友達は助けになってくれるから作っといた方がいいとよく聞くが私、
何かを教えてくれる友人がいなくとも、家事や調理は今の時代インターネットで調べれば無限かと思うぐらいでてくるし、勉学だってそうだ。友人の助けがなくとも予習復習をちゃんとこなしていればある程度の成績は取れて、つまり人間はなるようになる生き物だから。
それを知らなかった当時中学生の私は、焦るように自分を変えようと友人作りに積極的に頑張ってたりしていた。
知らなかった髪の手入れの方法を学んだり、オシャレを学んだり。 まぁ、正直これは私1人じゃどうしようもなかったから妹の助けを借りたが⋯⋯。
とにかく、それでも私は失敗した。 出来上がっているグループに話しかけるのは勇気のいるものだし、女子社会にありがちな抹茶のように苦い空気を吸うのは御免だったから。 それになにより、どうしてわざわざそんな苦しい空間に自分から入る必要があるだろうか?
その問に長いこと悩まされ、紆余曲折ありつつも私はやがて原因である
その焦りは、私の心の表れではなく周囲の人間の空気から無自覚に発せられたいわば空気であると、そう解釈を下した時から私は家族以外の人間を避けるようになった。
とは言いつつも、結局友達がいないのは寂しい。 世界にはそんな苦い空気が存在しない友人関係があるとも聞くし、もし私が私であり続けれる理想的な人が現れたとしたら私はその一歩を、未知の自分への1歩を踏み出すのかもしれない。
その程度に考えておくのが私にはちょうど良い、というのに─── 。
「ねぇやよい、そろそろ認めて私を友達にして」
彼女の距離はやたらと近く、もはや友人間でもしないような距離感で詰めてくる。 確かに踏み出してもいいかも、とは言ったが流石にこんなに積極的に来るとは思わないもので、正直困惑だらけだ。
とあるきっかけから友人関係をせがんでくるくるようになったクラスである意味人気者の少女、
「ここ、テストに出るからよく覚えておくように」
億劫な空気が教室内に蔓延し、先生の淡々とした声が響き、私は横耳に流しつつも窓の外に移る光景を遠目ながらみていた。 外は今にでも雨が降りそうなほど曇り模様で、傘をちゃんと持ってきていて良かったと私は安堵の息をこぼす。
「よし、今日はこの辺で終わりだな。 ちゃんと復習をしておくように──」
授業の終わりを告げるチャイムが鳴り、あっという間に終礼の時間が訪れた。 生徒のテンションが空っぽのグラスに水が注がれていくように上がって行く中、私も帰る準備をしていると──
「ねぇねぇ平野ちゃん、授業中ずっと寝てたけど大丈夫?」
「ん⋯問題ない」
「あ、え?ね、寝た」
「だから言ったろ?周りの人間に興味ないからお前もそうなるって」
私がちらりとそちらへ視線を向けてみると、机に伏して寝ている青髪の女の子に、その隣で落ち込む男子を慰めているもう1人の男がいた。
その青髪の少女は私でも知っているほどの有名人で、それはもう可愛いらしく、告白が耐えない有名な女子。
彼女の名前は
私が彼女に興味がないのはそうだが、原因は他にあり、そもそも彼女は人間に対して興味を示そうともしない女なのだ。 彼女に話しかけても眠そうな声で適当にあしわられるだけで、そんな彼女に寄ってくる人なんて相当な物好きか、あの男子のように彼女のことを好いている人間くらいだろう。 とは言ってもやはり美少女は美少女なので人が集まって必死に紬に話しかけようとするのはよくある光景である。
それも彼女の容姿を見れば無理はない。 華奢で小さな体に長く、青色に透き通った髪にチャームポイントのように綺麗にそびえ立つアホ毛を生やしていて、常に眠そうな青い瞳をした彼女はあまりにも現実離れしており、可愛いとしか言いようがない。
紬からの特別扱いを受けるためにみんな虎視眈々と狙っているのだろうが、私から言わせれば不可能だから諦めた方がいいと思う。
「さて、帰ろっと⋯」
無意味な思考も程々に、まだ机に突っ伏せて寝ている彼女を横目に私は教室から出ようとしたところ⋯⋯
「秋山、ちょっと手伝ってくれるか?」
「はい??」
先生に呼び止められてしまった。
「うわ雨つっよ、制服濡れそ〜⋯」
先生に呼び止められ、書類の整理を頼まれてなければこんなに降る前に帰れたというのに。 山田先生許せん。
「仕方ないか⋯⋯帰ろ帰ろ」
傘を開き、校舎から出て歩こうとすると、雨粒が地上に落ちる音に紛れた小さな声に気がついた。
「あめ⋯⋯」
振り返ってみると、降り続ける雨を眠たそうにぼんやりと眺めている紬がいた。 億劫そうに雨を見つめるその姿は綺麗としか言いようがなく、これが水も滴るいい女ならぬ雨も滴るいい女ってやつだろうか。
「傘、忘れたのかな」
紬は雨粒を拾うように、雨の量を確認するかのように手を空に差し出し、すぐに引っ込めた。 雨が想定より強くて走って帰ろうにも厳しい⋯と言った所だろうか。
「⋯⋯仕方ないなぁ」
諦めて校舎に戻って行く紬の背が心理的な意味で小さく見えてきて、可哀想になってきた私はやむを得ず紬の元へ小走りで追いつき、彼女の腕を引き止める為に掴んだ。
「ねぇ、傘使う?」
「⋯⋯」
「⋯⋯」
目を一瞬見開いた紬に傘を差し出すように腕を伸ばすが、受け取ろうともしない上に何も喋ろうともせず⋯⋯。 もしかして余計なお世話だっただろうか。
「あー⋯⋯別に私は予備あるし、使ったら?」
「⋯⋯ん、もらう、ね」
「ふふっ⋯うん」
もちろん、予備の傘があるなんて嘘だ。 私は学校に予備を置くほど先のことを考えるタイプじゃないし、何より傘盗まれそうだし。
不思議そうな顔をする紬を少し面白がりながら、私はそのまま傘を紬の手に移した。
「なに笑ってるの?」
「いや?なんでもないよ。じゃあほら、さっさと帰りなよ」
「⋯⋯ありがとう」
なんだ、ちゃんと眠そうな顔以外もできるじゃん。そんなことを本人に言えるはずもなく、私は紬から逃げるように校舎の中に入り紬が帰っていくのを見守った。