大魔王を倒してから10年後…強く成長した大魔道士が、再び!   作:ポップ

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第十一話:リヴェリア「……ポップ。お前はおそらく、補助系に特化した魔導士なのではないか?」ポップ「えっ?いや、全然違うけど……」

短い休憩が終わり、会議室には再びポップとレフィーヤ達四人が戻ってきていた。

 

それぞれが席に着くと、ポップは軽く肩を回してからフィン達を見渡す。

 

「さてと……あとは何が気になってるんだ?」

 

天候操作の『ラナリオン』に、昼夜を入れ替える『ラナルータ』。

 

空間拡張を施しているのではないかと思われる『道具袋』に、水を生み出す『ザバ』、そして変身呪文の『モシャス』。

 

すでにこれだけのものを見せて、説明してきたのだ。ポップとしては『多分もう何もないだろう』と、大体の疑問には答えたつもりでいた。

 

フィンもこれまでの話を頭の中で整理しながら、あとは何を尋ねるべきか考えている様子だった。

 

その時、控えめに片手を挙げた者がいて……

 

「わっ、私からも一つ、いいでしょうか?」

 

声を上げたのはレフィーヤだった。

 

彼女は少し緊張した面持ちで、伺う様にフィンを見る。フィンは穏やかに微笑んで頷いた。

 

「レフィーヤも何か気になる事があるのかい?勿論さ。ポップもいいかい?」

 

「あぁ、いいぜ。……ていっても、レフィーヤとはしょっちゅう話してる気もするからな。もうあんまり気になる事なんてないんじゃねぇのか?」

 

ポップが軽く笑いながら言うと、レフィーヤは少し頬を染めながらも、真剣な表情を作ってポップへ向き直った。

 

「いえ!その……こ、ここへ来る時に使って見せて下さった魔法についてお聞きしたいです!ポップさんは移動呪文だと仰っていましたけども、私からすれば、殆ど転移魔法みたいなものでしたので……」

 

「……なに?」

 

レフィーヤの言葉に、リヴェリアが即座に反応した。フィンやガレス、ロキの視線も一斉にレフィーヤへと集まる。

 

「レフィーヤ。今、転移魔法と言ったか?」

 

リヴェリアの低い声に、レフィーヤはハッとした。

 

そういえば、先程団長室へ報告に行った際は、突然の雨と『昼と夜を入れ替える魔法』の衝撃があまりにも大き過ぎて、自分達がどうやって空き地からこのホームまで戻ってきたのかを、まだ説明していなかったのだ。

 

「あっ、すみません!先程はご報告しそびれていたのですが、実は私達が訓練していた空き地からこの黄昏の館まで戻ってくる際、ポップさんの魔法で一瞬にして移動してきたんです!」

 

「……待ってくれ。あそこの空き地から、この館までを一瞬でだって?」

 

フィンが目を見開く。

 

その横で、ティオナが思い出した様に大きく頷いた。

 

「そうそう!ポップさんに言われて服に掴まってたら、いきなり光って、皆で空を飛んだかと思ったら一瞬でホームの前まで着いちゃったんだよ!」

 

「空を飛んで、一瞬で……じゃと?」

 

ガレスが呆気にとられた様に呟く。

 

ティオネも、思い出すだけで頭が痛くなるといった様子で額に手を当てた。

 

「あぁ、そういえば……他の魔法の衝撃が強過ぎて報告が抜けてたわね。ええ、あまりにも速過ぎて、レフィーヤなんて空を飛んだ事にすら気付いていなかったくらいよ。私とティオナ、アイズには移動する時の景色が辛うじて見えたけど……正直、その一瞬だけたまたま目を瞑ったりしてたら、私でも転移魔法と言われても信じてしまいそうな速さだったわ」

 

「……あんた、まだそんなデタラメな手札を持っとったんかいな」

 

ロキが半ば呆れた様に、ジト目でポップを見る。

 

幹部達の視線が再び自分に集まり、ポップは困った様に頬をかいた。

 

「いや、だから転移じゃねぇって。今ティオネが言った通り、『ルーラ』は空を飛んで一度行った事のある場所へ移動する呪文なんだわ」

 

「空を飛んで、一度行った事のある場所へ……か」

 

リヴェリアは眉間を押さえながら、深く息を吐いた。

 

もしその言葉が文字通りの意味なのだとしたら、その影響はオラリオの街だけに留まらない筈だ。

 

リヴェリアは重要な点を確認するべく、鋭い視線をポップへと向けた。

 

「その、『ルーラ』という魔法だが、例えばお前がこれまでこの世界で訪れてきた都市や村にも、行こうと思えば今からでも行ける、という認識であっているのか?」

 

「あぁ。基本的には、俺が一度行った事のある場所で、頭の中にしっかりとその場所を思い浮かべられるところなら行けるぞ。例えば『ラキア』とかもな。あとは、空を飛んで移動する関係上、天井がある場所だと頭をぶつけちまうから、屋外じゃないと使えねぇって制限もあるけどな」

 

「……なるほどな」

 

リヴェリアは右手で顔を覆い、そのまま天を仰ぎたい気分になった。

 

もう、驚き疲れてしまったというのが本音だ。

 

何なのだそれは……。

 

行った事のある場所へ一瞬で行ける?しかも、複数人を連れて?馬鹿にしているのか……。

 

もしそれが可能なら、悪意あるファミリアや組織が高レベルの冒険者をこっそりと送り込むだけで、小国程度なら簡単に落とせてしまうのではないのか?

 

「天井に頭をぶつける、か……」

 

聞けば聞くほど規格外な移動手段でありながら、やけに現実的な弱点がある事に、フィンは思わず苦笑を漏らした。

 

だが、リヴェリアの関心は別のところにも向いている。

 

「待て。今お前は『空を飛んで移動する』と言ったな?行き先が頭の中で思い浮かべられるなら……とも。つまり、その『ルーラ』という移動魔法の飛行操作は、自動で行われるという事か?」

 

「ん?あぁ。『ルーラ』に関しちゃ、目的地まで一気に飛んでいく呪文だから、途中で止まったり自由に飛び回ったりは出来ねぇんだわ」

 

それを聞いて、リヴェリアは僅かに胸を撫で下ろした。

 

とりあえず、この魔法そのもので自由自在に空を飛べる訳ではないと確認出来ただけでも、良しとすべきか。

 

戦いにおいて、『空を飛べる』という一点はそれだけで圧倒的な優位を生む。リヴェリアも、別に今ポップと敵対しようなどとは思っていないが、それでもファミリアの副団長として確認しておかなければならない事はあるのだ。

 

しかし、ポップはそこで言葉を区切り、何でもない事の様に続けた。

 

「ただ、普通に空を飛ぶだけなら『トベルーラ』って呪文があるから、そっちを使えば自由に飛べるぞ」

 

会議室が、再び静まり返った。

 

「……自由に、空を飛べる?」

 

レフィーヤがオウム返しに呟く。

 

この世界において、人間やエルフが自らの力だけで空を飛ぶなどという話は、まずあり得ない。

 

翼を持つモンスターや、ごく一部の特殊な魔道具、あるいは神話の時代の伝承にある様な存在ならばいざ知らず、魔導士が魔法一つで自由に大空を飛び回るなど、見た事も聞いた事もなかった。

 

あってもそれは、子供が思い描く空想上の世界でだけだろう。

 

それを、この人は……。

 

「なんだったら、今からちょっと『ルーラ』か『トベルーラ』を試してみるか?ここで説明を聞くより、実際に体験してみた方が分かりやすいだろ」

 

ポップが軽い調子で提案すると、フィン達は顔を見合わせながら、すぐさま頷いた。

 

◇

 

会議室を出た一同は、そのまま中庭へと移動した。

 

まだ日は残っているものの、空は少しずつ夕暮れの色を帯び始めている。

 

広い庭の中央へ歩み出たポップは、少し離れた場所で見守るフィン達を振り返った。

 

「じゃあ、どうする?まずはルーラからいってみるか?誰か体験してみたい奴がいたら手を挙げてほしい……」

 

ポップが言い終わるよりも早く、ティオナとロキの二人から食い気味に手が挙がった。

 

「はいはいっ!はーい!あたし!あたしもう一回やりたい!」

 

「何言うとんのやティオナ!こういったイベントの体験は、ファミリアの主神に譲るっちゅうお約束を知らんのかい!」

 

「知らないよ!そんなの初めて聞いたから!ねぇ~、ポップさぁ~ん!」

 

体験希望者達の思いがけないその勢いに、ポップは困った様子で苦笑いしながら一歩後ずさる。

 

「おい、落ち着けって。ルーラは一度に何人か同時に飛んでいけるから、仲良くいこうぜ」

 

その言葉に二人はパッと顔を明るくしたが、そこへリヴェリアから待ったが掛かった。

 

「……いや、ロキはちょっと待ってくれ」

 

水を差されたロキが、不満そうに唇を尖らせて振り返る。

 

「あん?なんや、リヴェリア。どないかしたんか?」

 

リヴェリアは腕を組み、険しい表情で主神を見据えた。

 

「お前は一応、ロキ・ファミリアの主神なのだぞ。別にポップを信用していない訳ではないが、それでも未知の魔法に対しては、もっと警戒心を持ってしかるべきだ」

 

「な、なんやて!?……あ~、リヴェリアママの言う事は分かんねんけども、ゆうてもこれは、ほぼほぼ問題ないやつやで?」

 

「はぁ……」

 

呑気な主神の言葉に、リヴェリアは深く溜め息を吐いた。

 

「あぁ、それは私にも分かる。だが、それでも全く無警戒でいるというのは違うだろう」

 

そう言ってから、リヴェリアはポップへと向き直った。

 

「ポップ。せっかくお前が、我々に魔法を見せてくれようとしているのに、信用していないかの様な態度をとってすまない」

 

丁重に頭を下げるリヴェリアに対し、ポップは何ら気にしていない様子で笑いながら、軽く手を振った。

 

「いや。リヴェリア、アンタの言う事はもっともだと思うぜ。俺が本当にそういう気持ちを持っていなくても、それでも全く警戒しないっていうのはちょっと違うからな」

 

ポップが素直に理解を示した事で、リヴェリアも少しだけ表情を和らげる。

 

「感謝する。では、ロキの代わりに私が同行しよう。問題なさそうであれば、ロキは次で試してみてくれ」

 

「ちぇー、しゃーないなぁ」

 

ロキがしぶしぶ引き下がると、今度はフィンが「じゃあ、僕も……」と手を挙げかけた。

 

だが、その横からガレスが太い腕を前に出して遮る。

 

「待て待て、フィン。お前さんもこのファミリアの団長なんじゃから、万が一のことを考えんとの。ここは代わりにワシが行かせてもらうわい」

 

そう言ってガレスは、フィンの肩をポンと叩いてみせた。もっともらしい理由を並べてはいるが、その顔には、自分も未知の魔法を体験してみたいだけなのが見え見えである。

 

「ガレス……それはないよ」

 

主神と団長を置いていく形になり、フィンは困った様に苦笑した。

 

するとポップが、集まった面々を見回して言う。

 

「あと一人くらいなら、一緒でも全然いけそうだぞ」

 

「あっ、それなら私もご一緒させて下さい!」

 

すかさずレフィーヤが立候補し、これでポップを含めた総勢五人で飛ぶ事が決まった。

 

「それじゃあ皆、どこでもいいから俺の服か身体を掴んでくれ」

 

ティオナ、リヴェリア、ガレス、レフィーヤの四人が、それぞれポップの服の端や肩に手を置く。

 

皆がしっかりと掴まったのを確認し、ポップはニヤリと笑った。

 

「掴んだな?なら、行くぜ!……ルーラ!」

 

ポップが呪文を唱えた瞬間、五人の身体が眩い光に包まれ、そのまま中庭から空高くへと一気に飛び去っていった。

 

ロキは、呆然と空を見上げたまま呟く。

 

「……ほんまに飛んでいきよった」

 

◇

 

次の瞬間、五人が降り立ったのは、見渡す限りの平原と、その先にそびえる巨大な城壁から少し離れた場所だった。

 

ラキア王国の城門を遠くに望む、街道脇の草原である。

 

「ここは……」

 

リヴェリアが周囲を見渡し、愕然と目を見開いた。

 

隣を見れば、レフィーヤもまた同じ様に固まっている。

 

先程レフィーヤが『転移魔法みたいなものだ』と言ったのも、今なら自分も納得出来た。光に包まれた後も決して目を逸らさず、移動の最中をきっちりと目に焼き付けておこうと思っていたのだが、景色が流れたかと思った次の瞬間には、もう目的地へ到着していたのだ。

 

「こりゃ、たまげたのう……」

 

ガレスも遥か遠くに見えるラキアの城壁を眺めながら、感嘆の声を漏らす。

 

オラリオからここまで、通常の移動であればどれほどの日数が掛かるか分からない。それを、文字通り一瞬で飛んできたのだ。

 

そんな中、一人だけ余裕のあるティオナが、不思議そうに首を傾げてポップへ尋ねた。

 

「ねぇねぇ、ポップさん。城門はもう少しあっちだよ?どうしてこんな所に降りたの?」

 

ティオナの純粋な疑問に、ポップは苦笑いを浮かべた。

 

「あ~、まぁ正直言えば、城門の前でも街の中でも、飛んでいくだけなら全然大丈夫なんだけどな。一応ラキアは王国だし、そんな国の門番とかを丸っきり無視して中に入るのは、ちょ~っとマズいんじゃないかと思ってな」

 

そう言いながら、ポップは頬をポリポリとかいた。

 

その言葉を聞いたリヴェリアも頷く。

 

「当然だ。ただでさえラキアはオラリオに対して好戦的な国だからな。緊急ならばともかく、いきなり空から城門前に現れて、妙な警戒心を高めても仕方あるまい」

 

ポップについて、流石にそこまで無鉄砲ではない事に安堵するリヴェリアだったが、その隣では、レフィーヤが全く別の事を考えていた。

 

(こんな魔法があるなら、露店で武器屋なんかをするよりも、配達員になった方がよっぽど稼げるんじゃ……)

 

思わずポロッと口から零れ落ちてしまったレフィーヤの呟きに、ティオナ達が吹き出し、ポップも苦笑いを浮かべていたのであった。

 

◇

 

少しして、再び『ルーラ』でホームの中庭へと戻ってきた五人。

 

そんな彼らのもとへ、待っていたロキがすぐさま詰め寄った。

 

「どうやった!?ほんまにラキアに一瞬で行けたんか?」

 

「……あぁ。レフィーヤが『転移魔法みたいだった』と言った事にも納得した。瞬く間にラキアの城門近くまで飛んでいけたし、安全性も確認出来た。ポップ、良ければロキにも体験させてやってくれないか?」

 

リヴェリアの言葉に、フィンも「あっ、それなら僕もいいかな?」と手を挙げる。

 

すると、その流れでティオネが「団長が行くなら私も!」と前に出て、その流れでアイズが「……私も、いいですか?」と控えめに続く事になった。

 

そうして今度はフィン達四人を連れ、ポップは再びラキアの近くまで飛んでから、中庭へと戻ってきたのだった。

 

実際に『ルーラ』を体験した事でロキやティオネ達が興奮した様子で言葉を交わす中、フィンとリヴェリアの二人は少し考え込んでいた。

 

(……彼の性格が善寄りで、本当に助かったかもしれない。幸い、この『ルーラ』という魔法に関しては、今ここにいる者しか知らない。でも、仮にポップが闇派閥の様な思想の持ち主で、夜な夜な遠くから『ルーラ』でやって来ては、攻撃を仕掛けてすぐさま遠くへ逃げるという事を繰り返されていたら、『ルーラ』の存在を知らなければ、僕でも犯人の目星がつかず、お手上げだったかもしれない)

 

親指を口元に当ててそんな事を考えるフィンの隣で、リヴェリアもまた思案していたが、やがて顔を上げてポップへと声を掛けた。

 

「ポップ。先程話していた『トベルーラ』という魔法についても、見せてもらう事は出来るだろうか」

 

「あぁ、いいぜ」

 

ポップは軽く頷くと皆から少し離れ、そこで「トベルーラ!」と短く呪文を唱えた。すると、彼の身体が淡い光に包まれ、重力から解き放たれたかの様に、ふわりと地面から浮き上がる。

 

「おお……っ!」

 

レフィーヤが思わず声を漏らす。

 

ポップはそのまま、階段でも上るかの様な気軽さで高度を上げていく。

 

ホームのてっぺんを越え、くるりと空中で一回転してみせたかと思えば、風を切って上空を旋回し始めた。

 

「……本当に飛んでいるのう」

 

ガレスが感嘆の声を上げる。

 

翼もなく、ただ自然に、当たり前であるかの様に、ポップは空を飛んでいた。

 

やがてポップは速度を落とし、フィン達の目の前へと戻ってくる。

 

「とまぁ、こんな感じだ。どうだ?誰か一緒に飛んでみるか?」

 

ポップが冗談半分で声を掛けると、間髪入れずに元気な声が響いた。

 

「はいはーい!あたし!あたし、空飛んでみたい!」

 

勢いよく飛び出してきたのは、勿論ティオナだった。

 

昔のポップであれば、こうした無邪気な押しには照れたり慌てたりしていたかもしれないが、しかし今はポップも大人になったので、少し苦笑しただけだった。

 

「よし!じゃあ、いっちょオラリオの空を飛んでみるか!」

 

「うん!」

 

ティオナが嬉しそうにポップの腕へと掴まる。

 

「しっかり掴まってろよ?途中で手を離したら危ないからな」

 

「大丈夫、絶対離さないから!」

 

ポップは頷くと、再び魔力を巡らせた。

 

「よし、行くぜ……トベルーラ!」

 

次の瞬間、ポップとティオナの身体が宙へと舞い上がっていく。

 

「うわぁぁぁーーーっ!浮いてる!本当に浮いてるよーーーっ!」

 

高度が上がるにつれて、ティオナの大はしゃぎする声が空から降ってくる。

 

「あんまり暴れんなって!ほら、もう少し上まで行くぞ!」

 

「すごーい!ホームがこんなにちっちゃく見えるー!」

 

夕暮れ時のオラリオの空を、二人の影が気持ちよさそうに駆けていく。

 

地上からその光景を見上げていたレフィーヤは、どこか羨ましそうに空を見つめていて、ティオネも、ただ呆然と上空の二人を眺めている。

 

腕を組んで空を見上げていたガレスが、ぽつりと呟いた。

 

「……リヴェリア。お主が言っておった『補助系に特化した魔導士』という推測じゃが、あながち間違っておらんかもしれんの」

 

天候を操り、水を生み出し、姿を変え、一瞬で遠くに移動したり、空も飛ぶ。

 

どれも常識外れの力ではあるが、その全てが移動や探索、仲間への支援に繋がるものだ。

 

そんなガレスからの言葉を聞いたリヴェリアだったが、彼女は彼女で、オラリオの空を自由に飛んでいる異世界の魔導士の姿を、ただ強い興味を持って見つめ続けていた。

 

この男がいた世界は、一体どんな場所なのだろうか。

 

どの様な歴史を辿れば、この様に多彩で、自由な魔法体系が築き上げられるのか。

 

そして、この若さでそれらの制御も万全にこなしているように見える。

 

一人の魔導士として、リヴェリアの胸の奥には、それまでの警戒心とはまた違う、純粋な探究心が静かに芽生え始めていた。

 

◇

 

しばらく空の散歩を楽しんだ後、ポップとティオナが中庭へと降りてきた。

 

「もう、最高だったよ!風が気持ちよかったし、高いとこからオラリオが全部見えたもん!実は、エアリアルの魔法で空中を飛び回れるアイズが羨ましかったんだ~!」

 

着地してからも、ティオナの興奮は冷めやらない様子だった。

 

アイズは、ティオナにそんなことを言われて、どう答えていいのか分からない。

 

レフィーヤはレフィーヤで

 

(……ポップさんに抱えてもらえたら、誰も届かない上空から長文詠唱を行って、安全に魔法が撃てるっていうことですよね?これ、もしかして、そこらのモンスターや冒険者が相手なら、一方的に完封出来るのでは?)

 

というのを考えていた。

 

「ははっ、そんなに喜んでくれたんなら何よりだわ」

 

ポップが笑いながら言い、何人かがポップの『トベルーラ』を体験すると、一同は再び館の中へと戻り、会議室のテーブルへと着いた。

 

窓の外は、すでに夕闇が迫り始めている。

 

そろそろ、流石にこれもお開きにする時間だろう。誰もがそう思った、その時だった。

 

テーブルの上へ肘を立て、両手の指先を合わせたリヴェリアが、何かを見透かす様な真剣な眼差しをポップへと向けた。

 

「……ポップ。最後に一つだけ、確認させてくれ」

 

「ん?なんだよ、改まって」

 

意味深な空気を纏うリヴェリアに、ポップが首を傾げる。

 

リヴェリアは一拍置き、確信を込めた声で静かに告げた。

 

「恐らくなのだが……お前は補助系に特化した魔導士なのではないか?」

 

身体能力を引き上げる魔法。

傷を癒やす治癒魔法。

外敵を拒む結界魔法。

雨を降らせる天候操作に、水を生み出す魔法。

さらには変身魔法に、一度訪れた場所に一瞬で飛んでいける高速移動と、最後の飛行魔法など。

 

これだけ多種多様な魔法を使いこなしていることにも脱帽だが、彼がこれまで見せた力は、すべて直接的な破壊ではなく、補助的なものが大半だと思える。

 

だからこそ、リヴェリアはそう結論付けたのだ。

 

フィンも、ガレスも、そしてレフィーヤ達も、ポップがどう答えるのかを固唾を呑んで見守っていた。

 

だが―――。

 

「えっ?いや、全然違うけど……」

 

ポップから返ってきたのは、拍子抜けするほどあっさりとした、まさかの否定。

 

「……なに?」

 

リヴェリアの表情が、ピシリと固まる。

 

自分の推測が、まさかここまで真っ向から否定されるとは思っていなかったのだろう。珍しく目を丸くして言葉を失っているリヴェリアを前に、ポップは「俺、なんか変な事言ったか?」とでも言いたげな顔で、不思議そうに頭をかいているのだった。




前は10話までだったので、ここからが新しいお話になります。

拙いところも多々あるかと思いますが、どうぞ宜しくお願いします。

辛口コメントや批判は泣いてしまうので、許して頂けると嬉しいです。
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