「やっぱり風邪引いたときは酒に限るよな。奮発してちょっと良い焼酎買ってきて正解だったぜ」
二人で水割りをすすりながら深夜12時を回る時計の秒針を確認した。安静にしていろと言うくろちゃんの忠告に従えずに申し訳ないと少し眉を潜める。
確かに良い酒だけあって飲みやすい。酒は百薬の長とはよく言ったものだ。呑む度に何となく体調が戻っていくのを感じる。二人してちびちびと一升瓶を減らしていく。ペースはいつもに比べて非常に緩慢としたものだった。
「あゆむ、俺の言った通り腹出して寝てるから風邪なんか引くんだぞ」
早くも酔っぱらい気味の大地は愉快そうに笑う。まだそんなに飲んでいないにも関わらず、体調不良のせいか俺もいつもより酒の回りが早いようだ。
「一日寝てたからもうほとんど治ったよ」
熱も下がり、多少のダルさはあるものの朝と比べればほぼ完治に近い体調と言って良いだろう。さすがに寝すぎてもう瞼を閉じるのにも飽き飽きしていたから大地が来たのは良いタイミングであったと言える。
「お前さぁ、こないだ女の人とパンケーキ食いに行っただろ?」
大地は口に運びかけたグラスをテーブルに戻してすでに火照った顔を更に赤くした。
「……見てた?」
「見てたさ。何しろ俺もあの店にいたからな」
反して俺は一杯あおった。まるで水みたいなアルコールはするすると喉元を流れ落ちていく。
「俺の知らない人だったけど、アレ誰?彼女?」
「彼女なわけねぇだろ今更なに言ってんだあゆむ。ただのバイト先の人だよ。誘われたからついてっただけ」
「昨日聞いたとき、そんなこと一言も言わなかったじゃん」
「いや、だって恥ずかしいだろ。俺が女と飯食いに行ったなんて」
ふうんと俺は納得したふりをしてまた酒をつくる。大地は苦虫を噛んだように顔を歪めて沈黙を作り、しばらくして頭をガリガリと掻きむしりながらその沈黙を壊した。
「ちょっと確認したいことがあっただけだよ」
大地は一口でグラスを空にする。手酌をしながら氷も足さずにまた一度グラスに口を付けた。
「平たく言うと、あゆむが女になったことで俺の同性愛がなおったんじゃないかと勘違いしちまったんだよ」
申し訳なさそうに、ばつの悪そうに口元を歪めつつ大地は言う。
「なんかあゆむと、女になったあゆむと喋ってると俺も普通に女に恋愛感情を覚えられるような気がしてくるんだよ。っていうかまぁ……あゆむを利用して俺の性癖を矯正しようとしてみたわけだ」
そこまで言うと大地は足を正し頭を下げた。
「悪かった!すまん、謝る!この通りだ!」
なんだか俺は複雑な気持ちだった。
開き直っているようで大地も男が好きだと言うことにコンプレックスを抱いていたのだということがなんだかショックだった。いや、その事に全く気付いていなかった俺自身にショックだった。腹が立った。悲しくなった。
「いや、別に良いよ謝らなくても」
溜め息ひとつ吐き出して俺もグラスを空にする。
「……で、実際同性愛は矯正されたのか?」
「いや、これが全くだ。やっぱり男といた方が楽しいな。パンケーキってさぁ、ホットケーキの従兄弟みたいな感じなのに、なんで女はあんなに並んでまで食いたがるんだろうな?」
「だろ?大地もそう思うだろ?」
女ってやつはほんとによくわからねぇなと二人で笑った。