魔法科高校の超高校級兄妹   作:ムキムキぷりん

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今回は短め


第3話 忍びの寺

 翌朝、達也がリビングに来ると、既に深雪が起きていた。普段は誰とも会わずに出かけるので、達也は意外感を覚えた。

 

「今日は早いんだな」

 

「先生に入学の挨拶をしてませんでしたし」

 

「それじゃあ深雪も参加するかい?」

 

「いえ……私ではもうお兄様の鍛錬についていけませんから」

 

「別に俺の朝練に深雪が付き合う必要は無いのだが、そう言うことなら分かった。師匠も喜ぶよ、きっと……喜びすぎて箍が外れなければ良いのだが」

 

「その時はお兄様が守ってくださいね?」

 

 

 深雪のお茶目な顔に、達也の表情も明るくなる。互いに昨日の電話の事には触れずに、深雪はローラーブレードで、達也は走って目的地まで向かう。

 坂道を滑り上がる深雪と、一歩一歩駆け上がる達也。どちらが大変かは一概に言えないが、どちらも魔法制御を怠れば大惨事になるのは明白なのだ。

 時速60kmにも届かんばかりのスピードで走り抜ける2人は、いくら人通りの少ない早朝とは言え目立つのだった。

 

「速っ!?」

 

「あれって魔法か?」

 

 

 このように注目されながら、達也と深雪は目的地に向かった。そして自宅から10分の距離にある(あのスピードで移動してだが)目的の寺に到着するのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小高い丘の上にある寺、九重寺にやって来た達也と深雪は、門をくぐろうとはせず、その前で立ち止まった。

 

「少し此処で待っていてくれ。今日のメニューは乱取りのようだ」

 

「はい、頑張ってくださいね」

 

 

 目の前に立っているのは坊主なのだが、坊主と言うよりは修行僧と言った方が的確な雰囲気を持っているのだ。 

 達也が1歩踏み入れたと同時に襲い掛かってくる修行僧相手に、達也は驚く事も無く捌いて行く。

 門の傍に控えながら、兄の勇姿をうっとりとした表情で見ていた深雪の背後に、何者かの気配が生まれた。

 

「やあ深雪君、久しぶりだね」

 

「先生! あれほど気配を消して背後に現れるのは止めてくださいと申していますのに!」

 

 

 いきなり声をかけられて、さすがの深雪も少し慌てる。先生と呼ばれた相手はイタズラの成功した子供のような笑顔で、綺麗に剃りあがった頭を撫でながら深雪の叱責を受け流す。

 

「そんな事を言われても、僕は忍びだからね。気配を消すのは職業病みたいなものさ」

 

 

 そう言って九重八雲は笑った。

 

「今の時代に忍者なんて職業はありません。そんな職業病は早急に治す事をお勧めします」

 

 

 深雪は結構真面目に注意しているのだが、この坊主には何を言っても柳に風なのだ。

 

「忍者なんて俗物と一緒にしないでよ。僕は由緒正しい忍びなんだから」

 

「由緒正しいのは存じております。だからこそ不思議なのですが、如何して先生は……」

 

 

 そんなに軽薄なのかと続けたかったのだが、もう既に何度も言ってる事なので、無駄に終わる事も分かっていたので途中で言葉を切った。

 目の前に居る僧侶もどき――身分上はれっきとした坊主なのだが――の名前は九重八雲と言い、自称の通り忍びだった。より一般的な呼称は忍術使い。本人が区別をつけていたように、身体技術が高い前近代の諜報員とは一線を画す、古式魔法を伝えるうちの1人だ。

 深雪が先生と呼ぶのも、達也が師匠と呼ぶのもこの事が少なからず影響しての事なのだが、やはり何処か胡散臭いのだ。

 

「それが第一高校の制服かい?」

 

「はい、昨日が入学式でした」

 

「そうか……う~ん、いいね」

 

「……今日は入学のご報告にと……」

 

「真新しい制服が初々しくて、清楚の中にも隠しきれない色香があって」

 

 

 八雲が興奮気味なのに対し、深雪は若干引き気味になっている。坊主のくせに興奮してるのかと深雪が思ってたかは定かでは無いが。

 

「まるで咲き綻ばんとする花の蕾。萌え出ずる新緑の芽。そう……これは萌えだ! 萌なんだよ深雪君!」

 

 

 僧籍にあるくせに、随分と俗っぽい事を知っている八雲に、さっき自分を忍者と一緒にするなと言っていた時に俗物だと言っていた事を覚えていた深雪は、

 

『先生も十分俗物なのでは?』

 

 

 と言いたかった。だが深雪が何かを言う前に、八雲に襲い掛かる影があった。

 

「ムッ!」

 

「師匠、深雪が脅えてますのでそれくらいで」

 

「やるね達也君、僕の背後を取ると……は!」

 

「クッ!」

 

 

 達也の手刀を受け止め、左手で達也の右手を巻き込みながら右の突きを放つ。右手を八の字に振ることで極め技を逃れ、拳を包み込むようにうけてそのまま脇に挟み込む。

 

「凄い、師匠と互角か!」

 

「さすが達也殿だ」

 

「我々では相手にならないはずだ」

 

 

 先ほどまで達也にやられて寝転んでいた修行僧たちが立ち上がり、達也と八雲の組み手を見て感嘆の息を吐く。自分よりも若い達也にやられたのに、すがすがしい顔で居られるのは力の差を自覚しているからだろう。

 

「今日はこれくらいにしておこうか」

 

「そう…ですね……」

 

 

 組み手を終え、まだまだ涼しい顔の八雲に対して、達也は地面に倒れこんだ。

 

「組み手だけじゃもう達也君に敵わないかもね」

 

「組み手で互角でも、此処まで差があるんですから、俺はまだまだです」

 

「そりゃ魔法を織り交ぜても互角だったら、僕はもう師匠と呼ばれる事は無くなっちゃうからね」

 

「お兄様、先生、よろしければどうぞ」

 

 

 深雪から差し出されたタオルと水を受け取り、すぐに使用した八雲とは対照に、達也は受け取る事も出来なかった。

 

「お兄様、大丈夫ですか?」

 

「あ、あぁ……問題無い」

 

 

 膝をついて心配そうに覗き込んできた深雪を安心させる為に、達也は勢いをつけて起き上がった。

 

「おや、まだ動けたんだね」

 

「これくらいは出来ますよ」

 

 

 寝転がっていたのでもう限界だと思っていた達也が、軽やかに起き上がったのを見て、八雲がイタズラっぽい表情でそんな事を言った。

 

「それよりもすまないな、深雪。お前のスカートまで汚れてしまって」

 

「これくらい問題ありません」

 

 

 兄の心配を必要無いものとし、深雪は懐から薄型の携帯端末を取り出した。一般的に普及しているブレスレット型のCADに比べれば、落下の危険性があるのだが、慣れれば片手でも使えると言うメリットがあるので、深雪は携帯型端末を利用している。

 その端末に想子サイオンが集まり、光を放ったと思った次の瞬間には、深雪のスカートについていた泥は綺麗さっぱり無くなっていた。

 

「お兄様も、少し動かないでください」

 

 

 自分の服を綺麗にした後、達也の服についた汗と汚れも綺麗にする。自分だけ綺麗で兄が汚れたままなのは、深雪的に許せない事なのだ。

 達也がついでなのでは無く、深雪がついでであるのだが、本人以外は逆だと思っているのだ。

 

「そうだ! お兄様、そろそろ朝食にしましょう。よろしければ先生もご一緒に」

 

「そうだな」

 

「もちろん頂くよ。深雪君の料理は美味しいからね」

 

 

 魔法を使った疲労感も無く、当たり前のようにバスケットを広げる深雪を見て、達也も八雲も少し苦笑い気味に笑った。

 これが深雪にとって、何の苦労も無い事だとは分かっているので、その後の行動に苦い笑いを浮かべたのだ。 

 

 

 

 

 

 深雪の持ってきた朝食を食べ終えた八雲が、2人を見ながらしみじみと言った。

 

「それにしても2人が高校生か、僕も歳を取るはずだね」

 

「師匠はまだ若いでしょうが」

 

「そんな事無いよ。達也君を相手にして疲れるようになってきたんだからさ」

 

「それは先生が衰えたのでは無く、お兄様が伸びたのではありませんか?」

 

 

 深雪の言ってる事はある意味では正しいのだが、その言葉の中には、八雲が受け入れがたい表現が含まれていた。

 

「衰えって……」

 

「あら? 先生がご自分で言ったのではありませんか?」

 

「僕は疲れるようになったと言っただけで、衰えたとまでは言ってないよ」

 

「これは失礼しました」

 

 

 八雲の形だけの抗議に、深雪も形だけの謝罪をする。普段礼儀正しい深雪のこんな姿に、八雲も達也も苦笑いを浮かべている。

 

「それにしても達也君、君の成長速度には驚かされるよ。半年前までは此処まで僕も苦戦しなかったと思うんだけど」

 

「そんな事無いですよ。俺はまだまだ半人前です」

 

 

 珍しく八雲が褒めたのだが、褒められるのに慣れていない達也はこの言葉を否定した。だが兄が否定した言葉を、深雪は素直に受け取っていたのだ。

 

「お兄様、謙遜が過ぎると嫌味に聞こえてしまいますよ? せっかく先生が褒めてくださったのですから、胸を張って高笑いしていらした方が良いと思いますよ」

 

「それはちょっと嫌な奴じゃないか?」

 

 

 深雪のブラコン発言に、達也の笑いが苦笑いから完全に苦い笑いに変わったのを見て、八雲は苦笑いから普通の笑いに変わった。

 

「それじゃあ師匠、そろそろ学校なので」

 

「そうかい、じゃあまた明日」

 

「先生、失礼します」

 

 

 達也の挨拶に手を上げて応えた八雲に、丁寧なお辞儀付きで挨拶をする深雪。その姿を見て八雲は再び苦笑いをする。深雪の歳のわりにしっかりとした動作に、呆れと関心が入り混じってどんな顔をしたものかと悩んだ末に、苦笑いを選択したのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 一旦家に帰ってから駅に向かった達也と深雪は、丁度キャビネットがやって来たので乗り込む事にした。

 個別に移動できるようになったおかげで、満員電車と言うのはいまや死語になっているのだ。

 

「あの、お兄様……」

 

 

 キャビネットの扉が閉まり、完全に達也と2人きりになった深雪が、聞き取りづらいくらいの小さな声で達也を呼ぶ。いくら聞き取りづらくても、達也が深雪の言葉を聞き逃す事などありえないのだが。

 

「如何かしたのか? 少し顔色が悪いようだが」

 

「昨日、あの人たちから電話があったのですが……」

 

「あの人たち? ああ……それで、親父たちがまた何かお前を怒らせるような事をしたのか?」

 

 

 深雪が父親の事を『あの人』呼ばわりしても、達也は別に驚きもしない。自分も生物学上だけの親だと思ってるのだし、深雪が父親相手に嫌悪感を抱いている理由も、達也は知っているからだ。

 

「いえ、違います! あの人たちにも娘の入学を祝うと言う事は出来たみたいでして……その電話の中でお兄様の事を聞いたのですが、お兄様にはやはり?」

 

「ああ、何時も通りだよ」

 

 

 妹が何を気にしているのか、何を怒っているのかに検討がついた達也は、短くそう答えた。

 

「やはりそうですか……電話でお兄様の事をモノ扱いしただけでは飽き足らず、私が言ったのにお兄様にはお祝いのメールの1つも無かったなんて……」

 

 

 深雪の周りに何やら不穏な空気が流れ始める。それに伴ってキャビネット内の気温が徐々に下がって行き、自動でヒーターが作動した。

 怒りに身を震わせると、無意識の内に魔法を発動させてしまうのが、深雪の悪い癖なのだ。その事を知っている達也は、静かに深雪に“命令”した。

 

「深雪、落ち着け」

 

「ですが……」

 

「落ち着けって」

 

 

 兄に言われたら従うしか無い。深雪は自分が兄に迷惑を掛けてしまっていた事を自覚し、もの凄い勢いで頭を下げた。

 

「申し訳ありません! つい取り乱してしまって……」

 

 

 そんな妹の姿を見て、達也は優しく頭を撫でた。

 

「会社を手伝えと言う親父たちの命令を無視して進学したんだ。親父たちが俺を祝う訳ないだろ。それに親父たちの性格は、お前だって良く知ってるはずだろ?」

 

 

 兄に頭を撫でられながら、深雪は達也に反論する。だが顔は嬉しいのを隠せてなかったのだが……

 

「15歳が進学するのは当たり前です。それをあの人たちは……第一お兄様を手元に残しておきたかったのなら、まずは私に許可をとり、次に叔母様に許可をとるのが筋ですのに、あの人たちにはそんな度胸も無いんですから……自分の親がそんなのなんて恥ずかしくて堪りませんよ」

 

 

 深雪もだが、あの叔母が達也を父親の許に置くのを許可するとは思えなかったのだが、達也はその事を無視した。

 

「高校は義務教育じゃ無いんだし、手伝えと言うのは期待してるって事だろ」

 

「そうですが……あの人たちにお兄様の本当の凄さなんて分からないんです!」

 

「当てにされてると思えば、腹立たしい事も無いさ」

 

「……お兄様がそう言うのならば」

 

 

 深雪を上手く丸め込んだ達也は、撫でていた手を止め、深雪から離れる。

 

「あっ……」

 

「ん? 如何かしたかい?」

 

「い、いえ! 何でもありません」

 

 

 少し寂しそうに声を漏らした深雪に、普段以上に優しい声と表情で尋ねた達也を見て、深雪は一瞬で顔が赤くなった。

 達也が普段以上に深雪に優しくしたのは、自分が当てにされている訳では無い事を、妹に知られないようにする為だった。

 父親たちが自分の事を便利な道具としか思って無い事を、この妹に知られれば如何なるか……いくら生物学上だけとは言え、親を見殺しにするのは忍びないと思っていたのだった。

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