魔法科高校の劣等生に虚飾の魔女(偽) 作:パンドラ様の二次創作増えて⭐︎
それから、しばらく経ったある日のこと。
いつものように真夜さんとお茶をしていると、彼女が少し改まった様子で口を開いた。
「パンドラさん、実は父がパンドラさんに一度お会いしたいそうなのです」
「私に、ですか?」
「はい。家でパンドラさんと出かけた時のことを話していたら、どんな方なのか一度会ってみたいと言っていて……。よろしければ、今度、家に来ていただけませんか?」
「まあ。そういうことでしたら、喜んでお伺いいたします」
「本当ですか? ありがとうございます。父にもそう伝えておきますね」
真夜さんは、ほっとしたように微笑んだ
それから数日後、私は真夜さんの招待を受けて、彼女の家を訪れることになった。
当日、私は真夜さんに案内され、屋敷の中へと足を踏み入れた。
手入れの行き届いた庭を通り、広い廊下を進んでいく。以前から真夜さんの家が立派な屋敷であることは知っていたが、実際に訪れてみると、やはり随分と広い。
「こちらです。父が待っています」
「そうですか。では、参りましょう」
真夜さんに続いて部屋へ入ると、一人の男性が待っていた。真夜さんの父親である四葉元造だった。
彼は私たちの姿に気づくと、席を立ってこちらを迎えた。
「よく来てくれた。私が真夜の父、四葉元造だ。今日は娘の友人に会えると聞いて、楽しみにしていた」
「お招きいただき、ありがとうございます。パンドラと申します」
「こちらこそ。今日は気兼ねせず、ゆっくりしていってくれ」
そう言って、元造さんは私たちに席を勧めた。
真夜さんと並んで腰を下ろすと、ほどなくしてお茶とお菓子が運ばれてくる。
「真夜から、君と出かけた日の話を聞いている。店のことや、そこで何を食べたのかをよく話してくれる。随分と楽しく過ごしているようだな」
「はい。真夜さんとはケーキ屋さんを巡ったり、ときにはお食事をしたり。ご一緒するたびに、楽しい時間を過ごしております」
「それなら何よりだ。最近の真夜は、出かける日を楽しみにしているように見える」
「お父様、そんなに分かりやすいでしょうか……?」
真夜さんは、少し恥ずかしそうに尋ねた。
「そうだな。帰ってくると、その日にあったことを楽しそうに話してくれる。どこへ行ったのか、何を食べたのか。聞いていれば、自然と分かるものだ」
「もう、お父様ったら……」
真夜さんは困ったように目を伏せた。
その様子を見て、私は小さく微笑む。
「真夜さんは、新しいお店のお話をするとき、とても楽しそうですよ。次はどこへ行こうかと、いつも色々考えていらっしゃいます」
「そ、そうですか?」
「ええ。先日も、まだ行ったことのないケーキ屋さんのお話をしてくださいましたね」
「はい。あのお店には、珍しいケーキがあるそうなんです。今度、パンドラさんと一緒に行ってみたいと思っていて」
「まあ。それは楽しみですね。ぜひ、ご一緒しましょう」
「はい!」
真夜さんの表情がぱっと明るくなる。
元造さんは、そんな娘の様子を静かに眺めていた。
「真夜が誰かとの約束を楽しみにしている姿を見るのは、父親としても嬉しいものだ。これからも、娘と仲良くしてやってくれ」
「もちろんです。私も真夜さんと過ごす時間を楽しみにしておりますから」
「ありがとうございます、お父様」
真夜さんは嬉しそうに微笑んだ。
その後も、しばらく他愛のない話を続けた。
元造さんから、この辺りにはいつ頃から住んでいるのかと尋ねられたので、私は素直に答える。
「この辺りには、しばらく前から住んでおります。気に入ったお店もありますし、暮らしやすい場所ですね」
「そうか。普段はどのように過ごしている?」
「特に決まった仕事はありません。気の向くままに街を歩いたり、気に入ったお店に立ち寄ったりしています」
「随分と自由な暮らしをしているのだな」
「ええ。私には、そういう暮らしが合っているようです」
「なるほど」
元造さんはそれ以上詳しく尋ねることなく、話題を変えた。
真夜さんも時折会話に加わり、最近見つけたお店や、今度食べてみたいケーキの話をする。元造さんはそんな話に耳を傾け、ときおり静かに相槌を打っていた。
気がつけば、随分と時間が経っていた。
「今日はお招きいただき、ありがとうございました。とても楽しい時間を過ごせました」
「こちらこそ、来てくれてありがとう。真夜が君と過ごす時間を楽しんでいることも、よく分かった。また機会があれば、いつでも来てくれ」
「はい。ありがとうございます」
席を立つと、真夜さんが玄関まで見送りに来てくれた。
「今日はありがとうございました、パンドラさん」
「こちらこそ。元造さんも、とても穏やかな方でしたね」
「そうでしょうか。お父様とあんなにお話しすることになるとは思っていませんでした」
「ふふ。私も、真夜さんのお父様とお話しできてよかったですよ」
「そう言っていただけると、嬉しいです」
真夜さんは、少し照れたように微笑んだ。
「また今度、一緒にお出かけしましょうね」
「ええ。次は、先ほどお話ししていたお店に行ってみましょうか」
「はい! 楽しみにしています」
そんな話を交わしてから、私は屋敷を後にした。
特別なことがあったわけではない。ただ、真夜さんのお父様とお話をして、一緒にお茶をいただいただけ。
それでも、こうして真夜さんの家に招いていただけたのは、少し嬉しいことだった。
*
パンドラが屋敷を後にしてしばらくすると、元造は先ほどまで彼女が座っていた席へと目を向けた。
「お父様?」
隣にいた真夜が、不思議そうに声をかける。
「いや、何でもない。今日は楽しかったか?」
「はい。とても楽しかったです」
真夜は迷いなく答えた。
その表情を見て、元造は小さく息を吐く。
娘があれほど楽しそうにしているのは、父親として喜ばしいことだった。無理に交友関係を狭めるつもりもない。だが、だからといって、相手のことを何も知らないままにしておくわけにもいかなかった。
「真夜。あのパンドラという女性とは、いつ頃から付き合いがある?」
「少し前からです。ケーキ屋さんで知り合って、それから何度か一緒に出かけています」
「そうか。何か気になることはないか?」
「気になること、ですか?」
「いや、こちらの話だ。あまり気にしなくていい」
元造はそれ以上、娘に尋ねることはなかった。
真夜が部屋を出ていくのを見届けると、そばに控えていた使用人へ視線を向ける。
「先ほどの女性について、少し調べておいてくれ」
「パンドラさんのことでございますか?」
「ああ。出身やこれまでの経歴、現在の暮らしについて、分かる範囲で構わん」
「承知いたしました」
「大げさに動く必要はない。まだ、何か問題があると決まったわけではないからな」
そう言いながらも、元造の表情から先ほどまでの穏やかさは薄れていた。
パンドラという女性は、礼儀正しく、真夜に対しても丁寧に接していた。会話の様子を見る限り、娘との仲も良好なのだろう。
しかし、彼女自身については、ほとんど何も分からなかった。
仕事も定まっておらず、家族やこれまでの暮らしについても、自分から話そうとはしない。尋ねたことに対する返答は自然だったが、そこから得られる情報はあまりにも少ない。
それに、真夜がこれほど親しくしている相手だ。
何も知らないまま付き合いを続けさせるわけにはいかなかった。
「……しばらく様子を見るとしよう」
元造は窓の外へ目を向けた。
娘の友人として受け入れることと、その相手を信用することは別の話だった。
パンドラという女性が何者なのか。それを確かめるまでは、警戒を解くつもりはなかった。
次は四葉事件だ⭐︎