まず現在を見極めなければならない。

 

 アバンは騎士団の仕事を通じて、王国の地理や兵力、周辺諸国との関係を少しずつ把握していった。いずれ来る戦いに備えるため──そう自分に言い聞かせながら。

 

 ある日の午後、城の詰め所に緊張した声が響いた。

 

「騎士団長! 北方の村から急報です!」

 

 報告を受けたロカが、すぐさま立ち上がる。

 

「何があった?」

 

「村の近くに魔物が出現したとのことです。数は多くありませんが、普段見かけるものとは違う動きをしていると……」

 

「分かった。すぐに偵察を出す。村人の避難も手配しろ」

 

 ロカの指示は素早かった。

 

 アバンも立ち上がる。

 

「私も同行しましょう」

 

「頼む。現地で状況を見て、必要なら魔法で援護してくれ」

 

「承知しました」

 

 騎士たちは装備を整え、城門を出た。

 

 北方の村に着くと、村人たちは家々に身を寄せ合っていた。畑の外れには、爪でえぐられたような跡が残っている。

 

 アバンは地面にしゃがみ、傷跡を確かめた。

 

「これは……」

 

「何か分かったか、アバン?」

 

 ロカが傍らに立つ。

 

「魔物のものには違いありません。ただ、単なる空腹で村を襲ったという感じではないようです」

 

「どういうことだ?」

 

「まだ断定はできません。ですが、何かに追われてきた可能性もあります」

 

 アバンは周囲を見渡した。

 

 魔物の足跡は、村の外れから森へ続いている。騎士たちは慎重に森へ入り、やがて小さな魔物の群れを見つけた。

 

 魔物たちは、騎士たちの姿を見るなり襲いかかってきた。

 

「来るぞ!」

 

 ロカが剣を抜く。

 

 アバンは呪文を唱え、前方に迫る魔物の足を凍らせた。動きを止めた相手を騎士たちが取り囲み、次々と制圧していく。

 

 戦いは短く終わった。

 

 だが、アバンは倒れた魔物の様子を見て、眉をひそめた。

 

「やはり、妙ですね」

 

「何がだ?」

 

「この魔物たち、村を襲うために集まったというより……何かから逃げていたように見えます」

 

 ロカは森の奥へ目を向けた。

 

「さらに調べる必要があるな。だが、今日は村の安全を確保するのが先だ」

 

「そうですね」

 

 アバンは頷いた。

 

 帰路につく前、彼は森の奥をもう一度見た。

 

 もちろん、今の時点で確かなことは何もない。

 

 アバンは、胸の内に浮かんだ疑念を静かに押し込めた。

 

 その夜、カール王国の城壁に立つ彼の耳に、遠くから風の音が届いた。

 

 平穏は続いている。

 

 しかし、その平穏の向こう側で、何かが確実に動き始めていた。

 

 




エセ預言者の登場は節目節目でお願いします。しょっちゅう現れたら我が事ながらウザいです(笑)。それといちいちアバンに絡ませる必要はありません。

確かに、毎回出てきて意味深なことを言われたら、預言者というより構ってちゃんですね(笑)。エセ預言者は大きな転換点に限って登場させ、アバンと会話するとも限らない形にします



……まあある意味当たってますが。申○公も相当な(ry

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定
▲ページの一番上に飛ぶ  X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。

評価する
点
※参考:評価数の上限
評価する前に 評価する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。