女子化日記   作:こぞう

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13.ホットパン

 

「ねえ、お姉さん達何してるの?これからどこいくの?」

 

 本日三回目である。こんな地方都市にもナンパなんてするハイカラな男が結構いるもんなんだなと溜め息がでた。弥生さんは笑顔で小さく会釈をして足を止めることはしない。慣れっこなんだろう、たったそれだけでお誘いはお断りだとハッキリとした意思が俺にまで伝わってくるから不思議だ。俺はあからさまな嫌悪感を丸出しにしてしまうだけでこんな風にはなれないなと頭が下がる。

 

「柔良く剛を制すって言うじゃない?妙に反発したりするよりこうした方が早いのよ」

 

 流石である。

 出会いと別れの季節から少し過ぎた暖かい日、俺と弥生さんは町にパンケーキを食べに来ていた。誘いを受けた時は弥生さんにもそんな女の子らしいところがあるのだなと少し驚いたが、別に暇を持て余しているわけで断る理由もないからたまには良いかとついてきたのである。

 

「あら、あゆむちゃんったらあたしのことどんな人だと思っていたのかしら?」

 

「いや、なんとなくそう思ってただけで別に深い意味はないです。て言うか、あゆむちゃんは止めてくださいよ」

 

「いいじゃない?あなた女の子なんだしちゃん付けして呼んだって」

 

 キョトンとした表情はきっと演技だろう。

 

「なんならあたしのこと雫ちゃんって呼んでくれたっていいわよ?」

 

 ニヤリと笑う口許は演技ではないだろう。遠慮しておきますと丁重にお断りをしておく。

 

「あれ?おーいくろちゃーん!」

 

 人混みの中で小さな影を見つけ思わず声をかける。それに気づいた彼女は口を真ん丸に広げてリュックサックの肩紐を握りしめたまま駆け寄ってきた。

 

「こんにちはあゆむさん!偶然てすねこんなところで会うなんて!」

 

「ほんとだね!何してるの?」

 

「いえ、なんとなくぶらぶらしてました!あゆむさんはなにか御用事ですか?」

 

「あたしは先輩と遊びに来たんだよ。こちらは前のサークルの先輩で弥生雫さん」

 

「こんにちは。あゆむちゃんの先輩で弥生です」

 

「こ、こんにちは。あゆむさんのお隣に住んでいる黒川と言います」

 

 俺基準の自己紹介が終わったところで弥生さんが手の平を叩いた。

 

「そうだ、黒川さん今からお暇?パンケーキはお好き?もしよかったら一緒に行かない?」

 

 ナイスアイデアだ、流石弥生さん。

 

「え、いいんですか?お邪魔じゃないですか?」

 

「とんでもないよー。是非是非!」

 

 ありがとうございます、喜んで!と花開くくろちゃんの面影を脳裏に残しつつ、弥生さんに耳打ちをする。

 

「…………この子、俺の秘密知らないんでよろしくお願いします」

 

「大丈夫よ、まかせて」

 

 親指をグッと挙げてらしくないポーズに多少の不安を覚えながらも目的地に到着した。既に列ができており、主に若い女性やカップルが店の中で楽しそうに談笑している。

 

「俺…………あたしはパンケーキって食べたことないんでわからないですけど、なんでこんなに行列ができてるんでしょうね。全く理解できない」

 

「雑誌とかいっぱい特集ありますよね。なんとなく女の子っぽいからじゃないでしょうか?」

 

 くろちゃんも感嘆の声を混じらせている。

 

「いわゆるひとつの流行りよ。ブランドもののバッグや財布を持つのと意味合いはそんなに変わらないわ」

 

 何やら難しいことを言う弥生さん。

 

「ホットケーキと変わらない気もするんですけど。なんか小さい頃でも思い出すんですかね」

 

「根本的にはそんなに変わらないと思いますけど…………。フルーツとか生クリームとかたくさん乗ってて美味しいですよ」

 

「あゆむちゃんはあんまり女子力無さそうだものね。かく言うあたしも、女子力なんて言葉はあまり好きではないけれど。黒川さん、色々ご教授お願いします」

 

 お得意のエンジェルスマイル。

 

「とんでもないです!私なんかよりお二人の方が全然魅力的ですし…………」

 

 くろちゃんは顔を赤くしてブンブン手と首を振った。

 

「三名差までお待ちの弥生さまー、お待たせしましたー」

 

 若い女性店員に案内されて奥の窓際席に通された。そこには男だけで入るには敷居の高い雰囲気が広がっていた。

 

「うわ、弥生さんこれ水が酸っぱい味しますよ。悪くなってるんじゃないですか?」

 

「あ、あゆむさん。これレモンの風味がつけてあるんです。わりと普通です…………」

 

「え?そうなの?」

 

「教えてくれてありがとう黒川さん。あたしも今まさに店員さんに文句をつけるところだったわ…………」

 

 壊滅的女子力である。

 

「え、えぇっと、注文はどうしますか?」

 

 カルチャーショックにさいなまれる俺達を見てくろちゃんが言った。ホットケーキはバターとシロップで食べるものだと思っていたが、メニューには何やら難しい片仮名が並んでおり正直良くわからなかったので一番人気とかいてあるものを指差して注文した。

 ほどなくしてウェイトレスさんが頼んだものを運んできた。

 

「お、大きいね…………」

 

 塔のようにそびえ立つホットケーキと生クリーム。かけられた大量のフルーツシロップ。見ているだけで胸焼けがしてきた。

 

「わぁ、美味しそうですね!弥生先輩のパンケーキもすごく可愛いですね!」

 

 くろちゃんは目をキラキラと輝かせている。弥生さんは俺と同じ表情をしている。

 

「こ、これは一人一つずつ頼むものじゃなかったかもしれないわね、果たして食べきれるのかしら…………」

 

「結構いけるものですよ!私ももうお昼食べちゃいましたけど甘いものは別腹です!」

 

 たしかに周りの客も一人一皿ずつ目の前に並べている。これが女子と言うものか…………恐るべし。

 

「て言うか、弥生さんももしかしてパンケーキ食べたことないんですか?」

 

「あゆむちゃん、おしゃべりはほどほどにしていただきましょう」

 

 フォークとナイフをキラつかせながら弥生さんは俺に黙れと目配せした。よってこれ以上の追求はよしておく。

 

「おいしい!」

 

「ほんと、これはホットケーキとは違う食べ物ね。美味しいわ」

 

 くろちゃんはご満悦だ。遠足前日の子供のように笑顔を溢している。弥生さんも目を丸くしてモグモグしている。

 

「そうだね、美味しいね」

 

 ぶっちゃけ俺はホットケーキとの違いを見いだせずにいた。

 

「ね!あ、あゆむさんの一口いただいていいですか?」

 

 端からすればただの女子大生がキャッキャ言っているだけに見えるだろうが、なにぶん俺は男なので気恥ずかしさが残る。奥歯が溶けそうになるのを堪えながらようやく皿を空にしたときくろちゃんが言った。

 

「あの、あゆむさん。あの人、あゆむさんのお友達ですよね?」

 

 視線の先に目をやる。今まさに入店してきた人物、そこには信じられない光景があった。

 

「あれ、早乙女くんよね?」

 

 そこには大地がいた。

 

「隣にいる女の人は誰かしら?」

 

 前述したようにこの店は男だけでの入店には敷居が高い。店内には俺達のような女子の集団か、男がいたとしてもそれは女の子連れのカップルである。

 

「彼女さんですかね?」

 

 くろちゃんはまた目を輝かせて言う。こう言った話題が好きなのも女の子の特性のひとつなのだろう。

 俺はというと、困惑を隠しきれなかった。

 

「い、いや………そんなはずは………」

 

「そうよね、にわかには信じられないけれど、でも客観的に見てカップルにしか見えないわ」

 

 弥生さんも怪訝な顔をしている。

 

「い、いや、ただの女友達でしょう」

 

 自分で言っておきながらその可能性はほとんど無いことを俺は知っている。あいつに異性の友達なんて、そんな話聞いたことがないからだ。

 

「…………あゆむさん、なんか動揺してませんか?」

 

 なぜかくろちゃんが不機嫌そうに呟く。

 

「え?そ、そんなことないよ?」

 

 そんな俺を見て弥生さんはニヤリと笑った。

 

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