大きな道を渡ると屋台が所狭しと並んでいた。
夏祭りと花火大会を兼ねた今年最後の催しに、数え切れないほどの人が集まっている。
近くの神社で同日に夏祭りが開かれている為、食べ物以外の出店も数多く見られた。見世物小屋や簡易お化け屋敷なんかの看板もおどろに目に入る。
「まだ打ち上げまで時間があるし、出店を見て回りましょう!あゆむさん何食べます?」
くろちゃんの、まだ沈まない陽の熱で淡く火照った頬が眩しい。じんわりと汗ばんだ額が髪を濡らしている。
「俺金魚掬いやりたい!」
大地が手をあげる。
「今食べ物の話をしてるんですよ。早乙女先輩、金魚食べるんですか?」
相変わらず大地には辛辣なくろちゃんである。そしてそれを意に介さぬ早乙女大地。
「あゆむは焼きそばが死ぬほど好きなんだぜ!」
「いいわね焼きそば。ザ・夏祭りって感じで。かき氷もいいし、あ、ほら焼き鳥もあるわよ」
弥生さんもテンションを上げていく。
香ばしい匂いが混ざり合って賑やかな音楽と雑踏に酔う。
やばい、ヨダレが出てきた。
「フランクフルトがいい!太くてデカイやつがいい!」
キッチョムがテンションを上げる。
「買ってきたら?」
「ちゃう!女の子に食べてもらいたいんや!頬張って欲しいんや!」
だろうと思ったよ。しんでしまえよ。
「金魚掬いがやりたい!」
「チョコバナナ……いや待て、綿菓子で口の周りをベタベタにする女の子も捨て難いな……」
アホな男共を放っておいて人混みを歩く。途中で店で買ったジャンキーな味付けの氷菓子を舐める。
「あ!輪投げ屋がある!あゆむ、勝負しようぜ!」
大地に手を引かれ走る。鼻緒が指の股にきつく食い込んでもあまり気にならなかった。
輪投げに射的、金魚掬いで大地との戦績は2勝1敗。まさか金魚掬いで1匹も掬えずに負けるとは。
キッチョムが金魚に餌付けを始めた時点で出店を締め出されたから、この試合は無効だと思うんだけれども。
「ありがとうございます。本当にもらっちゃっていいんですか?」
大地が唯一掬い上げた小さな出目金を手にくろちゃんが言う。
「いいんだよ、どうせ大地世話なんてできないんだから」
花火の打ち上げが迫り、キッチョム曰く穴場の神社境内には既にたくさんの人が陣取っていた。どこが穴場だ。
「やっぱり祭りは良いもんだな!あぁ、こんな時間がいつまでも続けば良いのにな!いつまでもみんなでこんな風に遊んでたいよ」
大地が俺の隣でそう言った。
何故だろう。俺はその言葉に言い知れぬ不安を覚えた。今日という日が楽しくなかったわけではない。むしろ、来て良かったとさえ思える。
それでも、大地の言葉には素直に頷けないままでいた。
「それは同感ですけれど、あゆむさんの隣に早乙女さんは似合いませんよ!」
くろちゃんが俺たちの間に割り込んで来て、俺を見てにこりと笑った。
「相変わらずモテモテねあゆむちゃん。でも、私も両手に花が良い!」
今度は弥生さんが俺とくろちゃんの間に割り込む。
いつの間にか陽の落ちた空に蒸し暑い風が流れる。
アナウンス。皆空を見上げる。
一つ目の花火は紅く空を満たした。
「綺麗ですね!」
「綺麗ね」
2人は口々にそう言った。大地はアホみたいに口を開けて2つ目、3つ目の花火を目で追う。その横顔をじっと見つめて、俺は空に残る煙のような胸の靄を思い返す。
「どうした?体調悪いんか?」
キッチョムが俺の隣で呟いた。
「いや、ちょっと考え事してただけだよ」
「そうか、夜になっても熱中症とかなるらしいからしんどかったらちゃんと言いよ」
キッチョムも夜空を見つめながら言う。
それから花火が上がる度に皆が感嘆の声を漏らした。
今日一番大きな花火が空に咲いた時、キッチョムが言った。
「なぁ鈴木。男に戻る方法、教えたろか?」
次の花火はもっと大きく綺麗だったらしい。弥生さんとくろちゃんと、そして大地がわぁ、と声を上げた。
俺はキッチョムの言葉でその花火を見逃してしまったことを、強く後悔した。