死人に人権無し   作:ぬぬぬあ

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世の中の執筆者って凄いですね...いざ自分で書いてみると長文のハードルがががが


生臭い粗大ごみ

零に首輪のリードを引っ張られ、電柱から引き剥がされ、湿ったコンクリートの階段をズルズルと引きずり降ろされていくポチは、恐怖に引き攣った顔で必死に足を踏ん張ろうとした。

 

しかし、霊体でありながら物理的な圧倒的怪力の前には無力で、ただ情けない悲鳴を上げるしかできない。

 

「ひ、ひぃぃっ……! 待って、お願いだから待ってよこの変質者! 本当に下に行く気なの!?」

 

「うるせえ。リードが重いぞ、もう少し軽快に跳ねろ犬」

 

「犬じゃないって言ってるでしょ! そもそもあそこの地下はね、ただの不法占拠者どころか、この団地で一番やばい『首吊りの主』のシマなのよ! あそこのロープに絡め取られたら、霊体だろうが人間だろうが、一瞬で雑巾みたいに絞り尽くされて消滅するんだからね!」

 

ポチが必死の形相でガタガタと歯を鳴らし、涙目で訴えかける。だが、零はその怯え切った顔を一瞥すらせず、鼻でふん、と冷たく笑った。

 

「消滅? はっ、夜な夜なジメジメと気味の悪いロープを垂らして、人間の安眠を邪魔することしか頭にないクズの分際でいい気なもんだ。そんな脳みそまで腐った害霊共が、俺の睡眠時間を削った罪の重さがお前に分かるか?」

 

「いや私の罪じゃないし! なんで私がそのお説教をここで受けてるわけ!?」

 

「お前も同類だろ。文句があるなら、今すぐその電柱代わりの杭にしがみついたまま、二度と鳴けないようにしてやろうか?」

 

「ひっ……!? な、なんでもありません、喋りません……! だからその悪魔みたいな目をこっちに向けないで……っ!」

 

恐怖のあまり、ポチは文字通り尻尾を巻くように小さく丸くなり、ブルブルと全身を震わせる。

だが、そんな情けないペットの反応など完全に無視して、零の歩みは一切止まらない。地下の暗闇からじっとりと這い寄る生臭い悪臭と、不気味にうねる呪詛の気配の只中へと、二人は容赦なく足を踏み入れていくのだった――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

地下の底へと続くコンクリートの階段は、まるで底知れぬ沼のように湿り気を帯び、気味の悪い冷気を吐き出していた

 

階下から漂ってくるのは、生乾きの雑巾と錆びた鉄、そして数え切れないほどの人間が絶望のなかで腐り落ちたような、強烈な生臭い悪臭だ。

 

「ひっ……、ねえ、本当に降りる気……? ここから先は本当にヤバいのよ。私たちの比じゃない、この団地の本当の『主』が……っ!!」

 

首輪のリードを引っ張られ、半泣きでズルズルと引きずり下ろされながら、ポチはガチガチと歯を鳴らして必死に拒絶した。しかし、飼い主である狗飼零は、その背中を冷ややかな一瞥ですらも無視し、不機嫌そうな足取りのままズカズカと階段を降りていく

 

「うるせえな、犬の分際でよくもまあ次から次へとけたたましく吠え立てる。そんなに下からの生臭い悪臭が恋しいなら、今すぐ鼻の穴にその血生臭ぇロープをねじ込んでやろうか?」

 

「ひゃああっ!? な、なんでそっちの方向で容赦がないのよこの変質者! 頼むから私の鼻と尊厳をこれ以上いじめないで……!」

 

恐怖と理不尽な暴力的スキンシップの予感に、ポチは文字通り尻尾を巻くように身体を縮こまらせた。

 

だが、どれほど霊的な冷気が肌を刺そうとも、地下の闇がどれほど禍々しい呪詛を放とうとも、零のなかに「恐怖」や「怯え」という感情は一塵も存在しなかった

 

そして嫌々ながら散歩を行く柴犬の様な状態のポチと不機嫌な零は、この不愉な臭いの大元にはどんな制裁を下してやろうかと思考に耽っていた

 

――ズズズッ……ゴゴゴゴゴ……!

 

零が地下通路の最奥、頑丈な鉄の防火扉の前に立った瞬間、その空間が怒ったように激しく脈打った。

内側からドス黒い瘴気が吹き荒れ、幾重もの血塗られたロープが蛇のようにうねりながら扉を押し破る。

 

ドォォン!!

 

けたたましい爆音とともに扉が吹き飛び、その中から現れたのは常軌を逸したおぞましい巨体だった。

十数人分の人間の首が無理やり一つに縫い合わせられたかのような頭部、無数の首からロープが生え、天井を這うように蠢くおびただしい数のロープの束、そして床で蠢く恐らく生前の人間の身体であっただろう溶けた肉塊――この団地の呪いの総元締め、「首吊りの主」の降臨である。

 

周囲の空間そのものが歪み、空気がギシギシと悲鳴を上げる。常人であれば、その圧倒的な呪詛の気配を浴びただけで心臓麻痺を起こすか、san値直葬で精神を崩壊させていただろう。

 

『ククク……我が心霊領域に踏み込んだ愚か者め……。その首を我がロープで締め上げ、永遠の絶望を与えて――』

 

「――あぁん? なんか下からドタバタとうるせえ害霊が湧いてきやがったな」

 

しかし、目の前で怪奇の主が邪悪な呪詛のセリフを紡いでいる最中にもかかわらず、零は面倒臭そうに耳をほじくりながら、ただの「足元の粗大ごみ」を見るような冷ややかな目を向けた。

 

『……は?』

 

怪異の主が、予想外すぎる人間の反応に気味の悪い首をピキッと硬直させる。

恐怖におののくどころか、完全に「酒に飲まれ、夜中に大声を出して迷惑をかけるバカ親父」に対するような冷ややかな視線。その侮蔑の色を読み取った瞬間、無数の首が怒号に歪んだ。

 

『舐めるなァッ! 貴様のそのふざけた魂ごと、絞め殺してやるわぁッ!!』

 

ビュルルルルッ!!

 

空間を引き裂くような勢いで、無数の血塗られたロープが零の全身めがけて殺到した。

だが、零の身体は微動だにしない。寧ろ自身の安寧を犯した元凶を躾けるべく

 

「夜中に大声で吠えるんじゃねえ、近所迷惑だろが!」

 

怒号の代わりに放たれたのは、常人の限界を完全に粉砕した零の重いドスの効いた低音だった。

零は迫り来る無数のロープの束を、まるで目の前の不快な蜘蛛の巣を払うかのように素手で豪快に掴み取る。

 

『なっ……!? 我が呪いのロープを素手で……!?』

 

「硬ぇだけのただの紐が調子にのんじゃねえよ!」

 

バキバキバキッ!! と、金属をも引き裂く強靭なロープが、零の圧倒的な握力によって乾いた音を立てて千切り飛ばされた。

さらに、零の右拳が音速を超えた踏み込みとともに、巨体の中心核へと真っ直ぐに突き出される。

 

「夜更けに勝手に巣くって好き勝手暴れやがって! まずはテメェのそのマナーのなってねえ頭を身体ごと叩き直してやらあ!!」

 

ドォォンッ!!

 

凄まじい衝撃波が地下階段の壁を粉砕し、空間を揺るがす。

 

『がッッがぁぁぁああっ……!? なんだこのバケモノの怪力はぁっ……!? 霊力が……物理的に砕け散るぅっ——!?』

 

数々の人間を絶望の淵に沈めてきた首吊りの主は、たった一発の理不尽な鉄拳によって床へと盛大に叩き伏せられ、派手に白目を剥いて痙攣した。

 

「はぁ、やれやれ……。これだから無許可で這い回る害霊は面倒臭え」

 

零がフッと息を吐き捨て、ポケットからおもむろにジャラリと新しい金属製首輪を取り出すと、倒れた巨体の首元に容赦なくカチャリと巻き付けた。

 

「ぐぅっ……! な、なんだこの首輪の理不尽なまでの絶対服従感は……! 我は、この団地の主で――」

 

「……って、よく見たらお前、首から下が生首の縫い合わせか。これじゃあ生首にリード繋いでもただの粗大ゴミの散歩だな」

 

零は怪異の主の惨めな有様を冷ややかに見下ろすと、何の躊躇いもなく非情な命令を下した。

 

「おい、その無駄に場所を取る気色の悪い肉塊を縮めろ。連れ歩くのに邪魔臭いから、せいぜい這い回る犬の形にでも形を変えやがれ」

 

「なっ……! この我に、四つ足の畜生としての姿を強制するというのか……!? ふざけ――」

「文句を言うな、害霊が」

 

零の理不尽な命令に、首輪を通じて魂の底から絶対服従の強制力が流れ込む。

主は恐怖と屈辱のあまりプライドを粉々に砕かれ、みるみるうちに自身の形状を変化させざるを得なくなった。

 

グチュグチュグチュ……ボコボコッ!

 

おぞましい肉のうねりを経て、そこに残されたのは――「ギョロッとした渋いおじさんの顔をした、極小サイズのチワワ」という、どう見てもシュールすぎる不気味な小型犬の姿だった。

 

「クウゥ……ン……(意訳:まさか我がこんなポケットサイズのチワワに……!)」 

 

そんな小さく縮こまったチワワを、零は冷めた目でじろりと見下ろす。

 

「うーん…… いつまでも『おい』じゃ呼びづらいな。そうだな……お前は今日から、ブッチャーだ」 

 

「ワンッ!?(意訳:なんだその明らかに雑で血生臭い名前は! せめてもう少し誇り高い響きにしろ! それにかつて恐怖を振り撒いた『首吊りの主』の面影はどこへ行ったというのだ……ッ!)」

 

「う、嘘でしょ……あの地下の主が、あんな手のひらサイズのおっさんチワワに……!? ていうか『ブッチャー』って名前のセンスも斜め上すぎない!?」

 

「んだァ?、文句あるのかポチ。お前その電柱から引き剥がしてポケットにでも突っ込んでやろうか?」

 

「ひっ……! な、なんでもありません! 電柱が恋しくて離れられないだけですからご自由にどうぞ……!」 

 

「そ、それにしても…(あの首吊りの主がこんな...顔だけ目がイッてるチワワかおっさんか分からない姿にされて...これならポチとして過ごした方がマシね...)」 

 

先ほどまで威厳を放っていた怪異の主は、すっかり手のひらサイズの情けない肉体となり、床の上でブルブルと屈辱に身を震わせていた。 

 

首吊りの主としての圧倒的なプライドを完膚なきまでに踏みにじられ、おっさん顔のチワワは床を転がりながら絶望に身悶えした。しかし、服従の首輪(本人はただの首輪だと思っている)をはめられた身では、零の勝手な命名に抗うことすら許されない。

 

電柱にしがみつくポチと、ブッチャーへと成り下がったおっさん顔の極小チワワ。

二匹の「迷惑な害獣」をペットとして従えた零は、新しく出来たブッチャーの首輪に細いリードを繋ぎ、愉快そうに鼻を鳴らした。

 

「さて、これで番犬が二匹か。……フッ、管理人室の連中がまだ騒いでやがるな。おい、お前ら、次の挨拶回りに付き合えよ」

 

静まり返らない深夜の夕凪台団地。

心霊現象をフィジカルで片付ける変質者・狗飼零による、迷惑怪異どもの強制しつけツアーは、まだまだ終わる気配を見せない。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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