9月から10月にかけて、陸のタイムラインは泥臭い選考会への挑戦と、容赦のない不合格の通知だけで埋め尽くされていった。
三葉の監督が用意してくれた推薦状を手に、陸はいくつかのJユースや有力街クラブの一般セレクションに片っ端から志願した。しかし、温室を飛び出した外のスカウトたちの目は、三葉の身内よりも遥かに冷徹だった。
Jユースの一般公募セレクションという場所の実情を、当時の陸はまだ理解していなかった。そこは、何何百人もの受験生の中から、各クラブが毎年わずか「0名から、多くて2名」を選ぶかどうかの、針の穴を通すような狭き門だった。
そして、選考ブースのテントの下で、クリップボードに挟まれた書類を見つめながら、Jクラブのスカウトチーフたちは冷徹に数字を弾き出していた。
「三葉から上がってきたデータを見たが、神原は完全に数字が停滞しているな。小6の時点で169センチ、50m6秒4は確かに同世代でトップクラスの数値だったが、そこから中3までの3年間で身長は6センチしか伸びておらず、特にこの1年は1センチしか変化がない。これは小学生の段階で最初の成長期のピークを迎えている。典型的な『早熟型』の推移だ」
隣に座るユースの監督も書類のグラフに目を落としながら同意する。
「ああ。他の中学生が今まさに二次性徴を迎えて、スピードや体格を伸ばしている時期に、神原の成長曲線は完全に停滞期に入ってしまっている。周囲の成長スピードに、相対的に追い抜かれてしまっているんだ。三葉の総監督が推薦状で『配球力、コーチングの質』を絶賛しているのは分かる。だが、そういう『組織の中で立ち回れる戦術眼のある中盤』は、うちのジュニアユースから上がってくる生え抜き組で最初から枠が埋まっている。セレクションという外部の枠を使ってまで獲得したいのは、ここから先のユースの3年間でさらに化ける可能性を感じさせる『圧倒的な伸び代』を持った選手か、チームにない一芸に特化した存在だ。すでにフィジカルのアドバンテージが消え、球際を嫌ってパスに逃げる悪癖が見える神原を、わざわざ外部から引っ張ってくる理由はないな」
ボールを持つと、陸は自ら激しい肉弾戦から逃げる様にパスを出し、声を張り上げて周囲の味方を動かした。
10月下旬。
自宅ポストには、折れ曲がった白い封筒が何通も積み上がっていた。
『厳正なる選考の結果、誠に残念ながら――』
時候の挨拶の後に続く、記号のような不合格の文面。
部屋の学習机に突っ伏した陸は、その紙切れを握りしめたまま、じっと天井を見つめていた。実力の世界は、自分の想像よりも遥かに残酷で、圧倒的なスピードで自分を置き去りにしていく。