「物欲センサーのせいか遭遇しなくなったな……。俺を追いかけてきた奴らもどこにもいないし」
『赤帽子』を上手く仕留めることが出来、その結果として落とされた剣を片手に洞窟内を歩んでいく。洞窟内は広く剣や槍を振り回すのに支障をきたすようなことはない。暗いは暗いのだがこの試験の時に『ダン総』側が用意した目薬型の魔法薬のおかげで夜目が利いているので問題もない。
「ちょっと落ち着いて現状確認しておくか……」
ドロップ品に目がくらみ冷静さを失っていたが獲物がいない事で多少は落ち着いてきた。とりあえずここら辺で立ち止まって何をするべきかを考えなおすことにした。
「転生の有無については、考えても仕方ないな。答えは出ない類の問題だろコレは。だから考えるべきは『ダン総』に入学するかしないか、これからどうするかだ」
実家である近衛家は今のこの世界におけるトップ企業と言える。そこの次男として生まれた現状はかなり恵まれているだろう。とはいえ兄から言われたとおり『ダン総』に入学できなければ俺は勘当されていく当てがなくなる。
「今の世界でまともなのダンジョン関連の仕事しかないしな……。というかダンジョンが関係しない仕事って殆どないだろ……」
この世界の俺の記憶からすると技術レベルは前世の日本と大差ない。違いはあるが総合的に見て生きやすい環境だとは思う。ただ前世と比べて
そして探索者とはダンジョンを攻略し、安全地帯を増やすことで人類の生存区域を増やす最重要職種と言っても過言ではない。なんせこの世界7割くらいモンスターに占拠されているのだから。日本も島国だから助かっただけで海の向こう側では酷いことになっているらしい。立地って本当に大切だよね。
「で、俺の第一希望としては探索者なんだが……。うん、これは譲れないな」
よくあるライトノベルとかだと探索者(or冒険者)になるのに資格は要らないとかあるがこの世界では俺にとってそんな都合のいい話はない。全ての探索者は日本全国にある『ダン総』の支部のどこかに入学しなければなれない。装備などを作る後方支援なら他にも学校はあるらしいが探索者になる道は一つしかないのだ。
そしてこの世界の娯楽のなさと
「となるとやっぱり最初の問題に戻ってくるな。こりゃもうドロップ品を目的としないでただ淡々とゴブリン共を狩るしかないか……」
『赤帽子』を討伐したことにより合格圏内に入ってはいると思うのだが念には念を入れておいた方がいい。これで入学できなかったら俺は今後の人生をまったく楽しめずに生きるしかなくなる。人口肉の晩餐しか楽しみがない生活はごめんだ。
その為に一旦物欲センサーをオフにする。ただ無心となりゴブリンを殺す機械になるしかない。未来の幸せの為に今は耐え難きを耐え、忍び難き忍ぶしかないのだ。
『ギギャ?』
「見つけたぞ
『ギャギッ!??』
そんなことを考えていたら目の前に一匹のはぐれゴブリンが現われた。追いかけられた時にあった恐怖は最早ない。むしろ追い掛け回された時の怒りが俺に力をくれた。ほら、『赤帽子』からドロップした剣も赤黒く光ってるし多分やれるだろ。
『ギャギャッ!!』
「クソが!!小さくて狙いづらいな!!!」
子供くらいの大きさしかない通常ゴブリンは棍棒を振り回して非常に危ない。この大きさであっても力は同じくらいの子供よりも強い。下手に頭に受けたりしたらそれこそ痛いでは済まないだろう。腕のバックラーで受け流しつつ剣を振るっても当たる様子はない。そりゃ剣なんてこのダンジョン入試で初めて使ったから仕方ないが。
「落ち着け、意表をついて殺すんだ……」
さっきは後ろから忍び寄り隙を突いて殺すという戦いとは言えないものだった。だから俺にとって初めての戦闘はこれだ。焦る気持ちがある。恐怖も再び湧き上がってきた。それでも『赤帽子』を倒したことにより得た経験値は俺を強くしている。決して勝てない相手ではない。
ゴブリンの振っている棍棒の動きも見える。避けられるし受けられる。腕のバックラーを振って棍棒を弾き飛ばし、一歩下がって距離を取る。頭の装備に『赤帽子』の落とした帽子を被ったことで所在失くし腰に付けていたヘルメットをゴブリンに投げつける。
『グギャ!?』
投げたヘルメットは見事ゴブリンの頭に命中した。思い切り投げたせいでヘルメットはへこみもう本来の用途では使えないだろう。だがそれを気にしている余裕は俺にはない。
「そ、こぉ!!!」
赤黒い剣を振りゴブリンを斬る。強化された肉体によって振るわれた剣はゴブリンを容易く切り裂く。よく切れるナイフでバターを切るかのようにスッと入り込み大した手応えもなくゴブリンを真っ二つに切り裂いた。
生暖かい返り血は非常に不愉快だが我慢するしかない。ゴブリンは二つになり地面に転がった。やがてその死体が光の粒子となって俺の中に入り込んでくる。また力が増した感覚がある。レベルアップとはこういうことを言うのだろうか。ステータス確認できるスキルでもあればいいのだがそんなのはレア中のレアだ。もちろん俺が持っているはずもない。
「はぁ……はぁ……、ん……?」
初めての戦闘、それによって肩で息をしながらもゴブリンの落とした小さい
「お、おおぉぉぉ……!!!」
拾い上げたそれは小さいネックレスだった。こんな所に持ち込む人間がいない以上これは間違いなくドロップ品だ。呪いの品かもしれない以上迂闊に着けるわけにはいかないがそれでも興奮で手が震える。物欲センサーをオフにした途端にこんな幸運なことが起きていいのだろうか。
「ひはっ」
口角が上がる。どうしようもなく笑みが浮かび上がる。この戦いの後の脱力感すら超越する興奮が更なるドロップを求め俺の身体を動かす。この世界の俺の記憶ではこんなに連続で
ドロップしないのならするまで続ければいいだけだ。周回だって数をこなせば必ず目当ての物は出る。出るまで回せば排出率100%のガチャ理論。そしてそれは決して間違いではない。
「狩り尽くしてやる、全部……!!」
モンスターはダンジョンが生み出している為消えることなどないのだが、それはそれで楽しみが延々とわき上がることを意味している。物欲センサーを消すとか無心で探すとかもう無理だと客観視している俺が判断する。欲望が俺を突き動かし足を早めた。走るのは無駄な体力の消費に繋がるのでしない。
だって疲れてたらドロップ品拾って持ち帰れないから。何を落とすのかを楽しみにしながら俺は次を探しに探索に戻った。ダンジョン入試のことはもう頭から吹っ飛んでたけど仕方ないね。