貞操逆転世界の復讐男   作:曇らせ大好きマン

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第一話

 

 

おっぱいやめろ。

 

この世界は狂っている。

「ホロウ」という突如発生する大災害に、「エーテリアス」とかいう化け物。人間がバンバン死んでいく地獄──そんな世界に俺は転生してしまった。

 

だが、そんなことはどうでもいい。今の俺にはもっと重大な問題がある。

 

エロい。エロすぎて死ぬ。

 

この世界の女たちは、あまりにもエロすぎる。なんだあの服装は。胸元が開いているとか、太ももが見えているとか、そういうレベルではない。

 

胸を強調し、腰を強調し、尻を強調し、太ももを惜しげもなく晒している。何なら、ホロウという危険地帯に潜るための装備ですら、妙に身体のラインが分かるものばかりだ。

 

お前らは馬鹿なのか? ぶるんぶるんと揺らしながら隣で戦ってんじゃねぇよ。危ねぇだろ──俺が。目の前のエーテリアスよりも、隣のおっぱいを見てしまうんだよ。頼む、頼むから独りで戦わせてくれ。

 

「──ちょっと! 聞いてるの、ラザル! お姉ちゃんも何か言ってあげて!」

 

おっぱいやめろ。

隣に座るリンが、怒ったように声を上げる。俺が話を聞いていないのは、お前がおっぱいを押し付けてくるからだ。

 

「──あまり無茶をしないでくれ。ボクたちは君のことが心配なんだ……」

 

おっぱいやめろ。

後ろに立つアキラが、耳元で囁く。今、俺に無茶をさせているのは、後頭部におっぱいを押し付けてくるお前だ。

 

はやく帰ろう。これ以上このエロ姉妹といると、おかしくなる。俺のチンコが。

 

この世界は狂っている。

そもそもの話をしよう。この世界では、男が十人に一人しか生まれてこない。原因はエーテルらしい。詳しい理屈は知らん。ただ、人間がバンバン死ぬ社会で、数少ない男は国宝級の貴重品として扱われる。戦うのは女。前に出るのも女。男は後ろでお茶でも飲んでいろ。それが常識だ。

 

その常識に真っ向から喧嘩を売っているのが、ホロウに潜って槍を振り回している俺なわけだが。

 

「心配は無用だ。俺の実力をお前たちはよく知っているだろう? 何も問題はない」

 

ソファから立ち上がろうとすると、リンとアキラが同時に抱きついてきた。おっぱいやめろ。死ぬぞ俺が。

 

「大アリだよ! こんな戦い方を続けたら、いつか死んじゃうよ!?」

「君はもう少し自分を大切にすべきだ。いくら傷がすぐに再生しても、限界はあるだろう?」

 

や、やばい。前後から抱きしめないでくれ。おっぱいに挟まれて身動きが取れない。これが前門の虎、後門の狼というやつか。いや、おっぱいサンドイッチだ。

 

どいつもこいつも距離感がバグってやがる。このエロ姉妹だけじゃない、知り合いの女は皆んなこうなのだ。耐えるのがとても辛い。

 

もう限界だ。あの魔法の言葉を使うか。

 

「──契約、忘れてないよな?」

 

その瞬間、リンとアキラは息を呑んで黙った。いいぞ、このまま畳み掛けろ。

 

「ホロウレイダーとプロキシとして、10年前の旧都陥落を調べるために協力する、とな」

「そ、それはそうだけど……」

「ボクは、ただ君を……」

 

おっ、抱きつく力が緩んだぞ。さっさと抜けて退店するか。今日のおかずは何にしようかな。

 

「話は終わりだ。依頼があれば連絡してくれ。じゃあな」

「………うん」

「………ああ」

 

危なかった。ナニがとは言わないが、危なかった。二人には少し言い過ぎたかもしれないが、いつものことだし大丈夫だろう。

 

俺はビデオ屋から立ち去った。

 

 

 

※

 

 

 

アキラ視点

 

 

ボクは自分が嫌いだ。

 

「心配は無用だ。俺の実力をお前たちはよく知っているだろう? 何も問題はない」

 

知っているとも。ボクはずっと、いちばん後ろで見てきたんだからね。

 

『亡霊』。骸骨を模した仮面。闇に溶ける黒いフード付きの戦闘服。手にした深紅の槍が、エーテリアスの群れを紙のように裂いていく。正体不明のホロウレイダー。それがラザルだ。

 

依頼達成率は100パーセント。誰もが引き返す場所で、彼だけが前に進む。そのくせ、帰ってくると決まって血まみれなんだ。

 

「大アリだよ! こんな戦い方を続けたら、いつか死んじゃうよ!?」


「君はもう少し自分を大切にすべきだ。いくら傷がすぐに再生しても、限界はあるだろう?」

 

先月も、そうだった。エーテリアスに左腕を噛ませたまま、彼は構わず懐へ踏み込んだ。腕の引き千切れる音が、ボンプ越しにボクの耳まで届いた。

 

彼にとっては、ただの最短距離なんだろう。腕は治る。だから問題ない、と。治るからって、痛くないわけじゃないのに。

 

何もできないボクは、ただ指示を出すだけだった。守られるのは男の役目のはずなのに、傷つくのはいつも彼で、ボクは安全な後ろの席にいる。

 

眠れない夜なんて、もう数えるのをやめた。

 

「──契約、忘れてないよな?」

 

息が止まる。

ああ、またそれか。彼にとっては何気ない一言なんだろう。それでも、ボクの胸のいちばん柔らかいところに正確に刺さる。

 

「ホロウレイダーとプロキシとして、10年前の旧都陥落を調べるために協力する、とな」

 

そうだね。最初は、それだけだった。

カローレ先生とその名誉を取り戻すために、腕の立つ彼を利用する。ボクたちはそのつもりで近づいた。……それなのに、いつからだろう。彼の背中を目で追う理由が、変わってしまったのは。

 

線を引いたのはボクたちなのに、その線の外に置かれて、勝手に傷ついている。まったく、自分勝手な話だ。

 

「話は終わりだ。依頼があれば連絡してくれ。じゃあな」


「………うん」


「………ああ」

 

扉が閉まって、足音が遠ざかっていく。

追いかけたかった。腕を掴んで、行かないでくれと言いたかった。けれど、守られてばかりのボクに、そんな資格があるだろうか。

 

さっきまで彼を抱きしめていた胸が、まだ熱い。服越しでも分かる、硬い筋肉の感触。ボクより頭ひとつ高いところから降ってくる、低い声。仮面を外した彼の、黒い髪と、ぞっとするほど澄んだ青い目。あれは反則だと思う。あんなに無防備に眠られたら、こっちは──。

 

触れたかった。あの首筋に顔を埋めて、体温を確かめて、ボクの名前を呼ばせたかった。

 

……最低だ。

 

こんなに浅ましいボクを、彼が知ったらどう思うだろう。いや、きっと何も気づかない。ボクの視線にも、熱い胎にも、この執着にも。

 

「……本当に、困ったものだね」

 

誰もいなくなったビデオ屋の片隅で、ボクは自分の腕を強く抱いた。

 

 

 

※

 

 

 

ホロウの中で、深紅の槍が光を引いていた。

四方から押し寄せるエーテリアスの群れ。緑に発光する異形達が、壁のように亡霊を囲んでいる。その中心で男は一歩も退かなかった。

 

槍が横薙ぎに閃く。

先頭の三体の胴が、まとめて両断された。断面から噴き出すエーテルを踏み越え、亡霊はそのまま前へ出る。背後から振り下ろされた爪が肩口を裂いたが、彼は振り返りもしない。

 

「……遅い」

 

突進してきた一体の眉間へ、穂先が吸い込まれる。頭蓋が砕ける乾いた音。槍を引き抜く動作が、そのまま次の敵への構えになっていた。

 

まるで流れ作業のように、エーテリアスが一体、また一体と崩れていく。骸骨の仮面の奥で青い目は冷え切っていた。肩の傷から流れる血はすでに止まっている。

 

最後の一体が倒れ、周囲が静まった──その瞬間。

空気が、変わった。

 

「……上級か」

 

現れたのは、黒い巨体だった。右腕に剣、左腕に大盾を持った、上級エーテリアス『デュラハン』。

 

次の瞬間、巨体が消えた。

否、消えたように見えるほどの速度だった。亡霊は反射で身を傾ける。剣の切っ先が仮面の端を掠め、背後の瓦礫が音もなく切り裂かれた。紙一重。一瞬でも遅れていれば、首が飛んでいた。

 

二撃目が来る。亡霊は、あえて避けなかった。左腕を差し出す。剣が肉を切り裂いたが骨で刃が止まった。痛みが脳天まで駆け上がる。

 

「──捕まえた」

 

神速の突き。

赤い穂先が、デュラハンの胸甲を紙のように貫いた。巨体が痙攣する。だが、まだ倒れない。胸に槍を刺したまま、デュラハンは異様な力で亡霊の身体ごと持ち上げようとして──

 

「……あのさ」

 

気怠い声が、頭上から降ってきた。

黒い髪。サメの尾。巨大な鋏を肩に担いだメイド服の少女が、瓦礫の上に立っていた。

 

「また、そんなイカれた戦い方をしてるわけ? 見ているだけで痛いんだけど」

「……エレンか」

 

亡霊の声が、ほんのわずかに低くなった。

次の瞬間、エレンの姿が掻き消える。鋏が唸り、デュラハンの背へ氷の斬撃が叩き込まれた。凍りついた装甲が悲鳴を上げて砕け散る。

 

「……必要ない。どこかへ行け」

「はぁ? せっかく手伝ってあげてるのに?」

「邪魔だ。お前がいると集中できない」

「……あたし、もう昔みたいに弱くないんだけど。あの頃の小さい女の子じゃない」

「確かにデカくはなった。驚くほどな……」

 

エレンの尻尾が、ぴしりと床を打った。

昔の彼女は、確かに弱かった。ホロウの奥で瀕死になっていたところを助けたのは、彼だ。その後の短い期間、戦い方を叩き込んだのも。あの頃は、背中に庇われていることしかできなかった少女が──今は、横に立って武器を構えている。

 

「……」

 

デュラハンが再び動き出す。亡霊は槍を抜き、血に濡れた左腕を一度だけ見下ろした。

 

「……好きにしろ」

「ふふん。最初からそう言えばいいのに」

 

 

※

 

 

亡霊の槍が、デュラハンの剣を弾く。

衝撃で、巨体の体勢が崩れた。その隙に、エレンの鋏が足元を薙ぐ。氷結した床が広がり、デュラハンの脚を縫い止めた。

 

デュラハンが拘束を引きちぎり、最後の力で暴れ狂う。剣が空を裂く。亡霊は槍の柄で受け、足を踏ん張り──そして叫んだ。

 

「エレン、跳べ!」

「言われなくても」

 

少女の身体が、空へ舞い上がった。パンツが見えた。

冷気が広がる。吐く息が白く凍り、瓦礫に氷の結晶が這い上がっていく。エレンの掲げた鋏の周囲に、吹雪が渦を巻いた。

 

氷の嵐が、一気に炸裂した。

吹き荒れる雪と刃の渦が、周囲のエーテリアスを一匹残らず呑み込んでいく。凍りつき、砕け、粉になって散っていく。その中央で、デュラハンだけがまだ立っていた。

 

亡霊は、地面を蹴った。

吹雪の中を、一直線に。氷の礫が頬を裂き、傷口から血が舞う。槍を腰だめに構え、デュラハンの盾を槍で砕く。

 

巨体が、無防備になった。

頭上から、巨大な鋏が振り下ろされる。

 

「──おやすみ」

 

轟音。

氷の刃が胴を真っ二つに断ち割った。

巨体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。エーテルの霧が晴れ、やがて静寂が戻った。白く凍った地面の上に二人だけが残る。

 

エレンが着地する。おっぱいがぶるんぶるんと揺れ散らかす。

 

「……じゃあな」

 

亡霊は槍を肩に担ぎ、踵を返す。左腕の傷は、すでに塞がっていた。

 

「ねぇ、お礼くらいないわけ? 助けてあげたんだけど?」

「……何が望みだ?」

「あんたのせいでお腹が空いたから奢ってよ」

「わかった」

「うなぎがいい」

「……わかった」

 

彼の背中を追いながら、肩と腕の血の匂いをそっと深く吸い込む。気づかれないように、舌先で唇を一度だけ舐めた。

 

若干前屈みになった男はこう思った「黒タイツ最高やな」と。

 

 







アキラは女体化しました。反省はしてるけど後悔はしてません。
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