「ん〜〜!!」
今日も何事もなく授業を終え、軽く伸びをしながら数学の復習範囲だけ確認しておこうと少しだけ教科書に目をやっていると、いつの間にかクラスの人達はもういなくなっていて、私1人かと思っていたら──
「ねぇ」
「んっ⋯!?」
後ろから話しかけられ、慌てて振り向くと傘を持った紬が立っていた。どうやら昨日貸した物を律儀に返しにきたらしく、傘を手渡された。
「これ」
「あ、あぁ、傘?」
ちなみにあの後校舎で雨が止むのを待っていると先生に見つかり、傘を貸した事を話すと先生は予備の傘を私に貸してくれた。
「傘、ありがとう」
「どういたしまして。 別に返さなくても良かったのに」
「んーん、返す」
「はいはい。 じゃあ用事あるから私は帰るね?」
「うん、ありがとう。また月曜日」
「んん⋯?うん、また月曜日」
その言葉の意味を深く考えず、渡された傘を受け取り一足早く教室から出た。 話しかけられるとは思ってなくてびっくりしたけど、紬は案外そこら辺はきっちりしている性格らしい。
生徒が全員帰っていてよかった、こんな所を見られると変な勘違いをされそうだったし。
まぁもう話すこともないだろう。 雨雲はすっかり過ぎ去り晴れた天気の中、私はのんびり歩いて家まで帰った。
「ただいま〜」
「あ、おかえり」
家に帰ると、私の声に反応するようにもうひとつの声が奥から響き、少しすると声の主がチラりと姿を現した。
「遅かったねお姉ちゃん、今日こそお友達は作れた?」
「明莉がいるからいいの。 ていうかいつも通りの時間に帰ったと思うけど⋯?」
「そ、それはそうだけど⋯⋯とにかく私が遅いって言ったら遅いの!今日もお友達が作れなかったお姉ちゃんにアイスがあるけど食べる?」
「食べる!!」
私の妹、秋山明莉あきやま あかりがアイスを口に咥えながら私を玄関まで迎えに来てくれた。 中学三年生になる明莉は反抗期に入っているのかたまに棘しか含んでない言葉が口から飛び出てくるが可愛くて本当は優しくていい妹だ。
「あごめんこのアイスお姉ちゃんのだった」
「はい??」
前言撤回、悪魔のような妹だ。
「じゃあそれちょうだいよ」
「⋯はっ!?あ、あげるわけないじゃん気持ち悪い!」
「なんで⋯??」
ナチュラル暴言を吐きながら私のアイスまで食べようと食い意地を張るとは中々やるじゃないの我が妹よ⋯⋯そのアイス私のお気に入りだから食べたかったんだけど。
「私が食べたのをお姉ちゃんが⋯⋯お、おねえちゃんが食べたいなら──」
「まぁいいや、じゃあ今度ちゃんとしたの買ってきてよ?」
「⋯⋯絶対無理お姉ちゃんになんて買わない!!」
「えぇ⋯」
怒って自分の部屋に飛び込んで行ってしまった。 私の唇を何故かやたらと見ていた気がするが、何かとんでもないイタズラでも考えてたんじゃ⋯?考えるだけでも身震いがする、これ以上はやめておこう。
私も明莉に続くように家の中に入り、ゴロゴロして漫画を読んだり動画を見たりして幸せな時間を満喫していると、いつの間にか外も暗くなり始め、もうご飯を作る時間になっていた。
「ん、ご飯作るか〜〜」
私は1階に降り台所に立ち、今日の夜ご飯を適当に考えてから調理を始めた。
「明莉、ご飯できたよー?」
「はーい」
ご飯を作り終え、明莉を食卓へ呼んだ。 両親は基本深夜に帰ってくるため滅多に家族揃って食べることはなく、いつも私がご飯をつくり、そのご飯を明莉と二人で食べる。
「あ、そうだ。 この後コンビニ行くけどなんかいる?」
「んー、まかせる!なんかいいの買ってきて」
「んな乱暴な⋯⋯」
時々くるポテチ食べたい欲がご飯を作ってる最中に発症してしまい、それはもう猛烈にポテチの口になったので買いに行くことにした。
ポテチって、なんかたまに急に食べたくならない?
「じゃ、行ってくるねー」
「はーい、行ってらっしゃい」
ご飯を食べ終え、食器を洗い終えたあとすぐにコンビニに向かうことにし、玄関まで出迎えてくれる妹にそう言い私は外へ出た。
「さて、と。明莉は⋯これでいいよね」
コンビニにつき、お菓子コーナーからポテチをみつけて2つ手に取る。 明莉は私と好みが似ているし同じポテチを買えば間違いない。 ポテトのうすしお味を2つ買い、会計を済ましたあと人気のなくなった夜道を一人で歩くと、夜風が吹く。
「さむ⋯!」
もう冬も近いのか少し肌寒く、こんなラフな格好じゃなくてもっと着込んだら良かったと後悔しながら早歩きで電柱の明かりに導かれるままに歩いた。
「⋯ん?」
公園を通って家に帰ろうとすると、ブランコに小さい人影が見えた気がして足を止めた。 こんな時間にブランコで遊ぶ人なんて不審者の可能性があるのだが、やけにその姿が見覚えのある人な気がして、ブランコに近づいてその正体をじーっとよく観察すると──
「⋯⋯なにしてんの?」
「ん」
そこにいたのはもう話すことはないと思っていた人、平野紬が一人お腹を擦りながらちんまりとブランコを漕いで座っていた。
「あ、やよい」
「私の名前覚えてたんだ?」
なぜこんな暗い中一人でブランコを漕いでいたのか気になってしまい、隣のブランコに腰を下ろす。 紬もいやではなかったらしく、そのまま口を開いた。
「うん、友達の名前は、覚える」
「⋯⋯友達??」
私が聞き返すと、紬は頭をこくりと小さく縦に動かす。 こんなに間近で紬を見たのは初めてだが、噂通り可愛らしくてつい頭を撫でたくなってしまうが抑える。 なんというか紬は妹属性が強いのかもしれない。
「えっと、私達って友達なの?」
「うん、違うの?」
「えぇ⋯?違うけど」
「むっ⋯」
夜一人でブランコにいるのも意味わかんないのに、さらに畳み掛けるようになぜか私を友達認定を下しているのが理解できずにいると、 「ぐぅうぅ〜〜〜」と紬のお腹から可愛らしい音がこの場に鳴る。
「お腹空いた⋯⋯」
「えと、家に帰ったら?」
「帰りたいけど、お腹がすいて動けない」
「そんなどこかのヒーローみたいな」
仕方なく先程購入したポテチの袋を開けて、1つ取り出してからそれをイタズラっぽく紬の口にちょんっと当てた。
「ほら」
「⋯!いい、の?」
「うん、さすがに私もお腹空かした平野さんを置いていくほど鬼じゃないし」
「ありがとう、やっぱりやよいは優しい」
「そ、そう⋯?」
サクッと音がなり、私の手先に摘んでいるポテチを食べる。 確かにこれは小動物にしか見えない、ハムスターのような。
「⋯自分で取って食べていいよ?」
「んーん、このまま」
「そんないいことあるかなこれ⋯」
ポテチをまた1つ取り出して紬の手に乗せようとしたが、拒否するように私の腕を掴んでそのまま食べる。
「えっと⋯⋯」
「おいしい」
私には友達とか知り合いとかいないから知らないんだけど、これが普通の距離感というやつなのか⋯いや、絶対そんなわけはない、はず。
次のポテチはまだかと視線で訴える紬を前に、私は為す術なくそのまま食べさせてあげることに⋯⋯。