私はあんたの世話を焼く。   作:ルコ

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「「勉強?」」

 

 

と、奉仕部の部室で声を揃えて首を傾げる三浦と雪ノ下。

依頼なんてのは勿論なく、ただただ各々が暇を潰すだけの部活動の最中に、俺はカバンを机に置きながら彼女らに尋ねた。

 

 

「ああ。もうすぐ中間考査だろ?」

 

「ぷーくすくす!中間考査よりも先にゴールデンウィークがあるし!そっちの準備のが先っしょ!」

 

「ふふふ。今年は夢の7連休と聞くわ。胸が踊るわね」

 

 

…このバカチンがぁ。

連休明けたら直ぐにテストでしょうが。

進学校の生徒なら、2年のこの時期から受験を視野に入れて勉強しろよな。

 

 

「あっそ。それじゃあ俺は勉強したいから図書室行くわ。何か依頼が来たら伝えてくれ」

 

「え!?ちょ、勉強ならココでもできるし!なんでわざわざ図書室に行くの!?」

 

「…おまえらがうるさいから」

 

「わかったわかった。静かにするから」

 

「もうさ、その金髪が目障りなくらいにうるさいんだわ」

 

「あんたぶっ潰す」

 

 

などと言い合いながらも、俺はカバンを持ち直し、部室を後にするーーー

 

ーーー後にしようとしたのだが。

 

 

ピコン。と、ノートPCから聞こえる電子音が、俺の足を止める。

 

それがメールの受信音だと気付くと、雪ノ下はゆるりとノートPCを操作しメールを確認した。

 

 

「い、依頼だわ…っ!」

 

「なぜそんなに狼狽える…」

 

「…ご、ごほん。久しぶりの依頼に少し気が動転してしまったわ」

 

 

雪ノ下は慌てた様子でメール画面を読み上げる。

 

曰くーーー

 

 

 

中間考査で良い点を取りたいのに勉強ができません。

 

どうしたら良いでしょうか。

 

事前にテスト問題が分かれば幸いです。

 

 

 

ーーーあざと可愛い後輩より

 

 

 

なんだこのバカっぽい依頼メールは。

事前にテスト問題が分かれば皆んな幸いだわ。

 

はいはいイタズラ乙。

 

あざと可愛いとか笑止!って感じですわ。

 

俺の知り合いの方があざといし可愛いっての……。って、こいつ一色じゃね?

 

 

「これは無視だな。それじゃあ俺は図書室行くわ」

 

「待てし!依頼は依頼でしょ!奉仕部の信念を忘れたの!?」

 

「そうよ。どんな難問にでも挑む。それが私たち奉仕部じゃない」

 

 

…くそくだらねぇ時ばかり意気投合しやがって。

なんだってこいつらはいちいち依頼に乗り気なの?

もっとさ、選ぼうよ…。依頼。

 

 

「バカからの依頼だし、バカ2人の方が解決出来るかもしれん。頼むぞ、バカ2人」

 

 

「「!?」」

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

 

そして、バカ2人との一悶着後に俺は図書室へ向かったわけなのだが、廊下を鳴らすゴム音に懐かしみを覚えつつ、部室で紅茶を飲み逃したために乾いた喉を潤すべく、自動販売機へと立ち寄ることにした。

 

内臓がさ、訴えてんだよ…。

 

五臓六腑にマッ缶の液体を巡らせてくれってな。

 

 

「…マッ缶マッ缶と…。うお、120円じゃねえか…。増税前のマッ缶か…、貴重だな」

 

 

ピ、がこん。

 

俺は取り出し口からマッ缶を救い出し、すぐさまにそのプルタブを開けた。

 

図書室は飲食が禁止だからな、ココで飲んでしまわねば…。

 

木陰が掛かるベンチに座り、俺はマッ缶を傾ける。

 

んく、んく…。

 

 

「…ふぅ。うまい。120円のマッ缶」

 

 

と、俺が飲み終えた缶をゴミ箱へ放り投げた時、すれ違うように自動販売機への来客者が現れた。

 

その来客者はこちらに気付いている様子はなく、先ほどの俺と同様に自動販売機の前に立ち尽くす。

 

 

「…ぁ、120円だ。…安いなぁ」

 

 

そう呟くと、特徴的なお団子頭を左右に動かし品を選ぶ。

 

悩んだ末に彼女が押したのはマッ缶。

 

良いチョイスじゃないか。

 

 

「ん…。うぇ…、やっぱり甘過ぎ…」

 

「神聖なるマッ缶信者には堪らん甘さだろ?」

 

「っ!?」

 

「よう。由比ヶ浜」

 

 

ビクッと肩を震わせて、由比ヶ浜は俺の呼びかけに振り返る。

片手に持ったマッ缶の縁が太陽に反射し鈍く光った。

 

 

「ひ、比企谷くん。…どうしてここに?」

 

 

ふむ。どうしても何も、自動販売機の前にいる理由はおまえと同じなのだが…。

 

 

「マッ缶を買いにな。それにしても、由比ヶ浜もマッ缶が好きだったなんてな」

 

「あ、うん…。好きって言うか、ちょっと試しにね…」

 

 

長い付き合いだが、由比ヶ浜がマッ缶を好んで飲んでいる姿は思い出せない。

まさか、こちらの世界ではマッ缶信者だったとは…。

 

 

「そうなのか…。ていうか、由比ヶ浜は放課後に校舎で何をやってたんだ?」

 

「ふぇ?私は、ちょっと中間考査の勉強をしようと思って」

 

 

それは意外。

バカな子の口から勉強だなんて言葉が出てくるなんて。

 

ちょっと感動…。

 

だが要領の悪い由比ヶ浜のことだ。

1人で勉強をしたところで、分からない問題に行き詰まり、頭を悩ませながら時間が過ぎていくだけ。

 

そして、人よりも少しだけ優しく、他人の事を考え過ぎてしまうから、分からなくても聞くことができない。

 

そんな由比ヶ浜を俺は散々見てきたから。

 

なんとなく、俺はそんな不器用な彼女に向けて言葉をかける。

 

 

「よし。それなら俺が教えてやるよ」

 

「えぇ!?」

 

「由比ヶ浜が1人で勉強したところで意味なんてないだろ?」

 

「なんでだし!」

 

「高2の勉強くらいなら幾らでも教えてやる」

 

「で、でも、本当にいいの?私、少しだけ覚えが悪いっていうか…」

 

 

知ってるよ。

おまえの物覚えの悪さには面倒を沢山かけられたし、それと同じくらいに助けられたから。

 

たくさんたくさん、俺は由比ヶ浜の事も知ってる。

 

クッキーが上手ずに作れなかった事も、文化祭で一緒に食べたパンケーキの味も、修学旅行で怒ってくれたことも、全部全部、俺は覚えている。

 

だからこういう時にこいつは、ほんの少しだけ遠慮をしながらもちらりちらりと俺を見て、もう一声、背中を押す言葉を待っているんだ。

 

 

 

 

「だから教えてやるんだよ。ほら、さっさと図書室に行こうぜ」

 

 

「…え、えへへ。うん!」

 

 

 

 

.

……

………

 

 

 

で。

 

由比ヶ浜を連れて図書室へやってきたのだが、オープンスペースに配置される4人がけの机は先客に占領されていたため、俺たちは仕方なく、1人用の勉強スペースに2人で座る事にした。

 

ていうか、スマップが解散だの、次はセクゾだの、サッカー部の先輩にめっちゃカッコいい人が居るだの、その会話は図書室でじゃなきゃ出来ないの?

 

出来ればその机を俺たちに譲ってくれ…。

 

1人用のスペースに2人で座るのは流石に狭いのだ。

 

 

「た、たはは。狭いね…」

 

「本当にな。まぁ、俺は横で教えるだけだから。教科書が机からはみ出る事はあるまい」

 

「ぁぅ…、う、腕とか当たったらごめんね?」

 

「腕よりも胸を気を付けてくれ。俺は冤罪で捕まりたくない」

 

「あ、うん…」

 

 

と、こんな事を高校生に言ったらセクハラで捕まっちまうか?

などと気にするも、今は俺も高校生だ。

ある程度の冗談くらい、由比ヶ浜ならスルーしてくれるだろう。

 

 

「さて、それじゃあどれからやるか…。現文?古文?政経?」

 

「あ、やっぱり文系縛りなんだ…」

 

「数学も平均点を取れるくらいなら教えてやれるかもな。それじゃぁ、由比ヶ浜が1番苦手そうなモラルから始めるか?」

 

「なんで私の苦手科目がモラルなのさ!?ていうか!モラルなんて科目は無いからね!?」

 

「ははは。はいはい、それじゃあ英語から始めような」

 

「うぅ〜。比企谷くん意地悪!嫌い!」

 

 

…うん。ようやく由比ヶ浜らしくなってきた。

明るい彼女はやっぱり可愛い。

頬を膨らませて怒る姿なんてあの頃となんら変わらない。

 

俺は英語の教科書を開く由比ヶ浜の隣で、ただただ思い出を懐かしむ。

 

由比ヶ浜はノートにさらさらとボールペンで文字を書き込みながら、俺の教える英単語を繰り返し覚えていった。

 

 

「ポタト。ポタト。ポタト。へへへ、こうやって発音もしながら覚えるのが1番良いんだよね」

 

「ポテトね、それ。あと、ポテトなんて覚えなくていいから」

 

 

バカ可愛い。

どれ、単語を必死に覚えている由比ヶ浜のために英和辞典でも持って来てやるか。

 

そう考え、俺は由比ヶ浜に一言伝え、曖昧な記憶を頼りに図書室内で英和辞典を探す。

その際にチラリと4人がけの机を見るも、そこには変わらず下らないスイーツな話で盛り上がる生徒が占領していた。

 

 

「私ぃ、サッカー部のマネになろうかなぁ」

 

 

…あれ?あいつ一色じゃん…。

 

あのバカ、奉仕部にあんな依頼メールを送ってきやがったくせに、自分は図書室でガールズトーク(笑)に興じてんのか。

 

教えてやりたいよ。

 

そこにいる友達は、半年後におまえを生徒会長にするべく悪行を働くんだぜ。

 

 

「…南無…」

 

 

俺はそんなスイーツ女子に背を向け英和辞典を探し始めた。

多くの本棚に並ぶ多くの本に囲まれ、どこか空気が静かに流れる空間を歩き回る。

 

辞書、辞書、辞書…っと。

 

お、この列か?

 

 

「…あった。この紙の香りと分厚さ…、最強だな」

 

 

と、俺が大きな辞書を本棚から取り出すと、背後から掛けられる1人の声。

 

 

「あのぉ、さっき私のこと見てましたよねぇ?」

 

「……」

 

 

一色いろははあざとく首を傾げ、辞書を片手に佇む俺に声を掛けてきた。

 

茶色い髪は、俺の知ってる一色よりも少しだけ短い。

 

ただ、やはりそのあざとさに変化はないようだ。

 

 

「…見てねえよ。てか、おまえの初出は半年先のはずだが…」

 

「は、初出?なんのことです?」

 

「….あざとい」

 

「!?」

 

 

いちいち首を傾げるな。

他人の目を気にして可愛いくあろうとする悲しきピエロめ。

おまえの本性なんて既にバレバレなんだよ。

これから先、結構面倒見てやるんだから敬えバカ後輩。

 

 

「…じゃあ、俺はこれで」

 

「ま、待ってください!…は、ははぁ〜ん、もしかして先輩、私の事が気になってる感じですか〜?でもごめんなさい。なんだ目がイヤラシイくて気持ち悪いので無理ですごめんなさい」

 

「はは。懐かしいな」

 

「むう!懐かしいってなんなんですか!」

 

 

懐かしいもんは懐かしいんだよ。

 

俺はわざとらしくため息を大きく吐き出し、一色の横をすり抜けて由比ヶ浜の元へと戻る。

 

おまえと知り合う半年後。

あの生徒会選挙の日まで、俺はこんな夢に振り回されてるわけにはいかないんだよ。

つまり、一色の出番は無いわけだ。

だからこんな所でどんな会合を経ようと関係がない。

 

 

 

「…おまえも、勉強しておけよ」

 

 

「……。変な人…」

 

 

 

 

 


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