私はあんたの世話を焼く。   作:ルコ

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Devil -3-

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ふと、彼の言葉に私は声を出せなくなる。

 

どうしてその事を知っているの?

 

久しぶりに会った君が…。

 

 

家族にしか知れ渡っていない事なのに……、家族?

 

 

 

「……雪乃ちゃんに、聞いたんだ」

 

「…はい。聞いたというか…」

 

 

そのまま無言になる彼に、私は苛立ちを覚えてしまう。

 

甘いコーヒーを飲む君も、幸せそうにキーホールダーを選ぶ君も、全部私にとっては妹の友達に過ぎない。

 

そんな君が……。

 

どうして私の心に踏み込むの?

 

 

 

「…まぁね。私も良い年齢だし。そろそろ結婚してもいいかなって…」

 

 

 

心が嘘をついている。

 

嘘を吐き出す悪い口は、雪乃ちゃんの専売特許なのに。

 

 

 

「……変わりませんね…」

 

「っ。……君に。君に何が分かるのよ…」

 

「俺達、同類じゃないですか」

 

「!?」

 

 

 

ふと、彼の顔が静かに微笑む。

 

その顔を見たのは初めてだ。

 

いや、正式に言うなら、その顔を正面から見たのは初めてだ。

 

だって、それは雪乃ちゃんやガハマちゃんにしか向けない顔だったから。

 

 

 

「この前、雪ノ下が俺に依頼してきたんですよ」

 

「……依頼?」

 

「雪ノ下さんを……、姉を助けて上げてって」

 

 

何を……。

 

私を助ける?

 

雪乃ちゃんが?君が?

 

 

「雪ノ下は自分の我儘であなたが、結婚させられると言っていました」

 

「……、それが分かってるなら、あんまり私の手を焼かせないでよ」

 

「でも、手を焼かせられる方が妹ってのは可愛いんですよね?」

 

「……」

 

 

静かに、彼はポケットからピンクの箱を取り出した。

 

それをゆっくりと、私の手に乗せる。

 

 

「…?」

 

「……俺からじゃありませんよ?雪ノ下からです」

 

 

それの包装をそっと開けると、中から長細い箱が出てくる。

 

中身を確認するまでもない。

 

 

「…ネックレス?」

 

 

ハートの飾りを付けたシルバーのネックレスは、銀の冷たさを手に感じさせながら私を見つめ続ける。

 

 

そして、空になったと思っていた箱の中には1通の手紙が添えられていた。

 

私はそれを出来るだけ丁寧に開く。

 

焦る心を落ち着かせながら、私はそれに目を通す。

 

 

 

 

お誕生日おめでとう。

 

 

今まで謝れなくてごめんなさい。

 

 

我儘でごめんなさい。

 

 

結婚なんてしないで。

 

 

これからも、私の我儘を聞いてちょうだい。

 

 

 

 

ーーーーー雪乃

 

 

 

 

一粒の雫が手紙に落ちる。

 

だめ、汚れちゃう。

 

私は慌ててハンカチを取り出そうとするも、あいにく今日は持ち合わせいなかった。

 

 

 

ふわりと、甘い香りの優しさが、私の目の前に差し出される。

 

 

 

「……目にゴミでも入りました?」

 

「ふ、ふふっ。本当に君は……。ありがと」

 

 

 

受け取ったハンカチで涙を拭き、それでも溢れそうになるから上を向いた。

 

あーあ、こんなの私じゃないなぁ…。

 

格好悪い…。

 

 

私の意にそぐわない結婚相手だろうと、母が言うのならその人と婚約する。

 

それが長女であり、妹を守るお姉さんとしての役目だから。

 

それに、私には大切な人が居ない。

 

これからも現れることはないだろう…。

 

雪乃ちゃんを悲しませるわけにはいかないから……。

 

 

「……大切な人…、居るじゃない。ずっと側に…」

 

「…近過ぎて気付かないこともありますからね」

 

「もう…。からかわないでよ。……全部、君の思い通りになった?」

 

「…別に。俺はこれを渡してと言われただけなんで」

 

「ありがと。……それで、ここに連れてきたってことは…」

 

 

私は先ほどまで陳腐に見えていたジュエリーショップを見つめ直す。

 

改めて、綺麗だと思えるようになったのは、きっと彼のおかげ。

 

 

「……。まぁ、雪ノ下にも何かプレゼントしてやればどうです?…って、余計なお世話っすけど」

 

 

「ふふ。君はすごいね…」

 

 

 

全然余計なんかじゃないよ。

 

あなたと早くに会えていたなら、私はどれだけ幸せになれただろう。

 

今みたいに、本物の笑顔で向き合える関係になれたのかな…。

 

君たちみたいな関係を作れたのかな…。

 

 

なんて……。

 

 

 

今更、私が君に想いを伝えようなどムシが良すぎる。

 

 

だから、この気持ちだけはこれからも隠し続けなくちゃ。

 

 

私は、雪乃ちゃんのお姉ちゃんだからね。

 

 

 

 

 

「……。じゃぁ、雪乃ちゃんへのプレゼントを選びましょうか!全部綺麗で迷っちゃうね!」

 

 

 

 

 

 

 

.

……

…………

 

 

 

 

「あ、姉さん。遅いわよ」

 

「ごめんごめーん。あ、ガハマちゃんも久しぶり!」

 

「陽乃さん!お久しぶりです!」

 

 

私は2人をとある喫茶店に呼び出した。

 

 

 

ーー。

 

 

彼との再会から日を改めて、私はお母さんと向き合った。

 

それは本心を隠さない会合で、私らしくもない訴えに、お母さんは圧倒されていたみたい。

 

結婚の話も、もう少し私の気持ちが落ち着いたらと、期限のない延期に。

 

残ったのはちょっとした罪悪感と……、どこかスッキリとした気持ち。

 

大切な人に貰ったネックレスを着け、私は彼にLINEを送った。

 

 

陽乃

【結婚の話はなくなったよ!比企谷くん大好き!\(^o^)/】

 

 

これくらいは許してよ。

 

 

きっと彼も、本気にそれを受け止めたりはしないのだから。

 

 

今、目の前に居る2人のどちらかを選ぶであろう彼なのだから。

 

 

 

 

「そういえばさ!花火大会はどうだった!?あの席はお姉ちゃんが用意してあげたんだからね!」

 

「花火大会…?何のことかしら」

 

「おっとー!ってことはガハマちゃんかな!?」

 

「え?私、花火大会なんて行ってないですよ?」

 

「もー、2人とも隠すのが上手だねー!!私知ってるんだからね!なんせ比企谷くんに関係者閲覧席の券を渡したのは私だから!!」

 

 

「「……?」」

 

 

あ、あれれ?

 

この感じは本当に知らない?

 

揃って首を傾げる2人を見て、私はどうやら思い違いをしていたことに気がつく。

 

 

「……なんてね!」

 

「姉さん、その話を詳しく教えてちょうだい」

 

「陽乃さん!ヒッキーは誰と花火大会に行ったんですか!?」

 

「あ、あははー。こ、今度みんなで一緒に観に行こうかー」

 

 

 

 

 

「「姉(陽乃)さん!!」」

 

 

 

 

 

陽気な心は転機を迎え

 

 

 

 

ーーーーend

 

 

 

 

 

 

 

 

 


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