私はあんたの世話を焼く。   作:ルコ

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三浦と花火大会に行く前からの話。

陽乃めいん。


Devil -1-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……そう。彼は大学の研究所に進むのね。面白い人材だったのに残念だわ」

 

「へぇ、お母さんがそこまで言うなんて珍しいねー。そんなに彼を気に入ってたんだ」

 

 

浴衣が似合う40過ぎの母と対面する私は、一杯1000円もの紅茶を飲みながら庭園を眺めた。

 

背筋の伸びた姿勢や言動の上品さ、しなやかに動く指使いまで、どこか洗練された美術品かの如く雰囲気を醸し出す。

 

 

こうやって母娘で紅茶の席を設けるのは雪ノ下家にとって珍しくもないのだが、やっぱりそこに、雪乃ちゃんの姿はない。

 

 

確執を決定付けたのは恐らくあの時だろう。

 

 

 

………

……

.

.

 

 

 

 

それは高校卒業時。

 

1度だけ本家に顔を出した雪乃ちゃんは、母の何気ない言葉に声を荒げて反感した。

 

 

 

『雪乃、卒業おめでとう』

 

『……ありがとう、ございます』

 

『突然なのだけど、雪乃に会って欲しい人が居るの』

 

『っ!?……やめてちょうだい。そういう事は大学を卒業してからと決めた筈よ』

 

『ええ。でも、会うだけならその約束の範疇ではないわ』

 

『あなたは……っ。帰るわ』

 

『雪乃、あなたはまだ逃げ続けるの?ましてや、御学友に助けを求めるつもりじゃないでしょうね?』

 

『……っ』

 

 

雪乃ちゃんはあからさまに狼狽えていた。

きっと、母の言葉に2人の顔を思い浮かべたからだろう。

 

 

激情、とまではいかずとも、少なからず母も感情的になっていた。

 

 

『彼らに助けを求めても無駄よ。貴方の為に言っているの。

 

彼らは貴女の…

 

 

足枷にしかならない』

 

 

役立たずだと言い切った母の言葉に私も苛立ちを感じてしまう。

 

 

そこからは、私でも手に負えないほどに雪乃ちゃんが声を荒げた。

 

目に涙を浮かべながら、始めて聞いたであろう程の大声で。

 

 

それには流石に動揺した母も、家から出て行ってしまう雪乃ちゃんに声を掛けることも出来ず、私は仕方なしに後を追いかける。

 

 

『ゆ、雪乃ちゃん待ってってば。お母さんもさ、雪乃ちゃんの為を思って言ってるんだよ。分かってあげて?』

 

 

優しく、私は雪乃ちゃんの手を掴む。

 

それを拒絶するように、雪乃ちゃんは私に目も合わさずに口を開いた。

 

 

 

『姉さんが……、羨ましいわ」

 

 

『…え?』

 

 

『……大切な人に出会えなかった、姉さんが羨ましい』

 

 

 

 

私はその言葉に身体から力が抜け落ちる。

雪乃ちゃんの腕を掴んでいた手も、緩やかにそれを離す。

 

 

大切な人。

 

 

私は思い出せる限りの記憶を遡るも、大切な人と呼べる人の顔は出てこない。

 

 

あぁ、そっか。

 

 

本当のぼっちは……

 

 

 

私か。

 

 

 

.

……

…………

 

 

 

 

✳︎ 陽気な心は転機を迎え ✳︎

 

 

 

それは1通のLINEから始まった。

 

私の中で止まっていた時間を動かすように、そのLINEは唐突に私の心に報せを送る。

 

驚きはしたものの、そこに特別な感情はない。

 

 

LINEの送り主は私にとって妹の友達。

 

 

ただの知り合いに過ぎない関係なのだから。

 

 

 

比企谷

【今度の花火大会、雪ノ下さんのお家はスポンサーをやっていましたよね?】

 

 

 

……。

 

数年振りに送られてきたLINEにも関わらず、お久しぶですの一言も添えないとは。

 

やはり彼は彼のままだな。

 

 

陽乃

【久しぶりだね!やってるよー^ ^ それがどうかした!?】

 

 

比企谷

【関係者閲覧席の券を譲ってください】

 

 

ほう!?

なんとも図々しい子なのかしら!

 

まったく、何かを得るになそれなりの対価が必要なのよ!!

その事を教えてやらなくちゃだめみたいだね!

 

 

陽乃

【う〜ん。ただで譲るとは言えないなぁ……。^_−☆】

 

 

ふふ。

根掘り葉掘り聞いちゃうもんね。

 

雪乃ちゃんと行くのかしら、それともガハマちゃん?

 

雪乃ちゃんとじゃなかったら譲ってあげないんだから!

 

 

比企谷

【金なら払います】

 

 

もう!

察しが良いくせに捻じ曲がってるのよねぇ、この子は。

 

こうなったら何がなんでも聞き出してやるわ。

 

 

陽乃

【払えるの〜? 5万円だよ?】

 

比企谷

【わかりました。ありがとうございます。今度取りに行かせてもらいます】

 

 

なに!?

大学生のクセに5万をホイそれと出す気!?

 

私は慌てながらもLINEを送り直す。

 

 

陽乃

【ちなみに1人5万だよ?】

 

比企谷

【そのつもりですけど】

 

 

侮れない…。

高校生の頃から変わってる子だとは思っていたけど、それでも私の手のひらで転がせていた。

 

ちょっと見ない間に成長したようね。

 

と、どうこの展開を打破しようかとLINEの返信内容を考えていると、折り返す前に比企谷くんからもう1通のLINEが送られてきた。

 

 

 

 

比企谷

【貰い受けるついでに会って話しませんか? 久しぶりに雪ノ下さんと話すのも悪くない気がしてきました】

 

 

 

 

………。

 

 

 

………っ!?

 

 

 

 

な、な、な?

 

 

 

あ、あれ?比企谷くんだよね!?

あのぼっちで捻くれてて可愛くない比企谷くんだよね?

 

私の思い違いか、彼は自ら誰かとコミュニケーションを図ろうとする人間ではなかったはず。

 

 

なぜか顔が熱くなる自分を落ち着かせながら、私はLINEを再度読み直す。

 

 

あ、既読になっちゃってる!

 

は、早く返さなくっちゃ…。

 

でも、なんて……。

 

 

……もーーー!

なんで私がこんなに慌てなくちゃならないのよ!

 

……乗ってやろうじゃない。

 

どうせ、何かの企みに私を利用しようとしているだけだ。

 

それなら自分から飛び込んで、私が主導権を握ってやるわ!

 

 

 

陽乃

【いいよ】

 

 

 

……これでオッケーね。

 

 

 

私は握り潰しそうになっていたスマホをベッドに投げつける。

ふと、部屋の鏡に映った自分が目に入った。

 

 

 

 

「髪、切りに行こうかな…」

 

 

 

 

 

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