俺は斬り捨てたゴブリンに目もくれずに次の獲物を見定める。ここに来るまでにすでに『赤帽子』含む10体のゴブリンを切り殺してきた俺の身体能力は今やダンジョン入試が始まる前と比べたら遥かに高くなっている。最下級のモンスターに区分されているゴブリンと言えどほぼ一般人だった俺を強化するには十分すぎる経験値があった。
「よぉ……!!お前らは何かいいもの持ってんのかぁ?確かめさせてくれよ、なぁオイ!!!!」
『
「はわわ、はわわわわ!?」
事実感性がまともなであろう少女は目を白黒させて混乱していた。ゴブリンの巣に連れていかれる所だったのに助けられたと思ったらゴブリンを明らかに狩ろうとしている全身血濡れの赤な男が現われたのだから仕方ないけど。
『ウギャ!!ギャギャッ!!!』
『ギギッ!!ギャギィ!!』
「うるせぇぞ宝箱!!!ジャックポットしやがれオラァ!!!」
『ギっぎゃ!!?』
左手のバックラーで子供の背丈程度しかないゴブリンの顔面を殴り飛ばす。振りぬいた金属の盾は混乱していた上、小柄なゴブリンを吹き飛ばし岩壁に叩きつけるには十分すぎる。追撃しようと一歩踏み込もうとしたところをもう1匹のゴブリンが棍棒を振り回すことで阻止しようと俺の前に立った。
『ギギッ!!』
「うぜぇな!!まずはテメェか!!!」
お楽しみを邪魔されたことに怒り心頭のゴブリンに対し、俺もまた
奇襲により3匹の内1匹を仕留め、腕に取り付けたバックラーで殴り飛ばしたもう1匹も頭を揺らされていることで動けなくなっている。図らずとも上手く一対一の状態に持ち込めた時点で今の俺の勝利だ。
(やっぱり盾はあんまり好きじゃねぇな。殴るのに使えるのはいいけど衝撃が響くのが痛い。こういうのが嫌だから
このダンジョン入試に挑むまで俺もまた戦いの初心者だった。それにしては剣の振り方も盾の使い方も上手いのは生来の才能が関わっているだろう。それでもまだ慣れていない戦いだが続けていくうちにどんどんと慣れていく。さっきまでは受けていた棍棒の攻撃を盾で受け流すことで大きな隙の出来たゴブリンを蹴り飛ばす。
「後ろから突き刺せ!!」
「へ!?わ、分かりましたぁ!!」
蹴り飛ばしたすぐ近くにいた少女に指示を出し、少女は反射的にその言葉に従った。怒りによって俺しか見えていないゴブリンは体勢を崩していることもあって反応することも出来ない。背後を振り向くことも出来ずに少女にナイフを突き立てられて絶命する。
(一撃で急所刺すとかあの子怖いな……)
ドロップ品目当てに目を輝かせてモンスターに襲い掛かる俺一瞬冷静になるくらいには少女の流れるような暗殺術は静かで一瞬で見事だった。これも間違いなく一種の才能だろう。
「さぁて、あとはお前だけだなぁ……」
『ギュ、ギィ……』
残るはふらついているゴブリン1匹のみ。大した苦労もなく討伐することが出来た。こうして3匹のゴブリンは消えた。この入試に使用されているダンジョンの地区では最も危険であろう3匹の群れを始末した俺はズレた帽子を戻しながら激しく呼吸を乱している少女のもとに行く。
「よぉ、大丈夫だったか?災難だったな」
「はぁ、はぁ、はぁ……。助けてくれて、あ、ありがとう、ございました……」
戦いの時の荒々しさが消えたことで俺に対しての恐怖心も薄れたのか。それとも最悪の事態にならなかった安堵からか、あるいはその両方か。胸を抑えたまま激しく呼吸をしている少女に俺は持っていた水筒を手渡す。
「とりあえず飲みかけだけど水。いらなかったら別にいいけど」
「い、いただきます……」
カラッカラに乾いた喉は水分を求めていたのだろう。恐る恐る手に取った少女はその水筒の中の水を一口飲み、抑えが効かなくなって飲み干した。その後これは俺の物だったと思いだし顔を青くしてこちらを見る。表情がコロコロ変わって可愛らしいがそれよりも俺には優先するべきがあった。
「チッ。ドロップ品は確定の
この俺ドロップを確認しない訳もなくそこに転がっていた二つの魔水晶を確認して腰のポーチの中に仕舞う。最初の2匹以外ろくに落しやしないのはやはりこの世界にも物欲センサーがあるのかもしれない。
「…………。はわっ!?はわわわわわわ!!?!?」
「は?うぉ、おおおおおおおおおおおお!!!」
背後で少女が驚愕の声をあげたことで振り向いた俺は彼女の手の中にあるそれを見て同じく叫ぶ。それは俺が今一番欲していた物。魔水晶よりも貴重であり、ゴブリン程度を殺して手に入る確率はそれこそ万が一程度にしかない貴重な『スキルオーブ』を少女は手にしていた。
「あ、ああのあのあの!!?こ、こっこここここれ!!!?」
「スゲェなスキルオーブじゃねぇか!!!やっばい物拾ったなアンタ!!!!」
『スキルオーブ』はその名の通り人間がスキルを身に着ける為に必要な貴重品だ。一度しか使用できず、使ってしまえば砕けて砂になって消えていく。身に着けられるスキルはその人間の素質によって変わりランダム性が高いがそれでも間違いなく手札を増やすことが出来る。低位から高位まで全探索者が求める物。売り払えば一財産を築くことも出来るだろう。間違ってもこんな低層で手に入るようなものではない。
「で、どうするんだそれ?売るのか?それとも使うのか?」
「へ?こ、これあなたのじゃ……」
「いや仕留めたのアンタだし。ドロップ品に目はないけど他人のを奪う程飢えちゃいねぇよ。それはアンタのだ。どうするかはアンタ次第だな。言っとくけど俺は絶対受け取らないぞ」
「は、へっ……!?」
『スキルオーブ』はパーティー崩壊の理由になりうる貴重品だ。それを譲られるとは思っていなかっただろう少女は口をパクパクとさせながら信じられないものを見る目で俺を見つめる。だけど俺にとっては当然のことだ。
俺は確かにドロップ品を手にするのが好きだしその性能がどのくらいなのか知りたいし、実際使ってみて興奮したい。だがそれはあくまで自分の手で手に入れるからこそ価値があるものだ。彼女の手にする『スキルオーブ』は彼女が倒したゴブリンから出た物。それを俺が手にするのは俺のプライドと良心が許さない。
「ど、どうしよう、これ……」
少女は手に持った物を握り締めて悩んでいる。小声でつぶやいたのだろうが聴覚も強化されている俺には聞こえている。売ってしまえば話は簡単だ。『スキルオーブ』は高位の探索者でも欲しがるレベルのアイテム。間違いなく高値がつく。それこそこの世界でも人並み以上の生活を一生遅れるくらいには。
「……私、孤児院出身で……。まともな生活なんて探索者になるしか出来ないと思うくらい額も取り柄もないし。だから、さっきもゴブリンから隠れてて……」
俺に語り掛けているわけではない。ただ彼女が口にしているのは自分の覚悟を決める為の言葉だ。しばらくして顔を上げた彼女の表情は先程までゴブリンに襲われていた時のような泣きそうな物ではなく、覚悟を決めた探索者そのものだった。
「じゃあ、使わせてもらい、ます」
「おう。どんなのが手に入ったかくらいは教えてくれよな!!」
使うことを決めた少女はスキルオーブを握る手に力を込める。するとその意思に反応したオーブが赤く発光し、それが止んだころには砕けて砂になった。スキルは一人につき一つ、その切り札を少女は得た。
「これが、スキル……」
「それでどんなのだ?やっぱこう、影を薄くするような奴か?」
「ひ、酷い……」
スキルとはその人間の素質を異能にすることが多い。先程見た流れるような暗殺術から『気配遮断』のスキルを手に入れる可能性が高いと思った俺がそう聞くのも無理はないとも思う。もっともその才能に自覚のない少女には悪口にしか聞こえなかったのだろうけど。
「スキルは、えっと……『鑑定』だそうです」
「超大当たりじゃん俺とパーティー組もうぜ」
「はわっ!!?」
俺の急なお誘いに驚いた少女はもう慣れてしまった悲鳴を口から漏らすのだった。
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