不死教会の鐘を鳴らし終えた俺はアンドレイが武器を鍛える音が聞こえる篝火に戻ってきていた。
休息していると正面に見える城の所に人が座っている。門は固く閉ざされ入ることは不可能だ。
俺は声をかけようと近づいた。
男は玉葱のような兜を被り、男の身長以上ありそうな大剣を背負っていた。
「よう、こんな所で何してるんだ?」
「ああ、実はこの城に入りたいのだが門が開かなくてな。それでここに座って開くのを待っているんだ」
「そ、そうか」
何と気が長い奴なんだ。俺なら我慢出来ずに入る方法を探すだろう。
「私はカタリナのジークマイヤー。修行のためこの地に来た」
「修行か。随分と大きい剣を背負ってるな」
俺はこの剣に見覚えがあった。前に旅していた国で知り合いが同じような剣を使っていた。名前は確か…ツヴァイヘンダー。片手で扱うことなど到底不可能なほど大きく、重い。
「こいつは私がカタリナに居た時からの相棒だよ」
ガッハッハッハ、と彼は豪快に笑った。俺もそれにつられて笑ってしまう。
「そうか。俺は行くところがある。また何処かで会おう。」
「ああ、達者でな」
俺はふと思った。笑うのはいつ以来だろうか…と。
「ギャン!」
「はぁはぁ…」
俺は不死街に戻ってきていた。牛頭のデーモンを倒し橋に出た時、反対側の扉は開かなかった。そこで教会前で拾った鍵を使ってみるとすんなりと開いたのだ。
階段を下り、長い梯子を滑り降りた先には亡者化した2匹の犬が歓迎してくれた。
犬どもを倒した俺は燃えている死体の山が放つ悪臭に鼻をつまみ、街道を進んでいく。
上には前に通った不死街が見えるから、ここは不死街下層、といったところか。
静まり返った街並みに俺の足音だけが響く。ここに住んでいた人々はもう死んでしまったのだろうか、と考えながら歩いている俺の頬をナイフが掠めた。
「何だ!?」
振り返った俺が見たのは三人の男。出で立ちからして盗賊の類だろう。
更に前から、バン!と立て続けに音がした。
向き直ると家から三人の盗賊が姿を現した。
こいつら家に隠れてやがったのか!
俺は挟み撃ちになり、絶望的な状況だ。前に3人、後ろに3人。
6対1。
死んだ。
勝てるはずがない。凄腕の傭兵か、高位の騎士でなければこれを突破するのは不可能だ。
ああ、ここで死ぬのか。俺も。
こいつらに殺されるならいっそ――首を掻っ切ろうとシミタ―に手をかけたその時、後ろにいた3人の盗賊が燃え上がった。
俺が驚いていると、女の叫ぶ声が聞こえた。
「前だ!」
俺が振り返ると盗賊の1人が短刀片手に襲い掛かってきた。俺は慌てて盾で攻撃を防ぐ。
危ないところだった。あの声が無かったら俺は短刀に刺されていただろう。
しかし、そうはいっても状況が不利であることに変わりはない。後ろの二人もこっちに向かって走ってくる。
あと2,3歩で攻撃範囲というところで俺の周囲にいくつもの火柱が噴き上がり、盗賊を焼いていく。
敵が全員灰になり動かなくなったところで、女は俺に話しかけてきた。
黒金糸のスカートにローブを着た女がそこに立っていた。顔は深く被ったフードに隠れて見えない。背は俺と同じくらいか。女にしては高い方だ。
「大丈夫か? 危なそうだったから助けたんだが…余計な世話だったか?」
「いや、そんなことはない。あんたの助けがなければ今頃奴らへの仲間入りを果たしていたところだ」
「ふっ、そうか。ならよかった。私はクラーナ。よろしく頼む」
「ああ、よろしくな」
「こんなところで立ち話するのは危険だ。さっさと目的を達成して帰るぞ」
「目的?」
「不死街の商人が言っていたんだが最近この辺では山羊頭のデーモンが棲みついたらしい。私の目的はそいつを倒すことだ」
「邪魔でなければ俺も手伝おう」
「それは悪いだろう」
「いや、助けて貰った礼だ。あんたは文字通り命の恩人だからな」
「そういうことなら、手伝ってくれ。さあ、倒しに行くぞ――と言いたいところだがそうもいかないようだな」
「ああ」
俺達は目の前で吠える2匹の亡者犬に狙いを定めた。
涎を垂らしながら一頭が牙を剥き俺に襲い掛かる。あれで噛みつかれればただの怪我では済まないだろう。
だが喰らわなければ問題ない。
俺は横に躱し、がら空きになった犬の背後から攻撃する。相手は断末魔の悲鳴をあげ倒れた。
クラーナは右手から火を出し、さっきの盗賊と同じように犬を丸焦げにした。
ここで俺は気になっていた事を訊く。
「あんたのそれは呪術なのか?」
「何だお前。知っているのか」
「ああ、前に見せてもらったことがある。あれは『発火』か?」
「いや、厳密に言えば違う。その辺の説明は後回しだ。盛大に歓迎してくれるようだからな」
前を見ると、そこには犬2匹と鉈を両手に持った山羊頭のデーモンが立っていた。
「私がデーモンを引き付ける。その間にお前は犬を始末しろ」
「了解」
二人でデーモンがいる空間へと突っ込む。中は意外に狭くここで不利な状況だ。外におびき出しても大して変わらないのだが。
俺が犬をおびき寄せようとすると即座にデーモンが反応する。一見丸腰のクラーナより剣を持つ俺の方が危険と判断したのだろう。だがそれは間違いだ。
火球がデーモンに炸裂する。それによりデーモンも判断ミスに気付いたのか狙いを彼女に変更したようだ。狙い通り。
俺は左にある階段を昇り犬を誘い出す。狭いために2匹同時の攻撃は不可能だ。
1匹目が噛みついてくるが盾で受け切った。わずかにひるんだ隙を見逃さず脳天に刀身を叩き込む。
それにより絶命した仲間の屍を踏み越え2匹目が襲い掛かってくる。落ち着いて盾受けし、連撃を加える。
犬が2匹とも死んでいる――まあ元々死んでいるのだが、動かなくなったのを確認した俺はデーモンの振り回す鉈を上手く回避するクラーナの加勢に入った。
デーモンの背中を斬る。1度ではなく2度、3度と。
全て注意が彼女に向いていて、俺を忘れていたのだろう。予想外の一撃にデーモンは少し混乱したようだった。その隙にクラーナが火球をデーモンに投げつける。それがとどめとなったのか、デーモンは
倒れ、そして動かなくなった。
俺が死体を漁っていると、鍵を見つけた。どこの鍵だろうかと考えていると
「おい、倒したのならもう行くぞ。長居は無用だ」
「まるで盗賊の台詞だな」
「お前焼くぞ」
「すまなかった」
あれに燃やされたら骨も残らないんじゃないか。
部屋を出て左にある階段を下ろうとした時、クラーナが不意に立ち止まった。
「おい、何か声が聞こえないか」
「声?」
「ああ、少し静かにしてろ」
耳を澄ますと微かに声が聞こえてくる。亡者や獣の唸り声ではなく人の声だ。
「でも何処からだ?」
「こっちからだ」
クラーナについていき、死体の山が燃え盛っている辺りまで戻ってきた。変わらない悪臭に俺とクラーナは鼻をつまみながら声が聞こえてくる民家を探す。
「誰か! 誰か開けてくれ!」
すると一軒の民家から助けを求める声が聞こえてきた。
しかし扉には鍵がかかっているようで、万能鍵を試してみるが開かない。
「これなら開くか?」
クラーナが持っている鍵を使うと扉はすんなりと開いた。
「ありがとう、助かったよ。閉じ込められていて困っていたんだ。私はヴィンハイムのグリックス。学院の魔術師だ」
ヴィンハイム。魔術師を志す者ならだれでも知っている国だろう。
魔術の国と呼ばれ、中でも竜の学院は有名だ。魔術師だけでなく、戦士や騎士も魔術を学ぼうと大勢やってくるのだ。一度ヴィンハイムを訪れた時に魔術を学ぼうと思ったが、どうやら俺には向いていなかったらしくソウルの矢一発すら撃てなかった。
「これで旅を続けられる。君達には感謝しているよ」
「そうか」
後で祭祀場に行く、というグリックスを残し、俺たちはデーモンがいた部屋の左にある階段を下っていた。しかし、そこには盗賊が1人待ち構えていた。
「さて、どう料理してやろうか」
そう言った彼女は不敵に笑った。
「さて、一度祭祀場に戻るか」
盗賊を一瞬で丸焼きにしたクラーナは言った。あの後角にもう一人隠れていた時は焦ったが。
「しかし、この鍵はどこの鍵だ?」
「そんなものは後で調べればいい。私は眠いんだ。ここの所一睡もしていないからな」
「はいはい」
しかし、祭祀場に戻るにはここからでは遠いな、と俺が歩く距離の長さにため息をついていると、
「祭祀場に行くには恐らくここからが近道だ」
そういってクラーナは左に見える塔に入っていった。
「こっちで合ってるのか?」
「知らん。ただ方角的にはこっちだ」
分からないのかよ。迷ったらどうするんだ。
「心配するな。私についてこい」
あんな適当な理由を聞かされて心配するなというのが無理な話だ、と俺はクラーナの後から階段を上っていき、途中こっちを狙って弦を引き絞っている半裸の亡者を粗末な作りをした足場から蹴り落とした。
クラーナの勘は当たっていたようで、水道橋を歩きしばらくすると見覚えのある祭祀場の景色が俺を出迎えてくれた。クラーナは「どうだ。私の言った通りだろう」と胸を張っていたがそこは適当におだてておいた。
途中商人に出会ったが特に買いたいものもなかったので俺は素通りしようとしたが、
「これから行く土地は毒に侵される。苔を買っておけ」
とクラーナに言われたので一応買っておいた。というかこれから毒に侵されるのか。行きたくないな。
懐かしい祭祀場に着いた俺たちは変わらず座り続けている戦士に話しかけられた。不死の使命がどうのこうのと言っていた奴だ。
「さっき鐘の音が聞こえたが、鳴らしたのはあんたか?」
「ああ」
「大したもんだ。その調子で病み村にある鐘も鳴らしてくれよ」
「努力するよ」
「さて、寝床を探すか」
大きい欠伸をしてクラーナが祭祀場をうろつく。寝床に適した場所を探しているのだろう。やがて、気に入った場所が見つかったのかそこにごろんと寝転んだ。
空を見ると辺りはもう薄暗く、篝火の炎がやけに明るく見えた。