「やよい、あーーん?」
私は今、とんでもない窮地に立たされている。 やる側だった時はただ口に運び、それを見届けるだけだったからまだ行けたけど、それをやらされる側になると話は別だ、恥ずかしすぎる。
「ほらやよい、口開けないと食べれないよ」
「⋯いや、私はいいよ。抹茶苦手だし⋯」
いらないと両手を振り拒否するのだが、全然諦める様子もなく、これ以上手を振ってるとパフェが服につきかねないぐらい近くまでくる。
「んーん、美味しいから、食べて?」
「紬が美味しいと思ってるだけでしょ⋯!?」
「そんなことないから、食べて」
「わかった、わかったから急に顔を近づけないの!」
ちっちゃい体で限界と言わんばかりに体を震わしながらも、私の口にパフェを運ぼうとしてくる紬に結局折れて、大人しく今回は食べてあげることに。
「わかった。 じゃあ、あーーん」
「あ、あー⋯⋯ん」
目を閉じ、口を小さく開けて紬が食べさせるのを待っていると、口内にスプーンが入り、中身の抹茶を回収し、離れると同時に紬を見る。 無表情そうに見えるがどこか雰囲気は楽しそうにしていて、感想を聞きたいのかウズウズしているように見えた。
「どう?美味しいでしょ」
「⋯⋯甘い」
「やよい、味覚がおかしい?」
「そんなわけないし。 ほら、早く食べなよ」
私は苦味が苦手で覚悟して食べたのに、紬に食べさせてもらった抹茶パフェは、今まで食べてきた甘味よりずっと甘くて、 不思議だった。
「紬って誰にでもこういうことするの?」
「こういうこと?」
「食べさせあいだよ。 やっぱり人との距離感が紬はおかしいよ?」
「そう、かな」
「そうだよ」
「⋯⋯⋯」
「⋯?」
少し、言いすぎてしまっただろうか? 珍しく何かを考えるように俯いてしまって、よく紬の感情が見れず、少し不安な気持ちを抱く。
「あ、その⋯言い過ぎだったらごめん」
「んーん、嬉しい」
「嬉しい⋯??」
「わたしのこと、嫌々ながらちゃんと見てくれてるんだね」
「そ、それは⋯!」
だってそれは、友達だから。
あんだけ独り言で友達云々言っていた手前、この言葉を口に出すことに躊躇いを覚えてしまい、言えなかった。 正直、私はもう既に紬を友達として見ている。
だけど、過去の自分が諦めた道をもう一度突き進んで良いのだろうか? あんなに頑張って失敗したのだから、今回ももし上手くいかなかったら。
「ふふ、わかってる。 やよい以外にはこんなことするわけない、同性だったとしても」
「な、なに?私のこと動物とかと思ってるわけ?」
「んーん、やよいは私の特別。 私が初めて学校で話した人で、私が初めて遊びに誘った人で──私の初めての友達」
「っ⋯⋯」
私のことを真っ直ぐ見つめて素直に自分の気持ちを聞かせてくれた紬は、心做しか頬が染まっていた気がした。
「友達、ねぇ⋯⋯」
「うん、そろそろやよいも私を友達にして」
「⋯気がついてたんだ」
「うん、やよいは友達作りに積極的じゃないよね」
「それを言うなら紬もでしょ?」
出会って数日の人にここまで心を揺さぶられるとは思ってなかった。 紬といると不思議と諦めた道をもう一度進んで紬と仲良くしてみたいとそう思ってしまう。
やたらと距離が近い紬、やたらと甘えてくる紬、やたら可愛い紬。 その全てを知ってしまって、紬と一緒に過ごした2日間ですっかり私の大事な部分まで紬という存在は浸透してきているらしい。
たった2日でこうなるだなんて、私もちょろいけど──
「なんか紬って、妹って感じするな」
「んーん、私はお姉さん」
「私にポテチだけじゃなくてパフェも食べさせてもらっておいて?」
「ぐっ⋯!」
私が笑いながら言い返すと紬は何も言えなくなり、変な声だけ出してパフェの方に集中してしまった。
「私、紬と一緒にいるの楽しいな」
「⋯ん、わたしも。 じゃあ──」
「うん───ねぇ紬、私と友達になってくれない?」
「⋯⋯もちろん、なろう」
少し恥ずかしいけど、きっとこれも思い出のひとつになるだろう。 きっと私はその道を紬と一緒に色んなことを通して歩き続け、もし離れ離れになってもその記憶は残り続け、歩みは残る。
「じゃあやよい、たべさせて」
「え、それはいや」
「むっ⋯食べさせて」
「絶対いやです」
「むむむ⋯」
数日前の私は思いもしなかっただろう。 甘えん坊の友人ができて、さらにそれがクラスの人気者、平野紬だなんて。
「⋯やよいが食べさせないなら私が食べさせる」
「ほら紬、早く口開けて?あーん?」
「ふふん。 あーーむ⋯⋯」
それだけは絶対御免。
「⋯⋯美味しい?」
「うん。 やよいが食べさせてくれるものは進化を遂げて私の元にやってくる」
「なにを言ってるのかよくわかんないんけど⋯?」
「やよい、スマホ出して」
「えなに急に⋯⋯?あちょっと」
スマホを出すと、紬は勝手に私のスマホを盗んで連絡を登録していた。
「やよいの初めて、いただき」
「そんな変な言い方しなくても⋯ていうか、初めては妹と交換してますしー!」
「むっ⋯⋯でも、やよいが友達と交換したのは初めて」
「それはそうだけど⋯⋯」
家族しかいないメッセージアプリに、平野紬という名前のユーザーが登録されていた。
「安心して、私の初めてもやよい」
「はいはい、光栄ですー」
「うん、これからよろしくね、やよい」
「⋯⋯よろしく」
私の初めての友人は少し⋯⋯いや、かなり変だが優しくて、一緒にいると楽しくて、でもどこか強引な、そんな初めての友達が今日できた。