「どうしてそんなに花火大会が嫌なの?」
電車に揺られながら弥生さんが言う。なんとなく首を傾げてその答えを探した。
俺は人混みがあまり好きではない。
単純におびただしい人の波に酔ってしまうのもあるけれど、大多数が関心を寄せる何かのそのマジョリティになりたくないという捻くれた性格が起因しているのだろう。
行列のできる店には並びたくないしみんなが読んでいる漫画や流行りの音楽は嫌遠してしまう。花火大会もその一つだ。
「花火自体は好きなんですけどね」
弥生さんは唇を尖らせて頷く。隣のボックスシートでは大地とくろちゃん、そしてキッチョムが何やら熱い討論を交わし、その騒ぎ声が車内に響いていた。
「ちょっと、他の人に迷惑だから静かに話しなさいな」
弥生さん大先輩の戒めに3人ははーいと返事をする。誰が保護者かわかりゃしない。お
おいキッチョム、お前に言ってんだぞ。
「その白い浴衣もよく似合ってるじゃない」
弥生さんが俺の裾をめくる。
「ちょっと、セクハラですよ」
彼女の手の甲をピシャリと叩く。黒い浴衣に水色の花の柄が映えて、非常に目の保養になるが、やる事はセクハラオヤジと変わりない。
「いいじゃない。女の子どうしキャッキャウフフしても。
同性どうしなら安心でしょう」
「俺は男です!」
男性間を性的な目で見ている貴女には何の説得力もない言葉だよ。これは逆セクハラになるのだろうか?年上美人のお姉さんにこんなことされたら、普通の男ならイチコロだろう。
「あ!海ですよ!海が見えます!」
くろちゃんのあげた言葉に会話は打ち切られた。
車窓から青い海がチラリと見える。夕方に差し掛かる時間にもまだ太陽は高い。電車の中はクーラーが効いていて肌寒いくらいだが、外は炎天下。夏の終わりのイベントにも、まだまだ季節はゆっくりと過ぎている。
アナウンスが俺達の目的地である次の停車駅を告げる。乗客がざわめき出し、皆花火大会に向かう人々であるのだとわかった。
「うわ、駅からこの人混みか。みんな、はぐれんようにせないかんよ!あと痴漢に気をつけること!」
キッチョムがまともなことを言っている!?
「ちびくろ!お前が一番迷子になりそうだから気を付けろよ!」
「早乙女先輩こそ、全力で巻きにかかるので覚悟してくださいね!
さぁ、あゆむさん行きましょう!」
「巻きまくるわよ!」
くろちゃんが桃色の浴衣を揺らしながら俺の腕を取り駆け出す。反対の手は弥生さんが握っている。
慣れない女性用雪踏に足を取られながら走り出す。
「いやぁ、かしましい。実にかしましく素晴らしい!何時間でも見てられるな!なぁ早乙女!」
「ほんと、楽しい夏休みですよ」
背後で男共がしみじみと喋ったいるのが聞こえる。
「大地!キッチョム!置いてくぞ!」
振り向きながら立ち尽くす二人に呼びかける。
何だろう、乗り気じゃなかったけれど少しワクワクしてきた。これが祭りの、夏の魔力と言うやつか。
「本当に、こんな時間がずっと続いたら良いですね」
大地が小さく何か言ったような気がしたが、上手くは聞き取れなかった。