私はあんたの世話を焼く。   作:ルコ

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Extra -4-

 

 

 

 

 

 

 

火照る顔と赤く染まる頬を精一杯に隠しながら、私は先輩に手を引かれるままに夜空の下を歩く。

 

気付かなぬうちに身を隠した夕日は、静けさと寒さだけをそこに残した。

 

 

……。

 

 

引かれた手から伝わる先輩の体温で、私の心は溶けてなくなっちゃったみたい。

 

 

大好きな人はいつも私の隣に居てくれる。

 

 

それだけで、空っぽになって大きな穴となった心の抜け殻は、たくさんの幸せでいっぱいになるんだ。

 

 

 

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「……あ、あの、ここって…」

 

「…ほら、入るぞ」

 

 

沿線が複雑に絡み合う都内の一角に、お星様にも届きそうな程に高いビル群が覗く。

 

その中でも一際目立つのは、今私たちが目の前にしているこの高層ビルだろうか、群の中でもその高さは他の屋上を見下ろせる程だ。

 

 

「入るって…。ば、場違いじゃないですか?」

 

「そんなことねぇよ。中階までは商業施設で一般公開もされてるしな」

 

 

手の甲に感じる暖かな感触が少し強くなる。

 

私は借りたマフラーに顔を埋めながら、その優しさに導かれるままにビルへと入った。

 

 

大きなエントランスに迎えられながら、建物の中とは思えない程に高い天井に目を向ける。

 

四方に光を放つシャンデリアとそれを反射するフロアは、まるでお姫様のために用意されたお城みたい。

 

 

「…ふわぁ」

 

「はは、アホ面になってんぞ?」

 

「む、むぅ。だって。とっても綺麗なんですもん」

 

「ん。綺麗だよな」

 

 

優しく微笑む先輩は、一言ポツリと囁きながら私の手を強く握り直した。

 

 

「……あ、ありがとうございます。とっても綺麗で素敵です」

 

「そっか。それじゃ、行こうぜ」

 

「え?ま、まだどこかに行くんですか?」

 

「ん、上」

 

 

先輩の人差し指は、随分と空高くから私たちを見下ろすシャンデリアよりももっと上を指している。

 

 

上は商業施設だと言っていたけど……。

 

 

先輩は私の手を引いたまま、エントランスから見えるエレベーターホールに歩き、上へ向かうためにそのボタンを押した。

 

幾秒も待たずに、空へと続く機械的な箱は私たちを迎え入れるように扉を開ける。

 

 

「…?」

 

 

エレベーター内に足を踏み入れると、不思議な事に階数を表示するボタンには数字が一つも書かれていない。

 

少し無機質なボタンが数個あるのみで、内装も簡易的だった。

 

 

「……関係者専用のエレベーターなんだよ」

 

「そ、そうなんですか…。勝手に乗っちゃって良いんですかね?」

 

「勝手じゃないから大丈夫だ」

 

 

と、言いながら、先輩は自らの携帯を私に向ける。

 

 

比企谷

【登らせてもらいます】

 

雪ノ下(母)

【管理人には伝えておきます(._.)】

 

比企谷

【ありがとうございます】

 

雪ノ下(母)

【(・ω・)ノ】

 

 

 

雪ノ下……(母)?

なんか淡白な内容なのにシュールな顔文字がちゃっかり溶け込んでるけど…。

 

疑惑は解けぬまま、エレベーターは小粋な電子音と同時にゆっくりと止まる。

 

どうやら目的の階に着いたようだが、先輩が押したボタンにも例のごとく階数は書いていない。

 

結構長いこと動いてたけど、ここは何階なのだろう。

 

 

 

……。

 

 

 

ふと、冷たい風が頬をかすめる。

 

開いた扉から吹き込む冷風に目を細めつつ、そこが星空に照らされた屋上だと気づくのに確認はいらなかった。

 

 

ゆっくりと導かれるままに、私は冷たい気温とは真逆な先輩の体温だけを頼りに歩く。

 

 

目の前に散らばるダイヤの数々が、空から降り注ぐ煌びやかなイルミネーションが。

 

 

すべてが幻想のように、夢のように、私の前に現れた。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

200mは下らない高さから望む絶景に、思わず息をすることさえ忘れてしまう。

 

 

 

「……ゆ、夢…?それとも錯覚ですか!?!?」

 

「いつから錯覚していたんだ?」

 

「先輩!これは現実ですか!?」

 

「現実に決まってんだろ。ほれ、人が蟻のようだ」

 

「高過ぎて人の影すら見えませんよ!高い!綺麗!寒い!」

 

「ん、高いな。やっぱり」

 

「……素敵…」

 

 

誰もいない屋上から眺める光景が目に焼きつく。

 

白い息はゆらりと夜空に溶けていき、星に掛かるうっすらとした雲へと変わっていくのだろう。

 

心に掛かるモヤでさえ、今の私にはきっと素敵なアクセントと変わる。

 

 

 

優しく、切なく。

 

 

 

 

「……一色」

 

「はい…」

 

「知ってるとは思うが…」

 

「先輩!」

 

「っ!」

 

 

冷たい風にさらわれるように、私の声は静かに響き渡る。

 

 

「三浦先輩と……、どうか幸せになってください」

 

 

「……」

 

 

繋がれた手を、私は自らの意思でゆっくりと離した。

 

 

「いつも助けてくれてありがとうございました」

 

「…ん」

 

「幸せを与えてくれてありがとうございました」

 

「あぁ」

 

「好きで居させてくれて…、ありがとう、…ございましたっ」

 

「……」

 

 

幸せの涙が零れ落ちる。

 

光輝く街並みは、それさえもすくって星空に変えてくれることだろう。

 

一つ、また一つと、私の幸せは星へと変わる。

 

 

好きになった人が先輩で……。

 

 

私を見てくれる人が先輩で。

 

 

本物を与えてくれた人が先輩で。

 

 

 

 

私は幸せでした。

 

 

 

 

「沢山……、ありがとうございました…。…っ。」

 

 

 

 

「おう。……先輩冥利に尽きる言葉だ」

 

 

「……っ。…はい!後輩として、これからもよろしくお願いしますね!」

 

 

 

選ばれる人は1人でも、救われる人は1人じゃない。

 

きっと、先輩に関わった人は全員救われてしまうから。

 

他人のためにしか頑張れない人は、今日もまた1人、その手で救ってみせた。

 

それでも、いつまでも手の掛かる後輩だった私を救うのに、少し先輩の手を焼かせてしまったようだ。

 

 

「…へ、へへ。もう平気です」

 

「そっか。それじゃぁ帰ろうぜ」

 

 

先輩は自らの袖で私の涙を拭いてくれる。

 

 

甘い香りを漂わせ。

 

 

ふわりと私の頭を1度撫でると、小さく笑いながら星に囁く。

 

 

 

 

 

「ありがと。好きになってくれて」

 

 

 

 

 

.

……

………

……………

 

 

 

 

 

「って事があったんですよー!」

 

「お、おい…」

 

「ほう、いい度胸だし。もういっぺん空高くに登らせてやる」

 

「あれー?ヤキモチですかぁ?」

 

「……ブチ飛ばす。……つーか、周辺に張ってても見当たらないと思ったら、屋上に居たのかよ。GPSも高度はアテになんないし」

 

「ん?GPSってなんだ?」

 

「おっと…、失言だった」

 

 

 

「「……」」

 

 

 

 

 

✳︎ 花香る、一色いろはの恋心 ✳︎

 

 

ーーーーーーendー


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