TS転生者は原作を見守りたい   作:一般通過アクアパッツァ

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 ガルパンの二次創作が少ないと思ったので書きました。最近もっとらぶらぶ作戦ですを見てガルパン熱が戻ったのでちょっとあやふやなところがあるとは思いますがよろしくお願いします。


原作見守り作戦です

 ガールズ&パンツァー、私の大好きな作品だ。

 

 戦車道というその世界独特の文化、個性的な学校、魅力的な登場人物たち。そして、それぞれの学校が抱える事情や、戦車道を通じて築かれる人間関係。

 

 何度見返したか分からない。

 

 そんな作品の世界に荒井海(あらいうみ)という名前の女の子として転生したと気づいたとき、私は心の底から喜んだ。

 

 しかし、同時に一つの問題があった。

 

 私には、転生特典があったのだ。

 

 戦車道に関する才能。

 

 それも、とんでもないレベルの才能である。

 

 操縦、射撃、戦術眼。戦車道に必要な能力のほとんどが、生まれつき異常な水準にあった。

 

 そして、私が生まれた家は、荒井家。

 

 原作では登場していないがこの世界でかつて戦車道の名家として知られた家系だった。

 

 西住流や島田流ほどの規模ではないものの、多くの優秀な選手を輩出していた。

 

 もっとも、だったと言ったことが示すように現在は没落している。

 

 昔の栄光は見る影もなく、残されたのはわずかな資産だけ。

 

 そんな家に生まれた私は、当然のように戦車道を期待された。

 

 そして、当然のように拒否した。

 

 理由は単純。これが私にとっての一つの問題だった。

 

 私のような人間が戦車道をやってしまっては原作が崩れてしまうかもしれないということだ。

 

 大洗女子学園が廃校の危機に立ち向かうことも、西住みほが大洗にやってくることも、黒森峰との決戦も、大学選抜チームとの戦いも、またその後の戦いも、まあ、まだ完結していなので途中までだが知っている。

 

 それらを全部、自分のせいで変えてしまうのは嫌だった。

 

 私は物語の登場人物になりたいわけではない。ただ、その世界で生きながら、好きな物語を見守りたいのだ。

 

 だから戦車道はやらない。

 

 そう決めていた。中学に入学するまでは。

 

 

 ————

 

 

「海、戦車道をやりなさい」

 

「嫌です」

 

「やりなさい」

 

「嫌ですってば」

 

 荒井家の食卓。

 

 母との押し問答は、すでに何度目か分からない。

 

「あなた、自分が何の家に生まれたのか分かっているの?」

 

「分かってるよ。没落した戦車道の家でしょ」

 

「海!」

 

「だって事実じゃない」

 

 母が顔をしかめる。

 

 少し言い過ぎたかもしれない。けれど、こちらにも事情がある。

 

「荒井家にはまだ残せるものがあるの。あなたには才能もある。だから……」

 

「私は普通に学生生活を送りたいんだけど」

 

「お願い」

 

 母は懇願するように言った。

 

 私は困った。

 

 荒井家が苦しいことは知っている。

 

 父も母も、家をどうにか立て直そうと努力している。

 

 そのために私の才能を利用したいという気持ちも理解できる。

 

 何より、ここで完全に拒絶するのは私としても心苦しかった。

 

「分かったよ……」

 

 私は中学の間だけなら原作も関係ないし、いいだろうと思いそう言うと母は嬉しそうに笑った。

 

 ————

 

 そして、それから三年後。

 

 私は戦車道をやるものなら知らないものはいないと言われるほどの全国区の知名度を持つ中学生戦車道選手になっていた。

 

 どうしてこうなった。いや、本当に。

 

 中学生までなら原作には関係ない。

 

 そう考えていたから、特に才能を隠す必要もないと思っていた。その結果がこれである。

 

 流石にチートを持っている私でも団体競技ということもあり、全国大会での優勝まではいけなかったものの三年連続準優勝まで導き。個人としても注目され、各地の強豪校から名前を覚えられるようになった。

 

 まあ、荒井家にとっては喜ばしいことなのだろう。私も家の役に立てたこと自体は嬉しかった。

 

 ただ、高校ではもう戦車道をやるつもりはなかった。

 

 今度こそ、普通の学生生活を送る。

 

 そう決めていた。

 

 ————

 

「黒森峰女学園から特待生の推薦が届いたのよ」

 

 高校受験を控えたある日、母が書類を見せてきた。

 

「こちらは聖グロリアーナ女学院。ほかにもサンダースなどいくつか有名校から声がかかっているの」

 

「そうなんだ」

 

「そうなんだ、ではないのよ。どこも名門。しかも特待生なの」

 

 母の表情は明るかった。

 

 無理もない。

 

 没落した荒井家にとって、これは大きなチャンスだ。

 

 全国区の選手を輩出したという実績は、家の名を取り戻すための足掛かりになる。

 

「それで、海はどこに行きたい?」

 

「アンツィオ」

 

「…………何?」

 

 母は私の言ったことを音では聞こえていても理解できていないようだった。

 

「アンツィオ高校」

 

 私はそう繰り返し言うと母の顔から笑みが消えた。

 

「待ちなさい。黒森峰やグロリアーナではなく、アンツィオなの?」

 

「うん」

 

「なぜ!」

 

 予想どおりの反応だった。

 

 私はあらかじめ考えておいた言葉を口にする。

 

「黒森峰には西住流があるでしょ。グロリアーナにも独自の伝統と人脈がある」

 

「それがどうしたというの」

 

「私がそこに入っても、荒井家は結局その後ろに立つだけだよ」

 

「…………」

 

「荒井家を立て直すなら、自分たちで基盤を作れる場所のほうがいいと思う」

 

 母は黙り込んだ。これは嘘ではない。少なくとも、完全な嘘ではなかった。

 

 名門校に入れば、私は優秀な選手として扱われるだろう。

 

 しかし、その学校にはすでに確立された流派や人脈がある。

 

 荒井家が独自の立場を取り戻すには、むしろ何もない場所のほうが都合がいい。

 

「アンツィオなら、荒井家の戦術や技術を持ち込む余地があると思う」

 

「だけど、アンツィオは弱小校よ」

 

「だからこそだよ」

 

 そして、これが本音である。

 

 弱小校なら、原作に影響を与えずに済むはず

 

 アンツィオは好きな学校だ。

 

 アンチョビたちの雰囲気も好きだし、OVAで描かれた学校生活も楽しそうだった。

 

 勝利だけを追い求める学校ではない。

 

 あの雰囲気なら、私も気楽に過ごせるだろう。

 

 戦車道も適当に参加しておけばいい。

 

 中学時代の実績があるから特待生として迎えてもらえる。

 

 家にも利益がある。

 

 私も楽しく過ごせる。

 

 まさに一石二鳥だ。

 

 母は長く息を吐いた。

 

「分かったわ。あなたの考えに賛成するわ」

 

「ありがとう」

 

 ————

 

 それから何日も経って春になった。

 

 アンツィオ高校から特待生としての入学許可が届いた。

 

 私は書類を眺めながら、満足げに頷いた。

 

 原作には介入しない。

 

 大洗が廃校の危機に直面しても、私は遠くから見守る。

 

 みほが大洗に転校しても、余計なことはしない。

 

 黒森峰も、プラウダも、サンダースも、知っているとおりの物語を歩んでもらう。

 

 私は観客席に座っているだけでいい。

 

「ふふっ」

 

 思わず笑みがこぼれた。

 

 アンツィオ高校。

 

 楽しい学校生活が待っているはずだ。

 

 そして、いつか大洗と試合をする機会があれば、原作どおりの展開を楽しめばいい。

 

 そう。

 

 私は何もしない。

 

 絶対に何もしない。

 

 このときの私は、本気でそう思っていた。

 

 ただし、一つだけ誤算があった。

 

 私はまだ、この現実となった世界でアンツィオの先輩たちに会ったことがなかったのだ。

 

 彼女たちがどれほど魅力的で、どれほど一生懸命に戦車道を楽しんでいるのか。

 

 そして、そんな彼女たちが負けると分かっている試合に挑むとき、自分がどう思うのか。

 

 原作を守りたい。その気持ちは本物だが。けれど、それ以上に大切なものができてしまったら? 

 

 そのとき、私はどうするのだろう。

 

 ──まだ、この時点では分からない。

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