女子化日記   作:こぞう

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20.バカ5人

 

 肉を焼き野菜を焼き、食ってはまた焼き、酒を飲み、バーベキューとは良いものだ。安い肉でもこうやって食べるとどんな高級な肉よりもうまく感じるから不思議だ。まぁ、高い肉なんて食ったこと無いんだけど。

 

「ところでキッチョム、いつまでパンツ一丁でいるつもりだよ」

 

「服が乾くまでや。俺、着替え忘れてん」

 

 なんとも見苦しい。半裸で肉を貪る中年はなんとも見苦しい。

 くろちゃんは絶えず赤面しているし、火の粉が弾ける度に大袈裟にリアクションするこの男はなんとも鬱陶しいのだが、山火事になるよりはマシなので目を瞑ることにする。

 

「いやぁ、それにしてもやな、この大自然の中で肉を食い、女の子達に裸を見られながら飲む酒のなんと旨いことか!」

 

 お前確信犯じゃなかろうな?今すぐもう一枚皮を剥いで赤いつなぎを着せることも出来るんだぞ?

 

「街の真ん中じゃ裸にもなれないものね」

 

 弥生さんが的外れな相づちを打つ。大地も負けずにシャツを脱ごうとしたが俺が止めた。

 

「こんな可愛い女の子達に囲まれて、俺はなんて幸せ者なんや。早乙女もそう思うやろ?」

 

 大地はぶっきらぼうにそうっすねと返す。

 

「なんと言っても弥生は去年のミスキャンパスやしな!」

 

「えぇっ!?そうなんですか!?」

 

 くろちゃんがくわえていた肉をポトリと落としながら目を丸くした。弥生さんは顔を少し赤らめながら照れ臭そうに笑う。

 

「非公式なコンクールだけどね」

 

「それでもすごいです!お綺麗だなとは思ってましたが、本当にすごいです!」

 

 そもそもうちの大学にオフィシャルなミスコンは存在しない。だが、この非公式な大会は毎年とあるサークルが開催する文化祭の恒例行事となっているので信用には足る統計にはなっている。まぁ、弥生さんが優勝しているのだからそんな説明をせずともこのコンクールに異議を唱えるつもりもないし、そんなやつはいないとは思うが。

 

「最初は弥生も乗り気やなかったんやけど、俺の強い希望で出場することになったんや。推薦者として鼻高々やで!」

 

 まだお前か。しかし確かに彼女を推したくなる気持ちはわかる。こんな美人がいれば俺だって大会出場を勧めるさ。もし弥生さんが参加せずに別の誰かが優勝したとして、恐らく弥生さんは影のミスキャンパスなんて呼ばれることになっただろう。そうなったらその優勝者が余りに可哀想だしな。

 

「ところであゆむさんは出場されなかったんですか?」

 

「あ、あたしはそう言うのまったく興味ないし、弥生さんが出てるなら勝ち目がないもん」

 

 あわてて取り繕う。当時俺はもちろん男だったので出場権限はない。

 

「あゆむさんもお綺麗だから、きっと弥生さんとすごい戦いになってたと思いますよ!」

 

「おぉ、くろちゃんよ。俺も同意見だ!あゆむも今年は出てみたらどうだ?」

 

 勝手なこと言うんじゃねぇ!俺が悪目立ちしたらダメな立場だってお前もわかっているだろうが。

 くろちゃんは大地と意見が合致して不服そうな表情を浮かべる。俺は照れ臭さに缶ビールをあおって話題が変わるのを待つ。

 

「今年は勿論鈴木を推すつもりやで!黒川ちゃんもでてーな!三人で表彰台を独占したろーやないか!」

 

「わ、わたしは無理です!絶対嫌です!」

 

 俺だって嫌だ!

 

「二人が出てたらあたしは一番じゃなかったかもね」

 

 弥生さんまで悪のりをしだした。俺とくろちゃんは顔から吹き出た火を鎮火しようと二人して川に走った。

 

「ば、バカやめろ!キッチョムの二の舞になるぞ!」

 

 忠告が空を舞い、大地の言葉はそのまま現実となった。

 

「さ、さぶい……ちょっと着替えてきます」

 

 肩を震わす俺とくろちゃんは同時にくしゃみをした。二人してまだ病み上がりなのだからこんな無茶をするべきではなかったのだが、冷静な判断などできなかったのだからいたしかたない。ただ、くろちゃんを巻き込んだことは本当に申し訳なく思う。

 幸いなことに一泊の予定だったので着替えはあった。さっさと着替えてまた炭火で温まろう。

 

「あいや待たれいお二人さん、こんなこともあろうかと服を用意してきたんや。ちょっと待っとって」

 

 キッチョムが車から持ってきた紙袋を、酒と雰囲気と寒気で朦朧とした頭で受けとる。取り合えず早く着替えないとまた風邪を引いてしまう。いそいそと女子用ロッジに向かった。

 おおよそ5分後、着替えを済ませてバーベキュー会場に戻ってきた俺とくろちゃんから一言ずつ言わせてもらおう。

 

「なんでまたセーラー服なんだよ!」

 

「わたしは看護婦さんなんですけど……」

 

 何故か山奥のキャンプ場に制服女子高生とミニスカナースがいた。くろちゃんの衣装に関してはご丁寧に玩具の聴診器と注射器付きだ。

 つまるところキッチョムが用意した服はコスプレ衣装だった。律儀にそれを着る俺等もどうかしているとは思うが、なんとなく袖を通してしまった。俺がこの服を身にまとうのはこれで2度目だ。懲りないね、我ながら。

 

「いやぁ、この大自然の中でその衣装のミスマッチ……たまらんね」

 

 満足気に頷く変態助教授。こいつはこいつで半裸のままだ。貴様、自分の替えの服も持ってきていないくせになんでこんなもの車に積み込んでんだ。突っ込みどころは多々あるが、俺が取り合えず先に処理するべき事態は別にあった。

 

「なんで弥生さんも着替えてんですか」

 

 弥生さんは何故かバドガールの姿で肉を租借している。

 

「だってあなた達だけ可愛い格好するのずるいじゃない?二人とも凄く似合ってるわ」

 

 好き好んでやっているわけではない。あなたが一番際どい格好をしているのも腑に落ちない原因のひとつだ。別に彼女の格好が羨ましいわけではない。

 

「こうやって見ると一番グラマーなのは鈴木やな」

 

 ぶっ殺すぞ。

 

「あゆむちゃんもだけど、黒川さんのナース姿とても可愛いわ。今夜は一緒の布団で寝る?」

 

「や、やですー……」

 

 必死で短いスカートを伸ばそうと引っ張るくろちゃんの姿は確かにそそられるものがある。やはり女の子は恥じらう姿が一番可愛らしい……じゃない!この異様な光景でまともな突っ込みができるのは俺だけなのだ!俺がしっかりしなければ!

 おいキッチョム!前屈みになるな!

 

「……やっぱ俺も脱いだ方がいいか?」

 

 大地だけ普通の格好をしているのが逆に不自然だ。ヤツもヤツなりに気不味さがあるのだろう。

 

「おう!脱げ脱げ!」

 

 もう知ったこっちゃない。俺も疲れた!ツッコミは疲れた!俺だってボケ倒したいんだ!ただ、周りの奴等がバカすぎて俺が突っ込むしかないんだ!なんかもう色々面倒臭くなったぜ!

 水を得たように大地はTシャツを脱ぎ捨て、しかしズボンを脱ぐことは俺が許可しなかった。それが俺のアウトラインだ。

 

「あら……筋肉」

 

 弥生さんが呟く。や、やめろ、変な想像をするな。しかし、俺の心中を無視するかのように彼女はうっとりとした表情で更にボソリと言葉を漏らした。

 

「早乙女くんと吉良先生……アリね」

 

 無しだよ!

 

 

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