私はあんたの世話を焼く。   作:ルコ

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私はあんたの世話を焼く。♡
parallel -1-


 

 

 

 

 

夢を見ていた。

 

それはとても暖かくて、甘い香りの漂う夢。

 

俺は青い空と柔らかい太陽の光に照らされたお花畑に1人ぼっち。

 

見渡す限りに広がる花々は、色彩豊かな顔を覗かせ風に揺られる。

 

気付けば、俺の格好は白いタキシード。

 

おいおい、馬子にも衣装って奴か?

 

我ながら、意外と似合ってるじゃないか。

 

そして、その花々に見送られるように。

 

俺は()()のもとへと歩み寄る。

 

純白なドレスと、キリッとした吊り目。

そして、見惚れるほどの金糸をなびかせる彼女。

 

強く、可愛らしく、弱々しく、そんな多くの表情をころころと見せる彼女の左手を、俺はそっと掴み、細い薬指にーーーーー

 

 

…………

……

.

.

 

 

 

「……っ」

 

ゆ、夢…?

なんだってあんな生々しい夢を…。

結婚式を来週に控えて、俺も少しばかり意識してるってのか?

 

はぁ…、俺が浮き足立ってどうする…。

 

嫁は嫁で、アホみたいに浮かれてるのに、俺まで浮かれちまったら収拾がつかんぞ。

 

そう腐しながら、俺は()()()()ベットから起き上がり、掛け布団もぐしゃぐしゃのまま、部屋から出た。

 

リビングへ向かうために階段を降り、椅子に座ると、中学校の制服に身を包む小町が()()()()ように朝食を用意してくれる。

 

決まって小町は俺よりも早く起きていて

 

「もう!遅刻しちゃうよ!いつまでパジャマで居るの!?」

 

と言う。

 

制服?

 

あぁ、総武高校のね。

 

そうだそうだ、早く着替えて登校しなくちゃ…。

 

 

「……?」

 

 

あれ?

 

俺っていつの間に実家へ帰ってたんだっけ?

それに、どうして小町は中学校の制服を着ているんだ?

 

心なしか、俺の声も少し高いような…。

 

…いや、そんなことよりも、あいつに…、三浦に連絡をする方が先決だ。

 

ぼーっとした俺が2人で同棲をしている家に戻らず、実家へと帰ってしまったのだから、きっと心配しているに違いない。

 

俺はそう思うと、ポケットから取り出したスマホを……、あれ?

 

ガラケーだ…。

 

 

「なぁ、小町。俺のスマホ知らないか?」

 

「はあ?スマホ?お兄ちゃん、スマホみたいな軟弱な携帯を使う気にはなれないって言ってたじゃん」

 

……何それ?

 

いやまぁ、確かに高校生のころに、そんな事を言った覚えはあるけどさ…。

 

「…む?」

 

「変なお兄ちゃん…」

 

カレンダーがおかしい。

 

テレビ番組もおかしい。

 

新聞もおかしい。

 

どうして揃いも揃って5()()()の日時を指し示しているんだ?

奇しくも俺が総武高校の2年生に進級した日じゃないか。

 

ふふん。

 

だが、なんの冗談?などとは言わまいさ。

 

夢オチだろ?

 

分かってんだよなぁ、それくらい。

 

シュタインズゲートの導きだかなんだか知らんけどさ、()()()()()()()()()を控えて、少しばかり頭がハイになっちまってるみたいだ。

 

…そう、夢…。

 

俺が高校生に戻っているこの現実は、きっと夢に決まってるんだ。

 

 

「お兄ちゃん、すごい汗かいてるけど大丈夫?」

 

 

「……うん。大丈夫。だって夢だもん」

 

 

「何言ってんの?」

 

 

 

 

ーーーーー★

 

 

 

 

で、なんだかんだと自転車にて総武高校へ登校中。

未だ覚めぬ夢に辟易としながらも、俺は4月の陽気に当てられながら、懐かしい通学路をひた走る。

制服に腕を通すのは少しコスプレをしているみたいで恥ずかしかったが、どうやら浮いている事はなさそうだ。

 

さて、総武高校2年生の4月。

 

俺が一度経験した世界線なら、今日はクラス発表と、その新クラスで行われる軽いホームルームで終わるはずだ。

 

…いや、違う。

 

そうだ、進路希望の提出があるんだ。

 

俺はそこで『専業主夫』と書き、平塚の姉御に焼きを入れられるんだ。

 

はは、懐かしいぜ。

 

そのイベントが奉仕部へと辿り着くルートだったなんて、あの頃の俺には分かりようもない。

 

俺は過去の自分に呆れながらも、到着した総武高校の駐輪場に自転車を置き、クラス発表を見ずとも分かる2年F組へと向かった。

 

 

ガラガラ〜。

 

 

建てつけの悪いスライド扉を開け、まだ生徒がチラホラとしか居ない教室へ入る。

周りを見るも、知ってる顔は居ない。

 

由比ヶ浜は…、まだ親しくないんだよな。

 

葉山とも話した事は無いはず。

 

もちろん国際の雪ノ下とも。

 

ふと、そんな事を考えながら自席へと鞄を置くと、先ほどの建てつけが悪い扉を激しく開ける1人の少女。

 

彼女は吊り目をキリッと睨ませ教室内を一目見渡すと、その金色の髪で威嚇するように、大股で机と机の間を練り歩く。

 

 

「……わ、若い…」

 

 

たった5年前の姿なのに、そいつは少しだけ若々しい。

そんな俺の独り言が聞こえたしまったのか、彼女はその吊り目で俺を睨みつけた。

 

 

「なに?」

 

 

……怖っ。

 

例えば、この状況が漫画やアニメであるならば『み、三浦…、俺だよ!八幡だよ!』と、狼狽えていることだろう。

 

だが俺は違う。

 

冷製に対処するだけの落ち着きを持っているから。

 

 

「…いや。なんでも。悪かったな」

 

「ふん」

 

 

…ちょっと寂しい…。

なんだよ、少しくらい構ってくれても良かったんじゃないか?

別にさ、いいけどさ。

 

でも、まぁ、なんだ…。

 

……ぅぅ。

 

 

「…?…!?ちゃ、あ、あんた、何で泣いてるのよ!?」

 

「…え?あ、本当だ…」

 

 

三浦が途端に慌ててこちらへ歩み寄るのを手で制止し、俺は自然と零れ落ちた涙を指で弾いた。

 

涙って、こんな綺麗に落ちるんだな…。

 

自分が1番ビックリだよ。

 

心配そうに、そして少しだけ不安げにオロオロとする三浦は、ポケットから取り出したハンカチを俺に渡すか渡すまいかとあたふたあたふた…。

 

オカンかよ…、変わらねえな、コイツは。

 

 

「…欠伸だよ。少し眠気が荒ぶっただけ」

 

「そ、そう。…ふ、ふん!男が欠伸とかすんなし!」

 

 

なんでだよ…。

男だって欠伸くらいするわ。

 

三浦はそれだけ言うと、何事も無かったかのように自席へと戻った行った。

 

ああ、周りの目が痛い。

 

女に泣かされた女々しい男だとか思われてんだろうな…。

 

 

 

はぁ、結局、夢の中でも俺はぼっちになっちまうんだな…。

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

教室にF組の面々が集まると、喧騒もひとしずく、直ぐにやってきた平塚先生の号令に静まった。

 

予想通り、先生によって配られた進路希望票。

 

見覚えのあるそれに、俺は何と書くべきか。

歴史の改変だとかを考えるならば、ここは専業主夫と書いて提出するべきなのだろう。

 

 

「……」

 

 

ここは夢だ。

ならルートを変えても問題あるまい。

 

いっそのこと、三浦の旦那とでも書いてやろうか…。

 

いや待て、それは流石に精神的な病を疑われる。

 

ここは無難に公務員か?

 

ふむ…。

 

でも俺、大学で専門色の強い研究室に入っちまうからなぁ…。

 

現実的、と言うか既定事実として研究員か?

 

むむむ。

 

と、頭を悩ますこと数分。

 

 

「おい比企谷。後はキミだけなのだが…」

 

「は?」

 

「10分で書けと言ったろ」

 

 

…進路舐めんなよ。

10分で今後の人生設計を建てろってか?

ふざけんな独身。

だからおまえは独身なんだ。

独身貴族め…。

 

 

「…なんだねその目は。まるで私が独身であることを馬鹿にしているような目だな」

 

 

っ!?

さ、察しが良すぎるだと?

 

 

「あ、いや…。放課後に出します…」

 

「ふむ。まぁ、よかろう」

 

 

納得してくれたのか、先生は俺の進路希望以外をトントンと教壇でまとめ、それを持って教室を出て行った。

 

それがホームルームの終わりだとばかりに、教室は先ほどの喧騒を取り戻す。

 

…ふぅ。

 

俺は一度ボールペンを置き、進路希望から目を逸らした。

 

それにしても、注意して周囲を見てみれば、由比ヶ浜なんかはチラチラと俺を見てる。

 

そりゃそうか、あいつは()()()()の件で、俺に謝る機会を伺っていたのだから。

 

 

「…バカなヤツ」

 

 

大きな溜息を一つ吐き、俺は同じルートを辿ってしまうであろう進路希望を書きなぐった。

 

これを提出して、反省文を書いて…、俺は奉仕部員になる。

そのうち由比ヶ浜も部員になって、一色も顔を出すようになって。

 

…はは、本当に、なんだって5年後の俺は三浦とあんなことになってんだろうな。

 

今からはまったく想像の出来ないはずの未来を思い浮かべて笑い飛ばす。

 

変わらねえよ、俺はさ。

 

そう思いながら、俺は進路希望票を持って職員室へと向かった。

 

 

「……」

 

 

 

仕切りに覗く、金色の視線に気付く事は無い。

 

 

 

 

 

 

✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎

 

 

 

 

 

 

2学年に進級し、クラス発表の用紙に()()()()()を見つけた。

 

彼と同じクラス。

 

あの時…、1年前のあの時、車に轢かれそうになった私を助けてくれた男の子。

 

勇気が無いためか、プライドが邪魔してか、あれから1年、私は未だ彼にお礼が言えていない。

 

言わなきゃ。

 

言わなきゃ…。

 

そう思えば思うほど、教室に一人きりで静かに佇む彼に近寄る事が出来なかった。

 

 

「…っ」

 

 

ただ、今年は逃げる事なんて出来ない。

 

同じ教室に彼が居るから。

 

善は急げと言わんばかり、私は急いで教室へ向かった。

 

建てつけの悪いスライド扉を少し乱暴に開け、まだチラホラとしか生徒の居ない教室へと入る。

 

…居た。

 

いつもみたいにアホ毛を揺らして。

 

謝る機会は今しかない。

謝れ、今直ぐ謝れ…、あーしっ!!

 

と、気付けば彼の近くを自慢の吊り目で通り過ぎていた…。

 

ぁぅ…、な、なんで謝れないんだし…。

 

あーしのバカ…。

 

 

「……わ、若い…」

 

 

…え?

 

今、なんて…。

 

 

「…なに?」

 

「…いや。なんでも。悪い…」

 

 

歯切れ悪く言葉を濁した彼を睨みつつ、捻くれたあーしは彼から目を反らすーー。

 

いや、反らそうとしたーー。

 

 

反らせなかった理由は彼の涙だ。

 

 

頬を伝う一筋の涙がすごく儚く、寂しげで、なぜだか直ぐに、彼を慰めてあげなきゃと思った。

 

あーしはポケットから取り出したハンカチをオロオロと手に持ち、自らの涙を不思議そうに見る彼の前で佇む。

 

 

「…欠伸だよ。少し眠気が荒ぶっただけ」

 

 

ね、眠気が荒ぶるってなんだし…。

 

変なヤツ…。

 

アホ毛をゆらゆらと揺らしながら、少しだけ大人びいた彼の横顔を見つめる。

 

なんだか少しだけ可愛い…。

 

 

 

彼との邂逅を終え、自席に戻る足取りはふわふわとしていた。

 

 

 

まるで。

 

 

 

「…夢の中みたい…」

 

 

 

 

 


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