私はあんたの世話を焼く。   作:ルコ

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総武高校文化祭最終日は本日も晴天なり。

 

クラスで出店した喫茶店のシフト日であるヒキオは、午前中からそそくさと教室内に設けられた簡易的なキッチンスペースで働いている。

 

黒のエプロンを着けたヒキオは本物のマスターのように威風堂々と構えていた。

 

 

「よっす。お疲れ様」

 

「ん。そう思うなら代わってくれ」

 

「嫌だし。つーかそのエプロン似合ってんね」

 

「うん。俺ってそうゆう所あるから」

 

「自分で言うな」

 

 

ヒキオと同じキッチンを希望したにも関わらず、結衣と姫奈の強い要望もあり私はホールでメイドの真似事をさせられている。

 

大袈裟に着けられたフリフリ。

 

短いスカートにニーソックス。

 

……恥ずい。

 

つーか寒い。いろんな意味で。

 

 

「……」

 

「見んな。あーしも分かってるから」

 

「ぷっ。驚く程似合ってないな」

 

「……ひねり潰す」

 

「怖っ。……ほら、客来てるぞ。戻れ戻れ」

 

 

手をヒラヒラと私に向けるヒキオを弱めに蹴り飛ばし、私はホールに出向く。

 

……そ、そんなに似合ってないか?

 

 

「あ、優美子ー!手伝ってよー!!」

 

「結衣、あんたテンパり過ぎ」

 

「だ、だってお客さんがいっぱいで」

 

「いちいち相手にしてっからっしょ。んな色物見に来た客共なんて水でも飲ませとけし」

 

「ちょ、あんまり失礼なこと言っちゃだめだよ」

 

 

テーブル席はほぼ満席。

 

100円のコーヒーとクッキーのために集まった客……、ではなく、給仕する高校生メイドを目当てに来た客共が占領している。

 

 

「つーかさー、なんでメイド喫茶なん?誰の発案だし」

 

「え!?優美子が喫茶店がいいって言ったんじゃん!!」

 

「そうだし!悪い!?」

 

「えー……」

 

 

裏でサボれると思ったから….…。

 

結衣は顔を引きつらせながらも、収まらない客の流れをさばくためにホールを走り回る。

 

大変そうだな、なんて思ってたら、テーブル席に座るとある男性客がスマホを私に向けていた。

 

そいつは私と目が合うとそのスマホを隠し、何事もなかったかのようにコーヒー飲み始める。

 

 

「おい、あんた。誰が撮影していいって言ったし」

 

「え、あ、えっと……」

 

「盗撮したってんならあーしも黙ってないから」

 

「……、だ、だって!そこの人も撮ってたし!!」

 

 

その盗撮魔が慌てて指を挙げると、指の先に立っていた人物はしまった、と言う顔を浮かべながら手に持っていたスマホを仕舞う。

 

 

バツの悪そうに、彼は黙ってキッチンスペースへ消えていった。

 

 

黒のエプロンがひらりとひるがえる。

 

 

「ヒキオ!!」

 

「……。どうした?」

 

「撮ってたし!あんた写メ撮ってたし!!」

 

「ば、ばか。おまえ、俺の人相と人柄を知らないの?とても盗撮するような人間じゃないよ?」

 

「疑いようがないくらい盗撮魔だし!!」

 

「疑うことしか出来ない人間。痩せた発想だな」

 

 

普段通りを装うヒキオの顔からは滝のように汗が滴っていた。

 

 

「スマホ貸しな!!」

 

「……ふん。貸すのは構わんがロック番号は…」

 

「8.0.0.0.0っと。はいロック解除」

 

「ちょ、ちょっと待て!」

 

 

私はヒキオに背中を向けながらスマホを操作する。

 

珍しく慌てるヒキオが後ろでわーわー叫んでいるが、私は構わずに写真フォルダを開いた。

 

……。

 

 

「……あ、あんた」

 

「……」

 

 

今日撮ったであろう数枚の写真。

 

全て同一人物の被写体はどれもメイド服をひるがえし、面倒くさそうな顔で映し出されていた。

 

 

「ほー、へー、ふーん。….…ねぇ、ヒキオ、あーしの格好似合ってる?」

 

「….…」

 

「うわ、これ目ぇ半開きじゃん。消去」

 

「……」

 

「これは可愛いから残しておいてあげる」

 

「……」

 

「……なんとか言えし。ねぇ、メイド服のあーしって可愛い?」

 

「……はぁ」

 

 

写真フォルダを見終わった私はスマホをヒキオに返す。

 

意地っ張りなヒキオは腕を組みながら私に向き合う。

 

なんで偉そうなんだし。

 

 

「……まぁ、アレじゃないか?うん。….…な?」

 

「ふふ。……ちゃんと言って」

 

「……可愛いんじゃないか?」

 

「なんだしその言い方」

 

「俺の精一杯だ」

 

「なら許す。……じゃぁさ」

 

 

私はヒキオの腕を掴み顔を近づける。

 

キスをしようとしているわけじゃない。

 

こうしないと写真に2人が収まらないからだ。

 

 

「ほら、可愛いの撮れたし。後であーしにも送っておいて」

 

「……はいよ」

 

「あと、盗撮した罰」

 

「あ?」

 

 

私はヒキオの頬を唇をくっつけた。

あんまり学校ではしないけど、今日は特別。

 

盗撮した罰と

 

盗撮してくれたお礼に。

 

 

 

 

 

「優美子もヒッキーも全然手伝ってくれないよー!!」

 

 

 

 

 

【有志】

 

 

 

 

 

「あぅ〜。緊張してきたぁ」

 

「あー、優美子ー。ハロハロー」

 

 

有志ステージの舞台裏には既にギターとキーボードを持った2人が控えていた。

 

 

ケースに入れたベースを背中に担いだ私も、結衣の緊張が移ってきたのか足がすくんでしまう。

 

 

「やぁ、揃ったようだな。さて、海老名はキーボードをステージに運ぶ準備をしてきたまえ」

 

 

平塚先生の指示通り、姫奈はキーボードの搬入を文化祭実行委員に頼みながら舞台袖に向かっていった。

 

 

「てゆうか、先生ほんとにギター弾けんの?」

 

「ふむ。ブランクがあるから弱冠不安だが、この曲程度なら問題ないだろう」

 

「ふぇ〜、珍しく先生が頼もしい…」

 

「由比ヶ浜、君には色々教えねばならないな」

 

 

先生が由比ヶ浜の首根っこを掴み消えていく。

 

舞台の裏は文化祭実行委員のドタバタとする喧騒に包まれているにも関わらず、私は爪の先から底冷えするような寒さと、耳に音が響かない静けさを感じてしまう。

 

緊張しているのは当然だ。

 

私はプロでも何でもないのだから。

 

大勢を前に歌うなんて。

 

 

ましてや……。

 

 

「……はぁ。頑張れ、あーし」

 

 

小さな声は自分に言い聞かせるように。

 

 

固まった身体を驚かせたのはスマホの着信音だった。

 

LINEのメッセージ受信音に、私はスマホを確認する。

 

 

比企谷

【見に来た。頑張れよ】

 

 

明日は雪かな?

 

珍しいこともあるもんだ。

 

短い言葉には魔法に掛けられている。

 

心地の良い静かな魔法は、私を包むように自然と顔を綻ばせてくれた。

 

 

優美子

【黙って見とけし!】

 

 

 

 

ーーーー

 

 

 

ダァーンと、重低音を鳴らす。

 

チューニングもバッチしだ。

 

肩から掛かるベースは冷たく私を反射させている。

 

4本しかない弦は細く震え、次第に収まり音が消えた。

 

 

「あー、あー。……どーも、あーしらは文化祭限定で組んだガールズバンドです」

 

 

マイクに乗った私の声は体育館内に響き渡る。

 

不思議なことに、これだけ大勢の人の中でもあいつのことは直ぐに見つけることができた。

 

 

「……緊張してるから、少しだけお話しさせてください」

 

 

体育館には少々の笑いが溢れる。

 

 

「あーし、こんなナリだし、ぶっちゃけ性格も見たまんまだし、飽きっぽいし、……全部てきとーにやってきた」

 

 

上がる体温は止まらない。

 

火照った身体の原因はあいつのせい。

 

あいつは私が送る視線に気づいているのかな。

 

 

「でも、本当に好きな物を見つけたから……。本気でそいつの全部が欲しいから」

 

 

私はあいつの全てが、本物の全てが欲しいんだ。

 

だから、届いて。

 

私の本気と本物の繋がり。

 

 

「……。いっぱい練習したんだから、ちゃんと聴けし」

 

 

 

ビューティフル・ストーリー

 

 

 

 

………

……

.

.

 

 

 

 

先程までの喧騒が嘘だったかのように、文化祭の終わった体育館はただただ広く、暗く。

 

閉会式とともに終わった文化祭は、興奮と思い出だけを残して姿を消した。

 

あれだけ掛かった準備も、終わってしまえばゴミ箱行きだ。

 

 

高い天井と、赤い夕日が反射する床。

 

 

舞台上から眺める光景は、演奏中とは打って変わってもの寂しい。

 

 

でも、嫌いじゃない。

 

 

誰も居ない体育館は、まるで世界から一つの空間を切り取ったかのように静かに私を……、”私たち”を包み込んだ。

 

 

「……よう。クラスの連中、打ち上げに行っちまったぞ」

 

「ヒキオは行かないの?」

 

「行かん」

 

「じゃぁ、あーしも行かん」

 

 

20メートルは離れた場所からでも声が聞こえる。

 

あいつの声はどんなに小さくても私に届くんだ。

 

 

「……はぁ。……行く。顔だけ出すことにする。だからお前もちゃんと行けよ」

 

「へへ、ならそうするし」

 

「……つぅか、何やってんの?」

 

「思い出に浸ってた」

 

「らしくないな」

 

「……どうだった?あーしの歌」

 

「……ん。悪くなかったよ」

 

「そうっしょ。いっぱい練習したし」

 

「ほぅ。そんなにバンドが好きだったのか」

 

 

舞台から飛び降りると、小さな衝撃が脚に伝わりじんじんとする。

 

結構高いんだな、ここって。

 

 

「違うし、好きなのはバンドじゃなくて……、あんた」

 

「はぁ?」

 

「ヒキオに褒めてもらいたかったから頑張ったんだし!」

 

 

誰も居ない体育館で、私はゆっくりと歩いてヒキオのそばに行く。

 

ヒキオからは来てくれないから。

 

でも、必ず私を待っていてくれる。

 

 

「……そうか。綺麗な声だったし、ベースも上手だった。…これでいいか?」

 

「ふふ、照れてるの?目、反らしてる」

 

「違う違う。夕日の光が俺の目をね、……こう、…アレしてる」

 

「アレー?アレって何だし?」

 

「むー。……ほ、ほら、打ち上げ行くんだろ。さっさと行こうぜ」

 

「ぷっ。照れ隠しだ。……じゃ、行こっか」

 

 

腕に抱きつくと、ヒキオはため息を吐きながらも抵抗しないでいてくれる。

 

ふと、ヒキオが脚を止める。

 

どうしたのだろう、と思った瞬間に、暖くて柔らかい感触が唇に触れた。

 

普段なら絶対にしてくれない。

 

 

ヒキオからのキス。

 

 

あまりに突然で、何が起きたか分からなくなりそうだ。

 

 

 

 

「…ふ、…ぅぇ?」

 

 

 

「……。あ、アレだ。……夕日が眩しかったから……」

 

 

 

 

 

 

-if- END

 

 

 

 

 

………

……

.

.

 

 

 

 

「って感じな妄想してみた」

 

 

「……いいからお掃除を手伝ってもらえますかねぇ」

 

 

 

 


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