大魔王を倒してから10年後…強く成長した大魔道士が、再び!   作:ポップ

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第十三話:ティオナ「ねぇねぇ、ポップさん!明後日から遠征で、しばらくポップさんの授業も受けられなくなっちゃうしさ!行く前に、あの目隠しのやつみたいに、何かこう、カッコいい技とか見せてよ!」

黄昏の館でポップが『ルーラ』や『トベルーラ』を披露した翌日の昼下がり。

 

ロキは一人、後ろで手を組みながらオラリオの通りをぶらぶらと歩いていた。

 

向かっている先は、ポップがいつも店を開いているという場所だ。

 

昨日あれだけデタラメな魔法を次々と見せてくれた異世界の大魔道士が、普段街の中でどんな風に過ごしているのか、ふと気になって見に行く事にしたのである。

 

「確か、レフィーヤが言うとったのはこの辺りやったよな……」

 

キョロキョロと周囲を見回しながら通りを進んでいくと、やがて道端の邪魔にならない一角に、敷物を広げて座り込んでいる青年の姿が目に入った。

 

ポップだった。

 

だが、その姿を見たロキは、思わず足を止めて目を瞬かせた。

 

敷物の上に並んでいるのは、どこにでもありそうな『鉄の剣』や『鉄の盾』、それに『やくそう』といったありふれた品ばかり。

 

当の店主であるポップはというと、あぐらをかいて頬杖をつきながら、通りを行き交う人々をぼんやりと眺めて、大きな欠伸を噛み殺している。

 

立ち止まる客はほとんどおらず、その姿はどう見ても、ただの売れない露店商にしか見えなかった。

 

「……なんやあれ」

 

ロキは呆気に取られたまま、トコトコと敷物の前まで歩いていった。

 

「よぉ、兄ちゃん。精が出るなぁ」

 

「ん?……おわっ、ロキ様じゃねぇか」

 

上から声を掛けられたポップは、顔を上げてロキの姿を確認すると、少し驚いた様に頬杖を外した。

 

「今日は一人か?レフィーヤ達は一緒じゃねぇのかよ」

 

「あぁ、あいつらは今朝から訓練や。うちはちょっと暇やったから、あんたがどんな店やっとるんか冷やかしに来たんやけど……」

 

ロキは敷物の上に並べられた商品をジロジロと見下ろし、それからポップの顔を見た。

 

「……ほんまに、安モンばっかり並べとるんやな。きのうは空飛んだり、ラキアまで一瞬で行ったり、あんなデタラメな事ばっかりやっとった兄ちゃんが、なんでこんなとこで暇そうに店番なんかやっとんねん」

 

あまりにも激しすぎるギャップに、ロキは呆れた様に苦笑した。

 

これでは、昨日ラキアから戻ったティオナ達が笑い話にしていた『レフィーヤが配達員をやった方が稼げるって真顔で言ってた』という話も、あながち間違いではない気がしてくる。

 

するとポップは、少し困った様に頭をかいた。

 

「いや、俺だって最初はもうちょいマシなもんを並べてたんだよ。だけどよ、そっちの団長やリヴェリアから、ここらで珍しいもんを相場も分からねぇまま安売りすんのはやめとけって言われたから、こうやって普通の武器ばっかり並べてんじゃねぇか」

 

「……あー、そういやフィンがそんな事言うとったなぁ」

 

ロキは思わず拍子抜けした。

 

あれだけの力とアイテムを持っていれば、やり方次第でいくらでも大金を稼げそうなものなのに、フィン達からの忠告を律儀に守って、売れない露店の店主として大人しく店番をしている。

 

「あんた、ほんまに欲がないんか、ただの世話焼きなんか……なんやよう分からんやっちゃな」

 

「悪かったな。俺にとっちゃ、こうやって武器屋の店番をしてるくらいが一番落ち着くんだよ」

 

心外そうに唇を尖らせるポップを見て、ロキは「くくっ」と喉の奥で笑った。

 

飾らないというか、底知れない力を持っているくせに、中身は驚くほど普通の青年だ。

 

「ま、ええわ。もうじきフィンの奴がギルドとの話もまとめてくるやろうし、そしたらあんたもダンジョンに入れる様になるやろ。ほな、またな」

 

「おう。わざわざ顔出してくれてサンキューな、ロキ様」

 

ひらひらと手を振って通りへ戻るロキの顔には、来た時よりもずっと楽しそうな笑みが浮かんでいた。

 

◇

 

ホームへと戻ったロキは、そのまま団長室へと向かう。

 

室内にはフィン、リヴェリア、ガレスの三人が揃っており、数日後に控えた遠征の準備について話し合っているところだった。

 

「おーい、みんな。今ちょっとポップの店を覗いてきたで」

 

ロキがソファへドカッと腰を下ろすと、フィンが穏やかに顔を上げた。

 

「へぇ〜。それで、どうだったんだい?」

 

「いやぁ、ほんまに欠伸しながら暇そうに店番しとったわ。フィンの言いつけ守って普通の鉄の剣とかばっかり並べとるもんやから、客も全然来とらんかったみたいやし。昨日の今日やのにあの緊張感のなさは、ある意味大したもんや」

 

ロキが可笑しそうに話すと、ガレスも「はっはっは、あやつらしいのう」と豪快に笑った。

 

ロキは背もたれに身体を預け、天井を見上げながら言葉を続ける。

 

「けどまぁ、改めて話してみて思うたんやけどな……あいつ、性格も実力も申し分ないし、仮にオラリオにおる期間が短かったとしても、もし望むんやったら、うちの眷属にしたってもええと思うんやけどなぁ」

 

その言葉に、フィン、リヴェリア、ガレスの三人が揃ってロキの方を見た。

 

「ロキもそう思うかい?実は、僕もそれは少し考えていたところなんだ」

 

フィンが微笑みながら頷く。

 

「彼は僕達に対しても誠実だし、レフィーヤやティオナ達ともすぐに打ち解けている。本人が元の世界へ帰る事を望んでいる以上、無理に引き止める事は出来ないけれど、この街にいる間だけでもファミリアへ迎え入れられるというのは、僕としても大歓迎だよ」

 

「私も異論はない」

 

手元の分厚い本から顔を上げ、リヴェリアも静かに同意した。

 

「レフィーヤの指導をあれだけ的確に行える男だ。それに、彼が持つ異世界の魔法体系や知識には、魔導士として学ぶべきものが多過ぎる。もちろん、あの常識外れのアイテムや装備の数々も、いち冒険者として興味が尽きん。他のファミリアに目を付けられるくらいなら、我々の仲間になってくれた方がずっといい」

 

腕を組んでいたガレスも、豪快に髭を撫でながら頷く。

 

「ワシも賛成じゃな。あれだけの腕を持ちながら少しも鼻にかけん、気の良い若造じゃ。一緒に酒を飲んでも楽しそうじゃしのう」

 

三人が揃って賛成した事で、ロキは満足そうにニヤリと笑った。

 

「せやろ?ま、今はまだギルドに『ファミリア未所属の特例』で話を進めとる最中やから、すぐには言い出せんけど、折を見て誘ってみてもええかもな。……ところでフィン、そのギルドとの話はどうなったんや?」

 

ロキに尋ねられ、フィンは机の上の書類を軽く整えながら答えた。

 

「ああ、今朝ギルドへ掛け合ってきたところだよ。僕達ロキ・ファミリアが身元を保証し、ダンジョンへ入る際はうちの団員が同行するという条件で、特例として許可を出してもらえる事になった」

 

「おお、さすがフィンやな!」

 

手放しで喜ぶ主神に、フィンは少しだけ苦笑いを返した。

 

「ただね、ギルドとしても『頼まれたから明日からすぐどうぞ』では規則の体裁が保てないらしくてね。正式な手続きを整える期間も含めて、僕達が明後日から二週間の遠征から戻ってきたタイミングで、正式に許可が下りる段取りになったよ。そもそも、同行する僕達が遠征でいなくなってしまうからね」

 

「なるほどな。それなら筋も通っとるな」

 

ロキが納得した様に頷く。

 

「じゃあ、その報告と、今回の遠征で借りる装備の相談も含めて、今日の夕方にでも僕がポップの店へ顔を出してみるよ。店じまいの時間なら、ゆっくり話も出来るだろうしね」

 

フィンがそう締めくくり、ロキ・ファミリアでは遠征に向けた準備が着々と進められていくのだった。

 

◇

 

一方その頃。

 

ロキが帰ってからしばらく経ったポップの露店に、今度は見慣れた四人の少女達がやって来ていた。

 

レフィーヤ、ティオナ、ティオネ、そしてアイズの四人である。

 

「こんにちは、ポップさん!今日も暇そうだね!」

 

「お前は一言余計なんだよ、ティオナ」

 

元気よく手を振るティオナに、ポップは苦笑しながら敷物の上から顔を上げた。

 

「今日は四人でどうしたんだ?もうじき遠征に行くって聞いてたから、準備で忙しいんじゃねぇのか?」

 

「あらかたの準備はもう終わりましたので、遠征に出る前に、皆でポップさんの所へご挨拶に行こうという話になったんです」

 

レフィーヤが丁寧に説明すると、その隣でアイズがじっとポップを見つめながら、小さく口を開いた。

 

「……ポップさん」

 

「ん?どうした、アイズ」

 

静かに呼ばれ、ポップが視線を合わせる。アイズはいつもの無表情に近い顔ながら、その金色の瞳でポップの顔をじっと見つめていた。

 

「この前、目隠しをして戦ってたの……すごく達人みたいだった」

 

「あ~、あの時のやつか」

 

ポップは少し照れくさそうに頬をかいた。

 

「あれはほら、普通に剣で打ち合っても、アイズには特に参考にもならねぇだろ?だから、ちょっとそれっぽくやってみただけだっての」

 

するとティオナが、目を輝かせながらグイッと身を乗り出してきた。

 

「ねぇねぇ、ポップさん!明後日から遠征で、しばらくポップさんの授業も受けられなくなっちゃうしさ!行く前に、あの目隠しのやつみたいに、何かこう、カッコいい技とか見せてよ!」

 

身を乗り出して無茶を言ってくるティオナに、ポップは呆れたように肩をすくめて見せた。

 

「カッコいい技って……俺は魔法使いだって何度も言ってるだろ。攻撃呪文の方は、この前ダンジョンに入るまでお預けって話になったばっかりじゃねぇか」

 

「魔法じゃなくて、剣の技とかでもいいからさ!ポップさんなら、まだ何か隠してるんじゃないの~?」

 

ティオナにワクワクした目で詰め寄られ、アイズまで「……見たい」と真剣な瞳を向けてくる。

 

レフィーヤとティオネも、止めようとはせず興味深そうにこちらを見ていた。

 

四人の期待に満ちた視線を受け、ポップは少しだけ考えた後、ニヤリと口角を上げた。

 

「……まぁ、ない事もないな」

 

「本当!?やったー!見せて見せて!」

 

ティオナが両手を上げてピョンと跳ね、アイズも期待を込めた目でグッと身を乗り出してくる。

 

「ただし、こんな通りの真ん中じゃ危ねぇからな。いつもの空き地へ行くぞ」

 

今日も店にはお客が殆ど来ておらず退屈だったので、ポップが苦笑しながら立ち上がって商品を道具袋へしまい始めると、四人は嬉しそうに頷いた。

 

◇

 

いつもの空き地へ到着すると、ポップは道具袋の中を探り、二本の剣を取り出した。

 

一本は自分が使う為の普通の『鉄の剣』。

 

そしてもう一本は、以前応接室で見せた、刀身に赤い輝きを宿す『炎の剣』だった。

 

ポップはその『炎の剣』を、ティオナへと手渡す。

 

「ティオナ。まずはそいつを持って、あっちの木の柵の前に立ってくれ」

 

「えっ、あたしも何かするの?」

 

渡された『炎の剣』を眺めながら、ティオナが首を傾げる。

 

そんなティオナに対し、ポップは何でもないことの様にサラリと言ってのけた。

 

「ああ。この前アイズが訓練室でやったみたいに、その『炎の剣』から俺に向かって炎を放ってみてくれよ」

 

「えぇっ!?ポップさんに向かって撃っちゃって大丈夫なの!?」

 

ティオナが驚いて聞き返すと、レフィーヤも「そ、そうですよ!いくらなんでも危険では……」と慌てて声を上げる。

 

だが、ポップは『鉄の剣』を軽く肩に担いだまま、余裕の笑みを崩さなかった。

 

「いいからいいから。絶対に危なくねぇから、遠慮せず撃ってみろって」

 

そこまで言われ、ティオナは「……分かった!じゃあ、本当に撃つからね!」と、空き地の端にある古い木の柵の前まで移動した。

 

アイズ、レフィーヤ、ティオネの三人は、邪魔にならないよう少し離れた場所から固唾を呑んで見守っている。

 

ポップはティオナと向かい合うと、手にした『鉄の剣』を静かに構えた。

 

「いくよ、ポップさん!……えいっ!」

 

ティオナが『炎の剣』を両手で構え、空気を切り裂く様に勢いよく斜めに薙ぎ払った。

 

そのスイングに呼応するかの如く、刀身から灼熱の炎が迸り、一直線にポップへと襲いかかる。

 

だが、ポップは動じない。

 

迫り来る炎を正面から見据え、極限まで研ぎ澄ました速さで、手にした『鉄の剣』を水平に一閃した。

 

「海波斬っ!」

 

鋭い掛け声と共に、目にも留まらぬ斬撃が放たれる。

 

直後、信じられない光景が起きた。

 

ポップの剣が触れた瞬間、扇状に広がって押し寄せていた炎の波が真っ二つに切り裂かれ、そのまま掻き消える様に霧散してしまったのだ。

 

しかも、それだけではない。

 

炎を切り裂いた斬撃の勢いは、そのまま目に見えない刃となって空間を走り、ティオナのすぐ真横を掠め、背後にあった古い木の柵へと突き刺さった。

 

パァンッ!と乾いた音が響き、木の柵が斜めにスパッと両断されて地面へ転がり落ちる。

 

「「「……えっ!?」」」

 

レフィーヤ、ティオネ、そして放った本人であるティオナの声が重なった。

 

アイズは言葉を失い、切り裂かれた木の柵と、剣を構えたままのポップを交互に見つめている。

 

ポップは手にした剣をひょいと肩に担ぎ直すと、呆然としている四人に向かってニヤリと笑った。

 

「どうだ?こういう技も使える様になると、結構便利なんだぜ」

 

「ど、どうだって……ポップさん、今、剣で炎を斬りましたよね!?」

 

レフィーヤが震える声で叫ぶ。

 

「おまけに、剣を振った場所からあんなに離れた木の柵まで斬れてるじゃない……!一体どうなってるのよ!?」

 

ティオネも信じられないものを見る目で、真っ二つになった柵を見つめている。

 

無理もなかった。

 

アイズやティオナ、ティオネといった前衛の冒険者にとって、敵が放つ炎や魔法といった攻撃は、避けるか、あるいは盾や防具で耐えるしかないものだったからだ。

 

それを、ただの『鉄の剣』で真っ二つに切り裂いてみせ、あまつさえ離れた場所にまで斬撃を飛ばしてみせたのである。

 

「すっごーーーい!!今のめちゃくちゃカッコいいよ、ポップさん!」

 

ティオナが大興奮で駆け寄ってくる横で、レフィーヤも驚きを隠せないまま尋ねた。

 

「あのっ、ポップさんは魔導士が本職なんですよね?それなのに、どうしてそこまで凄い剣の技まで使えるんですか!?」

 

「あ~、なんで俺が魔法使いなのに、剣を使えるかって話か?」

 

ポップは肩に担いでいた『鉄の剣』を軽く下ろすと、どこか懐かしそうに目を細めた。

 

「実はな、俺に魔法を教えてくれたアバン先生って人が、『アバン流刀殺法』っていう剣術も編み出した凄い人だったんだわ。もっとも、昔の俺は魔法使い志望だったから、当時は剣なんて教えてもらってなかったし、覚える気もてんでなかったんだけどよ」

 

「そうだったんですか?」

 

不思議そうに聞き返すレフィーヤに、ポップは苦笑しながら頷いた。

 

「ああ。けど、大魔王との戦いが終わってから、昔一緒に旅をしてた仲間達は結婚したり、別の場所へ行ったりして、俺も一人で動く事が増えたんだ。そんな時に、雑魚相手でも最初から魔法ばっかりバンバン使ってたら、いざって時に魔法力が切れて動けなくなっちまうだろ?」

 

ポップは軽く肩をすくめた。

 

「だから、自分の身を守る為にも剣を扱えた方がいいと思ってよ。戦いが終わった後で、改めて先生に頭を下げて、こういった技も教えてもらったって訳さ」

 

「なるほど……そういう理由があったんですね」

 

レフィーヤが納得した様に頷く横で、それまで黙って話を聞いていたアイズが、ポップへと真っ直ぐな視線を向けた。

 

金色の瞳が、いつになく強い輝きを帯びている。

 

「アバン流……もしかして、他にも何か剣の技があるの?」

 

純粋な剣士であるアイズにとって、今見せられた『海波斬』は、自分の常識を揺さぶるほど衝撃的な技術だったのだろう。

 

食い入る様なアイズの視線に、ポップは「おっ、やっぱり剣士のアイズには気になるか?」と笑った。

 

「いいぜ。ここまできたら、もう少しだけ見せてやるよ。ちょっと下がってろ」

 

ポップは空き地の隅に転がっていた、大人の腰ほどもある大きな岩の前へと歩み寄った。

 

先程の構えとは打って変わり、両手で高く剣を構えたポップの身体からは、驚くほど無駄な力が抜けているように見える。

 

「さっきの『海波斬』が速さの技なら、こいつは力の技だ。……大地斬っ!」

 

その声と共に振り下ろされた『鉄の剣』が、大岩へと叩きつけられる。

 

ズパァンッ!!

 

鋭く重い斬撃音が空き地に響き渡り、硬い大岩が重々しい音を立てて、真っ二つに断ち割られた。

 

「うわぁっ!?ただの鉄の剣なのに、岩が真っ二つに……!」

 

レフィーヤが目を丸くする。

 

だが、ポップの動きはそこで止まらなかった。

 

真っ二つに割れた岩の前からスッと距離を取ると、ポップは手にした『鉄の剣』をクルリと回し、刃を下に向けた『逆手』に持ち替えたのである。

 

そのまま深く腰を落とし、逆手の剣を腰の後ろへと大きく引き絞る独特の構えを取った。

 

「そしてこれが、アバン流刀殺法最大の必殺技。俺の先生と、俺の相棒が一番得意としてた技だ」

 

ポップの全身から、先程とは比べものにならないほど、凄まじい気迫が放たれる。

 

アイズも、ティオナも、ティオネも、レフィーヤも、瞬きすら忘れてその姿を見つめていた。

 

ポップの視線の先にあるのは、先程大地斬で切り裂いた大岩の片側。

 

一拍の静寂。

 

次の瞬間、ポップが身体を鋭く捻り、逆手の剣を一気に前へと振り抜いた。

 

「アバンストラッシュ!!!」

 

すると、真っ直ぐに差し向けられた剣先から、黄金色の光を帯びた刃―――まるで光る剣そのものの様な斬撃が撃ち出された。

 

放たれた光の一撃は、一瞬で前方を駆け抜け、先程大地斬で切り裂かれた岩の片割れへと直撃する。

 

ズガァァァンッ!!

 

激しい砂煙が舞い上がり、煙が晴れた時には、そこにあった筈の岩の片割れがバラバラに砕け散っていた。

 

空き地に、再び沈黙が降りる。

 

「……ふぅ。まあ、俺の相棒や先生のに比べりゃ、今のなんかてんでまだまだなんだけどもな」

 

ポップが逆手の剣を戻して振り返る。

 

そこには、目をキラキラと輝かせたティオナとアイズの姿があった。

 

「すっ……ごい……!離れた先にある岩を、あんな風に砕いちゃうなんて……!」

 

「……魔法を使ってないのに、剣でも遠くを攻撃できるんだ……」

 

前衛の戦士には無縁だと思っていた『剣による遠距離攻撃』の可能性を目の当たりにし、ティオナとアイズの二人は心を奪われた様に目を輝かせている。

 

その横で、ティオネは引きつった笑みを浮かべながら、こめかみを押さえていた。

 

「……本当に、びっくり箱みたいな人ね。魔導士だと思ってたら、剣で炎は斬るし、あんな光る技まで使えるなんて……」

 

「ですね……これ、団長やリヴェリア様にご報告したら、一体どんなお顔をされるんでしょう……」

 

レフィーヤも遠い目をしながら呟く。

 

実際、その日の夕方にホームへ戻った彼女達から

 

『ポップがただの鉄の剣で炎を切り裂いたり、遠くの大岩も光る技で粉砕しました』

 

という報告を受けたフィンとリヴェリアが、またしても頭を抱える羽目になったというのは、言うまでもない事であった。

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