私はあんたの世話を焼く。   作:ルコ

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parallel -3-

 

 

 

 

 

 

 

「それでね、ココをピンクにして、文字を大きくするわけよ…」

 

「いや、おまえ…。これが奉仕部のホームページってこと忘れてないか?」

 

「忘れてないし。ほら、いっぱいご奉仕しちゃうよ♡って書いてあるっしょ?」

 

「だからそれが違うんだっての…」

 

 

相変わらずの木漏れ日が擽ぐる放課後。

覚めない夢に翻弄されつつ、俺は過去と違うre.ゼロから始まる学園生活を送っている。

 

 

「おし!これでホームページは完成だし!」

 

「…これじゃあ風俗のホームページになっちまうだろうが」

 

 

そんな中で、奉仕部では明らかにおかしい風景が流れていた。

文庫本を捲る雪ノ下は黙認主義を貫き、三浦は三浦で黙々とホームページの作成に勤しむ。

 

ただ、三浦がピンクだの顔写真だのと言う度に雪ノ下が眉間に皺を寄せて俺を睨みつけるものだから、俺は仕方なくホームページの監修をするべく、三浦の後ろからノートパソコンを覗き込んでいるわけで。

 

 

「文句言うな!」

 

「文句じゃねえよ。はぁ、貸せよ。俺が作り直して…、って、なんでおまえ、自分の顔写真載せてんだよ!?」

 

「うぇ?部員紹介とか良くやるっしょ?」

 

 

だからと言ってなぜピースで目を隠す?

もう何回も言っているが、あえてもう一度言わせてくれ。

 

 

「風俗かよ!!」

 

「!?」

 

 

これじゃあ部員紹介じゃなくて、本日の出勤嬢リストだろ…。

俺はホームページのサイトから削除依頼を送り、それは直ぐ様に実行された。

 

本当に削除しますか?

 

当たり前だ…。

マウスを動かし『はい』をクリック。

 

 

「ああ!あーしの作ったホームページが!!」

 

「…はぁ。おまえさ、もう少し頭使えないの?ネットに顔写真をばら撒くなんて狂気の沙汰だぞ?」

 

「ぐっ…、べ、べつに手で顔の半分は隠してるし…」

 

「制服も金髪も写ってんだよ。…何かに悪用されてからじゃ遅いだろ」

 

「ぅぅ…。も、もしかしてヒキオ、心配してくれてるの?」

 

 

いつものように…。

いや、俺が良く知る三浦のように、俺の目の前にいる高校生の三浦は不安気に上目遣いで尋ねる。

 

俺はこの顔を知っている。

 

料理で失敗したときや、間違えて俺のゲームのセーブデータを消した時に見せる三浦の顔だ。

 

 

「……心配だよ。おまえの頭がな」

 

「な!?」

 

 

素直に言ったところで、この三浦は俺を好きにはなるまい。

葉山と言う防護フィルターが居る以上、三浦の小指に嵌められたピンキーリングは外れないのだから。

 

 

そっと、俺は溜息を吐くついでに雪ノ下へ声を掛ける。

 

 

「なぁ、雪ノ下」

 

「なにかしら?」

 

「ホームページはともかく、流石に依頼が無さすぎじゃないか?」

 

「良いことじゃない。悩める生徒が少ないのだから」

 

 

青臭い事を言うなよ。

思春期の高校生に悩みが無いわけがない。

それは恐らく、雪ノ下にも分かっているのだろう。

ただ、自ら赴き、悩む生徒に手を指し延ばすのは奉仕部の活動信念ではないのだ。

 

だが、俺は知っている。

 

ひどく冷たい一人ぼっちの雪ノ下も、実は誰かと戯れる事を望んでいる。

 

ほんの少しだけコミュニティーケーションの能力が低いだけ。

 

それを除けば、彼女もただの高校生なのだ。

 

 

「…はぁ。思春期と言うか、もはや高二病だよな」

 

 

「「?」」

 

 

俺の小さな呟きは2人に聞かれることなく風にさらわれた。

 

そういえば、こっちの世界では平塚先生に競走だのと言われなかったな…。

 

だったら、こうやってまったり部活動と言う名の青春に浸るのも悪くないのかも。

 

 

と、俺らしくない事を考えていたときにーーー

 

 

「あの、此処が奉仕部であってる?」

 

 

小さな羽を背中に生やした麗しの天使が現れた。

 

あれ?

 

天使?

 

いやいや…。

 

ん?やっぱり天使だ…。

 

 

「あ、比企谷くんって奉仕部だったんだね。良かった、知り合いが居て。ほっとしたよ」

 

「…っ、ご、ごほん。戸塚…。どうしたんだ?こんな捻くれ者の吹き溜まりに来て」

 

「「む」」

 

 

三浦と雪ノ下が揃って俺を睨みつけるが、もはや天使の前で覚醒した俺に、その程度の嫌悪を込めた視線は届かない。

俺は2人を無視して、戸塚のために席を用意し座るよう促した。

 

 

「あ、あの…、平塚先生に聞いたんだけどね…。ここって生徒の悩みを解決してくれるんだよね?」

 

 

あぁ、その通りだよ。

やっぱりどこの世界線であろうと、天使は奉仕部にやってくるんだな…。

 

俺は頬を緩ませつつ、居づらさからか背筋をピンと伸ばす戸塚の肩に優しく触れた。

 

 

「その通りだ。北は北校舎から南は南校舎まで、東奔西走に迷える高校生を救うのが俺たち奉仕部の信念だからな」

 

「ひ、比企谷くん…」

 

 

戸塚は頬をほんの少しだけ赤く染め、潤んだ瞳で俺を見つめる

いやん、トッティーめちゃくちゃ可愛いんだけど…。

本当に()()()()()()()()戸塚ルートに邁進していたところだぜ。

 

ふと、そんな俺と戸塚の空間を邪魔するように、冷酷なお姫様と獄炎の女王が揃って口を挟んだ。

 

 

「「セクハラ」」

 

「な、何を言ってやがる。これのどこがセクハラか。むしろお前たちの名誉毀損を疑うレベルだろ」

 

 

同性の身体を触ってセクハラになるわけないだろうに。

そう言い返しながら、俺は戸塚の頭を撫でてやる。

 

 

「ぁ、ぁぅ…、ひ、比企谷くんって、結構、大胆なんだね…」

 

「と、戸塚?何を…」

 

 

甘い香りと優しい体温。

変わらぬ天使力を発揮する戸塚は、男同士の戯れ合いでは見せない()()()を俺に向けた…。

 

あれ?

 

なんか何時もより身体が柔らかいような…。

 

それに、ジャージ姿だったから分からなかったけど、お胸に微かな膨らみがあるような…。

 

あ、あれれ?

 

 

「…と、戸塚。おまえ…、もしかして…」

 

 

本物の女になっちゃったの?

 

などとは聞けない。

 

俺は咄嗟に戸塚に触れていた手を離して考える。

その際に見せた、戸塚の残念そうな顔が俺の胸を酷く苦しめるも、この別世界における常識の違いに再度熟考を広げた。

 

 

コレは俺の夢の世界だ。

 

あり得ないことが起きてもおかしくない。

 

現に、三浦は奉仕部にいるわけだし。

 

……。

 

ってことは…。

 

 

「あ、あの、付かぬ事をお聞きしますが、戸塚は女性専用車両についてどう思う?」

 

「ふぇ?ぼ、僕はすごく助かってるよ?やっぱり満員電車だと男の人とすごく密着して怖いし…」

 

「ほ…。そ、そうだよな。戸塚は可愛いしな…」

 

「っ、も、もう!急に何を言い出すのさ!」

 

 

男って…、怖いもんね…。

 

うねうねと恥ずかしそうに身体を縮こませる戸塚から距離を取り、俺は改めて戸塚の身体をマジマジと見つめた。

 

……ある。

 

お胸さまが…。

 

微かだけど確かにそこにはお胸が付いていらっしゃる。

 

推定でB。

つまりは雪ノ下よりも大きい立派な胸が…。

 

 

「…は、ははは…、こんな、映画みたいな事って…」

 

 

確信した。

 

勘違いしていたのは俺だ。

 

セクハラだなんて言われてもしょうがないじゃないか。

 

なんせ。

 

 

戸塚の性別が……

 

 

 

「夢の中で、入れ替わってる…」

 

 

 

…これ、どこの君の名は?

 

 

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

 

 

で。

 

戸塚(女)の依頼は女子テニス部の復権だ。

つまりは俺の知ってる戸塚の依頼とほぼほぼ変わらない。

 

 

僕は、皆んなを引っ張れるような強いテニスプレイヤーになりたい…っ!

 

 

そう呟いた戸塚に、俺は少しだけ緊張感を覚えながらも依頼を受けたのだが…。

 

この依頼はぶっちゃけ直ぐに解決できる。

 

なんせ、鬼軍曹雪ノ下に、体力おばけの三浦がこちらに揃っているんだから。

 

あの時に障害となった葉山グループだって、この世界じゃこちらに三浦が居る以上、手を出してはきまい。

 

そう思い、俺は早速その日の放課後から戸塚の練習を手伝う旨を伝えたのだが。

 

 

「じゃ、雪ノ下は練習メニューの考案な。三浦は戸塚の練習相手」

 

「…貴方の指図を受けるのは癪だけど、まぁそれが妥当案かしらね」

 

「あーしもテニスはスーパー得意だから異論はないし」

 

「…物分かりがよろしいことで」

 

 

谷も山も無い…。

 

なんだこの奉仕部。

パーティーのバランスが良すぎて、難なく依頼をこなせそうなんだけど…。

 

 

 

「じゃ、じゃあ、テニスコート行くか…」

 

 

.

……

 

 

 

「あ、おーい!比企谷くーん!」

 

「待たせたな」

 

「ぜんぜん待ってないよ!僕も今来たところだから!」

 

「っ…」

 

 

短いスカートのテニスウェアに着替えた戸塚が、可愛らしい笑顔を満面に貼り付け俺たちを迎えてくれる。

 

ジャージ姿で良かったのになぜ着替えて来たの?

 

そんなに俺の心を揺さぶって、この子はどうするつもりかしら…。

 

それに、さらっと俺が生きてる内に言われたいセリフの第3位である『今来た所だよ!はーちまん!』も言ってくれたし…。

 

 

ふと、俺は三浦を見つめる。

 

 

「な、なんだし」

 

「いや、なんでも…」

 

 

いつだったか、俺はアイツと待ち合わせした時に言われた言葉『遅いし!あーしが来た時が集合時間だかんね!!』を思い出していた。

 

本当にさ、同じ生き物なの?ってくらい戸塚は天使だよな。

 

何かとぷんぷん怒鳴り散らす金髪とは違うぜ。

 

 

「…まぁ、そんな所に惚れたってのもあるけどさ」

 

「さ、さっきから何だし!あーしの顔に何かついてる!?」

 

「うん、付いてるよ。怒り狂った表情がね」

 

「な!?あんたぶっ潰すよ!?」

 

 

やはり激おこな三浦は間違っていない。

俺はそんな三浦を放っておき、雪ノ下に声を掛けた。

 

 

「雪ノ下、練習メニューはもう出来てるのか?」

 

「もちろんよ。私が幼稚園の頃から受けていた帝王学を含ませた完璧な練習メニューを作ってきたわ」

 

「…あぁ、そう」

 

「戸塚さん。この練習メニューをこなせれば、貴方は間違いなくインターハイに出場できるわ」

 

 

ふふん!と、雪ノ下は無い胸を張ってA4の紙を掲げる。

 

 

短距離ダッシュ100本

 

ランニング100キロ

 

素振り1000回

 

腕立て腹筋スクワット、体力が尽きるまで

 

エアKさんと練習試合

 

……etc

 

 

「悪・即・斬!!」

 

「あ!私がせっかく作った練習メニューが!」

 

「期待しちゃいけなかったか?おまえはもう少し出来る子だったろ?」

 

「な、なんて事をするのよ!」

 

 

俺が破り捨てた練習メニューを涙目になりながら拾う雪ノ下が、キッと目付きを鋭くさせて睨みつけてきた。

 

……おかしい。

 

主に雪ノ下の頭が…。

 

性格はそのままに、知力だけが由比ヶ浜に成り果てているじゃないか。

 

 

 

 

「と、戸塚、まずは準備運動から始めようか。バカ2人は球拾いな」

 

 

 

 

 

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