ヒマリと共に走って辿り着いた先では修羅場が広がっていた。3m程度の崖の下では5人で組んでいるパーティーが20匹近いゴブリンに囲まれながらも逃げる隙を作り出そうと抵抗を続けている。
「あ、ああのあのあの!!?あ、あれヤバいですよね!?」
「おう、凄くヤバいな。というか本当にここ第一層か……?」
ゴブリンの数も多いがそれ以上にそれを率いている存在が不味い。通常ゴブリンは成体でも120センチ程度にしかならない。だが長く太い棍棒を振り回して群れのゴブリン達に指示を出しているそいつは明らかに身長が2メートル近くある。
詳しいことはヒマリに見てもらわないと分からないが恐らくはゴブリンの進化種であるゴブリンオーガだろう。見た目通り力が強くなっており、それ以上に凶暴性が高い。あれに捕まった人間は酷い目にあうこと間違いなしだ。
『グォオオオオオオオオオオオカイ!!!!!』
「クソッ!お下がりください殿下!!」
「ここは我らが食い留めます!!!アインとニールの二人は殿下について逃がすのだ!!」
「し、しかし周囲をゴブリン共に囲まれており脱出も……!!」
「諦めるな馬鹿者ッ!!それでもアーティラス王家に仕える者か!!!」
抵抗しているパーティーは見たところ外国人のようだ。ダンジョンが発生した影響なのか分からないが今や人間の髪色は色鮮やかになっているので外見だけで見分けるのは難しかったりする。
ただ今や日本と関係を持っている国は片手の指で数えられるくらいしかないはずだ。その中には殿下なんて呼ばれる人がいる政治形態の国はないはずなのだが。だがまぁ、彼らも年頃だからそういう事なのかもしれない。ロールプレイで勇気を出せるならそれはそれでありなのかもしれない。
「はーっはっはっはっ!!!ゴブリンオーガか!!!良いぞ!!余の冒険譚の幕開けに相応しい強敵ではないか!!!アイン、ニール!!余の背後を守れ!!!イアンとハロルドは雑兵の相手だ!!!楽しいなぁ、留学してきて正解だったぞ!!!!」
今まさにゴブリンオーガに飛びつこうとしている燃えるような剣を持っている金髪の少女があのパーティーのリーダーだろう。リーダーというかお姫様というか。多分周囲の人は護衛兼振り回される役割の人だと思う。
「殿下!!?下がってください殿下!!!下がれっつってんだろうがお転婆娘ェ!!!!」
「危なっ!!?あぶ、危ないって言ってんでしょうがアンタぁ!!!ヒェッ、髪の毛何本か持ってかれてるってばぁ!!!」
「誰かぁ!!!誰でもいい!!!このお転婆娘を抑えつけてゴブリンオーガを倒してくれ!!!この人に何かあったら俺達クビじゃすまねぇんだ!!!」
「介入出来る奴がいたら苦労しねぇよ!!!こっちもゴブリン共の相手で手一杯だ!!!!」
なんかゴブリンに囲まれてるよりお嬢様のお世話の方が大変そうに見えるのは俺の気のせいだろうか。いやしかし、あんな風にゴブリンオーガの懐に飛び込めるとか……羨ましい。いやもう我慢する必要ないんじゃないか。助けを求められてるし乱入しても問題はないだろう。よし行くか。
ガシッという音と共に俺の腕が取り押さえられる。下手人は一人しかいない。そちらを見ればジト目でこちらを見つめる少女が一人。
「……ヒマリ、何故俺の腕を掴むんだ」
「駄目ですよミナト君。今飛び出そうとしてましたよね。ゴブリンオーガ倒せたら何が出るか滅茶苦茶気になってますよね」
「当たり前じゃん」
「やっぱりぃ!!!!」
探索者になりたい最大の理由が色んなアイテムを拾って使いたいからだぞ。レアアイテムはレアモンスターが持っていると相場は決まっている。なら今すぐゴブリンオーガのもとに飛び込みたくなるのも当然と言えるだろう。
「それにだヒマリ。彼らは俺達と同じ受験生だろう。つまりここで彼らを見殺しにするというのは将来の学友を見捨てるに等しい。そんな後悔を抱えたままお前は『ダン総』に通うつもりか?」
「いえ別に私とは関係ない人達ですし。確かに見捨てるのは心が痛まないでもありませんけど最優先は自分と身内なのは当然ですよね?」
「ヒマリって俺が思ってたよりもドライと言うか強いんだな。逞しすぎてびっくりしたよ」
見た目は気弱なのに中身はこれとか女傑の才能もあるんじゃないだろうか。それともさっきゴブリンを後ろからぶっ刺したことで枷が外れたのかもしれない。俺はこの才能を世に解き放ってよかったのだろうか。
「まぁ待てヒマリ。俺の手には『小鬼殺し』がある。つまりゴブリンに対して強く出れるってことだ。ここでこれを使えばきっと彼らの助けになる。というかこんな話をしてる間にどんどんピンチになっていってると思うんだが」
下を見ればごく短い時間なのに包囲網がどんどん狭まっていっている。これ以上は流石に彼らもきついだろう。武器も槍とか大剣とか範囲が広いものを持っている人もいる。あの武器では味方が近くにいる時に振るうのにも苦労するはずだ。
「『小鬼殺し』の性能を確かめたいっていうのもありますよね」
「うん。滅茶苦茶使ってみたい。どれだけ効果があるのか実際見てみたい」
「はぁ……。私は上で全体の確認をしてますから行ってきてください。本当に危なくなったら声を掛けるのでそしたらすぐに崖を登って転移装置まで逃げますよ?ミナト君が逃げなかったら私が犠牲になると思ってくださいね」
「自分を人質にする辺り俺のことわかってるじゃん」
そこで俺に効果的な脅し文句を言える辺りよく人のことを見ている。そういうところがあるから『鑑定』のスキルなんてものが手に入ったのかもしれない。
「とりあえず見えたデータを確認しておいてください。戦ってる時に見る余裕なんてないと思いますから」
そう言ってゴブリンオーガを見たヒマリの目の前に奴のデータが現われる。こういう初見の敵にも対応できるようになるから『鑑定』は強いのだ。
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『ゴブリンオーガ』
HP:200/220
SP:0/0
【装備品】
『鬼の棍棒』
ゴブリンオーガの持つ棍棒。人型の相手に対し与えるダメージを10%上げる。
【戦闘技能】
『
使用後理性を失い身体能力を大幅に引き上げる。
精神的バッドステータスに対する抵抗値が上がる。
【スキル】
『なし』
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なんともまぁ、シンプルイズベストと言うか。単純に強くて対処が難しい奴だな。『小鬼殺し』の『恐怖』も無効化される可能性高いし。逆に利用できる気もするが……。
「私に出来るのはコレと後は危ない時の声かけくらいです。私の心の安寧の為にも、ミナト君の夢の為にも生きて帰ってきてくださいね」
「おう。このまま死んだりしたら兄貴にも心底呆れた溜息吐かれるだろうしな。ここらでいっちょ活躍してくるぜ」
心配してくれるヒマリを背に崖から飛び出した俺は真っ直ぐ落ちながらゴブリンオーガの頭に『小鬼殺し』を振った。
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