女子化日記   作:こぞう

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12.女子会

 

 買い込んだ缶酎ハイやらビールやらがガチャガチャと袋の中で音をたてている。ビニール袋が指に食い込んで痛い。二人で飲むにしては買いすぎたかと多少後悔しながら俺の、もといくろちゃんの部屋へと急ぐ。やっとのこさ辿り着いてみると呼び鈴を鳴らすのとほぼ同時にドアが開いた。

 

「いらっしゃいませ!すみません、買い出しお任せしてしまって。やっぱりわたしもご一緒すればよかったですね」

 

 全然平気だよと、早足でキッチンまで進みようやく荷物をおろす。どうやらくろちゃんは酒のあてを作ってくれていたようで、部屋には香ばしい匂いが立ち込めていた。

 

「へぇ、くろちゃん料理できるんだ」

 

「独り暮らしを始める前に母に少しだけ習ったんです。もうできますからどうぞ座ってて下さい」

 

 相変わらず整理整頓された部屋は男の俺にしてみれば多少居心地が悪いのかもしれない。よくよく考えてみれば女の子の独り暮らしの部屋に俺はいるのだ。いくら相手がくろちゃんとは言え無意識に緊張してしまっているのかもしれない。

 

「すみません、お待たせしました!」

 

 ほどなくして彼女は何皿かの料理を運んできた。俺とくろちゃんはとりあえずビールで!ということで缶ビールをぷしゅっとやって乾杯をした。くろちゃんは顔を歪めながらペロリと唇を舐める。

 それを笑いながら冷めないうちにと料理に箸をつけ感想を述べてみた。

 

「お口に合うかわかりませんが…………」

 

 自信無さそうに言う彼女に美味しいよと告げるとにっこりと笑ってくれた。

 

「あたしは全然料理しないからなぁ。ちゃんと自炊するのって偉いよね」

 

「続けられないと意味無いですけどね。早くもサボりがちですよ」

 

 そこでおすすめの定食屋や行き付けの居酒屋なんかを紹介しつつだらだらと話をした。くろちゃんはうんうんと頷きながら聞いてくれている。そこで彼女が缶にあまり口をつけていないことに気付いた。

 

「ビール苦手?」

 

「えっと…………わたしビール飲むの初めてです。…………あんまり美味しくないですね」

 

「じゃあ無理しなくて次の開けて良いよ?ちょうどあたしの空になっちゃったし、それもらうね」

 

「あ、そんな悪いです…………」

 

「いいんだよ、あたしビール大好きだから」

 

 彼女から缶とありがとうございますの呟きを受け取りグビッといく。まだほとんど減っていないビールは炭酸も若干抜けてぬるくなっていた。

 くろちゃんはすでに顔を真っ赤にして溶けそうな目元で俺を見つめていた。

 

「あ、あの!やっぱりわたしもう一口だけ飲みます!」

 

 半ば強引に奪い取るように彼女は喉を鳴らした。ぷはーと大きな息を吐き出し

 

「…………少し美味しく感じました」

 

 泣きそうにそう言った。

 

「あの、ところであゆむさん。この前一緒にいた男の人ですけど…………」

 

「大地のこと?」

 

「はい。あの…………彼氏さんですか?」

 

 端からだとそう見えるのだろうか。この質問も何度目だろうとうっすら苦笑いがこぼれた。

 

「違うよ、ただの幼馴染み。付き合うとかは100パーセントありえないなぁ」

 

「じゃ、じゃあ彼氏さんとかいるんですか?」

 

「いないいない。興味ないもん」

 

 だって俺、男だしと言いそうになってやめる。

 

「そうなんですか!…………よかった」

 

 くろちゃんは缶酎ハイのタブを押し上げてまた少し口に含んだ。

 なぜそんなことを聞くのか。もしかしてこの子、大地に好意があるのか?と底知れぬ不安が心をよぎる。

 

「あの、くろちゃん?大地はやめといた方がいいよ」

 

「はい?」

 

 キョトンとした反応を伺い、違うのなら良いんだけどと付け加える。万が一大地に惚れても悲しい結果になるだけだし、何よりなんとなく腹立たしい。しかし彼女の表情から察するにそれは杞憂だったようだ。

 

「くろちゃんは恋人とかいないの?」

 

「い、いないですよぉ!わたしずっと女子校だったんでそんなの縁も所縁もないです!」

 

 おぉ、なんとなく女子トークっぽい。これが女になった醍醐味であろうか。男同士で下世話な話をするよりよっぽど楽しいぞ。

 

「じゃあじゃあ好きな人は?」

 

「えぇー…………好きな人はいないですけど、気になる人なら…………」

 

「なんだいるんじゃん!どんな人?」

 

 俺も少し酔いがまわってきたのか調子に乗ってみる。

 

「えっと…………すごくかっこよくてですね…………頼りになって優しくて…………ああぁわたし何言ってんだろ、恥ずかしいです…………」

 

 アルコールも相まってかどんどん顔が赤くなる。こんな可愛らしくて良い子にそんな風に思われるとは羨ましいヤツめ。嫉妬と嬉しさが入り交じってどちらかと言うと父親としての心境に近いのかもしれない。

 

「でもわたし、恋人どころか人を好きになったこともないのでよくわからないんです。あゆむさんは美人だし、かっこいいし優しいし、すごくモテそうですよね…………」

 

「いや、ここだけの話、あたしも人を好きになったことって実はないんだよね」

 

 一番思い当たるのは弥生さんであるが、恋心とは少し違う気もするし、今となってはそんな感情も180度回転してしまっているからこの言葉に嘘はない。モテてるかどうかもよくわからないし。

 

「意外過ぎます!いいなぁ、わたし自分が嫌いで、あゆむさんみたいになりたいです。チビだしこないだも中学生と間違われちゃったし…………」

 

 変な男に付きまとわれるし。

 

「あたしはすごく可愛いし優しいし、そんな風には思わないけどな」

 

 くろちゃんは顔を背けてまたありがとうの言葉をこぼした。

 

「え、えっと…………すみません、酔っぱらっちゃったみたいで、ダメですね、まだ少ししか飲んでないのに…………」

 

 あくびを見せるくろちゃんは目尻を擦りながら笑った。

 

 

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