○登場人物
・九十九弁々 琵琶の付喪神。背はやや高め。鉄壁スカート。冷静で大人びている……。
・九十九八橋 琴の付喪神。中背。太眉。勝ち気で無鉄砲……。
・河城にとり 河童。緑色のツナギを上半分脱いで、上半身は黒いタンクトップ姿
<森の中 夕方 晴れ>
ぎゃーてー。
ぎゃーてー。
ぎゃーてー。
ぎゃーてー。
ぎゃーてー。
<九十九姉妹ハウス 寝室 夕方 晴れ>
八橋 「ハッ!」
ベッド上で、がばっと上体を起こす。
八橋 「今、何時!」
座ったテーブルの前できょとん、とする弁々。
八橋は部屋の隅にある、アンテナ付きのブラウン管テレビへ、齧り付くように駆け寄る。
弁々 「拾い物じゃないそれ。そんなの映るの?」
八橋 「大丈夫っ、河童に賄賂を積んで直させたからッ! 地デジも対応ゥ!」
えいや! とばかりにスイッチを押す。
ザーッ。
画面には砂嵐が映るのみ。
八橋 「ああん、もうっ! ∀の再放送、見れないくなっちゃうじゃないっ!」
八橋はアンテナの位置をあれこれと調整する。
右へ向けても、左へ向けても、持ち上げても砂嵐。
その度、アンテナのコードが揺れる。
八橋 「もうっ! もうっ! んもうっ! ヒデキの歌が聞けなくなっちゃう! あのバカッパッ!」
<妖怪の山、滝の裏 夕方 晴れ>
にとり 「っくしゅん!」
テント前で、流れる川に釣り糸を垂れているにとり。
傍らには、MGサザビーがポーズをキメている。
にとり 「おー、さぶ。冷えてきたなぁ」
いそいそとテントの中に消える。
にゅっ、と中から長く手が伸びてサザビーを掴み、引っ張り込む。
<九十九姉妹ハウス 寝室 夕方 晴れ>
アンテナのコードを目一杯伸ばして、あちらかこちらかと次々に位置を調整する八橋。
アンテナ調整に熱中するあまり、まるで不思議な踊りを踊っているよう。
弁々 「なにやってんだか」
横目で見つつ、テーブルへ手を伸ばす弁々。その手が空振りする。
目を向けると、箱は空。
席を立つ弁々。
八橋 「(上へ)よっ! (下へ)はっ! (くるっと一回転)よいしょっ! (大きく回す)とおりゃぁ!」
画面は砂嵐のまま。
弁々は無視して、木製のドアを開けて部屋を出る。
<九十九姉妹ハウス 台所 夕方 晴れ>
暗転。
ガラッ、と音がして、引き戸が開くと、弁々の顔が現れる。
んっ、と吐息を漏らして、弁々の腕が闇の中に差し込まれる。
ガサガサと腕を動かすたびに、ゆさゆさと揺れる胸元。
すぐに引き出した手の中には、「ゆべし」と書かれた紙袋。
ガラッ、と音がして、引き戸が閉じる。
暗転。
<九十九姉妹ハウス 寝室 夕方 晴れ>
パタム、と扉を閉じて、部屋に入ってきた弁々。
部屋の中に目をやるなり、手にしていたゆべしの紙袋を落として、驚いたように目を見開き、身を引く。
八橋 「助けてぇ、ねえさぁん………」
部屋の中央。長く伸びたアンテナコードで、後ろ手に亀甲縛りされた八橋が、ごろんと床に転がっていた。
顔を赤らめ、恥ずかしそうに視線を逸らし、吐息も荒く。
弁々 「何をどうしたらそうなるの!」
光るテレビから、「ターンエー~」とヒデキの歌が響く。