Silent Blade of Division 作:SIM2142
あえて路肩に立ち、銃を構える。大きくなるエンジン音と共に、ゴーグルのAR表示で目の前の坂に車のシルエットが浮かび上がる。どんどん坂を上ってくるのが見て取れると、グローブの内側に汗がにじみ指先が嫌でも力んでいくのが分かる。
「IEDは二台目だ、間違えるなよ。」
短いビープ音で端末が応答する。
稜線から車の屋根が見えた。グレネードをエンジンに直撃させて機先を制する、左手でハンドガードを握りこみ、右手の親指と人差し指でレシーバーを掴み中指を引き金に掛ける。60km程度の速度は出ている、思ったより速い。咄嗟に引き金を絞る。
肩と手首に走る鋭い衝撃、乾いた破裂音と重く響く音を残して弾頭が飛翔する。力んだ手で少し反応が遅れた!咄嗟に下に狙いなおして撃ったが、それでもエンジンの上を飛び越し、屋根に正面から当たる。そのままフロントガラスを突き破った弾頭はピックアップの車内で炸裂した。ラッキーヒットだ。制御を失った車体は勢いをそのままにふらふらと路肩へ寄っていき茂みに突っ込む。俺は素早く小銃を構えると弾倉に残った7.62×51弾を浴びせかける。
しかし敵もただの素人ではないようだ。荷台から伏せていた4人が起き上がる。服のなりからして地元勢力のムジャヒディンか。と思うのも束の間、揃った動作でAKMの銃口をこちらへ向ける。まずい!咄嗟に脇の岩陰へ転がり込むと体を丸める。直後に凄まじい銃声が響き渡った。銃口から放たれる衝撃波が迷彩服の端を振動させ、岩肌を砕いた破片の風切り音が頭上を飛び、跳弾の鋭い音が次々と耳を打つ。鳴り響く鉛と銅の砕ける不愉快な音。息を潜めたまま身を縮める。視界は瞬時に狭まり、体が膠着する。
…この極限の緊張は物の数秒で止んだ。敵は一斉に銃を掃射し、全員仲良くリロードするらしい。チャンスだ。俺は慣れた手つきで素早くリロードを終えると膝立ちになり、荷台へ撃ちかける。・・・10発、11発、さらに敵の頭を下げさせると撃ち続ける、15発、16発・・・荷台側面へ撃ち込む。ムジャヒディンはよく統制された動きで荷台に伏せてやり過ごそうとするが、銃弾は容易く車体を貫通し、悲鳴とうめき声が次々と上がる。18発、19発。手ごたえが不十分だ、敵を倒しきった感触が無い。頭上のポケットドローンの映像をゴーグルに表示する、やはり奥に一人伏せている。そこでリリースボタンを押して弾倉を振り落とすと、わざとらしく大きな声で叫ぶ。
「リロード!」
その声を聞いた人影が上体を起こし、銃を構えて荷台の上に立ち上がる。俺はその姿を捉えると引き金を素早く引く。撃ったのは19発、弾倉は捨てたが20発目が薬室にまだ残っている。既に構えてる俺の方がどうやっても早い。敵の驚きと、絶望とも後悔ともつかない表情が混ざった顔と互いに目が遭う。銃口を離れた弾丸は敵の首元へまっすぐ飛び、顎の下へ吸い込まれるように命中した。
休む間もなく直後に二台目が稜線を勢い良く超えてくる。
「冷や汗掻きな。」
テクニカルからすれば稜線を超えた瞬間の地面は完全に死角になる。いわゆる反斜面と言うやつだ。ズバーン!と短く激しい爆音が鳴る、その衝撃は付近の斜面や、崖や、遠くの山にまでこだまを発生させる。地面に掘った穴とお椀型に成形したC4の爆風は、ある程度の指向性を持って上方向へ駆け抜ける。爆圧が地面を叩き割り、車体の腹を持ち上げる。
前輪が吹き飛び、エンジンブロックが斜めに跳ね上がる。車体は左へ傾き、運転手の叫びが風にちぎれて消える。バランスを失った車は右側の路肩へ吸い込まれるように突っ込んだ。その後ろから小銃弾を浴びせ掛ける。茂みが裂け、車体が横倒しになりながら滑り落ちる。荷台の兵員が投げ出され、地面に転がる。俺は手早くリロードすると制圧射撃を試みる。敵は堪え切れずにスモークグレネードを転がし、視界を切ろうと試みる。
「相手が悪かったな!」
そう呟くとスマートゴーグルを近赤外線とサーマルのハイブリッド表示に切り替えて煙幕の中へ飛び込む。透過効果により煙幕の中にあっても十分な視界が確保されている。まだ動く熱源へ向けてダブルタップで射撃していく。まだ動けるなら更にもう1セット。煙幕の中で必死に応戦を試みる敵を一方的に視認し、難なく討取っていく。残酷なまでの装備の性能差が戦いを支配していた。