スパイダーマン リライフ・クロニクル   作:古賀音

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あらすじにも書いてあるとおり、本作は以前投稿した「Superior Spider-Man : ReStarting Point」をベースにした作品となっています。
連載化に伴い設定が変更されている部分がありますが楽しんでいただければ幸いです。


チャプター1

 雨がざぁざぁと流れ、僕を濡らす。目の前の光景は、お前が招いた結果だぞと耳元で囁くように。

 わかってる。これは僕が背負った責任だ。

 目の前の墓の下に入ってしまった彼に――ベンおじさんに改めて誓う。大いなる力を持ってしまったからには、大いなる責任を果たしてみせると。

 

「……ピーター、送るからそろそろ車に乗れ。お前に風邪を引かせたら夢でベン先輩に叱られちまう」

「はい、ジェイムソンさん……おばさんは?」

「もう先に乗っとる。さあ、行くぞ」

 

 僕の目の前で亡くなってしまったベンおじさんの大学時代の後輩のJ・ジョナ・ジェイムソンが差している傘に入る。

 

「まあ、なんだ。こんな時だ、つらいことだろう。ワシも色々あった。そんな時は自分を忙しくさせることで気を紛らわせるのもひとつの選択肢だ。すぐにとは言わんが、もしよければウチの会社でバイトしてみろピーター。大歓迎だ」

「……ありがとうございます。ジェイムソンさんもつらいだろうに」

「なぁに気にするな。ニューヨーカーたる者、いつでも心を強く保たねば。それにいつまでも悲しみに暮れていたらベン先輩に笑われるかもしれん」

「はは……確かに」

「大体お前、ベン先輩が亡くなった時ショックで現場で倒れたんだろう。ついこの前もホライゾン・ラボに行って蜘蛛に噛まれて具合を悪くしたばかりだ、無理をするんじゃあないぞ」

「……肝に銘じます」

 

 苦笑しながら返事をする。

 僕の返事に満足したのか、ジェイムソンさんは励ますように僕の背中をポンポンと叩く。思ってた以上に心配させてしまっていたらしい。でも仕方ないか、ベンおじさんが亡くなった場で倒れたんだから。あの時はメイおばさんたちに随分心配をかけちゃったな……僕も一緒に死んだかと思わせたわけだし。

 ただ、あの時僕が倒れたのはベンおじさんの死によるショックが原因じゃない。もちろんベンおじさんの死そのものは世界が終わったかのような気持ちになったけど。

 

 じゃあ、最初から説明するね。僕はピーター・パーカー。ニューヨーク市クイーンズ区出身、在住の一般人。

 両親を失ったことをきっかけにベンおじさんとメイおばさんに引き取られ、家の向かいに住むワトソン夫婦の息子、MJことモーリス・ジェフリーと兄弟同然に育った。ベンおじさんは本屋の店員をしている影響か知識が豊富で僕に色々教えてくれた。メイおばさんは僕が寂しくないようにとよく一緒に遊んでくれた。モーリスはとても優しく強く、アトピーが原因でいじめられてる僕を助けてくれて、僕にも効く美容液を教えてくれたりで感謝しかない。

 ベンおじさんに世話になったからとジェイムソンさんにも面倒を見てもらった。僕が科学に興味があると知って、自分が編集長をしているデイリー・ビューグルの科学関係の記事を見せてくれたりした。

 科学に関する授業がクイーンズ中でトップクラスと言われるミッドタウン高校にも無事入学が決まり、中学が一緒のジェイソン・イオネロのようないじめっ子がいるのは大変だけど、MJもいるし入学前にハリー・オズボーンという新しい友達もできたから決して苦じゃない。

 色んな人たちに支えられて普通に過ごしてきたけど、ミッドタウン高校への入学を控えたある日、高校生未満の子供向けの科学施設見学イベントに参加し、マンハッタンにあるホライゾン・ラボという施設へ行くことになり、僕の運命は変わった。

 研究員の人の案内でホライゾン・ラボを見て回っていると、ケージから抜け出していたらしい遺伝子操作された蜘蛛に噛まれたんだ。

 蜘蛛に噛まれて具合が悪くなってしまい家で寝込むと、翌日、何故か僕はアトピーが治った上、痩せてた身体は筋肉がついて視力も上がって普段かけていた眼鏡が必要なくなっていた。更には力が異常に出るわ壁にくっついたり歩いたりできるようになるわイオネロにちょっかいをかけられそうになったのを察したりできるわですごく混乱したな。

 でも、このパワーはお金になる。賞金がかかってて素人でも参加できる格闘技のイベントでもあればそこに参加して金を稼ごうと思った。うちは裕福ってわけじゃないから少しでも家計の足しにしたいし、モーリスにもこれまでの感謝を込めたプレゼントを渡したかったし、上手くいけば1000ドルとか稼げるんじゃないかって。

 だから僕でも出れるプロレスの大会に参加して、見事勝てた。

 でも500ドルもらえるはずが150ドルしかもらえないことになってムカついてたところを強盗が通りかかって奴を捕まえてくれって頼まれたけど、お金のことで不機嫌だった僕はそれを無視した。

 この判断を僕は一生悔やむ。少しムカついてただけで何もしなかったせいで、ベンおじさんがさっきの強盗に撃たれてたから。

 僕のせいだ。

 死に際、ベンおじさんは僕を慰めると同時に「大いなる力には、大いなる責任が伴う」と言い遺し、僕の腕の中で事切れた。

 ベンおじさんの死を悼む間もなく、蜘蛛に噛まれて以来僕に異常が起きたのはそんな時だ。

 明らかにアメリカとは違う国で生まれ、趣味を大事にするごく普通の人間として生きたある人物の記憶が頭の中に入ってくる――もしくは記憶がよみがえっているというのが適切かもしれない。

 いくら蜘蛛に噛まれたことでスーパーパワーを得た人間でも脳まですごく強化されたわけじゃなく、あまりの情報量に耐え切れず、僕は鼻血を出しながらベンおじさんと重なるように倒れてしまう……。

 そうして、僕は前世の記憶を思い出し、スパイダーマンの……マーベルコミックのヒーローが存在する世界に生まれ変わったことを自覚した。

 

 ジェイムソンさんの車で家まで送ってもらい、泣き疲れて寝そうなメイおばさんをベッドまで運んだあと、自室に戻ってこれまでのことを振り返る。

 日本の一般家庭の次男に生まれ育ち、ゲームや実写映画のアメコミヒーローが好きで、時にはスパイダーマンやウィンター・ソルジャーのコスプレをしてイベントに参加なんかもして、趣味を大事にして……こうして何故か生まれ変わり、ベンおじさんが死ぬまでそれを思い出さないままピーター・パーカーとして15年間生きてきた。受け入れはしたけど、正直体調が戻り、ベンおじさんの葬儀が終わった今でも混乱しっぱなし。まさかこんなフィクションみたいなことが自分に起こるなんて思うわけないからね。

 たぶんベンおじさんが目の前で撃たれて亡くなったショックで思い出したんだろうけど、もっと早く思い出せればきっとこんなことは防げたはずなんだ。警察によれば犯人も逃走したまんまらしいし。

 ……とはいえ、映画のアクロス・ザ・スパイダーバースで学んだことだけど、スパイダーマンには“カノンイベント”なる事象がある。仮にあそこでベンおじさんを救えても、どこかで揺れ戻しが起こる確率は否定できないし、なんならスパイダー・ソサエティが介入してきた可能性はあっただろうから……でも確かコミックだとベンおじさんが健在なピーターもいるんだっけ……。

 いや、やめよう。ただでさえ蜘蛛に噛まれてあんまり経ってないのに前世の記憶を思い出して倒れた後フィクションの世界に生まれ変わったのを自覚して混乱してるんだ。また具合悪くなりそう……。

 とりあえず、自分のことを改めて整理して今後のことを考えよう。

 僕はピーター・パーカー、父親同然のベンおじさんの死を目撃したショックをきっかけに前世の記憶を思い出した。前世は日本人男性で名前は……それは別にいいか。ゲームやヒーローものの作品が好きで自炊も程々にやってて、アメコミヒーローのコスプレもしてた。まあ、かつての自分を否定するわけじゃないけど、前世の記憶を思い出したって今の自認がピーター・パーカーから前世の自分に変わるわけじゃない。なんというか、TSした人の精神的な性別が肉体的な性別になるのと同じ感じって表現すればいいのかな?

 前世の記憶に関してはそれなりに覚えてるってところだ。前世の家族や友達と過ごした日常、美味しかった料理、SNSで知り合った同じ作品が好きな人たちとコスプレイベントで交流できたこと、やったゲームや見まくった映画の思い出……大体そんな感じ。その中でもスパイダーマンの記憶は実写映画、一部のアニメ、コスプレイベントで会った人から聞いたり調べたりして知ったコミックの知識が多少あり、コミックはちょっと読んだことある程度。

 さて、自分のことについては整理できた。次はこれからのことだ。

 もし望むなら、蜘蛛に噛まれて得たこの力を使わず普通に過ごすのも選択肢に入る。力を無闇に使わないことも責任だとは思うから。実際、僕がスパイダーマンにならなくてもこの世界にはアイアンマン、キャプテン・アメリカ、ソーをはじめとしたメンバーが集うアベンジャーズが存在するし、ネルソン&マードック法律事務所があって、最近悪人が銃撃されてるという話を聞くことからデアデビルやパニッシャーといったストリート系ヒーローも活動してるのは間違いない。無理して僕が立ち上がる必要はないかもしれない。

 ただ、コミックじゃわからないけど、映画のアメスパでは両親がピーター・パーカーがスパイダーマンになるきっかけを作った蜘蛛を生み出し、それをオズコープが悪用するつもりだったはず。オズコープが存在するこの世界でもその可能性はあるから、蜘蛛に噛まれた僕が狙われることもあるかもしれない。僕はオズコープじゃなくてホライゾン・ラボで噛まれたから杞憂かもだけど、どんな可能性も排除すべきじゃないからね。

 そうなると必然的に自衛する手段がいるわけだ。相手を拘束したりして身を守るには……やっぱり、ウェブシューターかな。

 それに、僕がピーター・パーカーである以上、助けられるかもしれない命を助けないことを選べるか、正直わからなかった。きっとその選択を後悔しそうになる日が来そうだ。

 やっぱりこのマーベル・コミックのどこかのアースにこの身に生まれた以上、運命を受け入れるべきなのかもね。なるしかないな、スパイダーマン。きっとジェイムソンさんは怒るだろうけど、正体を知った時にはどうにか受け入れてくれたらいいな。

 正体バレを防ぐためにもスーツも用意しなきゃな。知ってる限りじゃ正体バレして身近の人間に危害が及ぶのは確実と言ってもいい。コミックで正体バレした際、メイおばさんが重傷を負ったと記憶してる。NWHじゃノーマンがメイおばさんを手にかけたし、それは絶対に避けないといけない。

 そう決まれば早速行動するしかない。まず自室を出てリビングにかかってる鍵を持ち出し、外のガレージに行く。

 鍵を開けてガレージのシャッターを上げると、ベンおじさんの愛用していた物が多く置いてあるのが見える。職場へ向かうために乗っていた乗用車、棚には工具とフィギュアや戦闘機などの模型、床にはギターやタンバリンが、デスクにはネックストラップつき一眼レフカメラとデスクトップパソコン一式と――僕の目的である3Dプリンターが置いてある。

 ベンおじさんは多趣味で、休日にはガレージで趣味を楽しむ人だった。小学生の僕とモーリスに3Dプリンターで作ったおもちゃをプレゼントしてくてたこともあった。当時3Dプリンターを使いたいと言った僕に「高校生になっていい成績を取ったらな」と返事したのを今でも覚えている。

 だから3Dプリンターの使い方はわからない……はずだった。でも前世ではコスプレの小道具を作る時に3Dプリンターを使ってたから基本的な使い方はマニュアルを見なくても――念のためちゃんと読むけど――わかる。それに今世はマーベルの世界だけあって天才技術者が多いおかげか前世よりも技術が発展してて、ベンおじさんの3Dプリンターはそこそこ前のものでも最新の3Dプリンターより多少性能が劣る程度なはず。しかもよく見たらスターク製だ。流石トニー・スターク。

 内部機構は流石に別で作る必要があるけど、これならウェブシューターはちゃんと作れるな。なんなら今後に、最低限エレクトロに備えてウェブシューターを耐電仕様にしておきたい。もちろんスーツも。

 他の主なスパイダーマンのヴィランはなんだかんだ対応できそうだけど、アメスパ2やゲームの印象的に電撃を操るエレクトロが厄介なイメージが強い。最悪エネルギー体のようになって物理的にダメージを与えれそうにないし、電撃による遠距離攻撃が非常に厳しそう。

 それじゃあ早速ベンおじさんのパソコンを起動して製作に取り掛かる。

 記憶が戻る前にある程度ウェブシューターやスーツの構想をしてたから比較的スムーズに設計できた。1時間後、とりあえず初めて作るから単純にウェブを発射するだけのウェブシューターの設計データが完成する。あとはこれを絶縁性カーボンフィラメントで成形して、ゴムバンドとウェブを射出するためのステンレス製ノズルを取り付ければ完成だ。

 スーツは……とりあえず最低2着は欲しい。前世が日本人の身としてはスーツを何日も着回さずしっかり洗濯したいし。あとインナーに超薄手のスポーツウェアもあった方がいいかも。ゲームや映画でもあったレンズ内部のHUDは今じゃ技術力と金が足りないから、将来的にだね。マスクにHUDを実装した後洗濯したら水で故障しそうだからそこも考えないといけないか。……まあそこに関しては未来の僕に任せよう。

 スポーツウェアは後日買うとして、スーツはスターク製3Dプリンターで作ろうと思えば作れるけど、単純に今ある3Dプリンター用の素材では1着作れない。ここはスーツ用の素材も買っちゃって自作して絶縁加工するのが無難かな。まあ、前世で何度もコスプレ用のスパイダーマンスーツを自分の手で作ってきたんだし、きっとどうにかなるよね。

 これであとはウェブ液(フリュイド)を完成させればOK。ウェブ液は流石に3Dプリンターで作れるものじゃないから記憶が戻る前にノートに書いたウェブ液生成用のメモを追記していく。あの時はとりあえず、くらいの感覚で書いてたから消費材料に対して完成する量は少なかったけど、それをタンパク質の量や他の成分の比率を調整してメモは完成した。これで生成できる量は格段に増えるし、射出した時のウェブの消費量も改善。それと剛性も上がったはず。今はまだメモに作り方を書き留めただけだから実際にこれが上手く行くかは後日実際に作ってのお楽しみだ。

 こうして、ニューヨーク市クイーンズ区に住む普通だったはずの高校1年生ピーター・パーカーの新しい人生が幕を開けた。




本作の転生観は東京レイヴンズのを参考にしています。

・主人公のマーベル知識
主人公は基本的に前世では映画、ゲーム中心にマーベルのコンテンツに触れていたため、コミックやアニメの知識はあまり詳しくありません。

・主人公を転生者にした理由
前世がコスプレイヤーだとスーツを作るハードルが低いと思ったため。

・MJがTSしてる理由
コミックでやってそうだと思ったけど調べた限りなさそうだったのと、公式で別アースの女性ピーターが存在してるから。
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