走り出したはいいが無策で突っ込めばただの肉塊になって死ぬだろう。ゴブリンオーガが振った棍棒から逃げる為に盾にしたゴブリンがグチャグチャになって飛んでいくのを見ながら即座に反転して攻撃範囲の外に出る。
「駄目だこれ!!簡単に近づけねぇわ!!!」
「この役立たずがァ!!!!」
「じゃあお前がやってみろうぉおおおおああ!??!?」
『グオォォオオオオオオオオ!!!!』
殺気を感じたのでスライディングしたら頭上近くを棍棒が通り過ぎた。髪の毛が何本か犠牲になったが直撃したらそれでは済まないので助かったと素直に思っておこう。
当然獲物を逃がすつもりのないゴブリンオーガが追ってくる。その巨体からは想像出来ない敏捷性で迫ってくる上に一撃で生命を奪う攻撃力を持つとか厄介にもほどがある。逃げるにしても周囲のゴブリン包囲網の数は減っているようには見えない。むしろ増えてきている。さっきからゴブリンオーガが叫んでいるせいかもしれない。
この状況を長引かせればゴブリンオーガを倒すことが出来たとしても疲れ切った身体でゴブリンの残党を相手しなければならなくなる。ゴブリン共にリーダーが殺されたからって逃げ出すような知能はない。あるのは人間を甚振り殺すという嗜虐心と本能だけだ。
「これ以上は考える時間もないだろうし、やっぱ無茶するしかねぇか……?」
「奴の懐に入りさえすれば余が一撃で仕留めてやろう」
「いやそれやったらドロップ品がアンタの物になるし出来ればヤダ。どうしようもなくなったらそりゃ仕方ないけどさぁ」
「言ってる場合か阿呆め!!!余はこんなデカブツから出てきた物など欲さんわ!!!ドロップだのなんだのは貴様にやるから囮になれ愚か者!!!」
「言ったな絶対だぞ!!!アイツをおちょくり倒せばドロップアイテムは俺の物なんだな!!絶対だからな忘れるなよ!!!嘘吐いたら美少女だからって許さんからなッ!!!!!!」
「うえぇ……?なんでこやつこんなに必死なのだ……?」
言質をとった俺はジャリジャリと音を立てて急ブレーキをかけて反対側に走り出す。逃げていた方向の逆という事は当然そこにはゴブリンオーガがいる。急に突っ込んできた俺に対してもなんら驚愕することもなく反射的、本能的にその手に持った棍棒で横薙ぎしてくる。
「あっぶねッ!!!」
ジャンプで避ければ大きな隙になる。着地するまでの時間を待ってくれるはずもない。だが先程スライディングで避けたのが効いたのか地面ギリギリを狙ってきている。だから棍棒の上を滑るようにギリギリのところを盾を使い上手く滑り込んだ。
ゴブリンオーガの懐に入り込みSPを注ぎ込んでいた『小鬼殺し』の効果を発動する。『小鬼殺し』の効果はゴブリン種に中確率で『恐怖』のバッドステータスを与える。『恐怖』した対象は身体を動かせず無防備状態になる。この状況でゴブリンオーガの動きを止められるならそれでチェックメイトまで持っていけるはずだ
「ここまで近づけば行けるだろ……!!」
体感で対象との距離が近ければ近いほど付与確率が上がることが分かっていたからここまで無茶したのだ。これで不発だったら一生コレクション棚行きにするという意志が伝わったのか『小鬼殺し』が血のような赤に染まり不気味な波動を撃ちだした。
『グギャっ!?』
『ギギッ!??』
『グギャッ!!!?』
「な、なんだゴブリン共の動きが止まったぞ!!」
「なんでもいい!!今のうちに出来る限り数を減らせ!!!急げ、死にたいのか!!!」
周囲の有象無象のゴブリンはその多くがどうやら『小鬼殺し』の影響を受けたらしく動きが止まった。お嬢様の護衛達が急いで排除している辺り最悪の場合逃げ出すくらいは出来そうだ。そして本命であるゴブリンオーガは。
『グ、ギ、ガァアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!!!!!!!』
「やーっぱそうするよなぁ。俺だってお前の立場だったらそうするもん」
ヒマリがぶっこ抜いていたゴブリンオーガのデータにあった『
「計画通り、こっちに意識を向けたぞお嬢様……!!」
『戦意高揚』は間違いなく有用なスキルだ。『恐怖』なんてバッドステータスを受けることを考えたら即座に切った方がいいのは確か。だけどそれは諸刃の剣でもある。通常時よりも遥かに上がった棍棒の勢いは掠っただけで地面を転がされる程。隙を突いて攻撃なんて無茶は出来やしない。敵が俺だけなら最適解とすら言えるだろう。
「――――余よりもそのような変態を優先するとは許せん。貴様は首を狩るとしよう」
洞窟内とはいえここの天井は高い。その高い天井に駆け上がり上下反対になったお嬢様は重力の力も借りて高速で落下しゴブリンオーガの首を狙った。ガギィンという金属音がなり俺とお嬢様の目が同時に見開く。
「貴様、考えていたようだなデカブツめ……!!」
『ゴギャアアアアアアアアアアア!!!!!』
「おいおい、なんでわざわざそこだけに金属鎧の欠片を仕込んでんだよ……」
ゴブリンオーガの首の弛んだ肉の向こうに微かに見える金属の鎧のような物。それがコイツの弱点を守っていた。そして不幸なことにお嬢様の一撃はその金属に当たって止まってしまったのだろう。
このままでは不味いと即座に立ち上がって『小鬼殺し』でゴブリンオーガの足の腱を狙って切り裂く。モンスターはその多くが既存の動物の姿を模している。ゴブリンの場合は人間だ。一概には言えないが身体の作りも似ているらしい。例えば、足の腱を切られたら歩けなくなるし回復には時間がかかるなど。
『ガァアアアアアアアアアアアアアイッ!!!!!!』
「ぐ、おっ……!!?」
足に力が入らず膝を地面につけながらも振るわれる棍棒を『小鬼殺し』とバックラーの二重の盾で受け止める。力の差があり、当然のように俺は弾き飛ばされた。岩壁にぶち当たり口から空気が吐き出される。視界は揺れ意識が刈り取られそうになって必死に繋ぎとめる。
「隙は、作ったぞ……!!」
ゴブリンオーガは俺を吹き飛ばすことに成功した。後は後ろにいるお嬢様を排除すればそれで片が着くと思っているのだろう。実際それは正しい、俺達は二人がかりでなんとかゴブリンオーガを追い詰めたのだ。片方がやられればそれ以上の抵抗は出来ないだろう。
そう、俺達二人しかいないのであれば。
「頼んだぜヒマリ……!!」
「ああもう……!!私なんか当てにしないでくださいよぉ……!!」
音もなくゴブリンオーガの懐に入っていたヒマリが俺の渡した剣を引き抜いて隙を作っていたゴブリンオーガの首、金属片が埋め込まれていない部分を寸分違わずに刺し貫く。その鮮やかな一撃は弱点が見えているとしか思えないほどの精密性を持っていた。『鑑定』を発現させたことといい非常に頼りになるパーティーメンバーだ。
『グ、オォォ……』
「ヒェッ」
だが急所を貫かれた程度で死ぬのであれば苦労はしないと言わんばかりに最後の力を振り絞りゴブリンオーガが暴れようとする。短く悲鳴を上げたヒマリは剣を刺したまますぐにその場から逃げ出す。まぁあの戦闘スタイルならば仕方ないが。むしろここまで近付いてきてくれてよくやってくれたと感謝したい。後は俺達の仕事だ。
「それ以上はなしってもんだぜ……!!」
「これ以上動くなデカブツ。勝者は既に決まっておるのだ」
呼吸を整えすぐさま走り出す。前からは俺、後ろにお嬢様。挟み込む形になった俺達は同時に二つの方向から首を狙い剣を振るう。金属片のないところを狙いはしたが、ヒマリが首を刺してくれたおかげか想像以上にその首は脆くなっていた。
『―――――』
抵抗も許さず断ち切った首元から血が吹き出し今度こそゴブリンオーガの巨体は地面に沈んだ。ダンジョン入試に参加した受験生が相手にするレベルじゃない強敵を俺達は倒すことが出来た。巨体は粒子になって俺達三人の中に入り込んでくる。力が増す感覚は病みつきになりそうでこれを経験したくて探索者は奥へ奥へと進んでいくのだろうと予測できる。
だが、俺にとって大事なのはこの経験値よりも奴の死体、それが消えた後に残る物だ。はたしてそれは現われた。通常のゴブリンの
「ふむ。よく余の動きに合わせたな。褒めて遣わ」
「ひーーーーーっははっはっはっははっはっ!!!!しゃあっ!!!あの野郎ちゃんとした物置いてきやがったじゃねぇか!!!これだから探索者はやめられねぇ!!!!!!」
「うおっ。な、なんだこやつ。急に壊れおったぞ」
「ああ……ミナト君ってドロップアイテム見るとこうなるんだぁ……」
今の俺では使いこなすことも難しいだろうそれは見るだけで威力があることが分かる。ああ、本当にモンスター討伐は最高だぜ!!!
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