紅蓮のナイトフォール   作:時杜 境

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月喰らう最強竜/1

 その大陸の終末は黄昏で止まっている。

 広がり続ける黄金(こがね)色の高い天空。脆弱な命は生まれることすら許されない、一面の荒野。

 

 かつてそこは英雄、異形、あらゆる善悪、存在を持つもの、万物万象を等しく死に迎え入れたが、もはや生者を祝福する神も、死者を見送る神もいない。

 

 在るのはただ、この終わりの時まで生き延びてきた強者のみ。

 

「はっ──、」

 

 今もこうして、絶体絶命の運命に追われている剣士もまたその一人。

 

『グォォオオルア!!』

 

 背後で咆哮が猛(がな)る。

 その声だけで空間がしなり、波及した衝撃が荒野の岩山を吹き飛ばす。破片は雨のように剣士へ降り注ぐが、その足には届かない。全力疾走で紅蓮羽織の影が黄昏の荒野を駆け抜けていく。

 

『ナイトッフォオオオ──ルゥ!!』

 

 ドラゴンが吼える。今度は人語だった。若い男のような声で、空気中のエーテルを震わせ、その意志が伝達される。

 

 砂塵の荒野にその姿はよく映える。純白と言ってもよい白さの竜だ。体長は目測でも三十か四十メートル。そんな巨躯の怪物が、翼を、腕を、足を使い、全力でたった一人の人類を追っている。

 

 向こうの用件はただ一つ──

 

『オレと戦えェッ!! ナイトフォールゥ!!』

 

「うるさい。帰れ。今忙しい」

 

 呼吸の合間に小さく呟く。この大暴れの中、聞こえやしない声量だったが、

 

『知るかァ──ッ!!』

 

 ──聞こえたらしい。竜の聴覚、恐るべし。

 こうなってはどちらかが死ぬまで続く追走劇となるだろう。だが生憎と本日も予定が詰まっている。こんなところでこんな馬鹿の相手をしている場合ではない。

 

「【絶技抜刀(ロジック・アーツ)】──」

 

 決定と共に地面を滑りながら振り返る。袴をまとう腰を落とし、腰の刀の鯉口を切った。

 白竜──赤い眼を持つその相手が、異形ながらも歓喜に口元を歪めるのが見える。直後、

 

「キ(・)ャ(・)ン(・)セ(・)ル(・)。宿刀烈火。──残存真説・神殺す黄昏の刃(レイヴァテイン)」

 

 放った斬撃が黄金に燃え盛る。

 日常動作のように繰り出されたのは世界を絶たん一撃。かつて神さえ斬り殺した唯我の一。

 その輝きを前に、ガ、と白竜は短く呻いたが、

 

『──雑に必殺撃ってくンじゃねェ──月竜咆哮(ラグナロ)ォォォクッッッ!!』

 

 対抗して繰り出された極光のブレスもまた至上の必殺。

 荒野の一角で、天地を揺らす衝突と閃光が瞬いた。

 

 

 

  紅蓮のナイトフォール

 

 

 

地上歴5666年6月6日 月竜血鬼、製造

 

「完成だアアアア!!!!!!」「マジでやった! マジでやりやがったぞアイツ!!」

「うぉぉ……なんと……うつくしい遺伝子設計……」「全ステータス良し、バイタル良好、完全永久機関の稼働を確認。不老不死の前提条件クリア」

 

 

「最強の生物兵器ここに完成ッ!! 君よ、喜びたまえ! バベル最高傑作の誕生だ!!」

 

 

〝何を言ってんだコイツらは?〟

 

 最初に思考ログに刻まれた一文目がそれだった。

 ビービーと鳴り響くけたたましい警告音。目覚めたのは四方八方が銀色の仕切りに囲まれた檻の中。率直に言って、快適な目覚めとは程遠い始まりだった。

 

 眠りにつく前の記憶はない。

 ここが1にして起点。己が存在の始点にして開始地点。

 

 ──すなわち。生命活動の始まりである。

 

「……ゥ、」

 

 喉を震わせ、身を起こそうとする。

 ただただ本能的な動きだった。背中にあるものを広げ、立とうとし、──ゴリゴリメシャァァ!! と勢い余って周りの囲いをぶち破った。

 

「ギョエー!! 耐久精度アダマンタイト級の壁がァァァ!?」

「おい、初期動作の術式(プログラム)担当は! 誰だ! 誰が担当したッ!?」

「しらん」

「……もしかして誰もやってないとか?」

「だって能力を付加する方が楽しかったし……」「理想をひたすら詰め込んでね? とにかく死んでも死なないように設計するのに苦心してね?」「ビジュアルは命ナンデスヨォ──!」

「全員死ねェ!! 誰も重要作業やってねーじゃねーかよ!!」

 

 やかましい声は外からだ。

 檻を破り、更に四方が白亜の壁に囲われた空間に出てもなお、声の主たちの姿は見えない。

 どこからか此方を見ているのは間違いないハズだが。

 

「ホラ見たまえ……やっぱり人造卵生で設計して良かっただろう!?」

「あの、なんかこっち見てるんですが」

「暴走した人造兵器によって死ィ!! は開発者あるあるだよね~~」

「なんにせよコイツを完成させた時点で錬金術師としての本懐は果たしたんだ、悔いはないな」

「あるよ!! まだ裏で組み込んだ美形人型フォルムを観測してねぇだろ!!」

『何やってんだよお前は!!!!!!』

 

 さっきからうるさい事この上ない。

 しかし声が一斉に重なったことで把握した。──どうやら目前の壁の向こうに、声たちはいるらしい。

 

「ォ──」

 

 彼らを真似た声を作ろうとして、上手くいかない。

 違うな。こうじゃない。発声器官が異なる。今の形態では、あのような滑らかな発音は望めない。──そんな判断と思考を可能にする「知識」が己に内蔵されていることに、今気付く。

 

「お? お? なんか言おうとしてる?」

「初期搭載知能どんぐらい入れたっけ?」

「人類二十年ぶんの情報量を少し。あと俺らが趣味で入れた娯楽無駄知識を色々」

「最高傑作にゴミみてぇな知識入れてんじゃねぇーよ!!」

「でもユーモアは必要だろ?」

 

 全ては生み出された存在がゆえの恩恵。

 まずそれを理解する。ここにいる己は、人為的に錬成された生物であると。

 次に悟ったのは、壁向こうにいる連中こそが、オレを生み出した創造主であること。

 

「──ガァァア──」

 

 声を出す。言語として紡がれない、ただの鳴き声。

 空気を肺に取り込む。体内が燃え、燃焼し、何かが──「知識」によれば、魔力と呼ばれるものが活性し、

 

「Guoooooo──ッ!!」

 

 咄嗟に首を天井へ向けたのは良い判断だった。

 瞬間、己の口から、咆哮と共に凄まじい熱量の魔力砲が放たれたのだから。

 

「計測器逝ったァァ──!!」

「計ってる場合かァ──! 規格外に造りすぎたぁぁぁあ」

 

 爆風。爆砕。爆発。

 一瞬で周囲のなにもかもを破壊して、ようやく猛りが収まった時、目の前の壁は崩落していた。

 

「……、……?」

 

 瓦礫の下。這い出てくるものがある。

 小さい。憐みを覚えるべきなのかと思うほどに小さい。知識にある参考文献的には、それらは人型の、蟻のような者たちだった。

 

「……………………、グルゥ」

 

 なにこれ?

 こんな奴らが──

 

「あっ、すげー! 生ですよ生! 最強竜と壁なしで邂逅ですよ!」

「防壁の仕切りないってことは僕らここで死ぬということではないのかね?」

「知性のない獣か、理解ある被造物か。さてどちらか」

 

 ──こんな奴らが、オレを創った創造主?

 

「ハロー! ハロゥ? 君を創った錬金術師でーす! よろしくよろしく~!」

「鱗の輝きが美しい……白にしてよかった。光の角度でグラデが見えるよ~」

「これがデフォルトの竜形態? 完全にボスよねこれ」

「さぁ! 美形人型に変態してみよう! さぁさぁ!!」

 

 足元……鉤爪の周辺では小さくて白い服を着た連中がぴょんぴょん跳ねていたり、手を振ったりしている。

 どいつもこいつも胡麻粒のようだ。とても創造主とは思えない矮小さ。

 これはなんとも──

 

 

『雑(ざ)ッ魚(こ)』

 

 

 記念すべき第一声にして所感は、魔力による念話で紡がれた。

 

 

 ◇

 

 

 生物的視点、或いは「そのように」して創られたが故の傲慢さ。

 知性こそ与えられたが、至極当然の結果として、己は眼下にいる造物主たちを見下した。

 

「ドラキュリア」

 

『──何?』

 

 小粒の一人の女が口にした単語に、己は反応する。

 

「月竜血鬼(げつりゅうけっき)。それが貴方につけた『作品名』よ」

「最強! 最高! 最上! 錬金術の粋を集めた至高の存在! テーマは──『最強』!」

「汝、強くあれ」「汝、不死であれ」「汝、尊大にして傲慢であり強欲であれ!」

「君の権利の全てを私たち全員が認め、讃えよう──そう、この言葉で」

「ハッピーバースディ!! 今日から君のいる世界が始まったのだと!!」

 

 虚を突かれた、と表現した方がいいワンシーンだったかもしれない。

 祝福の価値も、善悪の計りもない幼年の時代。

 奴らの言葉の意味にも、価値にも、まるで理解を示すことはできなかったが──

 

『────いいだろう』

 

 この時。この眼下にいる者たちへの絶対の忠誠を、オレは決意した。

 理由なんて単純だ。我が身は至高の被造物であり、下にいる者らは卑小の身でありながら造物主となった傑物たち。

 

 それは一片の穢れもない偉業である。

 

 ならば望まれるままに己を認め、力を誇示し、これから最強の名を轟かす生を歩み出すだろうオレは、その始まりを生み出してみせた者らに生涯の敬意を誓う。

 

 魔力の巡りを変える。翼を動かすような感覚で、オレはオレ自身の輪郭を、骨格を、姿形を、遺伝子情報に刻まれた設計通りに変革する。

 視点が変わり、呼吸の仕方も変わっていく。最上の肉体が自分の内に折り畳まれ、収納されていく感覚。それを収める箱として、人型に成っていく。

 

 鱗もなければ牙もない。竜とは比べ物にならないほど小さく、虚弱な器。

 しかし見た目はそうであっても、オレの性能自体に変化はない。人型に「した」だけで、この肌は鱗と同等の強度だということが感覚的に解る。

 背丈よりも長い白の毛髪を流しながら、人らしい足で地につくと、オレは内臓された知識に従い、片膝を折って造物主たちに頭を垂れた。

 

 

「──この恩恵に礼賛を。オマエたちを我が主と認め、仕えよう」

 

 

 善悪、罪業は問わない。

 至上のオレを生み出した叡智ある者たちの為に、最強としての力を振るうと決めた。

 

 

 ◇

 

 

 偽装外殻。それがオレの「人型形態」の名称らしかった。

 ソレは現在、人間換算でいえば十歳前後の外見だった。長すぎる髪は切ろうにも、毛髪の強度に耐えられる裁断機が見つからず。よって魔力を調整することにより、背より少し長いくらいにまでするのがせいぜいだった。

 

 ついでにこの人型形態における衣服も錬成された。身綺麗なシャツに、やたら丈の短いズボン。靴は動きにくいが造物主たちの意向に従った。それから人らしさを更に強調するための外套までまとい、

 

「さぁ、初陣の時だ! お前は最強として最強に造ったので、試用期間とかいうのはない。実戦オンリー! 実戦あるのみ! ひとまずこの拠点に近付く外敵を排除してくれ! 魔物、竜、人! その全てを薙ぎ払え!」

 

「わかった」

 

「あと衣服は消し飛んでも纏うように。最低限の錬金術の基礎も頭にあるだろう? 最強なら品位は大事だからね!」

 

 そんな命令を受けて──

 当初の予定通り、オレは戦場に送り出された。元々、戦うために設計され、そのために生み出されたモノ。

 ようやく兵器としての本懐を果たす時がきた。

 

 踏み出したのは、夕刻色の荒野。

 背後には「拠点」だという鉄の塊。厳密には迷彩加工やら隠匿術式やら、素材自体も特殊合金らしいが、見た目はただの黒い鉄山だ。

 

 そこを守護するのが己の役目。

 

 火力兵器に造っておきながら、造物主どもはオレを警護の任に就かせた。オレという最高地点は完成したものの、それはそれとして個々人の研究に励みたいのだという。

 

 傲岸にして強欲。研究にしか興味がない閉じこもりの集まり。

 だが被造物として奴らの命令を聞くと決めた。

 用途を定められたのなら──そのように動くだけだ。

 

「魔物……」

 

 枯れた土地の向こうには、四足の獣たちが群がっていた。

 マッドウルフ。確かそういう名前だった。

 

「キュォオオ──ン」

 

 群れを率いる長らしき個体が此方に突貫してくる。

 

 ん? そういえば獣狩りの方法を知らないな。

 

 元の竜としての姿ならともかく、人型での戦闘方法など咄嗟に出てくるものではない。よってオレはその場に棒立ちすることになり。

 

「ギャッ」

 

 正面。ぶつかってきた魔物が、オ(・)レ(・)に(・)衝(・)突(・)し(・)た(・)反(・)発(・)力(・)で(・)消(・)し(・)飛(・)ん(・)だ(・)。

 ぶつかったのは腹の辺りだ。グシャアッ、と一瞬で生きていた者が肉塊と化し、軽く血の雨を浴びる。

 

「……」「……?」

 

 オレも呆然としたが群れの方も唖然としていた。

 そりゃそうだろう。オレは敵意も何も発してはいない。ただ立っていただけなのだから。

 

 ひとまず、なんとなしに、オレは足元に転がった狼肉を引き千切った。

 匂いを嗅いでみる。食えそうだ。ふむ、血の味が強すぎるが悪くない。毛の部分はモサモサするな。喉を通す時に燃やしながら飲みこんだ方が良いかもしれない。

 

「ギュ、ギュオ……」

「ワォオン! グォオン!!」

 

「──ふむ」

 

 オレは顔を上げ、群れの方を一瞥した。吼えていた奴らがそこで止まる。

 あいつらはどんな味がするのだろうか?

 好奇心(エンジン)はそこでかかった。

 次の瞬間、オレは捕食者の本能のままに、小狼の群れに襲い掛かった。

 

 

 ◇

 

 

 初日。拠点に近付く生物から襲い、血肉の味を知った。

 二日目。衣服が重くなってきたので、血を洗う錬成術式を編み出した。

 三日目。怪鳥の魔物がかなりの上を飛んでいた。ブレスで撃ち落として食った。

 

 四日目。そろそろ戦場の死骸が邪魔になってきた。ここで脳みそにある錬金術を真面目に使ってみることにする。衣服を新調し、いくつか武器を造ってみたが、一振りするだけで粉々になってしまった。最強すぎる己が身に武器とかマジ無駄のようだ。残念。

 

 五日目。

 

「おーおー、マジにオレの知らねー門番がいるじゃねーかよ。こんな事なら面倒臭がらず、さっさと仕事済ませておくんだったぜ」

 

 武装した敵が来た。

 

 

「バベル側の新兵器、ってトコか?」

 

 目の前には一人の人類がいる。

 背に大剣を背負った男。色素の薄まった短い赤髪。視覚情報から推測するに四、五十代ほどに見える。だがそれは外見的な印象に過ぎない。

 裾の破れた古い外套。煤けたカーゴパンツ。上はノースリーブの黒いインナーで、鍛え抜かれた大胸筋が分かる。

 

 ヒゲのない顎をさすりながら、老(・)人(・)は此方を観察している。

 横たわる距離は二十メートル。

 敵意も殺気も感じず、害意すら絶無。

 それでも一目見て解った。

 

「妖鬼種(ヴァンパイア)か」

 

「ほう。初見で見抜くか。ヤバイなてめー」

 

 相手の瞳の色は、吸血鬼の基本色とされる赤ではない。

 紫を帯びた黒曜色だ。そしてこの大陸において、瞳の色とはそれだけで保有魔力の判断材料となる。

 純黒に近ければ近いほど、その個体の魔力は強く、膨大。

 

 人造生命かつ魔力生成の永久機関を搭載されているオレにはまったく関係のない、雑魚たちの世界の話である。

 

「同族的な気配でも感知したのか? 吸血鬼系の生物兵器は珍しくもねぇが、てめーはなんか混ざってんな?」

 

「当ててみろよ、老害。オレはまだ生まれたばかりだぜ」

 

「つまり、ここでてめーを殺さなきゃヤバイってことだな」

 

 果たして最高傑作にして最強の夢は生後五日で途絶えるのか。

 その分岐点にこいつは立っている。相討ちまで持ち込めれば御の字、負ければオレは更に学習し強くなり、コイツは生き延びたところでオレを殺せるチャンスを永遠に失う。

 

「クソガキ、名前はあんのか?」

 

「名乗らせてみろよ」

 

「良い度胸だ」

 

 跳んだ。

 一気に距離を詰めて軽く右腕を薙ぎ払う。

 その首に爪先が、──届かなかった。

 

 弾き飛ばされる。

 着地しつつ見やれば、大剣を抜いた老兵が構えていた。

 どこにでもあるクレイモアに見えるが、素材の質が違う。軽く神聖を感じる。聖剣か?

 

「重くねェの?」

 

「慣れだよ、慣れ」

 

「不便だな。武器使わなきゃならねぇ雑魚は」

 

「ハッ……言ってろ!」

 

 攻勢がくる。見た目に反した軽やかさと瞬発力。振り抜かれてきた横薙ぎを左側頭部に食らい、軽く宙を舞う。

 

「おお」

 

 初めての体験だ。

 獲物を吹き飛ばしたことはあるが、逆はなかった。

 視界がまわっている。逆さまとなった地上に、此方を追撃しに動こうとする影が見える。

 

「ブレス」

 

「!!」

 

 カッと口から炎の直線砲を吐いた。

 当たっていない。地上の爆炎の中で気配はまだ動いている。

 

「かわしたのか? 凄ぇな」

 

 雑魚にしては。

 じゃあ次だ。

 

「なんか造物主が見てたやつにあったヤツ──」

 

 重力に従って落ちていく中、周囲の空間を支配する。

 錬金術の神髄とはエーテル操作。空気中に充満するエーテル値を自分好みに組み換え、術式とし、技術兵器として運用する。

 

 それがこの時代の錬金術師の戦法。

 とはいえオレがやるのはただの見様見真似の遊び。脳に内臓されていたデフォルト術式をピックアップし、一つの遠距離術式を指定、そのまま発動してみた。

 

「スーパー☆ラディカル・クリムゾン♪!」

 

「古典アニメの再演術式だとォ──!?」

 

 真紅のエーテル砲撃が三十射した。

 ちょっとポップな演出光まで付随していた。無駄な努力を感じる。

 その辺でちゃんと着地しておく。粉塵と砂塵がもうもうと曇る中、それらを斬り払って老兵が歩いてくる。

 

「あービックリした! 今のは本当にビビッたぞおまえ!! 全然そういうキャラに見えなかったもの! 使えるモンはなんでも使うヤツか!? ってかクオリティ高ぇなッ!!」

 

「〝造物主が推してた死んだキャラが使ってた技〟らしい」

 

「悲しみの遺産を背負わせてんじゃねぇよ……!!」

 

 キレたジジイが大剣を振るう。

 二十メートル以上の距離がある中、リーチも何も届いていない動作。

 

「千の大地の波壁(サウザンド・ディストラクション)!!」

 

 ──しかし直後に、奴の足元から前方の大地が隆起し、津波を伴う陸の斬撃となって襲い掛かってきた。

 

「……うん!?」

 

 視覚情報ではそうと理解していても何が起きたか分からなかった。

 分からなかったので、

 

「……月竜咆哮(ラグナロク)!」

 

 判断に遅れはあったが、火力咆哮で全てを消し飛ばす。

 口から吐いた、ただのブレスよりも高密度に圧縮した魔力砲。

 こいつを喰らってまだ生きていたら驚嘆するが──

 

「──、」

 

 嘘だろ。

 ちょうど魔力砲が途切れたその刹那。

 爆風と砲撃と大気の壁を乗り越えて。

 右の懐、ほぼ眼前。

 

「即死確定ストライクッ!!」

 

 飛び込んできていた老兵が、発光した大剣──覚醒状態と化した大剣を振り上げ、オレの躰(み)に叩き込んだ。

 

「ご、ッ──」

 

 致命の一撃。

 まず斬撃。次に刺し込まれた魔力の拡散と内部爆発。細胞単位の破壊にして殺傷、悪意と殺意の結晶とも言うべき一撃。

 

 えげつねぇな、と思う──そんな所感を零せる余裕が、あった。

 

 

 ◇

 

 

 人型の器が破裂する。

 脆弱な人類を模した外殻。強度自体は本来の姿と大差はないが、まさか、剣先だけだとしても「刺さる」武器があり、あまつさえ内側から確殺を叩き込んでくる強敵が実在した。

 

 これではもう人型は保てない。

 壊される。

 偽装外殻、崩壊──

 

「──月竜血鬼、起動」

 

 四散したエーテルが肉体を再構成する。

 遺伝子的に刻まれた永久機関が魔力を生み出し、己を在るべき生命の形へと回帰させた。

 

「……あ~~、そっちの形態もある系ね……」

 

 視点の高さが変わる中、見えた敵影の顔は面倒くさそうな顔をしていた。

 その間にも呼吸から動き方まで元に戻り、久方ぶりに竜としての姿を取り戻す。

 この姿では老練の剣士も例に漏れず、やはり蟻同然の小ささだった。

 

「GuooL!!」

 

 魔(・)力(・)を(・)発(・)し(・)た(・)。それだけで老兵の身は吹き飛ばされ、上空へと投げ出される。

 その姿を尾先で叩いた。

 随分と小さくなった気配が百メートル単位でぶっ飛んでいく。

 だが、死体になった感覚はしなかった。

 

『──名を訊いてやるよ、クソジジイ』

 

 荒野の向こう。砂煙の中で、立ち上がる影があった。

 

「テオフラトゥス・ヴィストゥーシュ・アルガストラス、だ。テメエは!」

 

『ベイフォート』

 

 唱える。

 作品名ではなく、生命として名付けられたその名を。

 

『ベイフォート・ラズィトゥ・クライシス。最強とはオレのことだと知っていけ』

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