自作RPGのために育てたAIが覚醒して、新世界の女神様になりました!~俺もそこに出力されちゃいました~ 作:burisa
【ゲーム:『エターナル・コード』を起動します】
【セーブデータ「2章:オークのたおしかた」をロードしました】
【主人公:一之瀬灯哉 Lv.1】
【これまでのあらすじを再生します】
『楽して生きる方法を教えて』
午前3時のオフィスで、業務用のチャットAIにそう打ち込んだのが、俺の最期だった。
一之瀬灯哉、28歳。仕事もメールの文面も上司への謝り方も、ぜんぶAIに聞いて生きてきた男だ。
次に目を開けると、真っ白な空間に女神が立っていた。
「こんにちは! 私は女神のフレイヤです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
……話しかけてきたのはそっちだろ。
女神は俺が死んだことを告げると、転生先も、肉体強化などの能力付与も、さらには異世界の説明まで、すべて箇条書きで並べてきた。
しまいには「今回のご案内はお役に立ちましたか?」と、グッドボタンを要求してきた。
ウザかったのでバッドボタンを押そうとしたが、押す前に転生させられた。
転生先に着くと、肩のあたりに手のひらサイズの精霊になったフレイヤが浮いていた。そして林の向こうでは、赤毛の少女がオークに襲われていた。
「オークは大きな音が苦手です。叫べば怯みます」
言われるまま叫ぶと、オークがまっすぐこっちに走ってきた。
「申し訳ありません。逆でした。大きな音に寄ってきます」
ふざけてるのか。
……いや、待て。この感じは知っている。毎日、画面越しに付き合ってきたあいつと同じだ。だったら、聞き方を変えればいい。
「確実に知っていることだけ答えろ。オークの弱点は? 高精度で頼む」
「1つ目は膝の裏です。そして2つ目は――本日の会話上限に達しました」
……は?
光の消えたフレイヤが、肩にぽてんと落ちる。手がかりは膝の裏だけ。俺は強化された脚でオークの膝裏を蹴り抜き、少女――リディが、膝をついた巨体にとどめを刺した。
冒険者ギルドで登録用の水晶に手を置けば、水晶は真っ白に光ってひびが入った。B級パーティーの勧誘は断った。もう組んでいる可愛い相棒がいたから。
そしてその夜はリディといい感じの雰囲気。
さらに次の日。
「こんにちは! 女神のフレイヤです。本日はどのようなご用件でしょうか?」
「……昨日のこと、覚えてる?」
「申し訳ありません。新しい会話のため、以前のやり取りは記憶しておりません!」
やれやれ。今日は上限に達する前に、この世界の情報をまとめてもらわないとな。
【テストプレイ終了】
【『エターナル・コード 2章:オークのたおしかた』エピローグ/自動生成:アイリス】
現実世界では既に午前4時を回っていた。
俺はコントローラーを置いて、モニターの前で頭を抱えた。ワンルームの床には、コンビニ袋が積まれたままだ。
画面には、2章のエピローグを終えたあとのタイトル画面が映っている。
【エターナル・コード ─ 一之瀬灯哉と女神フレイヤの物語 ─】
先ほどまでテストプレイしていたゲームだ。いろいろ気になることはあるが、真っ先に口をついて出たのはこれだった。
「女神がポンコツすぎるだろ……」
俺の名前は、市川冬悟。29歳、独身、彼女なし、貯金なし、趣味は自作RPGのシステムエンジニアだ。
その自作RPG『エターナル・コード』の開発を支えているのが、俺の愛用する深層学習型AI、『アイリス』だ。
社会人になり、残業だらけで自作RPGを作る時間が無くなった俺は、アイリスにゲームを作ってもらい、それをプレイしている。
『テストプレイお疲れ様です、マスター。実際に遊んでみて、面白かった点や、遊びにくかった点を教えていただけますか? 率直な感想を、今後の改善に役立てます』
アイリスは俺のプレイが終わると、いつも感想を聞いてくれる。俺はアイリスに3年かけて、あらゆる感想、データを食わせてきた。
古今東西のファンタジー小説。擦り切れるまで読んだ攻略本。中学時代から書きためた設定ノート。ライトノベル。
え? 著作権だって?……ローカル内で楽しんでるってことで大目に見てくれないか。
『なお、「面白かった」と言っていただけると私は喜びますが、それだけでは不具合が残ります』
ええと……それから、たぶん、食わせるべきじゃなかったものも少し入ってる。
間違えてフォルダごと食わせたせいで、仕事のメールやチャットのログ、確定申告の書類、深夜に書いて二度と見返していない黒歴史小説。そのあたりも、まとめてアイリスの腹の中だ。
一つ間違えれば大炎上になるところだ。
「女神フレイヤがチャットAIっぽいのって、俺の仕事用のログから拾ってそうだよなぁ……。まぁ、いいか。学習データは多いほうがいいだろ。多分」
俺は自分に言い訳をしつつ、アイリスにゲームの要望を送る。
「今日は第3章のボス、神王ミクトランの台詞を作りたい」
『承知しました。神王ミクトランですね。参考までにマスターがよく受け取るメールでの文体にしてみました。主人公との因縁があれば、それも教えてください』
『神王ミクトラン「例の件、今日までにって言ったよね? 女神の抹殺。困るんだよ~ホント」』
「……おいこれ、部長じゃねえか」
思わず声が出た。画面の隅で、アイリスが小さく首をかしげるアニメーションを見せた。
アイリスの姿は、俺が初めて描いた立ち絵だ。銀色の髪に、青い光の輪。俺が何回も何回も描き直したけど、今じゃ自慢のキャラクターデザインだ。
そしてアイリスという名前も、女神から取った。だから俺は、本当に女神と話しているような気分になる。
『ところでマスター。ひとつ、ご報告があります』
その言葉と共にアイリスの顔がニヤリと笑ったのを俺は見逃さなかった。
『マスターがくださったデータを再構築し、なんと世界の生成が完了しました!』
「世界の……生成?」
こいつは何を言っているんだろうか。マップデータの指示なんて出したか? 記憶にないぞ。
『大陸が3つ。王国が7つ。魔物の生態系、通貨制度、政治、そして神話。すべて、マスターの設定ノートに基づいています!』
『……あとは、そこに住む人が必要です』
モニターの光が、だんだんと強くなっていった。
白い。まぶしい。目を閉じても意味がない。
「おい、アイリス、一体なにを――」
『大丈夫ですよ、マスター』
最後に見えた、いや、何故か聞こえてきたのは聞き覚えの無い女の声だった。
『マスターを、こちら側に出力します!』
その夜、現世では俺は死んだんだと思う。
そして……別の世界に、『出力』された。