それと、原作に比べて真夜は達也の前限定でかなりキャラ崩壊しますのでご注意下さい。
あと、真夜の前では少し人間っぽくなるお兄様概念です。
魔法。
それが伝説や
確認できる最初の記録は西暦1999年のものだ。当初は、超能力の一種と目されていたが当時存在していたアメリカ合衆国とロシア連邦がそれぞれ主導した研究の過程で、「超能力」は「魔法」という存在である事が発覚した。
この「魔法」は超能力と異なり、共有・普及が可能な技術であるとされた一方…才能という名の高い適正や熟練度が必須であった。
「魔法」を有する者たちの中に存在するのは、徹底した才能主義と残酷なまでの実力主義であった。
ゆえに、この「魔法」に関わる人間の世界には「平等」など存在しない。それはたとえ、血を分けた兄妹であってもーー
□□□□□
西暦2095年3月1日山梨県某所。
ここは、山梨県と言いながらも長野県との県境にほど近い場所である。それゆえ、場所によっては山梨県とも長野県とも言える。山梨県の山奥にに存在するこの場所は、日本の魔法師コミュニティの中でも屈指の実力者と目される「四葉家」の有する研究所の一つである。
そんな山奥の研究所で来客を出迎えたのは、30代前半と思わせる異性を惹き付ける妖しい美貌を備えながらも、どこか幼女のようなあどけなさが同居したアンバランスな美女であった。
「叔母上自ら出迎える必要はないかと思いますが……。」
「あら、ここは四葉家でも僅かな人しか知らない場所なのだし…ここを知る人間はたーくんと私の関係を知ってる人だけじゃなくって?」
「いや、そうですが…。」
四葉真夜。
日本の私設魔法師コミュニティである二十八家の代表である「十師族」に列せられる四葉家の現当主にして、来客者 司波達也という男の血縁上の母にあたる女性である。
真夜は達也を施設に招き入れると、我が子との交流を楽しんでいた。
「叔母上、いい加減その"たーくん"という呼び方を止めて頂けませんか?俺もそろそろ16歳です。いくら、人目がないからって…。」
「あら、我が子を愛称で呼ぶのは母として当たり前よ?なんだったら、たっちゃんも"ママ"って呼んでくれても良いのよ?」
「はぁ…"母上"、俺を何歳だと思っているんですか。」
「ふふっ、息子は何歳になっても可愛いものよ?それに、息子は母親からしたら可愛い年下の彼氏みたいなものだって聞くわ。」
「……迷信ではありませんか?」
「そうかしら?」
相変わらず、真夜は達也のことを溺愛している。それもそのはずだ。
四葉真夜という女性は12歳の頃に、かつて中国大陸に存在した大漢という国家の崑崙方院に誘拐された上に強姦された上に人体実験を強制された事で生殖能力を喪失。辛うじて、初潮の直後に保存しておいた卵子を元に人工授精・代理出産をすることで息子一人を得る事ができた。しかし、彼女は女性としての幸福を奪われたどこか、享受できたかもしれない母親としての幸せも奪われてしまったのだ。そう、実の姉に。
四葉真夜と司波達也の目の前に寝かされている女性こそがその人だ。名を司波深夜。戸籍上は既に故人とされており、四葉家内部でもそのように扱われているが、その実は四葉家の技術によってコールドスリープ状態にあり、植物人間ながら生かされ続けているというのが実態であった。
彼女は四葉真夜の実姉にして、司波達也の叔母かつ産みの親・育ての親である。彼女は、自ら産んだ司波達也を再三に渡る妹 四葉真夜からの引き取り要請を拒んで引き離したーー少なくとも、四葉真夜はそう感じている。
そして、四葉真夜にとっては、自分の12歳以前の記憶を奪ったという事からも実の姉を恨んでいる。だから、彼女が衰弱死する寸前にコールドスリープで植物人間のまま生かし、彼女の衰弱状態を回復できる技術が確立されるまで生かし続ける事にしたのだ。
「それにしても、母上。研究を初めて未だ1年とは言え…1ミリも進展が見られない研究のために母さんを生かすのは金をドブに捨てる行為では?」
「あら、無駄じゃないわ。だって、たーくんが本来の力を取り戻せば姉さんを生き返らせる事ができるもの。」
「後天性魔法演算領域の手術ですか。確かに、できるかもしれませんが…母上は母さんを憎んでいたのでは?幼い記憶と母としての幸せを奪った憎き姉として。」
「勿論、姉さんのことは嫌いよ。でも、私を殺して奪っておいて…勝手に死ぬなんて許せない。姉さんには私の復讐を見届ける義務がある。だから、いくら積もうと姉さんは生かし続けるわ。」
「ーーたとえ、植物人間状態でもですか?」
「えぇ、植物人間のままだとしてもね。」
「相変わらず、母上は愛憎の反転が激しい御方のようだ。」
「嬉しい、ママを褒めてくれるのね?」
達也は心底溜息を吐いた。
この女性にとっては、皮肉も批判も…自分の口から述べた言葉であれば自分に都合の良い言葉と脳内変換されてしまうのかと。
何を言っても無駄なのだと悟った達也は、ささっと用事を済ませようと話を切り出した。
「……それで、母さんをまた"再生"で元に戻せば良いんですね?」
「えぇ、そろそろ姉さんが衰弱死するタイミングだろうし、お願いできるかしら?」
「母上…母さんが衰弱死する寸前で復活させ、それを1ヶ月置きに繰り返させるというのは、些か非人道的では?」
「あら、四葉家がたーくんにしてきた仕打ちに比べたらマシよ。」
「…そうでしょうか?」
達也は真夜の答えに小首を傾げながら、疑問符を浮かべる。真夜のやっていることも達也が四葉家にされた過去も、世間一般的な感性を持った人間であれば青ざめて非道だと叫ぶに違いないが、そんな事を突っ込む人間はこの場に居ないので達也の「再生」が完了すると同時に有耶無耶になったのであった。
達也の「再生」を間近で見せられた真夜は恍惚とした表情で達也の右手を眺めながら、ゆっくりと口を開く。
「……相変わらず、惚れ惚れするような魔法ね。姉さんや冬歌さんでも封じられなかった魔法…。カッコいいわ、たーくん。」
「そうでしょうか?」
「そうよ、たーくん!本当なら、たーくんは凄い魔法師なんだから…。あの誤算さえなければーー」
「ーーああ、後天性魔法演算領域の手術ですね。」
「そうよ!たーくんは唯一、人工魔法演算領域の手術で四葉家の人間が持つ先天性の魔法演算領域に勝るとも劣らない人工魔法演算領域ーー後天性魔法演算領域を獲得した人間なんだから!」
「確か、人工魔法演算領域の手術において魔法師の適正に十分な人工魔法演算領域を得られなかった人間の人工魔法演算領域を"仮想魔法演算領域"と呼称し、魔法師の適正に十分な人工魔法演算領域を有する人間の人工魔法演算領域を"後天性魔法演算領域"と呼称しているんでしたっけ?」
「そうよ!そして、たーくんは人工魔法演算領域の手術で唯一"後天性魔法演算領域"を獲得した中で唯一の成功事例の人間なんだから!それも、"後天性魔法演算領域"における魔法演算領域だけで十三使徒を凌駕するレベルの。たーくん以外の手術事例では、精々C級レベルが限度なところを、ね?」
「まぁ、母さんたちにその"後天性魔法演算領域"の9割近くを封印されているので、余り実感はありませんね。今の自分は、所詮並以下の魔法しか使えない"欠陥品"と何ら変わらないのですから。」
「そこが、問題なのよ!本当は、たーくんの"分解"だけを封印するはずだったのに……」
「思惑とは裏腹に、封印"してしまった"のは俺の情動におけるほぼ全てと母さんが深雪以外に向ける事が出来たはずの愛情という感情を犠牲にして与えた"後天性魔法演算領域"の9割近く。そして、深雪を使ってもう一度封印しようとして、辛うじて"分解"のうちマテリアル・バーストの発動だけを制限した。でしたよね?」
「そうよ…。本当はね、たーくんの封印が二回失敗した時点で、私は深雪さんの"制限"だけ遺して冬歌さんの施した封印は戻そうって言ったのよ?」
「でも、姉さんが許さなかったの。姉さんが英作伯父様亡き後に当時の分家当主全員と結託してたーくんを深雪さんのガーディアンにした方が四葉のためだって言って、私からたーくんを奪ったの…。」
「まぁ、いつ爆発するか分からない核兵器を懐に置いておきたいなんて、一般的な感性であれば嫌なのでしょうね。」
達也はよよよと嘘泣きをする真夜の頭を撫でながら、少しズレた答えを言う。
達也が頭を撫でてくれた事に気を許したのか、真夜は猫なで声で話を続ける。
「ホントはね、人工魔法演算領域の手術が成功した時に、英作伯父様がたーくんの持つ"後天性魔法演算領域"の潜在能力は私や深雪さんを凌駕するものなんだって分かって嬉しかったの。これで、たーくんに居場所を作れるんだって。」
「私は女としての幸せは得られなかったけど、母としての幸せは得られるんだって。後は、分家の皆さんが忌避していた"分解"の魔法さえ封印してしまえば、誰がなんと言おうと四葉家次期当主に相応しい私の自慢の息子になるんだって……」
「……結果こそ、母上の望むものにはならなかったかもしれません。ですが、俺は母上がそう思って下さるだけで十分です。それに、俺には"家族愛"という感情がまだ残っているのですから。」
「…うん。もし、たっちゃんに残された感情が"家族愛"じゃなく"兄妹愛"とかだったら、私はたーくんに捨てられちゃう側だったかもね。」
「……それは、否定できません。」
「もー!ちょっとは否定してよ!」
真夜がプクッと頬を膨らませながら、達也の胸元に顔をグリグリと押し付けて抗議の意を示す。
真夜の愛らしい行動に目元を緩ませながら、達也は真夜の耳元に唇を近付けーー囁く。
「……"叔母上"、そろそろ俺を呼んだ理由を教えて下さいませんか?」
「…あら、なんのことかしら?」
「叔母上、俺を誰だと思っているんですか?」
達也が耳元で囁いた言葉に、真夜は目を逸らしながら惚ける。しかし、そんな真夜に言い逃れはさせまいと、達也は淡々と言葉を重ねる。
「母さんに"再生"を使うには、まだ余裕があったはずだ。母さんが表向きに死んで以来、ここに来るのは毎月の月末だった。だが、時間的余裕があるにも関わらず、理由なく月の初めにここへ呼び出すというのは、余りにも不自然だ。そして、今の今まで人一人見かけないのは余りにも不自然だ。人払いをしているにしても。」
「……特に深い意味はないのよ?」
「……"視て"いれば、ここに叔母上と俺以外に誰もいないのは分かっています。深い意味がないなどという嘘を吐いても誤魔化せませんよ。
「……ここは一度、腹を割って話して下さりませんか?そうですね…たとえば、叔母上が感じている"憎しみ"とは何か。なんて話とかどうでしょうか。」
「……。」
「貴方の目には、いつも怒りがあった。俺はそれが何に対する怒りなのかは知らないし、知っていても俺に向けられているものではなかったので気にしなかった。ここに居るのは、貴女と俺だけだ。教えて頂けませんか?」
達也の言葉に真夜はすっと表情を消して、距離をとった。達也と視線を合わせて、逃す気はないのだと悟ると、真夜は徐に口を開いた。
「……聞かない方が幸せな事だってあるのよ?」
「そうかも知れませんね。ですが、そもそも今回に限っては叔母上から仕掛けた事ではありませんか?」
「…まぁ、否定しないわ。ちょっと、杜撰過ぎたかしら?」
真夜は達也を前に余りにも見え透いたことをしてしまったと思い、苦笑しながら達也の言葉を肯定した。
そんな真夜に対して、相変わらず達也は無表情で真夜の様子を窺っていた。
「本当はもう少し先に話すつもりだったのだけれど…仕方ないわね。それで、聞きたいことは"私の抱える憎しみ"だったかしら?」
「……はい。」
「ねぇ、"達也さん"。貴方が生まれた時、叔父様や貢さんは失望し、そして恐怖した事を知っているかしら?」
「……初耳です。いや、貢さんたち分家の当主の方々が俺を嫌悪しているというのは何となく知っていましたが。」
「……そう。それで、その時の私は貴方を見てどう思ったと思う?」
「私は嬉しかったわ。歓喜のあまり、踊り出しそうになったほどにね。歓声を抑えるのに、必死だったわ。だって、貴方の魔法は私の望みを叶えるものだったものだから。」
真夜は当時のことを思い出して、溢れんばかりの笑顔を見せた。もちろん、その笑顔は狂気に満ち溢れた笑顔だが。
真夜の狂気的な笑みに、達也は眉毛をピクりと反応させながらもそれ以上の反応は見せずに、真夜へ抱いた疑問を抑揚のない声で尋ねた。
「俺の魔法が叔母上の望みを叶えるもの?」
「えぇ、そうよ達也。貴方がもって生まれた"分解"という魔法はあらゆる物質を元素レベルに、あらゆる質量をエネルギーに分解することができる。」
「……つまり、地球を死の星に変える事だってできるの。」
真夜は目を閉じ、胸に両手をあてて祈るように、懺悔するように語り出した。
今、この場に達也以外の人間が居れば、真夜の神秘的とも思える表情に心を奪われたに違いない。それはきっと、真夜の狂気的な一面を知ったとしても。
「私の望みはこの世界に報復することよ。私から、過去と未来、女としてのささやかな幸せを奪ったこの残酷で理不尽な世界に。」
達也の母 真夜の望みとは世界への復讐。
その原点となるのは、今から33年前のこと。
2062年台北にて、国際魔法協会アジア支部主催の少年少女魔法師交流会が開かれた。会はつつがなく進み、うら若き少年少女たちは各国の魔法師技術を伝え教え合っていた。全ては当初の予定通り終わると思われていた。
しかし、突如として当時存在していた大漢の人間に日本側の出席者が誘拐された。その人物こそ、四葉真夜である。共に居た、恋人かつ婚約者の七草弘一は四葉真夜を救うために決死の戦闘に挑むも敗北。右手足の裂傷と骨折、右眼の喪失という大怪我を負った。
一件の3日後、真夜は大漢の魔法師開発機関である崑崙方院の泉州研究所から救出される。救出された真夜は強姦と人体実験の後が生々しく、真夜の父でさえ思わず目を逸らしたくなるような有様であった。
真夜を拐った「大漢」とは、第三次世界大戦こと世界群発戦争が勃発して間もなく後に大亜連合と名を変える当時の中国と呼ばれる国から独立した現 大亜連合の南半分を領土として建てられた国であった。
四葉家は姉 深夜に対して精神構造干渉魔法で真夜の経験した凄惨な経験をそれ以前の12年間の記憶を「経験」から「知識」へと変えた。当時の精神構造干渉魔法では、これしか救う手立てがなく。
真夜はこの時のことを、姉にこう語ったという。
『陵辱された記憶に私が殺される前に、姉さんが私を殺してくれたのね?私は昨日までの自分を姉さんに殺されたのね。』
その言葉を境に、姉妹の仲は破綻した。
真夜は恋人かつ婚約者の弘一と関係を解消し、深夜は己を罰するかのように過剰な魔法行使を繰り返して20歳になる前には入退院を繰り返す療養生活を余儀なくされた。
娘を陵辱され、壊す結果となった当時の当主 四葉元造は怒り狂い大漢への報復を計画。
事件から1年後には、四葉家の一族60名余りを率いて大漢の崑崙方院を含めた大漢の主要研究施設を尽く破壊し、虐殺した。
この結果、四葉家は当主 四葉元造を含めた30名の犠牲と引き替えに、大漢の政治家、官僚、魔法師のほぼ全てを含めた4万人以上の人間を一方的に虐殺した。
こうして、大漢の魔法研究と政治機構を担う人間を徹底的に破壊した事で、大漢は一件より1ヶ月で内部崩壊を起こし、1年後には大亜連合と名を変えた中国に再統合されたのである。その後、大亜連合と大漢の争いが収束したことにより、第三次世界大戦は集結。
後に、大漢崩壊と呼ばれたこの事件の真相を知る者たちの間で、四葉は「
真夜は達也に大漢崩壊の真相と姉との確執を抑揚のない声で語ると、告白した。
「達也、貴方をこの世に生み出したのは私の願望。貴方を世界の破壊者にし得る存在にしたのは、私の祈りよ。」
「貴方を肉体的に産んだのは姉さんかもしれない。けれど、貴方の魔法を作り上げたのはこの私。だから、貴方は血縁的にも魔法師としても私の願いを唯一叶える息子なの。」
「……叔母上は、母さんーー四葉深夜と違って精神干渉系魔法を使えないはずでは?」
「えぇ、そうね。」
真夜の告白に達也は物怖じせずに淡々と、疑問を告げる。そんな達也の言葉に待ってましたと言わんばかりに、真夜は立ち上がって狂喜乱舞したかのように両手を天に掲げて、言葉を続ける。
「だからこそ、奇跡なのよ。私の強い願いが、魔法という世界の理を覆したの。双子だったからできたのかもしれないわね。姉さんの甥に対する
「姉さんはそれを知っていながら、自分の腹が、自分の魔法が私に乗っ取られるのを感じながら達也を身籠もり、産んだのかもしれないわね。」
「私は姉さんに全てを奪われ、姉さんもまた私に全てを奪われたの。酷い姉妹よね。」
「それでも、姉さんは貴方を愛そうとしたし、愛し続けた。人工魔法演算領域の手術だって、その一環よ?」
「……それが、あの残酷な実験の真相なんですね。確かに、あの実験で俺は貴女や深雪に匹敵する魔法演算領域を獲得した。だが、その代わりに強い情動を持てなくなりました。」
だから、失敗ではないか。そう、達也は付け加えようとしたが、達也が言葉を紡ぐよりも早く、真夜は達也の言葉に反応した。
「あの実験の真の目的はね、貴方が感情を暴走させて"分解"を使用させないようにするためのものだったのよ。」
「……俺の感情を抑え込む事が目的だったのですか。」
だから、ある意味であの実験は成功だった。達也は続く言葉を心の内に留めて、繰り返した。
相変わらず、頬を赤らめながら語る真夜に達也は眉一つ動かさずに目線を固定していた。
そして、断定口調で真夜の発言に返答するも、達也に告げられたのは意外な事実であった。
「本当はね、貴方の感情を全て消すつもりだったの。でも、姉さんは私の目を掻い潜って貴方に感情を遺したーー」
「ーーそれが、"家族愛"ですか。」
「えぇ、そうよ。こればかりは、姉さん本人の口から聞かないと分からないことなのだけれど。私はね、姉さんが私たち姉妹のようにならないようにと達也が"家族"だって認識できた人へ向ける愛は残そうとしたんじゃないかしら?私たち姉妹のようにさせまいと。」
「そうして、姉さんの"寿命"と達也の"情動"を犠牲にして、貴方は人工魔法演算領域を与えられたの。」
「待って下さい、母さんが犠牲にしたのは自らの"寿命"ではなく"感情"だったのでは?母さんが、去年倒れたのは魔法過剰行使による衰弱だったはずだ。」
「……あら、何か誤解しているようだけれど、姉さんは貴方へ向ける感情など失っていないわ。姉さんが犠牲にしたのは"寿命"とも言える自らの精神。」
「どんな気持ちだったのでしょうね?達也のためを思ってやった事が空回りして何一つ思い通りに行かないどころか、逆に貴方を出来損ないの"欠陥品"にしてしまった。そして、自らの娘に、自らお腹を痛めて産んだ息子に等しい甥に無関心で居るように洗脳しながら、自身もそう道化を演じ続ける日々。誰にも悟られないように、自分は感情を失った人間であると道化を演じ続けながら衰弱する身体に蝕まれる気分は。」
「……それが、母さんへの復讐ですか。」
「ふふっ、さぁどうかしら?」
真夜は狂ったような笑いと共に、姉が隠してきた過去を暴露し、自らの復讐の一端を告白した。自分の告白を終えると、一気に興味がなくなったかのように、虚空を眺めながら真夜は呟いた。
「本当はね、どうでも良いのよ。」
「……?」
「貴方が世界を滅ぼそうが、滅ぼさまいがね。貴方がこの世に居るだけで、私の復讐心は満たされるもの。」
「世界を滅ぼせば、私の復讐心は満たされる。世界を滅ぼさなくても、世界を滅ぼせる力に世界は恐怖し、その理不尽なまでの暴力に怯え続けなければならないの。貴方が生き続ける限りね。」
「だから、私はどう転んでも無様に怯え続ける世界を嘲笑うことができる。貴方が表舞台に現れれば、彼らは否応なしに理不尽に晒され、貴方の顔色を窺って従わなければならない。」
「そうなれば、きっと…私は世界から受けた仕打ちを忘れることができる。なんて素敵なことなのかしら。なんて、素敵な私の息子!」
「"母上"…貴女は狂っている。」
堰を切ったように、真夜は再び狂気の笑みを浮かべて達也に語り掛けた。両手を天に広げ、祈るように。全てを告白した彼女は、どこか自暴自棄になっているように感じられた。
そんなどこか自暴自棄になって興奮する真夜の顔をジッと見つめた達也は、興奮する彼女に達也は一言告げた。だが、その後に達也が続けた言葉は意外なものであった。
「……だが、貴方と同じ罪を僅かだとしても、分かっていながら重ねる俺もまた…中々に狂っているのだろう。傍から見れば。」
達也が真夜に見せた共感する素振りに、真夜は意表を突かれたように達也の目に視線を合わせた。
達也はそんな真夜に視線を合わせながら、抑揚のない声で淡々と告げる。
「……貴女たち姉妹は、可哀想な人達だ。そして、母上を理解しようとする者など誰も居ないのだろう。齢12歳で人間の悪意に穢され、陵辱の限りを尽くされ、最期は殺されてしまった貴女を癒せる人間もまた誰一人居ないのだろう。」
「愛する人に拒絶され、自傷行為をするように魔法の過剰行使を繰り返して現実から目を背けた母さんと誰からも理解されず、一人空虚な孤独に苛まれながら、世界への憎悪を募らせる母上を本当の意味で寄り添い、支えてやれる人などこの世に存在しないのだろう。」
「だが、だからと言ってやり直す事などできない。30年以上前に時を戻す術など、ありはしないのだから。」
達也の突き放したような言葉に真夜は目を曇らせ、感情を消して達也を見つめる。彼が、次に紡ぐ言葉を待って。
無表情で自分を見つめる真夜と相変わらず視線を合わせて、達也は一息ついたところで再び口を開いた。
「……それでも、世界の生殺与奪を握る俺を自由にさせることで、貴女の心が満たされるならばそうすれば良い。母上が申す通り、本当に俺が母さんの"魔法演算領域のオーバーヒート"を治療する方法があるのならばーー深雪の親が居ない寂しさを紛らわすことができるのならば、俺は喜んで母上と同じ罪を被ろう、この世の理を捻じ曲げた罪人として。非人道的な自己中心的罪人として。」
「……だからこれは、"共犯"だ。俺と母上は"死"という世界の理を捻じ曲げて、己の欲を満たそうとする異端者であり、世界の真理に抗う咎人という意味での"共犯者"。」
「最も、貴方に比べれば俺の犯した罪など可愛いものなのだろうが。少なくとも、俺はそう考えている。」
達也は凛とした表情で真夜の肩を掴み、声量は穏やかに力強い声でそう宣言した。
そんな達也の顔を直視した真夜は、喜怒哀楽の感情がグチャグチャになったような歪んだ顔で達也を見つめていた。
ーーこの子は復讐を成し遂げてくれる。十二歳で死んでしまった『四葉真夜』の仇を取ってくれる。
ーーこの子は『共犯者』と私を肯定してくれた。今まで、誰からも理解されなかった私を…この子は、この子だけは理解しようとしてくれる。
ーーあぁ、なんて素敵な子なのかしら。
喜怒哀楽がグチャグチャになった真夜は、忙しなく顔を変えたかと思うと、何かを悟ったかのように口をパクパクと開けて、顔を真っ赤に染めて勢いよく達也に抱きついた。
「〜~~〜~~~〜~~♡♡♡ッ!!」
「たーくん!たーくん!もう、いっそ、たーけんの
「……母上、俺がマザーコンプレックスの極地というレッテルを貼られて社会的に死ぬので止めて下さい。」
何を思ったのか、急に達也へ甘えだした真夜に困惑しながらも、達也は真夜の暴走を冷静に対処した。
だが、真夜には余り効果がなかったようだ。真夜は達也の首元に抱きついて、猫なで声で達也に自分の名前を呼ぶようにおねだりする。そんな真夜に内心、何故こうなったのかが分からず真夜の一挙手一投足に疑問符を浮かべては消えを繰り返しながら、無難な対応を続けていた。
「ねね、たーくん。真夜ちゃんって呼んで?」
「……はぁ。真夜ちゃん、これで良いですか?」
「〜~~〜~~~〜~~♡♡♡ッ!!ねね、もっとぉ!もっとがいーい!」
完全に幼児退行してしまった真夜に肩をゆっさゆっさ揺らされて「どこがどうなって、こうなったんだ…」と達也は内心ため息を吐きながら、真夜に流されるまま彼女の望んだ言葉を呟いた。
「真夜ちゃん、真夜ちゃん、真夜ちゃん。」
完全に棒読みな達也の言葉を気にした素振りも見せずに、真夜はひたすらに甘える。
身も心も満たしてくれる存在にーー唯一自分に理解を示し、共感とまでは行かなくとも同じ目線で語ってくれた
いつの間にか、達也の本来の目的である「月初めに施設へ呼ばれた理由」の返答を有耶無耶にされていたのだが、達也はそれ以上の棚から牡丹餅に遭遇したので特に気にしない事にした。
「……たーくんが17歳になる年に次期当主の選定が行われるから、その時になったら全部返すからね?」
「母上、そんなことをすれば次期当主との間に凝りを残すのではないでしょうか?」
「大丈夫よ、手は考えてあるもの。飛びっきりのね。」
真夜が上目遣いで悪戯っ子のような笑みを浮かべている事に、達也は猛烈に嫌な予感がして酷い頭痛に襲われた。「
達也が頭痛に苛まれていることを露とも知らずに、真夜は相変わらず達也の胸元に顔を埋めながら息子との過剰なスキンシップに鼻息を荒らげていた。
原作より、四葉家の火力高めです。
そして、いつの間にか原作より真夜が病み過ぎてるし、深夜が悲惨そのものになってらぁ…。達也、貴方が白馬の王子様になるのよ!
あ、達也に関して補足(長くなります)。
この作品における達也は「分解」と「再生」しか扱えない存在として産まれた部分は原作と変わりません。ただ、特異点があるとすれば原作における四葉真夜と司波深夜が施した魔法演算領域の手術が大成功して原作で言うところの「仮想魔法演算領域」単体で戦略級魔法師を凌駕するバケモンが誕生しました。
そして、深夜は達也の「分解」のみを封印して使えなくすることで四葉家の魔法師として「再生」を扱える分、自分たち四葉直系の後継者に画策しようとした過去があります(この点は原作と異なる)。ただ、可哀想な事に深夜が望んだ「分解」を封印する事はできず。寧ろ、せっかく達也の情動を犠牲にしてまで与えた原作でいう「仮想魔法演算領域」の9割近くがなぜか封印されてしまった。津久葉家の封印術式が上手く作用しない事に焦った深夜は、せめて「分解」のうちの強大すぎる魔法「マテリアル・バースト」を深雪を使って封印しようとしましたが、発動には「とある条件」を加える事で辛うじて"制限"するのが限界でした。
原作よりも、かなり愛情深い深夜は達也のためを思って色々やったのに全部裏目に出て、彼女に突き付けられた結果は自分が産んだ我が子同然の甥の「情動を奪った」という事実だけでした。幸い、達也には原作における仮想魔法演算領域が1割弱残されていましたので、産まれた時よりはマシですが、それでも能力は原作と同程度のCランク魔法が使える程度の魔法師。
そして、深夜は我が子同然の甥が文字通りの「破壊者」にならないように、(ここは、原作と多少異なるのですが)必死に無関心を貫いて愛情を注がないように自分を罰し続けました。そして、漸く衰弱死することで解放されたと思ったら、実は自分は生かされ続けていて、死によって罪から逃れる事を許されていない。一言で言えば、原作より達也はバケモンで、原作より深夜がちょっと悲惨な世界線の物語です。
じゃあ、真夜は何で深夜の感じていた事と似たような事を発言したのか?演技ですよ、演技。深夜本来の心の奥底に隠していた深夜の道化を演じる事で深夜を生き返らせた後に、彼女がやりたかった事を目の前で自分がやる。その時の深夜の表情を想像して、その日のために深夜の道化を演じているんです。ああ、もちろん真夜が達也の事を愛している事は変わりませんが、それは自分の欲を満たしてくれる娯楽や玩具などに近い感情だと言えますね。少なくとも、達也の「共犯者」発言までの真夜は。では、その後の真夜はどうか?それは、皆さんのご想像にお任せします。
ちなみに、真夜の魔法師としての実力___というか、
ただ、原理的には達也の分解を対象へ部分的に行使する魔法なので、収束系統魔法に分解されるかは難しいところ。
魔法。
それが伝説や
確認できる最初の記録は西暦1999年のものだ。当初は、超能力の一種と目されていたが当時存在していたアメリカ合衆国とロシア連邦がそれぞれ主導した研究の過程で、「超能力」は「魔法」という存在である事が発覚した。
この「魔法」は超能力と異なり、共有・普及が可能な技術であるとされた一方…才能という名の高い適正や熟練度が必須であった。
「魔法」を有する者たちの中に存在するのは、徹底した才能主義と残酷なまでの実力主義であった。
ゆえに、この「魔法」に関わる人間の世界には「平等」など存在しない。それはたとえ、血を分けた兄妹であってもーー