龍宮友喜という男はよくいる一般的な男子学生だ。
特徴としては目つきが若干悪いせいで第一印象が悪く見られることが多い。身長は同年代では高い方の170cm台に伸び、体型は肥満でもなければガリガリに痩せこけてもいない。筋肉は帰宅部らしくあまり無い、学校の成績は中の上、あるいは上の下と言ったところ。趣味はゲームで幼馴染の千晴とよく一緒に遊んでいる。美少女幼馴染が居ると言うだけで他の男子から嫉妬される境遇なのを除けば、まあ一般的な男子学生の範疇だろう(本人談)。
だが千晴は知っている友喜の良さを。道に迷っている人がいれば声を掛けて手助けし、電車では優先座席には座らず杖をついている人が近くにいれば黙って席を譲る。そして、イジメられている誰かがいればその人を助けるために本気で怒れる男だと。それで助けて貰ったのが他でもない千晴である。それ故に千晴は友喜と一緒にいたいと思い、今も共に登下校やお互いの家を行き来している。
だからこそ千晴はとっくに気づいている。友喜に何かがあったのを。何かまでわからない。だが、それが友喜にとってとても大きな出来事なのは間違いない。ほぼ毎日一緒にいる
この日もただ一緒にいつも通りに下校するだけに終わるはずだった。
「進路相談の日付はもうすぐだけど、どう?」
「どうってなんだよ……」
考え事をすることが多くなった友喜の様子を見て千晴は学校の予定を忘れてないか確認し始める。
「進路は何か考えているの? ちなみに私は大学進学してプログラミングを学ぶつもりよ」
「ああ、進路か……何も考えてないな」
考えたことも無かった。そう言わんばかりの友喜に千晴は呆れたとばかりの視線を向ける。
「そろそろ考えたほうが良いわよ? 進級してからじゃ遅いわよ?」
「わかってはいるんだけどな……」
それでもそっちに思考が回らない。友喜は口には出さないが無言でそう答える
「……何を悩んでいるの?」
「……」
千晴の質問に友喜は無表情で押し黙る
「夏休みに引き篭もってからずっとそうよね? ある日、急に号泣して倒れたと思ったら部屋から出てこなくなって」
「…………」
「一週間ぐらいで出てきたけど雰囲気が別物みたいになって……何が有ったの?」
千晴の言葉に只々無言で目を逸らし続ける友喜。しかし、それは話したくないのではなく、どう話せば良いのか悩んでいるのを幼馴染である千晴は気づいていた。
「……なあ、千晴」
「……何?」
そのままどれぐらい経ったか分からないほど無言で居ると友喜が口を開いた。
「これから俺が話すことは突拍子も無いことだ。正直、信じられないと思うし、俺の正気を疑われることだと思う。それでも、聞くか?」
「愚問ね」
不安を口にし続ける友喜を千晴は一言でバッサリ斬り捨てる。
「何年一緒に居ると思っているの? 幼稚園の頃からの付き合いよ? あなたが嘘を吐いているのか、正気かどうかなんて見抜けないわけ無いでしょ?」
そんな分かりきったことも分からないのかと千晴は友喜に言い募る。
「だから話しなさい。その後に色々考えるから」
「そう、か」
その言葉にどこか嬉しそうに表情を緩めた友喜は
「実は――」
全てを打ち明けようとした
――その時だった――
現実味の無い何かが割れた音、そうとしか表現できない轟音が鳴り響いた。
「え?」
「……!?」
発生源が空なのを理解した故に二人は反射的に空を見上げる。
「何よアレ……!」
そこに有ったのは有りえない光景。空の何もない空間がまるでガラス細工のように割れて穴が空いていた。
「……来たか」
その光景を見て、友喜だけは状況を理解しているかの様な発言をしていた。
「来たって……何が!?」
近くでそれを聞いた千晴は友喜を問い質そうとするが、そんな時間は無かった。
『ピーガガー』
再び空から、正確には空の穴から謎の音が聞こえてきた。それは何かの機械音の様で有りながら虫の鳴き声の様にも聞こえる不快な音だった。
「【
「り、リーパー?」
友喜は音の主を【リーパー】と呼称する。リーパー、意味は「刈り取る者」あるいは「死神」。おおよそ碌でもない存在だと千晴は理解した。
『ガガ……セイメイタイハッケン』
『スキャンヲジッコウスル』
やがて、その音は言語の様な発音となり鼓膜に届く。何故か知らない言語のはずなのに何を言っているのか理解できることに千晴は困惑する。
『ピピ……スイテイ【ネクタル】ヘンカンコウリツ93%』
しかし、言っている内容が理解できない。訳が分からない。
『Commanderヨリレンラク、ホカクサギョウメイレイ』
(ホカク……捕獲? ……誰を?)
千晴の脳内に最悪の想像が過ぎる。
『メイレイショウダク。コレヨリセイメイタイノホカクサギョウヲカイシスル』
そして空の穴から謎の機械が現れた。いや、それは機械と言うにはあまり悍ましかった。第一印象は蟷螂を連想するフォルム。体の至るところが鈍色に近い金属で覆われている。しかし、それは鎧の様に身を守るための意図が感じられなかった。ボロボロの肉体を無理矢理、金属で継ぎ接ぎした歪さが見て取れたからだ。
「う、あ……」
あまりにも見るに耐えないリーパーという存在に千晴は、まともに声すら出せなくなる。これから自分に訪れる最悪の結末すら想像して涙すら出そうになる。だが――
「大丈夫だ」
「友喜……?」
こんな状況にも関わらず、友喜は落ち着いていた。そして千晴は友喜の眼を見る。
「
友喜の表情《かお》には千晴ですら見たことの無い真剣さが宿っていた。
「友喜?」
「千晴」
友喜は左腕の腕時計に触る。スイッチの様なものを押すと、時計から警告音に近いメロディが鳴り響く。
「ここで待っていてくれ」
そして友喜は左腕を自身の胸の前に持っていき――
「俺がなんとかする」
右腕で腕時計の上で交差させた!
「
瞬間、千晴の眼の前は青色――いや、空色の閃光に包まれた。
「な、なに!?」
思わず、千晴が悲鳴じみた声を上げる。だが、閃光はすぐに止み、千晴は恐る恐ると瞼を上げる。そこには――
「え、え!?」
恐らく友喜であろう人物が、先程とは全く違う姿になっていた。
全身が白い、白銀の鎧に包まれている。その鎧は、【鎧】と言うには細身で、防御力よりも動きやすさを重視しているのだろう。関節部が柔らかそうで有りながら硬そうにも見える矛盾した感覚を覚えさせる黒い材質で出来ている。頭部は仮面、あるいはヘルメットにも見える防具を身に着けており、そのデザインは一言で言えば龍の頭だった。口周りのマスクの部分は龍が剥き出しの牙を閉じている見た目。眼に当たる部分には目の前を睨みつけている様に鋭く、その中に不釣り合いにも見える円な瞳が映っていた。
「と、友喜、よね?」
「ああ」
千晴の疑問に鎧を纏った人物――友喜が肯定する。
「その姿はいったい……」
「説明は後でいくらでもする」
友喜は空中のリーパーを睨みつける。
「今はあいつの相手が先だ」
千晴と話している間に友喜の鎧に変化が訪れる。鎧の黒い部分が身に纏う時と同じ様に空色に輝き始める。
「行ってくる!」
「え!?」
友喜は千晴の返事を待たずに飛び立った!
「うぉおおおお!」
叫びながら高速でリーパーに近づき飛び蹴りを叩き込む
『――!?』
その蹴りの一撃でリーパーの胴体は貫かれ、真っ二つとなる。直後、蹴りと同時に体に流し込まれた空色のエネルギーが強く輝き、リーパーは爆発し跡形もなく消し飛んだ。
「まずは一つ」
当然、一体では終わらない。友喜を囲むように十数体のリーパーが現れた。
「なんだ? こっちに集まってきたのか?」
『タイショウ【リュウキシ】ハイジョヲカイシスル』
集まってきたリーパー達は目と思われる部分を光らせて友喜を警戒する。
「まあ、その方が好都合だ」
そう言って両手にエネルギーを集める。
『ハイジョ』
リーパーは目から光線を出して友喜に攻撃を仕掛ける。しかし――
「
何枚もの六角形の盾が友喜の周囲を飛び回り、全ての攻撃を防いだ。
「その程度の攻撃じゃ届かない」
友喜の言葉が届いていないかのようにリーパーは再び攻撃を仕掛けようとする。
「悪いがこっちが先だ! 回れ!」
友喜の指示に従うように盾は回りだす。
「行け!」
再び指示を出すと盾は回転しながらリーパーに向かって高速で飛来する。
『!?!?』
リーパーは反応することも出来ずに軽々と体の至る所を切断されていく。
「
バラバラになったリーパーの残骸が地上に落ちる前に友喜は拳から発射したエネルギー弾で消滅させていく。
「……む」
次が来ないことに疑問を持ち上空を見上げる。
「……なるほど、パイルか」
友喜の目に写ったのは、リーパーが出てきた穴から巨大な【杭】が降ってくる光景だった。
「それを地上に刺させる訳には行かないな」
その杭がどんな役割を持つのかを知っている友喜は止めるための準備をする。
「エリクシル・エンジン
友喜の全身から、鎧の各部から空色の炎が吹き出す。
「エリクシル・アームド」
右拳に炎が集まり、炎は結晶へと変化し拳を包む。
「その眼に刻め、リーパー共」
空から降ってくる杭を睨みつけながら友喜は飛び出す。
「これがお前達に対する――」
今にも爆発しそうなほどのエネルギーを右拳に集めたことで結晶は光り輝く。
「俺達、人類からの――」
全ての力を無駄無く伝えるように腕を構える。拳に込められたエネルギーを完璧に制御しながら
「宣戦布告だ!」
その光り輝く拳を落下してくる杭の先端へと叩きつけた!
「
あまりの威力に杭は穴の奥へと勢いよく押し戻される。
更に友喜に殴られた箇所から大きな亀裂が走り、空色に輝き始めた次の瞬間――
『!!!!?!?』
穴の中で大爆発を起こした。爆風は友喜にまで届くが杭の破片は一つたりとも届かない
やがて爆発が収まると、空の穴は閉じ、夕焼けが眩しい空へと戻っていった。
「…………」
その光景を千晴はただ呆然と見上げていたのだった。