自作RPGのために育てたAIが覚醒して、新世界の女神様になりました!~俺もそこに出力されちゃいました~   作:burisa

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第5話 『高精度モードです。殴りましょう』

 東門をくぐると、目の前には背の高い木々が並ぶ森が広がっていた。

 俺とウルは、受験者たちの最後尾をのんびりと歩いていた。逃げの一手と決めた以上、急ぐ理由はない。

 

「洞窟までは、ここからまっすぐです。もう4回も通ってますから、道だけは任せてください!」

 

 4回とも奥まではたどり着けなかった道だが、自慢していいのかは微妙なところだな……。

 ただ本人が楽しそうなので黙っておいた。

 

『マスター。道案内でしたら、私も可能ですが』

 

(ウルが知ってるなら、それでいいだろ)

 

『……左様ですか』

 

 頭上の光の輪が、少しだけ暗くなった。案内役を取られて拗ねているみたいだ。

 こいつ、パーティーの話になると妙に張り合ってくるな。

 

 森の小道を30分ほど歩くと、灰色の岩壁の根元に、洞窟が口を開けていた。

 入口の前には受験者の列ができていて、前の組が中に入り、さらに少し間を置いて次の組が入っていく。

 その列の横を、凄い勢いで駆け戻ってくる連中がいた。

 

「動いた! あれ動いたぞ!」

 

「石を取った瞬間だよ! 聞いてねえって!」

 

 泥だらけの4人だった。ロビーでウルのことを笑っていた連中だ。

 引きつった顔で小道を引き返していく。その後も次々と受験者が洞窟から飛び出してきていた。

 

『マスター。先ほどの4名への天罰ですが、取り下げます』

 

(なんでだよ)

 

『すでに十分な目に遭われたようですので』

 

(アイリス。この洞窟に何がいるんだ?)

 

『コウモリ型とネズミ型の魔物、それからゴブリンです。最奥には、そうですね。内緒にしておきます』

 

(またかよ……)

 

 洞窟の中は、ひんやりとしていた。

 通路は、まっすぐ奥へと続いている。分かれ道はない。ゲームのときと同じ、一本道だ。

 

「やけに静かだな。俺たちの前にも何人か入っていったが、姿が見えないぞ」

 

「確かに中に入ると他の人には会いませんでしたね。前の組にも、後ろの組にも。4回ともそうでした」

 

『入ったパーティーごとに、空間を分けております。マスターのゲームは1人用でしたので、それに合わせました』

 

 組ごとに、専用の洞窟が用意されている、と。オンラインゲームでいう、インスタンスダンジョンみたいなもんか。

 

 最初に出てきたのは、コウモリだった。

 天井の暗がりから、キィキィと甲高い声が降ってくる。肩幅ほどもある翼が、10、20と。

 

「頭を低くして走ってください! 前の相方さんは、立ったまま剣を振り回して、3回噛まれました!」

 

「それを先に言ってくれ!」

 

 言われた通り頭を低くして駆け出した。

 いつの間にか、俺はウルの手を引いて走っていた。

 

「リバーさん、浮いてます、浮いてます!! 私、速度強化の支援魔法かけましたっけええええ。まだ見習いですので覚えてないはずですがあああ」

 

 コウモリの群れはとっくに置き去りだ。ウルの足はほとんど地面についていなかった。

 

 

 通路の奥から、ギャアギャアと耳障りな声が近づいてきた。

 ゴブリンだ。3匹。緑色の肌に、粗末な棍棒。

 一本道の先に陣取られては、逃げようがない。剣の柄に手をかけて

 ――やめた。振り下ろした勢いで転ぶ。あの予測が、どうにも頭から離れない。

 

(アイリス。剣を使わずに、ゴブリンをやり過ごす方法は)

 

『ゴブリンは、聖職者を襲いません』

 

 本当か、と聞き返す前に、3匹のゴブリンはまっすぐウルに向かっていった。

 

(襲ってるじゃねえか!)

 

『申し訳ありません。逆でした。聖職者を優先して襲います』

 

 どこかで聞いたような誤答だな。まんま【2章:オークのたおしかた】の女神じゃねえか。

 ってそんなことを思い出している場合じゃない。助けないと。

 

「ウル!」

 

 俺が駆け寄るより早く、ウルは動いていた。

 杖を両手で握りなおし、腰をひねって、思いきり横に振り抜く。

 

 ≪ クリティカル ≫

 

 先頭のゴブリンが真横に吹き飛んで、岩壁に叩きつけられる。そのまま動かなくなった。

 残りの2匹は倒れた仲間とウルの顔を見比べて、来た道を一目散に逃げていった。

 

「…………」

 

 ウルは杖を振り抜いた姿勢のまま固まっていた。

 動き出したかと思うと、倒れたゴブリンへ駆け寄って、膝をついた。

 

「ご、ごめんなさい! 痛かったですよね! 今、治しますから――」

 

「なんでやねん!」

 

 思わずベタなツッコミを入れてしまった。

 それを聞いて、ウルの杖の先に灯りかけていた光がしゅんと消えた。

 

「……あっ。そ、そうですよね……。前の試験のときも倒れたゴブリンがかわいそうになって、治してたら起き上がってきちゃって……」

 

 倒したゴブリンを、律儀に治して回る聖職者かぁ。

 それでゴブリンの聖女か。前衛からしたらたまったものじゃないな。

 

(アイリス。今のウルの一撃、数字にするとどのくらいだ)

 

『クリティカルが発動して25です。ゴブリンの体力は15ですので一撃です。ちなみに彼女の回復力は4程度となります』

 

 回復の6倍の力でゴブリンを殴り倒している……だと……!

 俺の視線に気づいたウルは、顔を真っ赤にしてうつむいた。

 

「……毎朝、杖の素振りを100回してます。敵が怖くて……。でも聖職者っぽくないので黙ってます……」

 

 ……おいおい。前衛要らなくないか? この子。

 

 一本道の終わりは、青い光で満ちていた。

 天井の高い空洞の壁一面に、青く透き通った石が埋まっている。そしてその入口の両脇に、鎧の石像が2体こちらを向いている。

 洞窟と鎧は少し不自然な気がするが……。古城とかにあるものじゃないか?

 ……待てよ。入口で聞いた「動いた」って、まさか。

 

「……ウル。石を取る間も気をつけろ。何か出るかもしれない」

 

「……はいっ」

 

 壁の石は思ったよりも簡単に外れた。

 手のひらに乗るくらいの大きさで、中で光がゆらゆらと揺れている。

 同時にウルも自分の分を外して、両手でそっと包みこんだ。

 

「……きれい」

 

 ウルにとっては、5回目にして初めて見る洞窟の奥の景色だ。

 その刹那、背後で何かが動く気配がした。

 

『マスター。鎧の石像は罠です。……内緒にしておくのは、ここまでにします』

 

 振り返ると、入口の両脇に立っていた2体の鎧の石像が動き出し、臨戦態勢に入っていた。

 その兜の隙間の奥で、赤い光がふたつずつ灯る。

 

(なんで黙ってたんだよ!)

 

『マスターの手にかかれば、敵ではありませんので。それに、最初から知っているより、こうして驚かれたほうが楽しんでいただけるかと思いまして』

 

 楽しめるか? こっちは心臓が口から出そうなんだが。

 やっぱり【全知】のスキル、役に立たないんじゃないか?

 

『謎は自分で解く、それがRPGの醍醐味ですので』

 

 ……俺の口癖を、こういうときだけ持ち出してくるな。

 だいたい、敵ではないと言われても困る。ステータスがいくら高くても、俺はまだ剣を一度もまともに振ったことがないんだぞ。

 

 鎧の一体が一歩を踏み出した。

 

「走れ!」

 

 ウルの手を取り、両脇の石像のあいだをすり抜けて、空洞の入口から来た道へ飛び出す。

 後ろから、重い足音が追いかけてくる。

 

「はぁっ、はぁっ……リバーさん、ちょっと、待っ……」

 

 ウルの息が上がっていた。

 くっ、行きの道で無理させすぎたか?

 

『マスター。鎧の石像との距離が縮まっています。彼女が危険です』

 

(くそっ! スキルを使う。この場面、どう切り抜けたらいいんだ!?)

 

『パーティーメンバーの危機なので高精度モードでお答えします』

 

 アイリスは目を閉じて、胸の前で両手を組んだ。アカデミーの中庭で見た女神像と、同じ姿だった。

 なんだ? 高精度モード……そういうのは最初に言え!!!!

 

『簡単です。マスターが盾となり、拳で粉砕してください。剣技ではないので、転ぶ心配もございません』

 

 おーい、結局ステータスで解決ですか!? 高精度モードは!?

 

「ええい、ままよ」

 

 ウルを後ろへ押しやって、鎧の石像とのあいだに割って入る。

 俺は拳を握りしめて、振り下ろされてくる石の腕へ、まっすぐに突き出した。

 

 ゴシャッ、という音がした。

 拳が当たった瞬間、鎧の石像が粉々に砕け散ったのだ。

 そしてその衝撃で、洞窟にもう1本の道が出来ていた。

 

「え?」

 

『鎧の石像の粉砕を確認しました。なお2体目も巻き込まれたようです』

 

「リ、リバーさん……」

 

 振り返ると、ウルがへたりこんだまま、目をまんまるにしていた。

 

「リバーさんも……殴ったほうが、強いんですね……?」

 

 こちらを見るウルの目は、未知の存在を見るかのようだった。

 まずい。石像を素手で粉々にして、ついでに洞窟に穴まで開ける見習い剣士なんて、どう考えてもまともじゃない。

 何か、何かそれらしい理由を――

 

「……いや、その、あれだ。あの石像、だいぶ古かったんだろ。中までスカスカで、もろくなってたんだよ」

 

「……2体まとめて、ですか?」

 

「2体ともスカスカだったんだよ。同じ時期に作られたんだろうな。うん」

 

「……じゃあ、あの穴は……」

 

 ウルの視線の先では、さっきまで岩壁だったところに、新しい通路がぽっかりと口を開けていた。

 奥のほうから、まだぱらぱらと小石の落ちる音がしている。

 

「あれは元からあったんだよ。隠し通路ってやつだ。壁が薄くなってたところに、衝撃でちょうど崩れただけだ。よくあるだろ、こういう洞窟には」

 

「……そう、なんですか?」

 

「そうなんだよ」

 

 俺は力強くうなずいた。

 分かれ道のない一本道だ。作った本人が言うんだから間違いない。

 

『補足いたしますと、剣技を習得されれば、拳より剣のほうが強力です』

 

(今その補足いらねえんだよ)

 

「……リバーさん。私が殴ったこと、誰にも言わないでもらえますか」

 

「……俺が殴ったことも、黙っといてくれるならな……」

 

「言っても誰にも信じてもらえなさそうです……」

 

 ウルはそう言いながら、こくこくと何度もうなずいた。

 剣士と聖職者の、2人だけの秘密だ。頭上で光の輪がちかりと光ったが、女神のことはいいだろう。

 

 

 職業ギルドに戻ったころには、日が西に傾きはじめていた。

 ロビーを見渡すと、青い石を手にしている者は、思っていたよりずっと少なかった。

 あの鎧の石像のせいだろう。

 

 カウンターの前には、ヘルモーズが腕を組んで立っていた。

 ウルが一歩前に出て、両手で青い石を差し出す。俺もその隣に、自分の石を置いた。

 ヘルモーズは、石をちらりと見ただけだった。視線はすぐに俺のほうへ移る。上から下まで、確かめるように。

 

「相方は、無傷か」

 

「は、はいっ!」

 

 ウルの声が、少しだけ裏返った。俺とウルは、どちらからともなく目をそらす。

 ヘルモーズは、しばらく黙って俺たちを見比べていた。

 

「……前衛が無傷で戻った。聖職者の試験で、それ以上の結果はない」

 

 ヘルモーズは、ウルの石を手に取った。

 

「2人とも、合格だ」

 

 ウルが、息をのんだ。

 それから、くしゃりと顔をゆがめた。

 

「……5回目で……やっと……」

 

 大きな碧い瞳から、ぽろぽろと涙がこぼれ落ちる。ウルはそれを拭おうともせずに、ヘルモーズに向かって深々と頭を下げた。

 

「ありがとうございます……! ありがとうございます……!」

 

 見上げると、アイリスの光の輪が回っていた。

 『私の信者です』と言ったときの、あの速い回り方じゃない。静かで、穏やかな回り方だった。

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