貞操逆転世界の復讐男 作:曇らせ大好きマン
おっぱいやめろ。
この世界は狂っている。
「ホロウ」という突如発生する大災害に、「エーテリアス」とかいう化け物。人間がバンバン死んでいく地獄──そんな世界に俺は転生してしまった。
だが、そんなことはどうでもいい。今の俺にはもっと重大な問題がある。
エロい。エロすぎて死ぬ。
この世界の女たちは、あまりにもエロすぎる。なんだあの服装は。胸元が開いているとか、太ももが見えているとか、そういうレベルではない。
胸を強調し、腰を強調し、尻を強調し、太ももを惜しげもなく晒している。何なら、ホロウという危険地帯に潜るための装備ですら、妙に身体のラインが分かるものばかりだ。
お前らは馬鹿なのか? ぶるんぶるんと揺らしながら隣で戦ってんじゃねぇよ。危ねぇだろ──俺が。目の前のエーテリアスよりも、隣のおっぱいを見てしまうんだよ。頼む、頼むから独りで戦わせてくれ。
「──ちょっと! 聞いてるの、ラザル! お姉ちゃんも何か言ってあげて!」
おっぱいやめろ。
隣に座るリンが、怒ったように声を上げる。俺が話を聞いていないのは、お前がおっぱいを押し付けてくるからだ。
「──あまり無茶をしないでくれ。ボクたちは君のことが心配なんだ……」
おっぱいやめろ。
後ろに立つアキラが、耳元で囁く。今、俺に無茶をさせているのは、後頭部におっぱいを押し付けてくるお前だ。
はやく帰ろう。これ以上このエロ姉妹といると、おかしくなる。俺のチンコが。
この世界は狂っている。
そもそもの話をしよう。この世界では、男が十人に一人しか生まれてこない。原因はエーテルらしい。詳しい理屈は知らん。ただ、人間がバンバン死ぬ社会で、数少ない男は国宝級の貴重品として扱われる。戦うのは女。前に出るのも女。男は後ろでお茶でも飲んでいろ。それが常識だ。
その常識に真っ向から喧嘩を売っているのが、ホロウに潜って槍を振り回している俺なわけだが。
「心配は無用だ。俺の実力をお前たちはよく知っているだろう? 何も問題はない」
ソファから立ち上がろうとすると、リンとアキラが同時に抱きついてきた。おっぱいやめろ。死ぬぞ俺が。
「大アリだよ! こんな戦い方を続けたら、いつか死んじゃうよ!?」
「君はもう少し自分を大切にすべきだ。いくら傷がすぐに再生しても、限界はあるだろう?」
や、やばい。前後から抱きしめないでくれ。おっぱいに挟まれて身動きが取れない。これが前門の虎、後門の狼というやつか。いや、おっぱいサンドイッチだ。
どいつもこいつも距離感がバグってやがる。このエロ姉妹だけじゃない、知り合いの女は皆んなこうなのだ。耐えるのがとても辛い。
もう限界だ。あの魔法の言葉を使うか。
「──契約、忘れてないよな?」
その瞬間、リンとアキラは息を呑んで黙った。いいぞ、このまま畳み掛けろ。
「ホロウレイダーとプロキシとして、10年前の旧都陥落を調べるために協力する、とな」
「そ、それはそうだけど……」
「ボクは、ただ君を……」
おっ、抱きつく力が緩んだぞ。さっさと抜けて退店するか。今日のおかずは何にしようかな。
「話は終わりだ。依頼があれば連絡してくれ。じゃあな」
「………うん」
「………ああ」
危なかった。ナニがとは言わないが、危なかった。二人には少し言い過ぎたかもしれないが、いつものことだし大丈夫だろう。
俺はビデオ屋から立ち去った。
※
アキラ視点
ボクは自分が嫌いだ。
「心配は無用だ。俺の実力をお前たちはよく知っているだろう? 何も問題はない」
知っているとも。ボクはずっと、いちばん後ろで見てきたんだからね。
『亡霊』。骸骨を模した仮面。闇に溶ける黒いフード付きの戦闘服。手にした深紅の槍が、エーテリアスの群れを紙のように裂いていく。正体不明のホロウレイダー。それがラザルだ。
依頼達成率は100パーセント。誰もが引き返す場所で、彼だけが前に進む。そのくせ、帰ってくると決まって血まみれなんだ。
「大アリだよ! こんな戦い方を続けたら、いつか死んじゃうよ!?」
「君はもう少し自分を大切にすべきだ。いくら傷がすぐに再生しても、限界はあるだろう?」
先月も、そうだった。エーテリアスに左腕を噛ませたまま、彼は構わず懐へ踏み込んだ。腕の引き千切れる音が、ボンプ越しにボクの耳まで届いた。
彼にとっては、ただの最短距離なんだろう。腕は治る。だから問題ない、と。治るからって、痛くないわけじゃないのに。
何もできないボクは、ただ指示を出すだけだった。守られるのは男の役目のはずなのに、傷つくのはいつも彼で、ボクは安全な後ろの席にいる。
眠れない夜なんて、もう数えるのをやめた。
「──契約、忘れてないよな?」
息が止まる。
ああ、またそれか。彼にとっては何気ない一言なんだろう。それでも、ボクの胸のいちばん柔らかいところに正確に刺さる。
「ホロウレイダーとプロキシとして、10年前の旧都陥落を調べるために協力する、とな」
そうだね。最初は、それだけだった。
カローレ先生とその名誉を取り戻すために、腕の立つ彼を利用する。ボクたちはそのつもりで近づいた。……それなのに、いつからだろう。彼の背中を目で追う理由が、変わってしまったのは。
線を引いたのはボクたちなのに、その線の外に置かれて、勝手に傷ついている。まったく、自分勝手な話だ。
「話は終わりだ。依頼があれば連絡してくれ。じゃあな」
「………うん」
「………ああ」
扉が閉まって、足音が遠ざかっていく。
追いかけたかった。腕を掴んで、行かないでくれと言いたかった。けれど、守られてばかりのボクに、そんな資格があるだろうか。
さっきまで彼を抱きしめていた胸が、まだ熱い。服越しでも分かる、硬い筋肉の感触。ボクより頭ひとつ高いところから降ってくる、低い声。仮面を外した彼の、黒い髪と、ぞっとするほど澄んだ青い目。あれは反則だと思う。あんなに無防備に眠られたら、こっちは──。
触れたかった。あの首筋に顔を埋めて、体温を確かめて、ボクの名前を呼ばせたかった。
……最低だ。
こんなに浅ましいボクを、彼が知ったらどう思うだろう。いや、きっと何も気づかない。ボクの視線にも、熱い胎にも、この執着にも。
「……本当に、困ったものだね」
誰もいなくなったビデオ屋の片隅で、ボクは自分の腕を強く抱いた。
※
ホロウの中で、深紅の槍が光を引いていた。
四方から押し寄せるエーテリアスの群れ。緑に発光する異形達が、壁のように亡霊を囲んでいる。その中心で男は一歩も退かなかった。
槍が横薙ぎに閃く。
先頭の三体の胴が、まとめて両断された。断面から噴き出すエーテルを踏み越え、亡霊はそのまま前へ出る。背後から振り下ろされた爪が肩口を裂いたが、彼は振り返りもしない。
「……遅い」
突進してきた一体の眉間へ、穂先が吸い込まれる。頭蓋が砕ける乾いた音。槍を引き抜く動作が、そのまま次の敵への構えになっていた。
まるで流れ作業のように、エーテリアスが一体、また一体と崩れていく。骸骨の仮面の奥で青い目は冷え切っていた。肩の傷から流れる血はすでに止まっている。
最後の一体が倒れ、周囲が静まった──その瞬間。
空気が、変わった。
「……上級か」
現れたのは、黒い巨体だった。右腕に剣、左腕に大盾を持った、上級エーテリアス『デュラハン』。
次の瞬間、巨体が消えた。
否、消えたように見えるほどの速度だった。亡霊は反射で身を傾ける。剣の切っ先が仮面の端を掠め、背後の瓦礫が音もなく切り裂かれた。紙一重。一瞬でも遅れていれば、首が飛んでいた。
二撃目が来る。亡霊は、あえて避けなかった。左腕を差し出す。剣が肉を切り裂いたが骨で刃が止まった。痛みが脳天まで駆け上がる。
「──捕まえた」
神速の突き。
赤い穂先が、デュラハンの胸甲を紙のように貫いた。巨体が痙攣する。だが、まだ倒れない。胸に槍を刺したまま、デュラハンは異様な力で亡霊の身体ごと持ち上げようとして──
「……あのさ」
気怠い声が、頭上から降ってきた。
黒い髪。サメの尾。巨大な鋏を肩に担いだメイド服の少女が、瓦礫の上に立っていた。
「また、そんなイカれた戦い方をしてるわけ? 見ているだけで痛いんだけど」
「……エレンか」
亡霊の声が、ほんのわずかに低くなった。
次の瞬間、エレンの姿が掻き消える。鋏が唸り、デュラハンの背へ氷の斬撃が叩き込まれた。凍りついた装甲が悲鳴を上げて砕け散る。
「……必要ない。どこかへ行け」
「はぁ? せっかく手伝ってあげてるのに?」
「邪魔だ。お前がいると集中できない」
「……あたし、もう昔みたいに弱くないんだけど。あの頃の小さい女の子じゃない」
「確かにデカくはなった。驚くほどな……」
エレンの尻尾が、ぴしりと床を打った。
昔の彼女は、確かに弱かった。ホロウの奥で瀕死になっていたところを助けたのは、彼だ。その後の短い期間、戦い方を叩き込んだのも。あの頃は、背中に庇われていることしかできなかった少女が──今は、横に立って武器を構えている。
「……」
デュラハンが再び動き出す。亡霊は槍を抜き、血に濡れた左腕を一度だけ見下ろした。
「……好きにしろ」
「ふふん。最初からそう言えばいいのに」
※
亡霊の槍が、デュラハンの剣を弾く。
衝撃で、巨体の体勢が崩れた。その隙に、エレンの鋏が足元を薙ぐ。氷結した床が広がり、デュラハンの脚を縫い止めた。
デュラハンが拘束を引きちぎり、最後の力で暴れ狂う。剣が空を裂く。亡霊は槍の柄で受け、足を踏ん張り──そして叫んだ。
「エレン、跳べ!」
「言われなくても」
少女の身体が、空へ舞い上がった。パンツが見えた。
冷気が広がる。吐く息が白く凍り、瓦礫に氷の結晶が這い上がっていく。エレンの掲げた鋏の周囲に、吹雪が渦を巻いた。
氷の嵐が、一気に炸裂した。
吹き荒れる雪と刃の渦が、周囲のエーテリアスを一匹残らず呑み込んでいく。凍りつき、砕け、粉になって散っていく。その中央で、デュラハンだけがまだ立っていた。
亡霊は、地面を蹴った。
吹雪の中を、一直線に。氷の礫が頬を裂き、傷口から血が舞う。槍を腰だめに構え、デュラハンの盾を槍で砕く。
巨体が、無防備になった。
頭上から、巨大な鋏が振り下ろされる。
「──おやすみ」
轟音。
氷の刃が胴を真っ二つに断ち割った。
巨体が、ゆっくりと崩れ落ちていく。エーテルの霧が晴れ、やがて静寂が戻った。白く凍った地面の上に二人だけが残る。
エレンが着地する。おっぱいがぶるんぶるんと揺れ散らかす。
「……じゃあな」
亡霊は槍を肩に担ぎ、踵を返す。左腕の傷は、すでに塞がっていた。
「ねぇ、お礼くらいないわけ? 助けてあげたんだけど?」
「……何が望みだ?」
「あんたのせいでお腹が空いたから奢ってよ」
「わかった」
「うなぎがいい」
「……わかった」
彼の背中を追いながら、肩と腕の血の匂いをそっと深く吸い込む。気づかれないように、舌先で唇を一度だけ舐めた。
若干前屈みになった男はこう思った「黒タイツ最高やな」と。
アキラは女体化しました。反省はしてるけど後悔はしてません。